HOME > 年次大会 > 第45回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第5部会
年次大会
大会報告:第45回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第5部会)

 第5部会  6/15 10:00〜12:30 [本館1309教室]

司会:浦野 正樹 (早稲田大学)
1. 地域社会の再編/統合と近代郵便制度 山根 伸洋 (一橋大学)
2. 大正期のスペインかぜにみるメディアと社会心理 武田 勝 (流通経済大学)
3. 災害ボランティアとインターネット
――阪神・淡路大震災から日本海重油流出災害まで――
干川 剛史 (徳島大学)
4. 災害研究における集合行動論的視座の展開 土屋 淳二 (早稲田大学)

報告概要 浦野 正樹 (早稲田大学)
第1報告

地域社会の再編/統合と近代郵便制度

山根 伸洋 (一橋大学)

 明治期日本への近代郵便制度の導入は、これまで、新たな情報空間の生成という観点から、論じられてきた。しかしながら、近代郵便制度の導入それ自体がもたらす地域社会の再編の現実は、メディア論的な観点からだけでは十分に分析することはできないだろう。本報告においては、近代郵便制度の導入にあたって、当時の為政者が国家全域として想定した地理的領域の全体に対して郵便線路網を短期間に整備していった点を重視し、それを可能とした制度的技術に照準をあてて論じていきたい。日本における近代郵便制度の確立はこれまで、新規の制度の導入という観点が強調されてきた。だが、実際は、旧来の交通・通信基盤としてあった宿・助郷制度や飛脚制度をはじめとする情報流通制度そのものを直接の土台としてはじめて、近代郵便制度の導入が可能であった。また、近代郵便制度導入の直接的なねらいが、国家全域における均質な情報空間の確立であったとしても、実際には、その郵便線路網の維持のために、旧来の宿駅業務従事者をはじめとする地域の名望家層を郵便業務へ組織化していくことがもくろまれた。いみじくも前島密が「虚栄」を組織化したと回顧しているように、近代郵便制度の確立は、単に情報流通制度の抜本的な更新であっただけではなく、すぐれて地域社会を<再編>し中央へ統合していくための制度的技術であったのである。この点を中心として、明治期初頭、近代郵便制度の確立をめぐって生じる地域社会の再編の様相を明らかにしていきたい。

第2報告

大正期のスペインかぜにみるメディアと社会心理

武田 勝 (流通経済大学)

 1918(大正7)年から大流行した「スペインかぜ」は、いまやすっかり忘れ去られたとはいえ、史上例をみない被害を出したインフルエンザである。このかぜは第一次世界大戦の戦場で猛威を振るった後、世界各地へ広まったといわれる。そのため日本では「世界感冒」とも呼ばれ大いに世上をにぎわせた。実際、わが国だけでもその死者は15万ともそれ以上ともいわれ、当時の新聞には、センセーショナルともヒステリックともいえる見出しや記事がおどっている。また医学の専門雑誌にもさまざまな学説や治療法が掲載され、この時だけは感冒に関する論文や記述が急増している。だがそれらとは対照的に、総合雑誌といわれるものや、それらよりもはるかに生活に密着しているはずの婦人雑誌には驚くほどその記述が少ない。それならば当時の一般大衆はどこから、そしてどのようにしてこの恐るべき天災の情報を得るとともに、どのような対策を立てていたのだろうか。さらには、この未曾有の大災厄への対処を通してこの時代の人々の社会心理の考究を試みることにしたい。

 そこで本報告では、 日本の大衆社会化がはじまろうとする大正時代において、これらの資料をもとにしながら、このかぜがどのように伝えられていたのか、またどのような背景のもとにそれらの情報が受け容れられていったのかを具体的にみていくことにする。

第3報告

災害ボランティアとインターネット
――阪神・淡路大震災から日本海重油流出災害まで――

干川 剛史 (徳島大学)

 本報告では、1995年の阪神・淡路大震災と1997年の日本海重油流出災害それぞれにおける災害救援ボランティア活動でのコンピューター通信利用の状況を比較し、この2年間で、ボランティア活動でのコンピューター通信の利用の仕方にどのような変化が生じたのかを明らかにしたい。

 まず、阪神・淡路大震災において、1月から2月にかけてはNIFTY-Serveの震災ボランティアフォーラム、3月以降は、インターVネットがボランティアの間の主な災害救援関連情報の流通ルートとして使われ、インターネットは、大学や研究機関、情報関連企業の研究者や情報技術者の間で震災関連情報の流通に使用された。これは、この時点では、インターネットが社会一般に普及していなかったことが反映しているからである。

 一方、日本海重油流出災害では、行政、ボランティアが、WWWのホームページを活用して被災地からの情報発信を行っている。また、災害被災地で救援活動にあたるボランティア団体が、インターネット広報部門を設置し独自にWWWホームページを立ち上げて情報発信を行っている。このことは、震災から重油流出災害までの2年間にインターネットが社会全般に普及してきたことや、行政やボランティアが広報活動のために積極的にインターネットを導入し、ホームページで情報発信できるだけの情報リテラシーを持つようになり、日常的にインターネットで情報発信を行うようなったからであると考えられる。

