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年次大会
大会報告:第50回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第9部会)

第9部会:情報社会とメディア  6/2 10:30〜13:00 [社会学部A棟403教室]

司会:成田 康昭 (立教大学)
1. 脱工業社会論と情報社会 伊達 康博 (東洋大学)
2. 地域コミュニティにおける新たなネットワークの生成について 浅岡 隆裕 (立教大学)
種村 剛 (小山高等専門学校)
岡村 圭子 (中央大学)
3. 親子関係における携帯電話の『利用と満足』に関する調査研究 日吉 昭彦 (武蔵大学)

報告概要 成田 康昭 (立教大学)
第1報告

脱工業社会論と情報社会

伊達 康博 (東洋大学)

 情報社会といわれて久しい現代社会は、はたして脱工業社会であるのだろうか。少なくとも、ダニエル・ベルが『脱工業社会の到来』を発表した1973年当時のアメリカ社会をベル自身は、工業社会から脱工業社会への転換期であると記している。

 しかしながら、それから約30年が経過しようとしている現在、アメリカ社会の現状は脱工業社会に至り、そして日本はアメリカよりも早期に脱工業社会へと変動したのであろうか。

 ここでは、ベルの脱工業社会論を中心として、まず、はじめにベルの主要なテーマの一つである『イデオロギーの終焉』論から産業社会論へのベル自身における関心の推移に着目し、冷戦構造などに代表されるイデオロギー対立の構造が弱体化していく過程と工業社会が脱工業社会へ変動していく文脈を分析する事で、脱工業社会の経緯を明らかにし、その上で、脱工業社会と情報社会の関連性の問題においてベルらが1970年代から用いている知識社会という用語をキーワードとして、脱工業社会と情報社会が同義のものであるのかについて検証する。

 また、最後に脱工業社会論の考察時期に関して、工業社会から脱工業社会への変動における変動期間の問題および、産業社会における転換点の一つと考えられている1995年以降のインターネットの普及現象などを考慮に入れ、この21世紀初頭が脱工業社会論を考察するのに適当な時期であるか否かを検証したい。

第2報告

地域コミュニティにおける新たなネットワークの生成について

浅岡隆裕(立教大学)・種村剛(小山高等専門学校)・岡村圭子(中央大学)

 今日地域社会の担い手である行政、私企業、市民セクター(住民団体、NPO法人)は、それぞれ様々な思惑を持ちながら「地域の情報化」に取り組んでいる。本研究では市民セクターにおける先進的な取り組み事例をヒアリング調査し、その結果を報告する。

 テレビなどの情報メディアの発達が「地図にないコミュニティ」を創出すると主張したのはガンパートである。さらにインターネットなどの近年の情報技術は脱場所化という傾向を促進するものと考えられていた。ところが、昨今では情報技術をローカル(=地域)性という文脈で使う活動が増えている。実際にはインターネットなどバーチャル空間で展開されるにもかかわらず「顔の見える範囲のコミュニティ」が成立しているのである。このような情報技術の地域コミュニティでの展開の意義については、《社会的な討議・調整のエリアあるいは異質な他者や見解と遭遇する場所の生成》と位置づけられる。この場合、情報技術がそれまでなかったものを新たに作り出したと考えるよりも、今まであったコミュニティの基盤の上にその技術がいかに活用されていくのかを考察する方がより妥当性を持つと考える。

 本報告では、今起こりつつある事態の本質を整理、理論化を試みたい。その際、(1)既存のコミュニティ概念の整理と新たなコミュニティの差異の検討、(2)「公共圏」理論との接合点についても触れていくことになろう。

第3報告

親子関係における携帯電話の『利用と満足』に関する調査研究

日吉 昭彦 (武蔵大学)

 本研究は、現代の若者の親子関係のなかで、携帯電話がどのような役割を果たしているのか、数量調査によって明らかにするものである。携帯電話というメディアが家族という人間関係に果たす帯紐としての機能について調査し、現代家族が直面する課題の一つである近代化という問題をコミュニケーション論的観点から分析することが目的である。

 調査は2002年1月に行い、大学生を対象に集合調査により160名のサンプルを得た。調査票を用いた自記式調査によって、携帯電話利用の実態や、親子間での携帯電話利用の意識、「利用と満足」の度合いなどについて回答を求めた。「利用と満足」の分析のため、26項目の質問群を作成し、5段階尺度で評定を求め、因子分析を行うことによって「利用と満足」の構造を明らかにした。また、1997年には、無作為抽出によって選ばれた大学生のサンプル360名に対し、質問紙を用いた個別面接法によって、同様の関心による調査を行った。「利用と満足」の分析には共通の質問項目が設けてあり、1997年と2002年のデータを比較検討することで「利用と満足」の構造変化について分析を進めた。

 調査の結果、二つの調査で親子間での携帯電話の「利用と満足」の構造には大きな変化はなく、話すことそのものよりも、気軽に連絡が取り合えるという道具的な利用の部分にのみ満足を見い出しているという共通の傾向が見られた。詳細なデータについては発表時に報告する。

報告概要

成田 康昭 (立教大学)

 第一報告「脱工業社会論と情報社会」(報告者:伊達康博)は、D.ベルの「脱工業社会論」の中で転換期と位置づけられた1973年から30年を経過した現在の地点からこの理論を検証する試みであった。ベルのいう知識社会は知識という非強圧的権威を尊重する科学の共同体の倫理を求めている社会であるとすれば、情報社会とされる今日においても脱工業社会は到来していないという。その上で産業変動に関する統計分析などによって予測理論としての限界を超える必要があるとした。フロアからはいわゆるIT革命に関する質疑がなされ、インターネットの実際の動きを、市民レベルの情報化との関連で脱工業社会論の文脈からどう見るかについての議論が交わされた。

 第二報告「地域コミニュニティにおける新たなネットワークの生成について〜メディアとコミュニティ特性との関わりから〜」(報告者:浅岡隆裕(登壇)・種村剛・岡村圭子)は市民セクターや地域への調査を通じて、企業地域コミュニティにインターネットという情報技法が導入され、実際に運用される過程をプリントメディアとの組み合わせから類型化し、分析した。その上で、コミュニティにおけるコミュニケーションの集積がインターネットのコミュニケーションの機能を決定づけるという興味深い指摘がなされた。コミュニケーションの作り出す関係性の軸は、実空間のコミュニケーションによって作り出されるが、インターネットのコミュニケーションはその原理の下に様々な可能性を広げるという。

 第三報告「親子関係における携帯電話の「利用と満足」に関する調査研究」(報告者:日吉昭彦)は携帯利用が親子のコミュニケーションにいかなる満足を与えているかについて、現代の若者に着目して、統計的手法で分析した。また、この調査は普及率にも大きな違いのある1997年と2002年の調査を比較する形になっており、普及と利用の成熟が意識の上にどのような変化を引き起こしているかという点でも興味深いものとなった。その結果、携帯の利用が家族間の関係を変化させるといった傾向は見られないことが明らかになった。また、1997年段階では「つながっている」ということが、それ自体として有意味であったが、2002年には話す内容への関心に移行する形となっている点などが指摘された。

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