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年次大会
大会報告:第41回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 III)

 テーマ部会 III 「環境問題の現在」―環境社会学のアイデンティティを求めて―
 6/13 14:00〜17:15 [3号館324教室]

司会者:飯島 伸子 (東京都立大学)
コメンテーター:町村 敬志 (一橋大学)  若林 敬子 (人口問題研究所)

部会趣旨 飯島 伸子 (東京都立大学)
第1報告: 戦後日本の社会学的環境問題研究の軌跡
―都市社会学的アプローチを中心に―
堀川 三郎 (慶應義塾大学)
第2報告: 農村社会学と環境社会学:
方法論をめぐる<対話>の試み
池田 寛二 (日本大学)
第3報告: 環境社会学における社会運動論的視点 長谷川 公一 (東北大学)

報告概要 飯島 伸子 (東京都立大学)
部会趣旨

飯島 伸子 (東京都立大学)

 環境部会は、理事会の2年を1セットとするという方針によって、昨年に引き続いての開催である。テーマの設定にあたっては、昨年との連続性に考慮してメイン・テーマは昨年と同じものとし、サブ・テーマ は少々変更した。すなわち、昨年は環境社会学の<視座>を求め、本年は<アイデンティティ>を求めると違えているが、環境社会学とはどのような学問なのかを模索している点で連続している。用語としての「環境社会学」は、1970年代末に、アメリカの農村社会学者のグループによってパラダイム転換という衝撃的な問題提起とともに提示されたものだが、これは、日本において戦後間もなくの時期から展開されてきた環境問題の社会学的研究とは、方法、視点、対象においてかなり異なる面がある。日本における環境問題の社会学的研究と、アメリカで提唱された環境社会学とはどのように切り結ぶのか。その一端を、昨年に引き続き、今回の部会でもご紹介できるようにと考えている。

第1報告

戦後日本の社会学的環境問題研究の軌跡
―都市社会学的アプローチを中心に―

堀川 三郎 (慶應義塾大学)

 環境問題の深刻化に伴い、世界的に環境社会学という新たな学的営為の必要性が叫ばれてきている。1992年、日本にも環境社会学会が設立されるにいたっているが、その方法論や有効性、さらにはその必要性までが盛んに議論されているのが現状である。

 そこで本報告は、戦後日本の社会学的環境問題研究の軌跡を文献研究的に振り返るなかから、この環境社会学という新たな学的営為の出発点を考察することを目的としている。具体的には、まず、戦後日本の社会学的研究がいかに公害・環境問題に取り組んできたのかを、文献データをもとに概観することが第1の課題を構成する。しかし、報告者の関心と能力の制約もあり、そのレヴューは都市社会学的アプローチを中心としたものとならざるをえないだろう。第2の課題は、その概観をもとにした試論的レヴューである。そこでの主要な特徴点は、1)日本の環境問題研究とアメリカのそれとは、対象とする問題やその系譜が大きく異なっていたこと、2)公害・環境問題に早くから取り組んできたのは農村社会学や地域社会学、都市社会学といったトポロジカルな概念を持つ学的諸領域であったこと、3)また、こうした学的諸領域は主に加害源を特定して論ずべき「公害問題」を運動過程を媒介に扱ってきたこと、4)しかし問題が拡散・複雑化して、被害が地域現場で見えにくくなるにつれ、公害・環境問題に関する研究が減少してきたこと、の4点であると思われる。

 以上の考察を踏まえたうえで、最後に「なぜ、都市社会学的研究は一貫して環境問題に取り組んでこなかったのか」を考えてみたい。言い換えるなら、地域社会に生起する問題にアプローチする諸概念装置や理論を持ち、1960年代には一定程度の関心を環境問題に示していた都市社会学が、なぜ、次第にその関心を転回させていったのか。この問へ回答する試みのなかから、環境社会学の可能性が見えてくるに違いない。

第2報告

農村社会学と環境社会学:
方法論をめぐる<対話>の試み

池田 寛二 (日本大学)

