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年次大会
大会報告:第48回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会B)

テーマ部会B 「雇用・ジェンダー・家庭――仕事と家庭の調和」
 6/11 14:00〜17:15 [1203教室]

司会者:安藤 喜久雄 (駒澤大学)  上林 千恵子 (法政大学)
討論者:平岡 公一 (お茶の水女子大学)  佐藤 厚 (日本労働研究機構)

部会趣旨 上林 千恵子 (法政大学)
第1報告: 「仕事と育児」のジェンダー関係
――スウェーデンにおける「父親の育児休業」の到達点と日本社会
舩橋 惠子 (桜美林大学)
第2報告: 人的資源管理とファミリーフレンドリー施策 佐藤 博樹 (東京大学)
第3報告: 雇用におけるアファーマティブ(ポジティブ)・アクションの日米比較
――法律学の観点から
山川 隆一 (筑波大学)

報告概要 上林 千恵子 (法政大学)
部会趣旨

上林 千恵子 (法政大学)

 性別役割分業の否定は、抽象化された社会一般ではなく、日常生活をおくる家庭で、あるいは職場でこそ実現されねばならない。しかし、総論として、論理上は性別役割分業の否定を認めることは容易でも、各論での実現は難い。国際労働基準を形成するILOは1981年に家族的責任が男女共通の課題であることを認めた第156条約を採択したが、その具体的展開は各国間で甚だ困難であることが判明した。家族的責任は単に成人した対等の男女間だけの問題ではなく、子供や高齢者、障害者を巡って責任が問われるからである。家族的責任は、彼・彼女を雇用している企業の責任、家族のあるいは社会全体の責任へと問題を広げざるを得なくなっている。家庭や雇用を巡るジェンダー問題の具体例はたとえば次のようである。

 核家族を前提とした場合、(1)家庭内の男女分業は男性も家事・育児を負担するという男女平等型、(2)家事・育児を外部化し男女共にキャリア追求を図るという育児外部化型、 (3)従来どおり男性が外で働き、女性は家庭を守るという男女分業型――いずれが望ましいのか。(1)の男女平等型の場合は職業的責任と育児責任とを本当に両立できるのか、 (2)の育児外部化型の場合は、女性の間で高所得キャリア追求型と低所得で在来の女性職種限定型とに女性の職業分化、階層分化を促すのではないか、といった疑問が出てくる。こうした疑問は、(1)の男女分業型家族への疑問とほぼ等価とみなされ、(1)(2)(3)のいずれも根本的解決ではない。

 一方企業にとっても問題は明白である。(1)男女雇用平等の実現は企業価値を高めるのか、効率性追求の足枷となるのか、(2)能力主義の徹底と男女の雇用平等は同じく機会均等という平等思想に立っているのかどうか、(3)育児・介護に配慮した就業形態が実際に機会均等の保障になるのかなどの問題が残る。企業をめぐるジェンダー問題も一般論としての解決は非常に難しい。

 そこで今年の「雇用と福祉」のテーマ部会は、家庭、企業、社会の三層構造のそれぞれの分野で、男女の役割分業を否定し、雇用の場での男女平等、家庭内での男女平等を実現していく具体的政策を検討してみたい。方法論上の視点としては、日本と先進諸国との比較という視点に立つ。それはジェンダーの問題が近代化された先進諸国に共通して登場している問題で、男女平等を実現したいという要求が強まれば強まるほど、ジェンダーを巡る問題が先鋭化されているからだ。関心を持つ諸兄姉の参加を乞う。

第1報告

「仕事と育児」のジェンダー関係
――スウェーデンにおける「父親の育児休業」の到達点と日本社会

舩橋 惠子 (桜美林大学)

 職業と家庭との両立問題は、「女性問題」ではない。女性の問題として捉えられる限り、解決の努力はジェンダー関係の悪循環の中にとどまってしまう。保育の社会化は重要だが、一方で女性が低賃金で保育の仕事をすることにも繋がり、育児環境の女性化を強化する面がある。また、育児休業制度を充実させても、女性ばかりが取得するのでは、雇用の場における女性のハンディは重くなり、家庭の中でも性別役割分業を固定化してしまう。

