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年次大会
大会報告:第40回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

 第3部会  6/7 10:00〜12:30 [法文2号館2大教室]

司会:渡辺 雅子 (明治学院大学)
1. 中国における日系企業の労使関係に関する考察
―上海にある日系企業のケース・スタディを中心に
蔡 林海 (筑波大学)
2. メキシコ系移民の帰化をめぐる諸問題
―アメリカ合衆国の事例―
江成 幸 (お茶の水女子大学)
3. 外国人労働者問題(国際労働移動がもたらす社会的影響)
―我が国の現在とアジア労働者送出国と先進労働受入国ドイツ・スイス―
宮内 紀靖 (中国瀋陽師範学院)

報告概要 渡辺 雅子 (明治学院大学)
第1報告

中国における日系企業の労使関係に関する考察
―上海にある日系企業のケース・スタディを中心に

蔡 林海 (筑波大学)

 1979年から1991年6月までに、中国が認可した日本企業の直接投資プロジェクトは1530件にのぼっていた。中国日系企業の労使関係はどのような要因によって制約されているか、日本的労使関係は経営資源として、中国日系企業に移転できるか。筆者は中国日系企業の労使関係の特徴を明らかにするために、上海にある日系企業に対して、ケース・スタディを行った。調査対象は日本M大手電機メーカーの出資による合弁企業である大企業ケースとS中小企業電機メーカーの進出による合弁企業である中小企業ケースを一ずつ選定した。主な調査項目は合弁企業のトップ・マネジメント構造と意思決定、経営組織と管理、雇用と教育訓練、昇級と昇進、労働組合と経営参加などである。調査はトップ・マネジメント、中間管理職及び一般従業員という三つのレベルの被調査者とインタビューして行われた。

 社会主義国における資本主義企業としての日系企業では、その労使関係を構成する行為者として、現地従業員、日本側と中国側の経営者及び現地政府がある。これらの行為者は社会主義体制の制約条件の中で行動している。日系企業における権力構造(トップマネジメント構成で、日本側と中国側の比率)のなかで、労使関係の各行為者に対する権力の配分の方法も労使関係の内部に反映されている。また、日本側の進出企業の類型(大企業あるいは中小企業)によって、日系企業の労使関係も異なっている。大企業ケースでは、集団的意思決定、雇用の安定、年功的昇進と昇級及び企業レベルの労使協議制などの労使関係が見られるが、中小企業ケースでは、トップダウン的意思決定、雇用の不安定、特に労働組合の結成をめぐって経営管理層における日本側と中国側の緊張関係が見られる。また、どのケースでも、日本的労務管理の重要内容とする「多能工化」及び企業内教育訓練が実施されていない。職場レベルの経営参加としての「小集団活動」の実施率も低い。要するに、中国の日系企業の労使関係を制約している要因は、技術、市場と金融・財政規制及び権力構造のほかに、文化的要因がある。日本的労使関係の中国への移転は日本的労使関係のあり方を規定する価値観、倫理観など文化的要因の移転と関わっていることである。

第2報告

メキシコ系移民の帰化をめぐる諸問題
―アメリカ合衆国の事例―

江成 幸 (お茶の水女子大学)

 20世紀後半の「国際人口移動」(international migration)の規模は、「トランスナショナル」(transnational) な経済活動や複雑な国際政治を背景に、世界各地でますます拡大しつつある。しかし、「ボーダーレス化」が指摘される一方で、近代国家は国境(border)を越える人々の移動に対する規制力を維持しており、個人が特定の国家に所属することは、広く行き渡った規範となっている。本発表では、メキシコからアメリカ合衆国に移住した人々の「帰化」(naturalization)をめぐる意識や態度を通して、国境を越える移動であるがゆえに国家の規範と向き合わざるを得ない移民の現実を明らかにする。

 アメリカでは1960年代から現在に至るまで、メキシコからの移民が増加し続け、定住化が進んでいる。ところが、メキシコ系移民の第一世代は、他の諸国からの移民に比べて帰化率が極端に低い。帰化を選択したい明でも、心理的葛藤を経験している。そこには、メキシコとアメリカの歴史的関係、国家への忠誠、社会的適応、個人のアイデンティティといった様々な要因が絡み合っている。これはとりもなおさず、近代国家が、個人を政治的、社会的、文化的、心理的に取り込み、「国民」として形成してきた結果にほかならない。経済的理由から自主的に移住を選択するメキシコ系移民であるが、彼らはトランスナショナルな存在であるというよりむしろ、米墨両国への二重の所属を通じ、国家への帰属を強く意識する立場に置かれているのである。

第3報告

外国人労働者問題(国際労働移動がもたらす社会的影響)
―我が国の現在とアジア労働者送出国と先進労働受入国ドイツ・スイス―

宮内 紀靖 (中国瀋陽師範学院)

 昨1991年11月18―19日に、横浜シンポジアで、神奈川県主催の『外国人労働者問題国際シンポジウム』が開催された。その折の、論点として、欠如していた部分に焦点を当て、問題点を明らかにすることを主たる目的とする。

 労働送出側として、フィリピン、バングラデシュ中国遼寧省の実情を、報告者のコメントに即して考察する。我が国の実情を「愛川町における日本語教育」と「綾瀬市における診療実態」の報告から問題点を考察する。労働者受入の、先進国としての、ドイツの例を、学術のレベルからと、ベルリン市の外国人問題担当課長からの、報告に即して考察する。

 以上の報告に欠ける点を、考察する。

 その結果、労働者を受け入れる、経済界以外の、地域社会での、問題点が欠如していた。受入側の実情を、100人規模の会社と、10人規模の会社に勤務する、外国人労働者の実情から、問題解決の解答を得ることを試みる。

 同時に、先進受入国の例も、受け入れ地域での、定住の点が欠けていた。そのために、スイスの一般的な実例から、解決策を見出すことを、試みる。

報告概要

渡辺 雅子 (明治学院大学)

本部会では、外国人労働者、移民、異文化への企業進出といった、人の移動に伴う文化の衝突にかかわる報告がなされた。

第一報告の蔡林海(筑波大学)「中国における日系企業の労使関係に関する考察」では、上海にある日系電機メーカーのケース・スタディから、大企業と中小企業の場合の比較をイふまえて、日本的経営方式の中国への移転が可能かどうか、またどのような点で問題をはらんでいるかを労使関係に焦点を当てて考察された。

第二報告の江成幸(お茶の水女子大学)「メキシコ系移民の帰化をめぐる諸問題」では、発展途上国から先進諸国への経済移民の中で、帰化率が低いとされるアメリカのメキシコ系移民を対象として、帰化をめぐる彼らの意識や態度をとおして、帰化躊躇の要因としての主観的制約や市民権獲得のメリットの低下などの諸要因を考察し、二重を忠誠をもたざるをえない彼らのアイデンティティの葛藤についても論究された。

第三報告の宮内紀靖(中国瀋陽師範学院)「外国人労働者問題(国際労働移動がもたらす社会的影響)」では、これまでの外国人労働者問題に関する先行研究を概観した上で、外国人の就労先企業での事例から、彼らをめぐる問題点の所在が指摘された。

フロアからは、現在、日本社会で外国人労働者が増加している現状の中で、各報告に対する活発な議論が展開した。

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