 アメリカでは Rural Sociology が Environmental Sociology の発展に大きな影響を及ぼしたといわれている。たとえば、ハムフェリーとバトルは「農村社会学者は、社会学的視点から環境問題に応えようとした最初の人々である」と述べている。日本の場合は、農村社会学が環境社会学に及ぼした影響はアメリカほど直接的ではなかった。しかし、島崎稔の安中鉱害研究をはじめ若林敬子による漁村の環境破壊に関する研究など、主として70年代に、農村社会学者が環境問題に社会学的視点から応えようとした実績があることを忘れてはなるまい。また80年代には、鳥越皓之らが琵琶湖調査の成果として農村におけるフィールドワークの方法を反省的に彫琢するなかから提示した「生活環境主義」が、環境問題に対する独自の社会学的接近方法として注目されたことも記憶に新しい。

 一方、環境社会学は多くの社会学者の関心を集めすでに着実に研究の蓄積を達成しつつあるが、環境社会学の研究方法や理論枠組に関して自覚的な議論が試みられたことはあまりなかったように思われる。この報告では、現代の多様で複雑な環境問題に社会学的にアプローチするためには、農村社会学と環境社会学との環境問題のとらえ方を比較検討するなかから研究方法の彫琢を試みる必要があることを、できるだけ具体的な事例を引証しながら明らかにしたい。

 日本の農村社会学はことさらに「環境」を強調することはなかったが、農村社会のもつ資源管理機能(農地、山林、用水などの共同管理機能)の実態に大きな関心をはらい、実証的な研究を蓄積してきた。その研究方法を今日の環境問題の社会学的研究とどのようにリンクさせることができるか、農村的資源管理機能の低下が環境問題の深刻化と結びついている典型的な事例である埼玉県の「見沼田圃」問題をとりあげて考察する。

第3報告

環境社会学における社会運動論的視点

長谷川 公一 (東北大学)

 (1)環境社会学のアイデンティティ問題…連字符社会学は、(1)研究領域によって、(2)方法によって、(3)規範的価値関心によって定義される。「環境社会学」のアイデンティティは、エコロジカルな価値関心にもとづいて、既存の連字符社会学の領域区分から相対的に自立した固有の研究領域としての「環境問題」の意義を強調する点にある。環境社会学の方法論はオープンであり、本来的に学際的である。

(2)環境社会学における社会運動論的視点…現実の住民運動がはたしてきた役割の大きさに対応して、地域社会学的な住民運動研究、公害研究、大規模開発問題の研究は、いずれも運動主体としての「住民」に大きな研究上の比重をおいていた。環境問題に関する社会学的な分析が、社会運動論的な視点を内包するのはきわめて自然だった。
 1980年代以降導入された資源動員論や「新しい社会運動」論は、固有の研究領域としての住民運動や市民運動の意義を強調し、中範囲理論的な志向性をもつ点で、地域社会学的な構造分析よりも、イッシュー・アプローチ的な社会問題研究に対してより親和的だった。(1)運動の主体性を規定する諸条件としての、イッシュー自体の構造的な分析、運動の組織化過程、組織連関関係・ネットワーク、敵手の社会統制の戦略、(2)主体性の表現形態としての住民運動・市民運動の戦略・戦術、価値志向・自己表出性、支持構造、これらが社会運動論的な研究の自覚的な焦点となってきたのである。報告者自身、このような観点から新幹線公害問題や東北・上越新幹線建設問題、原子力問題にかかわる社会運動を論じてきた(舩橋晴俊・長谷川公一ほか,1985,1988;長谷川公一,1991)。

(3)今後の課題…(1)比較社会学的研究の重要性、(2)過去の事例の読み直し、(3)事例研究のフォローアップ調査の必要性、(4)質的調査と量的調査の有機的統合

報告概要

飯島 伸子 (東京都立大学)

 昨年に引き続いての<環境>部会は、メイン・タイトルは昨年のままで、サブ・タイトルだけを昨年の「環境社会学の<視座>を求めて」から「環境社会学のアイデンティティを求めて」と変え、昨年との連続性を強調したものとなった。本年の報告者は、報告順で、堀川三郎氏、池田寛二氏、長谷川公一氏であり、討論者は町村敬志氏、若林敬子氏、司会は飯島であった。

