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年次大会
大会報告:第38回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 I)

 テーマ部会 I 「東欧の変動と現代社会主義」 ―ポーランドとハンガリーの場合―
 6/23 14:00〜17:30 [5号館504教室]

司 会:笠原 清志
討論者:庄司 興吉

部会趣旨 笠原 清志
第1報告: 現代社会主義の終焉 岩田 昌征 (千葉大学)
第2報告: ハンガリー改革の世界史的意義 深谷 志寿 (日本ウラル学会理事)

報告概要 笠原 清志 (立教大学)
部会趣旨

笠原 清志

 ソ連、東欧諸国における変革の波は、一段と大きなうねりとなって拡大しつつある。今日では、冷戦構造の象徴的存在であったベルリンの壁も取り払われ、ヤルタ体制も含めた東西関係が根底から変わろうとしている。このような社会主義国における変化を前にして、資本主義の体制としての勝利を主張する立場、あるいは社会主義自体の失敗ではなく「ソ連型社会主義」の失敗であるとする立場もあり論壇をにぎわしている。

 マルクス主義や社会主義の理論は、世界の政治、経済、そして思想面において、大きな影響力を与えてきた。この意味において、現実の社会主義制度は、「20世紀の壮大な歴史的実験」と言われてきた。しかし、この実験に対しても、それなりの結論を準備してもよい時期にきていると思われる。当部会では、今日のソ連、東欧諸国の変化を把え、現代社会主義の再検討を目的とする。第1年目の今年は、東欧諸国、とりわけポーランドとハンガリーのケースに焦点をしぼり、歴史、文化そして産業化との関連で従来の社会主義制度を検討する。

第1報告

現代社会主義の終焉

岩田 昌征 (千葉大学)

(1) 同位対立時代から“今”資本主義へ
   【図】(省略)
 旧著において上図の現代の矩形の左方が開いていた。1989年東欧革命は、それを閉じた。

(2)デザイン主義的社会主義建設の生命力涸渇
 大政奉還としての東欧市民革命を考える必要。従って市民社会の伝統が希薄なアジアにおいて大政奉還の相手は、官僚エリート社会である可能性が大きい。

(3)集権制計画経済から資本主義市場経済へ
 未成熟な市場主体のデザイン主義的速成養成という歴史の皮肉、それにともなう私有者のレジティマシー不足。

第2報告

ハンガリー改革の世界史的意義

深谷 志寿 (日本ウラル学会理事)

 昨年の東欧の激変は20世紀後半でもっとも劇的な事件と言えるだろう。特に今回の東欧の一連の変革は日本ではほとんど注目されてこなかったハンガリーに識者やマスコミの目を向けさせることになった。

 本報告ではハンガリーの“変化”は実は1989年に突然起こったのでも、ソ連のペレストロイカやポーランドの連帯運動に触発されて起こったのでもないこと、同時に東独・チェコスロヴァキア・ルーマニア(そして来るべきアルバニア)の変革の直接的な原因となったことを考察して行きたい。

 1989年は他の東欧諸国にとって改革元年だったのとは違い、見かけは似ていようとも、それまで20年以上にもわたって延々と続いてきたハンガリー改革がゴール・インした年であった。またそのハンガリーの改革における“党内”改革派の役割、中でも直接的に東欧共産主義体制崩壊ドミノの引き金を引いたポジュガイの役割に光を当てる。(ゴルバチョフは今回の“ドミノ”の引き金を直接引いたわけではなく、“パンドラの箱”を開けることによってドミノ現象の“環境整備”の役を担った。

 本報告ではハンガリーの改革の経過をたどるとともに、今後の方向を予測する。また最後に“門外漢”から見た日本における東欧研究の問題点を指摘したい。

報告概要

笠原 清志 (立教大学)

 社会主義部会では、その一年目として「東欧の変動と現代社会主義」というテーマで行われた。昨年の夏、ポーランドで共産党(統一労働者党)政権が事実上崩壊したが、今日では冷戦構造の象徴的な存在であったベルリンの壁も取り払われ、ヤルタ体制も含めた東西関係が根底から変化しようとしている。この意味において、時機をえたテーマであった。報告は、岩田昌征「現代社会主義の終焉」、深谷志寿「ハンガリー改革の世界史的意義」の二つであった。

 岩田報告は、社会主義は新しい社会を意図的に作り出すという発送から出発した点に特徴があり、現代の社会主義はその思想的、歴史的実践の生命力を使いきって自壊したことを明らかにした。したがって、東欧諸国の今後の体制選択の幅も狭く限られたものであることなどが報告された。また、深谷報告は、ハンガリー改革におけるイムレ・ポジュガイの役割と今日の諸問題が明らかにされた。そして、この改革が、ゴルバチョフのペレストロイカの結果ではなく、それに先行した諸々の試みの結果、生じたことも報告された。

 討論者である庄司興吉は、岩田報告を基本的には認めながらも、今後は社会学的視点からも社会主義の問題を明らかにしていくことの必要性を指摘した。また、質問者からは、本来の社会主義思想と現代社会主義とを区別して論じることの必要性が指摘された。

 当部会は、今日的テーマであったにもかかわらず、若手研究者の参加が少なく、社会学的立場から社会主義の問題を論じることの難しさを改めて示したとも言える。

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