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年次大会
大会報告:第38回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)

 第2部会  6/24 10:00〜12:30 [5号館504教室]

司会:江原 由美子 (お茶の水女子大学)
1. 家族員として意識する範囲
−居住形態との関係から−
長山 晃子
2. アナール学派の家族史研究
−J.-L.フランドランとM.セガレーヌの業績を中心として−
岡田 あおい (慶應義塾大学)
3. 社会理論としてのクリステヴァ理論の可能性
−日本におけるその適用について−
鈴木 由美 (お茶の水女子大学)

報告概要 江原 由美子 (お茶の水女子大学)
第1報告

家族員として意識する範囲
−居住形態との関係から−

長山 晃子

 かつて住居の共同は家族としての要件と考えられてきたが、社会移動の激化や家規範意識の希薄化とともに今日では、同居は必ずしも家族としての要件と言えなくなってきている。

 本考察では同居・別居という居住形態の違いを用いて、親族の中の親、既婚の子供、きょうだいという続柄について家族員と考えるかどうかを問うた調査データをもとに、家族員としての意識と居住形態との関係について検討し、一般の人々が持つ家族概念の変化の方向を探ろうと試みる。

 結論のみを要約すれば、概して同居という居住形態が家族員の条件として強く働く続柄は親である。これに対して子は居住形態に関係なく続柄そのものが家族員として意識されやすいと言える。また、きょうだいは同居していても家族員としての意識の外側に置かれる傾向が強い。このような傾向を踏まえたうえで、本報告では、長男と娘、夫方親と妻方親、きょうだいと配偶者のきょうだいという続柄の対比をもちいて、年令・家族周期段階・居住地域等の違いにより家族員として意識する範囲にどのような差がみられるかを検討する。

第2報告

アナール学派の家族史研究
−J.-L.フランドランとM.セガレーヌの業績を中心として−

岡田 あおい (慶應義塾大学)

 本報告は、家族社会学が自明としてきた近代以前の家族を研究対象とし、家族社会学にいくつかの問題提起をしている、フランス歴史学の一研究グループ、アナール学派の家族史研究の視点並びに方法の展開を明らかにすることを目的とする。

 まず第一に、アナール学派を家族史研究に導き、肯定的にせよ、否定的にせよ現在に至るまで継承されている先駆者Ph.アリエスの家族論について論じ、次に、彼の家族論を継承しながら、新しい視点を家族史研究に導入したアナール学派のJ.−L.フランドランとM.セガレーヌの研究について論じたい。アナール学派にはA.ビュルギエール、G.デュビー、A.コロン、E.ショーター、E.バタンテールをはじめ数えきれないほどの家族史研究者がいる。その中から2人を取り上げることにしたのは、彼らの研究が、アリエスの方法を発展させ、そこに独自性を展開したこと、かつ、ア  ナール学派の家族史研究の特徴を顕著にあらわしていること、さらに現在、家族社会学に大きな影響を及ぼし、家族史研究を不動のものにしたことによる。

 なお、アナール学派の家族史研究は、日本では女性史研究との関連で紹介されることが多いが、本報告では、過去において女性がどのように扱われていたか、いかなる地位を占めていたかを論じることを目的とするものではない。本報告の目的は、あくまでもアナール学派の家族史研究の視点並びに方法の展開を明らかにすることである。

第3報告

社会理論としてのクリステヴァ理論の可能性
−日本におけるその適用について−

鈴木 由美 (お茶の水女子大学)

 J.クリステヴァの理論を社会理論として適用することの意義は、社会構造に規定されると同時にその変動の契機ともなりうる主体としての彼女の「過程にある主体」(sujet en proc_ _`es)の概念を理論化することにある。そこにおいて鍵となるのは、言語を媒介として社会によって産み出された「主体」が、自らを胚胎した社会の経済的、政治的、制度的な諸矛盾を、象徴体系にとっての「異質性」として引き受けるという考え方であると思われる。この彼女の主体理論の重要性を理解したうえで、さらに「主体」の成立の過程で「異質性」として抑圧される性的欲動を推進力として「主体」が社会構造を変動させうること、そしてそれは象徴秩序への揺さ振りとしての言語実践を伴うものであるという彼女の理論の妥当性が問われなければならないだろう。

 本報告では、日本におけるクリステヴァ理論の社会理論としての活用が、しばしばその動的な主体概念に十分顧慮することなくなされてきたために生じた問題点をあきらかにするとともに、彼女の理論に内在する生物学的決定論がはらむ矛盾について触れ、あわせてその限界の乗り越えの可能性を探りたい。

報告概要

江原 由美子 (お茶の水女子大学)

 本部会では、ともに家族・母子・親子等の領域に言及するとはいえ、視角も方法も全く異なる、独立の3つの報告がなされた。

 第一報告では長山晃子氏が、「家族員として意識する範囲」に関して実証的な報告を行った。長山氏によれば、「家族観が多様化」している今日こそ「人に家族という意識を生じさせている要因が何」であるか探ることが可能であり、「人々の家族観を分析すること」が重要になるという。このような観点から、地域別・家族周期別などによる「家族員として意識する範囲」の違いを分析し、「家族観の変化」と「個人のライフ・サイクル」や「社会全体の変化」との関連が論じられた。議論は調査方法・分析方法の是非等の論点に関し活発になされた。

 第二報告では岡田あおい氏(慶應義塾大学)が「アナール学派の家族史研究」に関し、アリエス、J-L.フランドラン、M.セガレーヌの研究の成果と限界を比較する報告を行った。岡田氏によれば、アナール学派にはアリエスから継承した「過去の人々が抱いていた家族観の解明」という共通のパースペクティブがあり、この視角はJ-L.フランドランとM.セガレーヌによって受継がれ、家族史研究を不動のものにしたという。議論は、アナール学派の方法論の是非や資料の問題などに関し活発になされた。

 第三報告は、鈴木由美氏(お茶の水女子大学)が「社会理論としてのクリステヴァ理論の可能性」を探る報告を行った。鈴木氏によればクリステヴァ理論は、その「過程にある主体」概念に注目することにより、「主体」が言語実践を通じて「社会構造を変動」させうる可能性を論じる社会理論として読むことができるという。そしてこのクリステヴァの社会理論としての可能性は、非西欧社会における「主体」に対して適応できるかを問うことにより検討しうるという。発表内容が難解であったせいか議論はやや少なかった。

 全体としてどの発表者も充実した内容であり、しかも午前中の部会にも関わらず多くの方々に御出席いただき議論も活発になされた点、自由報告部会の充実化が感じられた部会であった。

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