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年次大会
大会報告:第39回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 III)

 テーマ部会III 「外国人問題への社会学的接近」―事実から分析へ―
 6/16 14:00〜17:30 [5101号室]

司 会:長田 攻一・細井 洋子
討論者:奥田 道大・梶田 孝道

部会趣旨 細井 洋子
第1報告: 外国人労働者問題と女性 伊藤 るり (明治学院大学)
第2報告: 日本資本主義と外国人労働者問題 伊豫谷 登士翁 (東京外国語大学)
第3報告: 「外国人問題」のいったい何が「問題」なのか?
――背後仮説の整理と論争のすすめ――
町村 敬志 (筑波大学)

報告概要 細井 洋子 (東洋大学)
部会趣旨

細井 洋子

 外国人問題とは、一方では「在日韓国人の問題」であり、他方では最近の国際化傾向を反映して急増しつつある「アジア系外国人の問題」である。本部会では、すでに3回にわたって、「都市社会におけるエスニシティと異文化」(第36回大会)、「エスニシティと都市社会」(第37回大会)、「日本社会と国際結婚」(第38回大会)のテーマのもとに、異なった角度から検討を重ねてきた。本年はそれらをまとめる意味で、これまでの成果を踏まえて、「われわれにとって外国人問題とは何であるのか」について考えてみたい。

 具体的には、3人の報告者から、それぞれに「フェミニズム」「産業・労働」「地域社会・コミュニティ」の立場から問題を提起してもらい、外国人問題を考える上での今日的視点を明らかにしたい。

第1報告

外国人労働者問題と女性

伊藤 るり (明治学院大学)

 80年代以降顕著となった日本への外国人労働者の流入の特色の一つは、それがフィリピンを初めとする近隣アジア諸国からの女性の流入によって開始した点にある。不法就労の摘発件数をみると、従来女性が9割近くを占めていたのが、80年代後半に入って傾向が変わり、就労者の数の拡大に伴って88年には男女比率が逆転した。この実態における変化に呼応するようにして、外国人労働者問題に対する日本社会各層の認識も変わってきている。それ以前においては、主としてジェンダーの位相における社会問題、ないし社会病理の視点(売買春問題、各種ブローカーによるアジア人女性労働者の搾取、農村の「花嫁不足」に発する国際結婚斡旋問題....)が前面に出ていたが、就労者の急増と男性化を契機に問題は外国人の「就労」の位相にシフトし、より「本格的」な政策論議の対象となった。このような実態と認識における変化を反映して、昨年は入管法改正が施行された。

 国際労働移動における女性労働者の位置づけは、必ずしも十分な検討対象となっていない。移民労働の研究が比較的蓄積されてきている西欧やアメリカにおいても、移民女性は生産労働に直接関わらない存在として無視されるか、移民男性の家族呼び寄せによって受動的に移動する存在とみなされてきた。西欧の場合、60年代の外国人労働力導入が圧倒的に男性中心であったことにも関連しているが、それだけでなく、女性労働の性格そのものが以上のような傾向を生んできたといえる。日本における外国人労働者問題認識にも、同様の傾向が指摘できるのではないだろうか。この報告では、国際労働移動のなかに女性労働をより正当に位置づけるための視点の整理を試みる予定である。

第2報告

日本資本主義と外国人労働者問題

伊豫谷 登士翁 (東京外国語大学)

 日本は、戦後の高度成長を基本的には外国人労働者に依存せずに達成し、人手不足の顕在化した1960年代後半以降も、多国籍化と技術革新による省力化によって、石油危機をはじめとする世界的な不況局面を乗り切ってきた。欧米諸国が、高度成長過程でいち早く外国人労働者を受け入れ、さらに不況期においても滞留する膨大な外国人を抱え、あるいは一層大量の移民労働を受け入れてきたのとはきわめて対照的である。しかしここ数年、日本においても外国人労働者の増加が目立ち、受け入れの是非を巡って、政府報告をはじめとするさまざまな領域からの発言が行われてきている。これらの議論を通じて言えることは、日本では未だ十分な研究の蓄積に乏しく、さらに論争の基礎となる実態分析が行われていないということである。したがって、一方で開国か鎖国かといった短絡したレヴェルの議論から脱却できないでおり、他方で欧米との比較でしか問題の枠組みを設定しえない状況にある。ここでは、1)日本における外国人労働者問題の特殊性を現代国際労働力移動の中で捉え、2)日本の外国人労働問題の現況といわゆる「不法就労者」増大の経済的背景について触れ、3)最後に外国人労働者問題の争点と問題提起を行いたい。日本に来る外国人労働者はかつてイメージされたいわゆる「出稼ぎ」労働者のみではなく、世界の各地域からさまざまな目的を持った人々へと多様化しつつあり、また外国人労働者が日本を最終的な目的地として定住化ないし長期滞在化しつつある現状を踏まえるならば、そして現在が世界的な労働力移動の時代の中にあることを考えるならば、この問題については発想を転換すべき時期にきているように思われる。

