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年次大会
大会報告:第39回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 I)

 テーマ部会 I 「ジェンダーと社会参加」―政治・行政・運動―
 6/15 14:00〜17:30 [5101号室]

司会者:池岡 義孝
討論者:古田 睦美・似田貝 香門

部会趣旨 渡辺 秀樹
第1報告: ジェンダーと政治
−「代理人運動」の検討を通じて−
渡辺 登
第2報告: ジェンダーと行政
――横浜市の事例から――
矢澤 澄子 (横浜市立大学)
第3報告: ジェンダーと運動
−市民運動による社会参加―
高田 昭彦 (成蹊大学)

報告概要 池岡 義孝 (早稲田大学)
部会趣旨

渡辺 秀樹

 本部会では、昨年度に引き続き『ジェンダーと社会参加』を取り上げる。昨年度は、社会参加を可能にする(と同時にそれ自体も参加である)「育児ネットワークと育児サポートシステム」、および生活クラブ生協の調査に基づく「主婦の社会参加と生活変容」という2本の刺激的な報告をめぐって活発な議論が展開された。これを受けて今年は、1)社会参加の多様な形態にジェンダーが、どのように関わっているのか。参加活動の契機や過程などに、どのような特徴がみられるか。2)社会参加と社会の構造との関連。家族・生活・職業・経済・政治などの諸構造や、これらを貫通するジェンダー構造に、どのように組み込まれ、また、こうした構造を変える(が変わる)こととどのように結びつくのか、をめぐって報告・議論が交わされることを期待しています。

第1報告

ジェンダーと政治
−「代理人運動」の検討を通じて−

渡辺 登

 「ジェンダーと社会参加」という枠の中で「ジェンダーと政治」を考えるということは、女性の政治参加活動に対してジェンダーがもつ規定性や意味を考察するということになろう。ここでは性別役割分業に規定された「主婦」によって担われている地域における政治参加活動を検討することによって、この課題に取り組みたいと思う。というのも、この活動はジェンダーと政治がまさに交差する地点に立ち現れると考えられるからであり、その意味でまさに研究対象として絶好の素材であると考えられるからである。ここでは、その事例を「生活クラブ生協」によって展開されている「代理人運動」に求め、昨年に行った東京都に限定して行った代理人調査に基づいて検討してみたい。

 「代理人運動」とは同生協がその「協同組合運動」の主張を地域に反映させるために組合員(=主婦)を地方議会に「代理人」として送り込もうとして始められた運動である。今回の統一地方選挙では、北海道・埼玉・千葉・東京・神奈川・長野で運動が展開され70名を当選させるに至っている。

 本報告においては、地域における女性の政治参加活動がもつ意味と可能性・限界を、代理人運動の実際の活動によってもたらされた様々なレベルでの成果とその限界について明らかにしながら考察したい。

第2報告

ジェンダーと行政
――横浜市の事例から――

矢澤 澄子 (横浜市立大学)

 国際婦人年('75)とこれに続く「国際婦人の10年」('76〜'85)を画期とした女性の社会参加の活発化は、女性を主体とした多彩な地域活動の広がりをもたらした。今日、消費生活、教育、健康、福祉など暮らしや生命に直結する各分野の地域活動の大半は、30−50台を中心とする既婚女性に担われている。高齢者の在宅援助サービスや子供、障害者、外国人との共生を志向するボランティア活動(自らの生きがいにつながる主体的実践活動)の多くも子育て期を経て、精神的ゆとりや社会参加意識を増した女性たちが主役である。

 この間、平等・開発・平和の目標をかかげ、世界の女性の地位向上や自立、社会参加を進めてきた一連の国連女性政策のガイドライン(「世界行動計画」「女子差別撤廃条約」「ナイロビ将来戦略」等による)は、国や地方自治体の女性政策の確立と発展を方向づけ、ジェンダーと行政との接点を明確化してきた。自治体の事業推進に当たっては、性別役割分業の見直しやあらゆる分野での男女平等参加を志向したジェンダー問題(女性=男性問題)への取り組みが時代の要請となっている。