 堀川三郎氏の報告は「戦後日本の社会学的環境問題研究の軌跡――都市社会学的アプローチを中心に」と題してなされた。同氏が用意されたレジュメから引用すると、戦後日本における環境問題研究に対する主に都市社会学からの研究を文献研究的に検討することを通して得られた主要な論点は、次のようなものである。
(1)日本の環境問題研究とアメリカのそれとは方法と対象が大きく異なっていたこと、
(2)日本の場合、主に加害源を特定して論ずべき「公害」問題を「運動」過程を媒介に扱ってきたこと、
(3)しかし、問題が地域現場で見えにくくなるにつれ研究が転回していったこと、
(4)したがって、「環境に定立した学的領域としての環境社会学」が必要である。

 以上の論点は、周到に用意されたレジュメに沿って堀川氏から詳細に報告されたのであるが、この他に氏の報告で強調されたことに、従来の都市社会学は、圧倒的に社会関係に傾斜していて環境論を欠落させてきたのではないか、環境問題を扱うにしても数多くあるトピックの中の一つとしてしか扱ってこなかったのではないか、との問題提起があった。

 池田寛二氏の報告は、「農村社会学と環境社会学:方法論をめぐる<対話>の試み」と題してなされた。氏の報告の主旨は、環境社会学成立以前から環境問題に取り組んだ実績を持つ農村社会学における問題のとらえ方とアプローチを検討する中から環境社会学に必要とされるアプローチを模索するというものである。その論点は4点にまとめて提示された。
(1)農村社会学と環境問題の接点は、地域開発論、生活環境主義、地域共同管理論の三つにあること、
(2)この三つは、地域開発論は生産システムの観点から、生活環境主義は生活の観点から、地域共同管理論は管理システム論から環境問題を焦点化していること、
(3)環境社会学は、地域開発論からは構造分析の方法を、生活環境主義からは、調査者の感受性を問う調査方法の検討の視点を含め、ライフヒストリーの方法の活用を、また地域共同管理論からは、環境・資源の管理組織の実態と組織原理を明らかにする組織論的アプローチと所有論的アプローチを取り入れる必要があること、
(4)環境社会学の独自の課題として、持続可能な発展概念の再検討を通して独自の社会変動論の構築、内発的発展の視点からの解明、空間論的アプローチなどがあること。

 長谷川公一氏の報告は、「環境社会学における社会運動論的視点」と題してなされた。氏は、最後の報告者として、環境社会学のアイデンティティについて次のようにまとめることから報告を開始している。すなわち、環境社会学のアイデンティティは、エコロジカルな価値関心にもとづいて、既存の連字符社会学の領域区分から相対的に自立した固有の研究領域としての「環境問題」の意義を強調する点にある、とする。次に、日米の環境社会学のテキストの目次を比較提示して、米国の環境社会学は社会と環境の相互連関の研究であるのに対し、日本の環境社会学は環境問題の社会学的研究であることを指摘し、氏自身も環境社会学をこのように捉えていたと述べる。その上で、社会運動論からの環境問題への接近に関しては、現実の住民運動がはたしてきた役割の大きさからして、環境問題に関する社会学的な分析が社会運動論的な視点を内包するのはきわめて自然であったこと、とくに1980年代以降導入された資源動員論や「新しい社会運動」論がイッシュー・アプローチ的な社会問題研究に親和的で環境問題分析に多用され、有効性を発揮したことを紹介。今後の課題としては、比較社会学的研究の重要性、過去の事例研究のフォローアップの必要性、質的調査と量的調査の有機的統合の重要性、を指摘した。

 以上の報告に対し、討論者の町村敬志氏からは、環境問題が研究対象として重要であることを認めた上で、社会学内部での内向きのアイデンティティと同時に外向きのアイデンティティを知りたい、つまり、環境問題に関する他の社会科学と環境社会学を差異化させうるのは何であるのか、との指摘と環境社会学が短期間で高い研究レベルに達したことへの敬意の表示がなされた上で、足元の地域社会の公害問題とグローバルな地球環境の間には方法論的に大きな隔離があるが、両者を全体構造の中で位置づける必要がある、とのコメントがなされた。

 この後、会場との質疑応答も活発になされたが、その内容については長くなるので省略し、代わりに報告・討論・質疑のいずれも、大変熱のこもったものであったことをつけ加えておきたい。

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