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年次大会
大会報告:第38回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 IV)

 テーマ部会 IV 「日本社会と国際結婚」 ―生活者、労働者から見た変革の意味―
 6/24 14:00〜17:30 [5号館502教室]

司 会:細井 洋子・長田 攻一
討論者:柿崎 京一・中村 八朗・米村 昭二

部会趣旨 長田 攻一
第1報告: アジア人花嫁問題の背景 宿谷 京子
(フリー・ライター、フォトグラファー)
第2報告: 農村の花嫁不足事情と国際結婚 板本 洋子
(日本青年館結婚相談所)
第3報告: 「アジアからの花嫁」のコトバ・情報・文化環境と自治体の責務 笹川 孝一 (法政大学)

報告概要 長田 攻一 (早稲田大学)
部会趣旨

長田 攻一

 本部会では、農村における外国人流入問題に目を向け、その背景が深いところでは国際経済格差および国際的人口移動という、都市の外国人流入の場合と共通の要因に支配されているとともに、戦後日本における都市と農村の経済・社会・文化的格差の進展が、農村における外国人流入の形態や提起する問題の内容を都市の場合と著しく異なったものにしていることを踏まえ、いくつかの農村における外国人花嫁の斡旋や国際結婚をめぐって生じている問題の分析を通じて、現在進行しつつある諸現象が今後の農村の社会・文化的変容をどのように迫っていくか、またこの問題を通して今後の農村の再編成がどのような方向においてなされるべきかについての議論ができればと考えている。さらに、昨年までの都市における外国人流入問題に関する議論を補完する形で、1990年代の日本社会の変動をとらえる枠組に関する議論の深化に少しでも寄与しうるならば幸いである。

第1報告

アジア人花嫁問題の背景

宿谷 京子 (フリー・ライター、フォトグラファー)

 日本の経済成長と軌を一にして、日本人男性と結婚するフィリピンやタイなどのアジア人女性が増えている。その数は、フィリピン人女性の場合、63年度で2000名余り(新規入国)、在比日本大使館では、64年、4200件(前年比1000件増)の結婚ビザを発行した。

 こうした日本人男性とアジア人女性の国際結婚の急増の背景には、日本と、他のアジア諸国との大きな経済格差が第一の要因としてあげられるが、そのほかにも、世界的規模での人口移動、あるいは、日本国内における過疎・過密と言った農村と都市との格差、女性の価値観の変化による男性の結婚難、など様々な事情が複合的にからみ合っている。

 とりわけ、日本の農村部においては、結婚が単なる個人の問題にとどまらず、村の過疎対策、後継者対策と直結しており、村の事業としての国際結婚が民間業者を頼りにすすめられているのが特徴的である。

 従来、意識あるいは労働の面で強固な封建制によって支えられてきた村が、すでに後継者という観点からは半ば崩壊しかけている。そうした村がとった一つの方策としての国際結婚が、営々と続いた農村型社会の大きな変節点であることは間違いない。 この現実に、社会学としてどのようなアプローチが可能か、現実にどのような力を発揮しうるのか、議論の成りゆきを注目したい。

第2報告

農村の花嫁不足事情と国際結婚

板本 洋子 (日本青年館結婚相談所)

 農村の花嫁不足が話題になって久しい。現在各市町村行政は、村及び農業の存亡をかけて結婚対策を実施している。結婚相談員制度、各種交流イベントなどが主である。しかし、これらは、村人を満足させるほど、直接的な結婚の成果につながっていない。こうした状況は、100の理屈より1つの成婚を願う深刻な悩みとなっている。

 そうしたなか、主に、アジアを舞台とする個人商売を営む日本人業者によって、アジアからの花嫁導入がはじまった。

 以来、嫁問題解決にせまるひとつの画期的方策として、各行政の注目をあびた。一時は連日のように、韓国、フィリピン、スリランカなどから花嫁たちが来日する姿があった。

 この斡旋による国際結婚は、行政主導型、行政・業者連帯型、業者への委託型などが主と思われる。個人的契約型も多い。

 社会的是非論のなか、こうして農村へ入った花嫁はもう長い人で5年を過ぎる。

 子どもも生まれ、はた目にも幸せそうな人たちもいれば、破綻者も目立つ。花嫁の悩みの多くは、最初は、想像したよりも淋しい山村であったことや、気候、風土のちがい、やがては夫や家族との人間関係であり、特に姑との関係の問題は大きい。さらには、経済的誤算など悩みは一面、日本人女性と共通する面も多いが、けっして同質のものではない。

