HOME > 年次大会 > 第45回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第4部会
年次大会
大会報告:第45回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第4部会)

 第4部会  6/15 10:00〜12:30 [本館1308教室]

司会:袖井 孝子 (お茶の水女子大学)
1. 老いの社会学的研究の展望と今後の課題 森嶌 由紀子 (お茶の水女子大学)
2. 個人にとっての「老い」 川口 一美 (流通経済大学)
3. 高齢社会への対応
――シルバーサービス産業の現状について
照島 秀子 (日本大学)
4. 専門職のセルフヘルプグループに対する態度
――その特質と要因分析――
金澤 朋広 (駒澤大学)
5. 安楽死論の諸前提 庄司 俊之 (筑波大学)

報告概要 袖井 孝子 (お茶の水女子大学)
第1報告

老いの社会学的研究の展望と今後の課題

森嶌 由紀子 (お茶の水女子大学)

 日本は他国が経験したことのない急速なスピードで超高齢社会にむかっている。そのため、高齢先進国として他国に先立った独自の老年研究を早急に進めていく必要がある。そこで、今まで日本の社会科学の分野で蓄積されてきた老年学研究の業績を通しみることにより、今後の社会老年学研究の課題や方向性を考察することにしたい。

 社会科学系の老年学のレフェリー制の主要学術雑誌としては、『社会老年学』(社会老年学編集委員会編集・東京都老人総合研究所発行)、『老年社会科学』(日本老年社会科学会編集・発行)、『社会福祉研究』(鉄道弘済会社会福祉部編集・発行)、『社会保障研究』(社会保障研究所編集・発行)がある(副田、1997)が、本報告では、主に『社会老年学』と『老年社会科学』を取り上げ、特に過去10年間に刊行された論文に注目する。 方法としては、まず、副田義也が「老年社会学の展望と批判」(『成熟と老いの社会学』、1997)のなかで『社会老年学』の掲載論文を分析した手法を用いて、『老年社会科学』の論文の主題の分類から始めたい。次に、分類された主題別に内容分析を行うが、本報告ではここに力点をおきたい。

 以上のように主題の分類や内容の考察結果から、今まで日本の社会老年学でなされた研究の傾向やほとんど研究されていなくて今後必要とされるであろう領域などを指摘しながら、これからの日本独自の老いの社会学的研究のあり方を探りたい。

第2報告

個人にとっての「老い」

川口 一美 (流通経済大学)

 日本でも高齢化社会が注目され初めて久しい。老人は老人問題という社会問題の主役になった今日、どのような思いをもちながら、生きているのだろうか。現代の老いや老人、老人問題といえば、社会福祉と結び付くといっても過言ではないだろう。

 現代社会の中で、老いは否定的なイメージで捉えられ、保護すべき対象として見なされている。また、これだけ老人問題や高齢化社会が叫ばれている中でさえ、他者から見た老人に対する老人のイメージばかりが強調されている。だが、それらをすべてたしたところで、老人像を浮き彫りにすることは難しい。ましてや、老人自身の「老い」を捉えようとする時、これらの枠はあまり意味をなさない。

 この様な時代に老人たちは、自分の中で、「老い」とどのように向き合っているのだろうか。また、老いた自分を自分の中でどのようにとらえているのだろうか。

 本稿では、老人の内面、個人にとっての老いを知るために、ライフヒストリーという手法を用いる。インタビューを通じて、話し手と聞き手が一緒にライフヒストリーを再構成していく。その中で、個人の老いや人生を浮き彫りにし、ライフヒストリーを再構築することで、その人個人の人生や老いに対する意味を見いだしたいと考えている。

第3報告

高齢社会への対応
――シルバーサービス産業の現状について

照島 秀子 (日本大学)

 我が国においては、平均寿命の伸長及び出生数の減少のため、人口の高齢化が急速に進行しており、平成4年10月1日現在における65歳以上の高齢者の人口は、総人口の13.1パーセント(1,624万人)を占めており、厚生省人口問題研究所の推計によれば、今後はさらにこの傾向は続き、平成32年には、高齢者人口は約人口の25.5パーセント(3,274万人)に達するとされている。このような人口の高齢化、国民の所得・生活水準などに伴い、公共サービスでは限界のある高度かつ多様な保険医療・福祉サービスに対する国民のニーズが増大しており、これを背景に民間事業者による高齢化層を対象とした各種のサービス、いわゆるシルバーサービス産業が展開されている。

 現在、諸外国に例を見ない速度で進行している我が国の高齢化が今後社会経済にさまざまな影響を及ぼしていることは明らかである。このようななかで今まで遅れの目立っていた企業の高齢者層に対しての最近になってさまざまな適応と展開を示すようになってきている。シルバーサービス産業の手がける「高齢者の若返りを助けるビジネス」「生命を守るビジネス」「老人向け教育産業」「老人のための新しいレジャー」「老人のライフスタイルを演出する商品」など各分野で格的に企業が取り組もうとする試みがはじめられている。

 これらは福祉行政のカバーできない部分を有料でカバしていこうとするところにその大きなねらいがある。その一例を示すと、
 ・病院に隣接したボケ老人を預る有料ナーシングホーム
 ・ボケ保険
 ・オーダーメイドの補聴器
 ・老人向けバランス栄養食
などである。