 本報告では、早くから職業と家庭との両立問題を「両性の問題」として捉え、ジェンダー平等の視点から「父親の育児休業」と「男性保育者」の促進に務めてきた、スウェーデンの両立政策の到達点を、1999年秋の最新情報をふまえて紹介する。その上で、スウェーデン社会が直面している変革の困難性も論じよう。

 日本でも近年は、父親の育児がもてはやされるようになったが、スウェーデンとは異なり、専業主婦を前提にした議論と共働きを前提にした議論とに分岐している。日本の女性は相対的に専業主婦志向が強いと言われているが、それは日本の文化的特性ではない。今もなお日本の雇用慣行は、全体に労働力人口にゆとりがあって家族ケアを任せられる人手を家庭内に持っていた時代の男性労働者の生活条件を前提として組み立てられている。そのため、就労願望はあっても、家族ケアと職業との両立は、現実的に非常に困難である。日本の雇用環境の厳しさが、母親に専業主婦という戦略を選ばせ、父親を育児から遠ざけている。

 このような日本の現状を流動化させるためには、スウェーデンのような社会民主主義的な諸政策は、示唆深い。しかし同時に、フランスなどで見られるリベラルな「選択の自由」の視点も必要であろう。日本の制度形成にとって、多様な諸外国の制度の中で何が重要かを議論したい。

第2報告

人的資源管理とファミリーフレンドリー施策

佐藤 博樹 (東京大学)

 80年代後半からアメリカやEU諸国においてファミリーフレンドリー施策(FF)の導入が、人的資源管理上の課題として提起されてきた。公的機関や非営利団体が、企業に対してFFの導入を支援するために情報提供などを行う動きも見られる。日本においてもここ数年、いくつかの企業では、すでにFF施策を積極的に導入しており、また公的機関も企業に対して FF施策導入の支援や情報提供をはじめている。

 報告では、FF施策の導入が求められている背景やFF施策の基本的な考え方を日本と海外について比較するとともに、日本におけるFF施策の現状と課題をデータに即して検討する。 FF施策の現状の検討では、育児休業制度を取り上げ、育児休業取得者がある職場の対応を事例研究から紹介し、代替要員の配置など育児休業取得への対応を議論する。最後に、FFと均等の相互関係を分析し、両者の同時達成の必要性を提起するとともに、今後の課題として「仕事と生活の両立」や「多様性管理」などFFの新たな展開の方向を紹介する。

第3報告

雇用におけるアファーマティブ(ポジティブ)・アクションの日米比較
――法律学の観点から

山川 隆一 (筑波大学)

 1. 本報告は、アメリカ合衆国における雇用上のアファーマティブ・アクションに関して、法律学の観点から、その制度的枠組み・運用の実態・法的問題点などを紹介したうえ、わが国におけるポジティブ・アクションとの比較を試みるものである。

 2. アファーマティブ・アクション(ヨーロッパや日本ではポジティブ・アクションと呼ばれる)とは、実際上の平等の実現のための積極的な是正措置をいう。ここでの平等には、男女平等のみならず、人種間の平等などが含まれる。また、その実施領域も、雇用のみならず、教育、政府調達など様々な分野に及んでいる。わが国では、男女雇用機会均等法の1997年改正において、雇用上のポジティブ・アクションの根拠規定が設けられた。

 3. 合衆国における雇用上のアファーマティブ・アクションは、(1)民間企業に対し、連邦政府との契約の条件として実施を要求するもの、(2)公務部門に対し法令上義務づけられているもの、(3)民間企業等が自発的に実施するものなどに分かれる。前二者においては、当該組織における女性や人種的マイノリティーの活用状況に対する統計的な分析や、問題点を是正するための目標設定およびその具体的な是正策などから構成される、アファーマティブ・アクション計画の作成と実施、および事後の点検が要求される。