 彼女たちが農村に入ったことで、日本の実質的な国際化、農村社会の変貌等、ひとつの発展を期待する声も多い。しかし、現状においては、彼女たちの存在が農村の社会文化的変容を迫るに至ってはいないと感じる。

第3報告

「アジアからの花嫁」のコトバ・情報・文化環境と自治体の責務

笹川 孝一 (法政大学)

 日本と当該国との経済的格差を共通の背景としながらも、儒教道徳による女性の地位の低さ(韓国)と経済不振(フィリピン)という異なる条件をも背負って、日本の農村部にやって来る「花嫁」たちは、日本で生活するうえで言語・情報・文化の点で、大きなハンディをもっている。

 彼女らは、来日前には、皆無ないしごく少しの日本語学習しかおこなっておらず、来日後も、日本語学習の機会が家族まかせになっているために、フィリピン人、韓国人の差はあるものの、共通して、日本語の読み書きができない。また、彼女らの周囲には彼女らの母語による情報源が極めて少ない。そのために、新聞・雑誌、また役場の広報などの文字媒体が、彼女らにとっての情報源となっておらず、夫や家族に依存せざるをえない状態におかれている。

 一方、夫や家族・近隣の人々は、彼女らの母語を学び彼女らの国の歴史や文化を学ぶ姿勢が弱い場合が多いため、多くの韓国人の日本名も含めて、日本への同化を強要する傾向が一般的には強い。

 こうした状況は、彼女らにとって不幸であるばかりでなく、せっかく異文化交
流の機会をもちながら、それを生かせない、日本人社会にとっての不幸でもある。

 しかし、最近は、彼女たちを対象とする日本語教室や、彼女らを講師とする「韓国のコトバと文化」講座などが、役場・公民館などの主催でおこなわれはじめている。この動きは、まだ試行錯誤の域を出ないが、「国際識字年」の今年、日本の文化的閉鎖性を農村部から、変える可能性をもつものとして、注目される。

報告概要

長田 攻一 (早稲田大学)

 エスニシティ部会3年目の今年度は、都市への外国人流入問題と表裏の関係にある農村の「国際結婚」問題を取り上げることとした。国際化、国際結婚、女性論、都市と農村の再編成など重要なテーマを含みながらもこの問題に取り組む社会学者の数は少なく、むしろ実践的にこの問題に取り組んでいる方々の報告を中心に、この問題への社会学的アプローチの視点や方法について討論者に議論の糸口を引き出していただくことを狙いとした。

 第1報告者の宿谷京子氏(ジャーナリスト)からは、この問題には国際経済的、国内地域的格差がその背景となっていること、農村の「国際結婚」が過疎対策、後継者対策と直結した村の事業として行政が介入する一方、民間業者に「花嫁」斡旋が依頼されているという特徴が明らかにされた。第2報告者の板本洋子氏(日本青年館結婚相談所)からは、村の存亡をかけた結婚政策(結婚相談員制度、各種交流イベントなど)、斡旋業者を通して結婚したアジア人女性の生活上の葛藤をめぐる諸問題、それらを通して照射される現在の日本農村の深刻な状況がリアルに語られた。さらに第3報告者の笹川孝一氏(法政大学)からは、かかる「国際結婚」による意図せざる国際化の兆しを農村再編成の契機として積極的にとらえ、社会教育学の立場からこれらの女性たちの日本語学習の問題に焦点を当て、日本の文化的閉鎖性を農村部から打破していく可能性について議論がなされた。

 討論者の中村八朗氏(茨城大学)からは、今後日本社会が必然的に多民族化していくという展望の下に、規範的視点からよりも経験科学的な視点と態度に徹して、今後の趨勢とその社会経済的背景との関連を探っていく必要性が強調された。また柿崎京一氏(早稲田大学)は、問題提起の重要性は評価しながらも報告のような事例を日本の農村全体へ一般化して解釈されることの危惧を表明し、広い視野からの認識と柔軟な対策の必要性を訴えた。最後に米村昭二氏(お茶の水女子大学)からは、報告のような「国際結婚」が当該地域の伝統的制度と慣習の枠内で行われてきていることを冷静に理解した上で、今後の国際化と農村のあり方を議論する態度の必要性が強調された。時間の関係で十分に噛み合うところまで議論が深まらなかったことが悔やまれるが、フロアからも、自分の娘を結婚させてもよいと思えるような魅力ある農村の再編のビジョンを示すことこそが社会学者の課題であるといった意見や、この問題への関心が低い社会学者へのもどかしさを訴えるジャーナリストの意見も聞かれ、国際化と農村社会をめぐる熱のこもった議論が展開された。

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