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年次大会
大会報告:第50回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第10部会)

第10部会:公共圏と市民活動  6/2 10:30〜13:00 [社会学部A棟404教室]

司会:山嵜 哲哉 (武蔵大学)
1. 公共圏と市民社会
−デジタル・ネットワーキングによる両者の融合
干川 剛史 (大妻女子大学)
2. 公共圏としてのWeb における市民活動の特性 藤谷 忠昭 (東京都立大学)
3. 制度変革へ向けたNPO の取り組み 朝井 志歩 (法政大学)

報告概要 山嵜 哲哉 (武蔵大学)
第1報告

公共圏と市民社会
−デジタル・ネットワーキングによる両者の融合

干川 剛史 (大妻女子大学)

 近年、情報化の進展に伴って、デジタル・メディア(パソコンやインターネット等)を活用して環境・福祉・災害などの社会的諸問題に取り組む市民活動(デジタル・ネットワーキング)が、全国的・全世界的に展開されるようになった。

 このようなデジタル・ネットワーキングの展開によって、世論形成空間としての公共圏と市民活動領域としての市民社会が融合していき、社会構造全体が変容する可能性が垣間見られる。

 そこで、本報告では、ユルゲン・ハーバーマスの『事実性と妥当性』(1992年)の知見に基づき、1.公共圏を世論形成コミュニケーション・ネットワークとして、2.市民社会を市民活動アソシエーション・ネットワークとして、それぞれ位置づける。そして、3.デジタル・ネットワーキングの展開によって世論形成過程と市民活動過程が一体化し、公共圏と市民社会が融合することで、ネットワーク公共圏という新たな社会的領域が形成される過程をとらえる。最後に、4.ネットワーク公共圏は、(市場経済圏・行政圏・プロフェッショナル圏・マスメディア圏・親密圏という)社会的諸領域からデジタル・ネットワーキングに活動資源(情報・ヒト・モノ・カネ・場所)が供給されることで維持・発展し、他方で、デジタル・ネットワーキングの活動成果が社会的諸領域で事業化や制度化されることで、社会が変革される可能性と課題を考察する。

第2報告

公共圏としてのWeb における市民活動の特性

藤谷 忠昭 (東京都立大学)

 インターネットが新たな公共圏になりうることについては、すでに多くの指摘が重ねられてきた。だが、その十分な可能性の解明に対しては、まだまだ多くの課題が残され、今後の分析に委ねられているだろう。その分析も総論から各論へと移行し、各論の分析から総論の見直しが図られる必要もあると考えられる。本報告では、NPO情報公開市民センターを事例に、インターネットの活用の利点、さらには限界点を考えていきたいと思う。ここで取り上げる同センターは、情報公開を軸に行政の税金の使途についての批判を行い、自治体に対して一定の成果を上げてきた。政府の情報公開法の施行に先だって、NPO団体に申請し、自治体だけではなく外務省など政府の税金の使途に対する市民によるチェックの拠点のひとつとなっている。前身である全国市民オンブズマン連絡会議もまた、インターネット利用を行いながら、活動を行ってきた。だが、今回のNPO団体への申請以後の Web 利用は、さらに洗練を遂げてきている。その様相の変容を分析することで、掲示板の活用、ノウハウの伝達、活動の報告など、多層化した Web 利用の可能性を検討する。そこではコミットメントの軽減など、 Web 上における「市民」と市民運動の新たな特性などが具体的に明らかになるだろう。その分析を通じて、公共圏についての理論的な議論の問題点の指摘、新しい提起などをも行ってみたい。

第3報告

制度変革へ向けたNPO の取り組み

朝井 志歩 (法政大学)

 NPOに対する社会的な関心が高まりつつあり、NPOは制度変革主体としての役割を期待されている。ここでは、「フロン回収・破壊法」の制定過程に着目し、NPOがいかなる役割を果たしたのかについて考察したい。

 昨年六月に「フロン回収・破壊法」が制定される以前、日本では大気中へのフロン放出を規制する法律は存在しなかった。通産省のフロン政策は、「自主的取り組み」「市場メカニズムの活用」に留まっていたため、フロン放出は事実上、野放し状態だったのである。

 オゾン層保護への世界的取り組みが90年代初頭から始まり、国際条約に批准しながら、なぜ、日本においてフロンは放出されつづけたのか。その解明によって、日本における政策決定が、チェック機能の不在という構造的な問題点を含んでいることが浮かび上がってくる。

 また、フロンは回収されるべきだという公論の形成され、法制化へと至った過程には、自然科学的知見とは別の、個々の主体から芽生えた問題意識が結集していったことが、重要であった。主体と組織のダイナミックな連動が、制度変革の達成へと結びついたことは、現代社会における変革の可能性を秘めているのではないか。

報告概要

山嵜 哲哉 (武蔵大学)

 本部会では、「公共圏と市民活動」をテーマに3報告が行われた。

  「公共圏としてのWebにおける市民活動の特性」と題された第1報告(藤谷忠昭)では、従来のハーバーマス準拠の公共圏論に対して、リオタールやポスターらの知見にもとづく「関係としての〈市民〉」論が提示され、主として「情報公開市民センター」のインターネットのホームページの事例研究をもとに、Web上ではこれまでの「個体としての〈市民〉」「運動対敵対団体」といったあり方ではなく、「関係としての〈市民〉」、すなわち「片手間の〈市民〉活動」「やわらかい〈市民〉」が登場し、「行政の職員でもあり行政の批判者でもある」ような参加者を巻き込んで、組織の境界が曖昧化したなかで、公共圏が「拡散したコミュニケーションの〈場〉として」成立しつつあることが示された。第2報告(干川剛史)では「公共圏と市民活動−デジタル・ネットワーキングによる両者の融合」というテーマで、ハーバーマスの公共圏概念の内在的な批判検討をもとに、「市民活動アソシエーション・ネットワークとしての市民社会」という視点と「デジタル・ネットワーキング論としての公共圏論」という視点を統合する試みが、被災者支援をテーマとするNPO活動のデジタル・メディアに関する事例研究をもとに論じられ、「デジタル・ネットワーキングによる社会変革」のためには、デジタル・メディアによる情報の透明性確保が必須であると結論された。第3報告(朝井志歩)では「制度変革へ向けたNPOの取り組み」という題目のもとに、「フロン回収・破壊法」の制定過程におけるNPO組織(ストップ・フロン全国連絡会)の活動と行政の対応に関する詳細な事例研究の成果が報告され、NPOが「公論の形成」にとって重要な機能を果たしたことが論証された。

 第1報告と第2報告は、いずれもネット上での新しい公共圏の成立をテーマとしながらも、準拠する理論枠組や評価の視点・方向性が異なっており、部会での議論を超えたさらなる論究が行われる必要があると感じた。また、第3報告では法令制定に際して、NPOがマスコミ報道を効果的に利用した点が強調されるなど、広い意味でのメディア利用が市民活動を推進する上で重要な機能を果たしていることが確認された部会でもあった。尚、本部会の延べ参加者は30名を超え、NPOに関心を持つ報道関係者の出席もあって活発な質疑応答が行われた。

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