 4. 合衆国では、公共部門が実施するアファーマティブ・アクションについて、いわゆる逆差別の問題が争われる。この点につき、最近の合衆国最高裁は相当に厳格な態度をとるようになってきており、こうしたバックラッシュ的な状況の下で、アファーマティブ・アクションの運用状況にも若干の影響が生じているが、雇用面のアファーマティブ・アクションに関しては、さほどドラスティックな変化はみられないようである。

 5. 合衆国では、人種差別や性差別が両面的に禁止されているため、逆差別の問題が深刻に争われるが、わが国の均等法はなお片面的性格を有しており、問題状況が異なる。他方、労働力の活用状況の分析や具体的是正策の策定など、合衆国の制度のシステマティックな側面は参考になる。なお、合衆国では、仕事と家庭の両立策を、アファーマティブ・アクションとは別個のものとして捉える傾向が強かったが(計画の一環に含まれる場合もある)、家庭に関連する問題を雇用差別の問題から切り離す発想に基づくものではないかと思われる。

報告概要

上林 千恵子 (法政大学)

 今年度の「雇用と福祉」部会は、ジェンダーを軸としながら仕事と家庭の調和をめぐる先進諸国の動きと日本の在り方に焦点を当てた。

 第1報告では、舩橋惠子氏からスウェーデンの父親の育児休業を中心とした報告がなされた。スウェーデンでは子どものいる世帯といない世帯の生活条件を平等にするという視点から、両親保険(父母が取得できる育児休業期間の収入補填制度)と18ヶ月の育児休暇制度があるという。こうした手厚い育児支援制度の背景には、社会が個人を基本として家族よりも国家へ依存するという構造があるとされた。討論者からは、福祉国家は本来、性別役割分業を前提にしており、現にスウェーデンでも女性の雇用が福祉・教育などの公共セクターに集中して家庭内の男女平等の実現が労働市場での性別職域分離の解消につながっていないとの指摘があった。

 第2報告は佐藤博樹氏によるFamily-Friendly企業(通称FF企業、ファミフレ企業と省略)の人事管理の特徴であった。近年では仕事と家庭の調和というと育児支援に限定されやすいので、仕事と生活の両立という考え方の方が強調されるようになった。子どもの有無、既未婚を問わず、すべての人が仕事と自分のライフスタイルを両立できるように配慮することが求められ、育児はそのうちの一つのメニューとして位置づけるという考え方になったという。

 討論者からは、こうしたFF企業の場合は、成果主義管理を実施している企業に多く、また労組がない企業も少なくない。成果主義の場合は個人を基準としてその業績判断がなされるために、競争が激しくなり両立支援策を利用しにくいという実情があるとの指摘であった。 労働法学者山川隆一氏による第3報告は、アメリカのアファーマティブ・アクションを取り上げたもので、アメリカの場合は家庭と仕事の両立よりも、雇用の場における男女平等の実現が第1の目標とされ、女性も男性と同様に働けることを保証することが結果として家庭責任の側面においても男女の平等が実現される考えられている。男性への逆差別問題なども相次ぎ、1996−97年にはアファーマティブ・アクション見直しの機運も起きたが、現在のクリントン政権はその維持を表明しているという。

 スウェーデンのように育児支援が国の責務であるとされる場合は、育児負担のない家庭との公平性から手厚い支援策とつながる。しかし企業が育児支援する場合には、育児をしないで企業に貢献する人との公平性の観点から、出産・育児を(私)生活の一部とし、(私)生活の権利を保障するという、その対照が興味深かった。少子化社会と言われているが、企業による育児支援は従業員間の公平性の確保から見て、あくまでも間接的にならざるを得ず、福祉国家の実現が遠い場合には、出産に伴って家族の重要性が高まるか、個人主義の観点から出産が控えられるという選択になろう。なお、家庭と仕事の両立と、男女の平等の実現については前者を優先するスウェーデンと後者を優先するアメリカに分かれたが、日本は政府規制よりも公共政策に依存するという点でヨーロッパ型に近いという論点も提出された。

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