第3報告

「外国人問題」のいったい何が「問題」なのか?
――背後仮説の整理と論争のすすめ――

町村 敬志 (筑波大学)

 1980年代後半、急速に増加し出した外国人を前にして、社会学者が遅ればせながら研究に乗り出して以来、その様子は、まさにブームといってよいものだった。その結果、十分とはいえないが成果も提出され始め、また、研究者が出会って議論する機会も増えてきた。ところが、一見対象を共有しているかに見える各研究がぶつかりあうとき、そこに大きな違いがあることに気がつくことが少なくなかった。

 従来のいわゆる「日本社会における外国人」研究を概観したとき、そこに、一連の研究を分ける次のような基本的な視点の違いを見いだすことができる。第一に、日本社会におけるマジョリティとしての日本人とマイノリティとしての外国人の間の関係を、異質性を基盤とする水平的分化としてみるか、階層を基盤とする垂直的分化としてみるか。第二に、ひとつの社会的場を共有する両者を、主体レベルの社会関係という観点からみるか、背後にあるシステムも含めて構造という観点からみるか。この二つの視点を組み合わせると、(1) 垂直的−構造的アプローチ、(2) 水平的−構造的アプローチ、(3) 垂直的−関係アプローチ、(4) 水平的−関係アプローチという類型が得られる。「最底辺」や「内なる第三世界」といった見方につながる外国人労働者問題、うわさ・デマ研究、人種・民族や国籍に基づく差別論、エスニック・グループ論、異人論、異文化間コミュニケーション論、コミュニティにおける「住み合い」論などは、これらの中にある位置を見いだすことができる。

 どれを選択するかは、領域や対象となる人々、そして研究者の立場により、当然異なってくるだろう。しかしもはや「外国人問題」一般では話はすまない。こうしたアプローチそれぞれの内部における実証と理論化の反復、そして各アプローチの有効性をめぐる相互の論争が、今後積み重ねられる必要がある。

報告概要

細井 洋子 (東洋大学)

本部会では、過去3回にわたって行ってきた「エスニシティ」部会のそれぞれの成果を踏まえたうえで、今回はさらに二つの目的を設定してとり行った。一つは、冒頭のテーマに示したように、中間的な段階ではあるが、今までの内外の研究をまとめること、二つは、欧米諸国に多くを学びながらも、わが国が抱える個別的な問題にも目を向けること、であった。

まず、社会学的な切り口として。「女性」「労働」「地域・コミュニティ」の三つのキーワードを設定し、それぞれについて、視点、通念、既存の調査結果、そこでの仮説、残されている問題などについて三人の方々に報告をしてもらった。「女性」については、伊藤るり氏が、「女性労働」の再生産という視点から、主にアジア地域における問題を中心に報告され、次の「労働」については、経済社会学の分野から伊豫谷登士翁氏が、「日本資本主義と外国人労働者問題」と題して、日本における「外国人労働者問題」の特殊性について言及された。最後に、「地域・コミュニティ」については、町村敬志氏が「外国人問題」のいったい何が問題なのか」との問を掲げて、生活者の視点、ひいては人間の視点から、問題をとらえることの重要性を説かれた。

以上の3人の報告に対して、小倉充夫氏(奥田道大氏に替わって)と梶田孝道氏からいくつかの質問が出され、再度報告者によって答えていただいた後、当日会場に集まった大勢の参加者と活発な議論が続き、当初の時間を30分延長したにもかかわらず、部会が終了した後も、会場にかなりの方が残られ話し合いを重ねられていた。

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