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年次大会
大会報告:第41回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 IV)

 テーマ部会 IV 「エリア・スタディからみた労働力の国際間移動」
 6/13 14:00〜17:15 [3号館325教室]

司会者:尾形 隆彰 (千葉大学)
コメンテーター:伊藤 るり (明治学院大学)  末田 清子 (北星学園大学)

部会趣旨 尾形 隆彰 (千葉大学)
第1報告: 中東地域における国際間労働移動と中東社会の変容 加納 弘勝 (津田塾大学)
第2報告: アジアからの国際労働力移動:送り出しの状況と問題点 菊地 京子 (津田塾大学)
第3報告: アジア系外国人と日本の都市・地域社会
―新宿・大久保地区の実態調査から―
田嶋 淳子 (淑徳大学)
第4報告: ヨーロッパ諸国におけるイスラム系住民の現状
―フランスを中心に―
辻山 ゆき子 (聖霊短期大学)

報告概要 尾形 隆彰 (千葉大学)
部会趣旨

尾形 隆彰 (千葉大学)

 冷戦の終焉は、潜在していた民族問題や経済格差問題を一気に噴出させることになった。中でも国際労働力移動の問題は、現在の世界が抱える最大の問題になりつつある。わが国での「外国人労働者問題」の論議も、自国の経済的利益ばかりを考える導入是非論を脱し、相手国(地域)とのトータルな関係を考える中で外国人との共存や統合を模索していくべき段階に至っているように思われる。その際に重要になるのは第一に、狭義の経済的関係に止まらない社会的・文化的関係からこの問題をみていくこと。第二に、送り出し側と受け入れ側の関係についても、国家という狭い枠組を越えてエスニシティーや共通文化という観点を考慮にいれた「地域」の観点からみていくこと、ではないかと考える。

 本部会はこうした観点に立ちながら、具体的に幾つかの地域について専門家に現状を紹介してもらい、フロアを含めた討議と意見交流を行いたいと考えている。

第1報告

中東地域における国際間労働移動と中東社会の変容

加納 弘勝 (津田塾大学)

 イランやパキスタンに難民として留まるアフガン人が言ったように、埋葬される場所は親族のいる土地が望ましいが、帰れなければイスラムの土地のどこでも良い。また、「知識の探求は旅という肉体の活動に緊密に結び付いている」とハディーヌは記す(Gellens) 。イスラム教徒の場合、国境を越える移動に好ましい規範を備え、非イスラム地域への流出先においても、モスクの存在などでイスラム的生活様式が確保されれば、故郷に付着しない生活も成立し易いように思われる。以下では、国際労働移動に伴う社会の変容と、この移動を促進する要因、また、個人や家族が移動に対処するための要因、要するに移動情報の蓄積のあり方を検討する。

(1)中東地域における国際労働移動と移動に伴う地域社会、個人生活の変容:
   移動の規範
   移動に伴う地域社会と個人生活の変容:
   (1−イ)エジプト−人口規模大の農業国
   (1−ロ)イェメン−人口規模小の農業国
   (2−イ)トルコ −人口規模大、中東最初の「人の移動」戦略の国
   (2−ロ)ヨルダン−人口規模小、「人の移動」戦略の国

(2)国際労働移動を考える枠組、移動情報の蓄積と移動ネットワークの拡充:4つの送り出し国における移動情報の蓄積(送り出し国家での移動制限と促進)。受け入れ国家に対する、送り出し国家での印象:
   (注、国際労働移動の量については、表を参照していただきたい)

表(省略)

第2報告

アジアからの国際労働力移動:送り出しの状況と問題点

菊地 京子 (津田塾大学)

I 送り出しの状況
  *アジアにおける主要な労働力送り出し国
   フィリピン、インド、韓国、パキスタン、タイ、バングラデシュ、インドネシア、
   スリランカ
  *送り出しの促進要因
  (1)過剰人口の滞留
  (2)自国内での就業機会の乏しさ(技能・学歴・資格などにおいて)
  (3)海外雇用への政府機関の介入
   例;フィリピン 国家主導型の海外雇用促進政策の実施(市場開発・情報収集・福利厚生)
  (4)民間斡旋業界の存在
  (5)マスメディアによる海外情報の普及
  (6)海外雇用への高い動機づけ(ポジティヴ:ネガティヴ)

 II 問題点
  (1)社会資本の損失(熟練労働者不足:頭脳流出)
  (2)資本材への蓄積が達成されていない(耐久消費財の購入、借金の返済など)
  (3)既婚者の海外就労による「家族崩壊」
  (4)不法就労者の増加

第3報告

アジア系外国人と日本の都市・地域社会
―新宿・大久保地区の実態調査から―

田嶋 淳子 (淑徳大学)

 80年代以降、生産の海外移転による日本経済のグローバル化に伴い、日本ならびにアジア諸国間の人の移動が増加した。とりわけ、日本への流入はこの10年間で108万人から323万人へと約3倍を記録し、その65%がアジアからの入国者である。そして日本国内で彼等は主に大都市インナーエリアに居住している。筆者はこの5年来大都市インナーエリアにおいて外国人居住者を対象とする地域調査を行っていた(注1)。