第4報告

災害研究における集合行動論的視座の展開

土屋 淳二 (早稲田大学)

 本報告では、災害研究における社会学的アプローチのなかでもとくに集合行動論的視座に焦点を絞り、そこで示される分析視点の特徴を再整理し、理論的枠組みの有効性を再検討することによって、災害社会学としての理論構築の可能性を探ることにしたい。従来より集合行動論は、既存の社会秩序・制度の改変を企図する集合的営為や、制度的ないし慣習行為としてはとらえがたい創発的な行動類型を一貫してその分析対象としてきたが、その点で、災害時に生起する多様な集合的反応(パニック行動、流言、略奪、スケープゴーティング、災害ボランティア行動、災害後誘発される各種の抗議行動や市民運動など)は、まさに「危機的社会状況における集合行動」として範疇化され、集合行動論の理論構築にとってきわめて重要なトピックスとみなされてきた。このことは、1950年代以降、膨大な災害事例研究を蓄積し続けるアメリカ災害社会学の理論展開が、集合行動論的アプローチによって積極的に推し進められてきたことに端的に示されている。このような先行研究の系譜と、わが国において当該アプローチによる災害研究がほぼ未踏領域であるという現状とをふまえつつ、今後の社会学的災害研究の展開方向に目を向けるなら、そこで示される集合行動論的視座を再度検討することは不可欠な作業といえるだろう。

報告概要

浦野 正樹 (早稲田大学)

 第5部会では、以下に紹介する4つの報告があった。ひとつめは、山根伸洋氏による「地域社会の再編/統合と近代郵便制度―地域権力の解体と地域名望家層の官営事業への組織化―」と題する報告である。明治期の日本において、想定された国家の範域全体に近代郵便制度を短期間に導入し、「均質な情報空間を生成させていくプロセス」が、同時に地域社会においては、「郵便窓口業務を担う主体を、当該地域に根差した名望家から抽出し、国家の側へ組織化し、再度地域社会へ再配置していくプロセス」でもあったという論旨を掲げ、そこに日本の近代化の有り様を探ろうとする報告内容であった。近年、社会史研究の流れを踏まえながら、(植民地経営にもつながっていく対外関係への視点を含め、)日本の近代化の過程を多面的に検討していこうとする試みが行われているが、それをインフラストラクチャーの形成という独自の視点から迫ろうとする報告者の意気込みが感じられる内容であった。このプロセスを、「書状逓送業務の<官営=国家事業>化に関して、地域社会に国家事業の担い手層を産出し配置していく過程」(=「地域社会の中央への統合戦略」)とみる見方は、近代化の過程における連続と断絶の内容や性格を吟味していくなかで、今後豊かなものにされていくに違いない。

 第2報告は、「大正期のスペインかぜにみるメディアと社会心理」と題する武田勝氏の報告である。武田氏は、日本において大正7年春から大正10年にかけて流行し38万人を越える死者を出したスペインかぜを研究素材に取り上げ、それが当時のメディア(新聞と雑誌)によってどのように扱われたかを検討することで当時の世相に迫ろうとした。<疾病を通じて社会の暗部を照射する>という魅力をもつテーマではあるが、今回の報告では、取り上げたメディアが、センセーショナルで過剰な報道をする一般新聞記事、専門的な知識や情報を伝達する医学専門雑誌、活字文化を支える教育水準の高い読者層をねらいにする総合雑誌や婦人雑誌などに限定されたため、各メディアの読者層による近代医学に対する態度の違いは浮き彫りにされたものの当時の世相を浮き彫りにするには掻痒の感があった。

 第3報告は、干川剛史氏による「災害ボランティアとインターネット―阪神・淡路大震災から日本海重油流出災害まで―」と題する報告である。この報告では、日本海重油流出事故災害における情報ボランティア活動の実態を示しながら、阪神・淡路大震災以来、災害時の情報ボランティア活動を取り巻く環境がどのように変化し、活動に際して指摘されてきた諸課題がどの程度まで克服されようとしているのか、その克服の試みを含めて紹介がされた。阪神大震災以降、情報とボランティアという接点の部分でのシステム構築の試みが進められているが、その最新の動向が披露されており、興味深かった。

 第4報告は、土屋淳二氏による「災害研究における集合行動論的視座の展開」と題する報告である。集合行動論と災害研究は、「災害研究での新たな発見が集合行動論の精緻化をもたらし、集合行動論の枠組みが災害研究を刺激してきた」といわれるように相互に刺激しあいながら進められてきており、この両者が交叉する研究領域は魅力的な領域のひとつであるが、日本においては一部の研究者に注目されるのみで、広く紹介され受容される機会は比較的少なかったように思われる。土屋氏の報告は、集合行動論の系譜を詳細に解説したうえで、現在災害研究で注目されている危機的社会状況における創発行動や創発集団の形成について理論的な整理を試みたものである。質疑では、既存の組織と創発的な組織との関わりや復旧過程におけるコミュニティ論との関わり等についてコメントがなされた。

 以上4つの報告は、それぞれ研究対象、視角、方法が異なるものではあったが、問題意識において通底する部分もあったため、会場での議論を含め有意義な交流が行われた。

▲このページのトップへ