 報告では、80年代以降の横浜市の女性政策を概観し、高齢化社会に対応した市民女性の地域活動実践や生活者=女性のまちづくりへの参加意識の高まりが、行政施策の新方向と折り合って成立した二つの事業事例(前者=横浜市ホームヘルプ協会の設立と発展、後者=女性の目で見たまちづくり推進事業)を検討する。前者では、女性のボランティア・マインドと主婦的働き方を活用した第三セクター方式の「住民参加による有償福祉サービスシステム」が現在転機を迎えている点を問題にしたい。後者では、「政策方針決定への女性の参加推進」にむけた同事業が、女性の「社会参画」を志向する女性政策の90年代課題に切り結ぶ意味について考えたい。

第3報告

ジェンダーと運動
−市民運動による社会参加−

高田 昭彦 (成蹊大学)

 他の報告が、代理人(女性)運動による政治への参加がもたらした政治構造の変動、横浜市の都市行政への女性の参加がもたらした意思決定構造の変動を扱うのに対応して、ここでは市民運動(中でも活動範囲として地域を限定した市民運動)による地域への参加がもたらした地域の構造変化を、ジェンダーと関連づけながら分析する。対象とする市民運動は「新しい社会運動」の3特質、すなわち実現を目指す基本的な価値の面においてはオルターナティヴ性、組織面ではネットワーク志向性、運動主体においては生活者をもつものを選んだ。具体的には武蔵野市での市民運動の担い手に対するインタビュー調査と、コミュニティーセンターを核とした地域のコミュニティづくりの実際を見ていく。前者からは個々の運動の担い手の参加(活動の開始)の動機、活動の目標や問題点、自己の変化などを、後者からは個々人のネットワーキングによる地域づくりを報告する。

報告概要

池岡 義孝 (早稲田大学)

 ジェンダー部会では、昨年に引き続きジェンダーの視点で解読する対象に「社会参加」を取り上げた。今年度の企画の特徴は、政治・行政・運動という社会参加の多様な領域の報告を準備したことだろう。

 まず渡辺登氏は、生活クラブ生協の代理人運動を事例として。女性による政治参加の意味と限界について報告した。政治の「生活化」や「日常化」に一定の貢献をした点が評価され、一方で「生活問題は女性議員」といった政治における性別役割分業が形成されるという懸念、さらには代理人の歳費問題から経済的自立の脆弱性が今後の課題として指摘された。ついで矢澤澄子氏の報告では、横浜市で実施されている二つの事業を通して、性別役割分業の見直しやジェンダー的視点を志向する先進的な自治体では、旧来の行政システムの変革の一環として、女性の参加をむしろ先取りして活用している側面があることが指摘された。最後の高田昭彦氏の報告は、武蔵野市の市民運動の担い手に対する調査にもとづくものだった。この報告では男性の市民運動への参加についてもふれ、男性の場合も生活、子供、家族など身近なものへのこだわりを参加の契機にしているという指摘は興味深かった。生活者の視点は何も女性に固有な視点ではないというわけだ。

 さらに討論者の古田睦美氏からフェミニズムの視点で、似田貝香門氏からは社会運動論の視点で問題提起があった。その上でなされた議論では、ジェンダーと女性と生活者の三つの視点の関係性、公と私の関係性、フェミニズム運動と新しい社会運動の関係、これらの社会参加の新しさの再検討、社会構造の変動へのインパクトなどが論じられ、世代や階級といった視点の導入の必要性なども指摘された。

 今年度の報告と議論は、1.社会参加の多様な形態ごとのジェンダーとの関わりの特徴や違い、2.これらの社会参加は、社会構造やジェンダー構造を変えることとどう結びつくのか、をめぐってなされることが企画委員から要請されていたが、第2の点の議論の深化はさらに今後の課題となった。

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