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年次大会
大会報告:第48回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第4部会)

第4部会:階層と労働  6/10 10:00〜12:30 [1211教室]

司会:尾形 隆彰 (千葉大学)
1. 政治的表象としてのサラリーマン
――1960年前後の「中間層」論争と政策
高橋 正樹 (東京大学)
2. 村落から工業都市への変容
――宇部における企業経営者層の形成
武田 尚子 (東京都立大学)
3. 労働市場における女性間格差
――イギリスを事例に
松村 真木子 (お茶の水女子大学)

報告概要 尾形 隆彰 (千葉大学)
第1報告

政治的表象としてのサラリーマン
――1960年前後の「中間層」論争と政策

高橋 正樹 (東京大学)

 現在、先進国社会において「ミドルクラスの問い直し」が盛んである。それはリストラ・不況で揺れる日本も、経済が好調なアメリカでも同様だ(例えば、セネット『それでも新資本主義についていくか』)。それは戦後に想定されてきた中間層モデルの問い直しであると同時に、そうしたモデルを前提としてきた社会システムそのものの見直しでもある。本発表では、戦後日本における中間層の社会的政治的位置付けを見直す試みとして、1960年前後の中間層論争と、政策をとりあげる。論壇において新中間層の階級的位置付けが論議されている一方で、政策では民社党の中産階級国家論や自民党の月給二倍論〜所得倍増論に見られるような中間層を想定した政策が政治の議題にのぼるようになった。また、先行する1950年代には小説、映画、週刊誌では平凡なサラリーマン像が肯定的に描かれていた。1960年前後の中間層論争や政策は、こうしたサラリーマン像をどう取り込もうとしていたのだろうか? そして(実態の如何を問わずに)どのような広く社会における準拠集団として、中間層を形成していこうとしたのであろうか。

第2報告

村落から工業都市への変容
――宇部における企業経営者層の形成

武田 尚子 (東京都立大学)

 本報告は山口県宇部市を対象として、工業都市における企業経営者層の形成過程について、歴史的視角から分析を試みる。宇部は明治前半期の炭鉱業の草創期に村落共同体が石炭鉱区を掌握し、地元出身者が中心となって、石炭業を基盤に企業を興し、鉱工業コングロマリットに発展させてきた過程を経ており、日本の工業都市の中でも独自の存在である。本報告の課題は村落共同体から工業都市へ変容をとげることがなぜ可能であったか、その過程を明らかにすることであり、今回は明治・大正期に焦点をしぼって発表する予定である。明治20年代初期に行政村として宇部村が成立した。村内には行政機構以外に、自主的に結成された複数のアソシエーションが存在し、これらが行政村の実質的な統合を促進する機能を果たした。当時のめまぐるしく変化する鉱業関係法規に対応するため、宇部村では複数のアソシエーションを重層的に形成・構成することで、村外者の手から石炭鉱区を守り、事態に柔軟に対処してきた。またこのアソシエーションの重層的な構成が、経済的・人的資源を村落共同体に回収し、石炭鉱区からあがる経済的資源が社会的資源として村落に回収されることも可視的に示し、次の時代の企業化にむけて道を開いたのである。アソシエーションのイニシアティブを握っていたのは大地主層であったが、このような重層的なアソシエーションの存在を媒介として、企業経営者層の登場が準備されていったのである。

第3報告

労働市場における女性間格差
――イギリスを事例に

松村 真木子 (お茶の水女子大学)

 労働市場へ参入する女性が増加するにつれ、女性労働研究は労働市場において女性がどのように位置づけられているかに焦点が当てられてきた。たとえば、イギリスを事例とすると、80年代半ばに労働年齢の女性労働力率が70%を越え、専門管理職フルタイムに就く女性が増加した。しかし、女性が多く参入している職種は、一般職(一般事務、秘書)、個人向けサービス業および販売職である。労働形態では、男性の8割がフルタイム就労であるが、女性は4割弱であり、短時間労働に就く割合が依然として高い。このように、ジェンダー格差の視点から女性労働は実証されてきた。

 ところで、女性の多くが短時間労働に就く理由として、家庭責任との調整があげられてきた。しかし、家庭責任とは個人生活に密接に関連することであり、その個人生活の場面が多様化している現在、一様に語ることはできないのではないだろうか。

 そこで、労働市場における女性およびその背景を女性間格差という視点から検証する。もちろん、イギリス社会は階級が現存している社会であるが、階級社会の中で女性をいかにとらえるかという議論が残されている。そのため、階級概念を含む広義の格差という視点から、イギリス政府が実施した統計調査の個票データを再分析し、労働市場における女性間の種々の格差を検証する。

報告概要

尾形 隆彰 (千葉大学)

 3つの報告が行われた。高橋正樹氏(東京大学)の「政治的表象としてのサラリーマン」は、1950年代にマスコミなどで平凡な勤労者像として肯定的に描かれていた「サラリーマン」が、1960年前後の中間層論争になるとどういう形で立ち現れてくるかについて検討を加えた。氏は、この時期の取り上げられ方が各論者によって、社会変革や変動の「目標」に据えられたこと故の問題性を指摘したが、当事者達の自己意識を検討していく事で、新たな中間層モデルが構築される可能性も期待される等の意見も出た。武田尚子氏(東京都立大学)の「村落から工業都市への変容」は、宇部市における企業経営者層の自生的な形成過程を豊富な歴史的資料に基づいて分析されたもので、鉱山の共同的利用法式がいわば自主的なアソシエーションとして発展し、外部からの統制に防衛的な機能を果たしただけでなく、その後の工業化への創発的なエートスたり得た事を明らかにされた。今後は現在の地域経済との関係まで論考が進められる事を期待したい。松村真紀子(お茶の水大学)の「労働市場における女性間格差」は、英国の労働力調査の元データを再集計する事を許され、女性労働者の就労形態の違いや収入の格差が、家庭内役割等による個人的選択か、社会および労働市場の構造的影響によるものなのかについて、基礎データを提供しようという貴重な試みである。結果は多様で必ずしもクリアーなものだけではないが、たとえば日本と比べて英国の女性の方が個人的選択による所が大きいとは必ずしもいえず、日本と同様に労働市場の構造的要因に制約されているのだといった興味深い事実も明らかにされた。部会としては、報告が3本だった事もあって比較的余裕のある報告・議論が行われた。

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