第4報告

専門職のセルフヘルプグループに対する態度
――その特質と要因分析――

金澤 朋広 (駒澤大学)

 アルコール依存症の当事者の活動から始まったセルフヘルプグループは、現在医療・福祉の分野に限らず、幅広い分野で活動が行われるようになっている。日本においては「当事者会」「本人の会」等の名称も用いられいるが、グループに対する意識や関心が高まる反面、専門職の介入や様々な問題に直面して変質・解体するグループも数多い。そこでグループの問題点を考える際、専門職がセルフヘルプグループをどのように認識し、態度を持ち、グループと接触しているかという必要が生じてくる。

 本報告では、東京都のPHN(保健婦・保健士)を中心に、定量調査を行ない、専門職の人間がセルフヘルプグループに対してどのような態度構造を持ち、それに影響を与えている社会的要因の分析を試みた。結論としてセルフヘルプグループに対するイメージや態度は「セルフヘルプグループ」という考えに対する評価や専門職との関係での評価、効用に対しての評価に類型化することができた。またグループに対する規範的な評価は専門職本人の職歴や年齢などの属性以外にも、日常接触するグループやネットワーク、そして学習の影響もあることが明らかとなった。

 当日は調査の概要を配付して発表の予定である。

第5報告

安楽死論の諸前提

庄司 俊之 (筑波大学)

 安楽死問題をどう考えたらいいか。しばしば賛否双方の立場から、法律学・政策論的なガイドラインの提示や、それに付随する哲学・倫理学的な根拠づけがなされたり、あるいは、社会学的な立場から賛否を保留したまま、事例研究や意識調査が報告されたりする。本報告では、いずれの手法をも否定するつもりはない。だが、むしろ、それらの諸言説が立脚する諸前提こそ、あらためて考察されるに値すると報告者は考える。なぜなら、安楽死論の諸前提への視座とは、長期的ないみで問題の磁場そのものが構成される論理や要因を明らかにしようとする態度のことであり、それは一方では諸言説を相対化しつつ、その言説が志向する一義的な「解決」が短期的処方箋としてしか意味をもたないことを明確化できるからである。他方、この態度にあっては、長期的に問題とすべき構造的要因に配慮することの重要性を強調することから、二段階的に「解決」が模索されねばならないという戦略的な見通しも得られることになるだろう。

 本報告では、先行業績の再構成も含めて、安楽死論の諸前提を主に3点に絞って報告することにしたい。第一に、安楽死問題の争点を「自己決定原則vs自殺幇助の禁忌原則」と捉えた場合、歴史的にも医療の構造上も、前者は事後的に派生し主張されたものであること。第二に、安楽死の諸類型を分類すると、行為水準での慈悲殺が社会的水準での淘汰死に対応して理解される可能性を孕むこと。ここでは、医師の動機づけの多義的な理解の可能性や自由意思の不確かさが強調されることになる。そして第三に、安楽死論が様々な波及効果(医療経済、あるいは嬰児殺しや植物患者の延命停止、生殖医療など)のなかで結実する一断面にすぎないこと。

報告概要

袖井 孝子 (お茶の水女子大学)

 第四部会では、老いや死をめぐる四つの報告があった。森嶌由紀子氏(お茶の水女子大学)「老いの社会学的展望と今後の課題」は、副田義也氏が「老年社会学の展望と批判」(『成熟と老いの社会学』岩波書店、1997年)において『社会老年学』の掲載論文を分析する際に用いたのと同じ分類を用いて、過去10年間に『老年社会科学』に掲載された論文を分析したものである。問題点として、統計的な分析手法の厳密化は進んでいるが、質的なデータが欠けていること、現状の把握に留まっており理論化・体系化が遅れていることなどがあげられている。本報告は副田氏との比較が目的ではないのだから、報告者独自の分類方法によって分析を試みたほうが、問題点がより鮮明になったであろう。

 河口一美氏(流通経済大学)「個人にとっての『老い』」は、自分の祖母のライフヒストリーを手掛かりに、現代社会における「老い」の否定的なイメージと高齢者自身にとっての老いの持つ意味との乖離を見出そうとするものである。高齢者自身にとって老いの持つ意味を、ライフヒストリーを再構築することによって捉えるという報告者の意図は興味深いが、現段階では必ずしも成功しているとは言いがたい。

 金澤朋広氏(駒澤大学)「専門職のセルフヘルプグループに対する態度−その特質と要因分析−」は、保健所に勤務する保健婦・保健士とPSWを対象に実施した調査結果を用いて、専門職の人間がセルフヘルプグループ(SHG)に対してもつ態度構造とその規定要因をさぐるものである。規定要因としては、基本属性のほかに、ネットワークのもつ重要性が指摘されている。SHGについては、実態そのものについてもよく知られていない状況であり、今後の研究に期待したい。

 庄司俊之氏(筑波大学)「安楽死論の諸前提」は、安楽死問題の争点である「自己決定原則」が歴史的にも医療の構造上からも事後的に派生したものであること、パターナリスティックな医療システムと共同体の論理によって患者の主体性が奪われる可能性があること、安楽死論は臓器移植や医療経済等への波及効果をもつことなどを指摘する。死における自己決定原則のもつ危うさと曖昧性への警鐘と受け止めたい。

▲このページのトップへ