 本報告でとりあげる大久保地区は都内でもっとも外国人人口の多い新宿区に位置する。調査地域の外国人比率はいずれも1割を越え、一部で2割に達する地域も含まれる。外国人居住者はこの10年来ほぼ一貫して増加傾向を保ち、居住地域はゆるやかな集住化傾向をみせる。若年単身層が中心だが、家族・親族での滞在、日本人との結婚など滞在形態は多様化傾向を示す。地域には同国人ネットワークが張りめぐらされ、独自なエスニック・コミュニティの形成が進みつつある。彼等を顧客とする飲食店、スーパー、教会が地域に点在し、それがネットワークの結節点となって、地域の様相を大きく変え始めている。

 アジア系外国人をとりまく社会関係はこれまでの日本人対外国人といった二項対立的なものから、同国人どうしはもとより同じ言語圏あるいは「定住外国人」との関係、外国人どうしなど多層化傾向を強めている。本報告ではこれらの点に着目しながら、調査結果を中心にアジア系外国人の居住実態と日本の都市・地域社会の変容の諸側面をとらえていきたいと考えている。

(注1)調査結果の詳細は奥田道大・田嶋淳子編著『池袋のアジア系外国人―社会学的実態報告』めこん、1991年、および、同『新宿のアジア系外国人―社会学的実態報告』めこん、1993年参照。

第4報告

ヨーロッパ諸国におけるイスラム系住民の現状
―フランスを中心に―

辻山 ゆき子 (聖霊短期大学)

 主として第二次大戦後にマグレブ諸国、トルコ、インド亜大陸などから、それぞれフランス、ドイツ、イギリスなどのヨーロッパ諸国へ出稼ぎに行った労働者たちは、その宗教がイスラムであるということから共通の問題を抱えている。しかし、受け入れ国によって現状はかなり相違しているようだ。たとえば、分権国家イギリスでは移民によってもたらされる問題の交渉や解決は地域レベルで行われ、移民コミュニティ側の政治参加も進んでいるといわれる。その一方、フランスの場合、中央集権国家であることから国家的規模で問題が論じられやすく、さらに、公的空間の非宗教性が重んじられるという特徴がある。また、ドイツ人はトルコ人等を「移民」としてではなくやがて帰国するべき「一時的滞在者」とみなし続けているといわれる。このような相違から、3ヶ国のなかではとくにフランスで、国家アイデンティティを脅かすものとしてイスラムが俎上にのせられやすい。

 さて、報告ではこのような(1)英独仏のイスラム系住民の現状、問題の現れ方の特徴を大雑把に比較し、次に(2)フランスに焦点を絞りイスラム系住民の(i) 社会経済的統合、(ii)文化的同化、(iii) 政治参加がどのように行われているのかを述べたい。F.Dubet は(i) イスラム系を中心とする現代の移民たちは、最も恵まれないフランス人労働者層へ統合されつつあるといい、(ii)国際結婚の多さ、出生率の低下、西欧化されたイミグレの若者文化、イスラムがフランスの非宗教性の原則を相対的に甘受している現状に、彼等のかなり強い文化的同化を見出している。また、(iii) 政治参加は、労働組合活動を通じてといった古典的な形態から、互いにネットワークを持った自主的なアソシエーション活動を通じて行われるようになっている。最後に、(3)イスラム系住民のこうした形態の定着の背景として、現代のフランスとヨーロッパ社会の特徴を考えたい。

報告概要

尾形 隆彰 (千葉大学)

 当部会は国際労働力移動の問題について、国家という枠を超えた「地域」や文化、エスニシティなどの観点から再度考え直していくという主旨で開催された。送り出し地域として中東イスラム世界と東南アジア、受け入れ地域としてフランスと日本を設定、4人の報告者を予定した。残念ながらフランスを担当した辻山ゆき子氏は急病のため欠席された。

 まず加納広勝氏(津田塾大)が、規範と情報ネットワークに注目した移動の促進・抑制要因に関する独自の図式を提出し「埋葬される場所はイスラムの地ならよしとする」という宗教的規範がこの地域における移動の大きな促進要因になっていることを論じた。また出稼者が非イスラム文化に接したために価値観の動揺をきたしたり、逆にイスラム回帰したりするといったアンビバレントな状態に陥る場合など注目すべき事実が明らかにされた。

 次に菊池京子氏(津田塾大)が、社会人類学の立場から東南アジア最大の労働力送り出し国であるフィリピンでの送り出し促進要因とその結果の諸問題を論じた。特にこの国の人々が英語が堪能でカトリックでもあり、また諸情報に接する機会も多いため欧米への「移動障壁」が低くなっているという指摘は注目される。送金や外国体験がもたらすアンビバレントな結果についての簡潔な説明も行われた。

 最後に田嶋淳子氏(淑徳大)が池袋・新宿といった大都市インナー・エリアにおける外国人居住者の克明な実証調査に基づき、こうした地区では東アジアの人々を中心にすでに半永住化が進み、日本人との混住状態も進んでいることが明らかにされた。因みにいい恥部の地区ではアパートの9割に外国人と日本人が混住し、保育園園児の16%は外国人児童、さらには様々なエスニック・ビジネスが配置されているという。なかでも特に華人を中心とする重層的なネットワーク形成が注目されるという。こうした地域でも欧米にみられるような深刻なエスニック・グループ間対立やマジョリティとの衝突はそれほど見られず、定住=対立という図式は必ずしも成立しないという指摘があった。

 会場も巻き込んだ活発な討論から、現実問題に目を向けつつ移動にともなう諸ネットワークがボーダーレス化していることを社会学的にどうとらえていくか、それが今後の課題であるとの結論に達した。

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