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年次大会
大会報告:第51回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)

第2部会:福祉社会と生活  6/14 10:00〜12:30 [3号館3階332教室]

司会:三本松 政之 (立教大学)
1. 「障害者」としての自己はいかに構築されるか
−専門家との制度的会話を通して
麦倉 泰子 (早稲田大学)
2. 高齢者ケアを支える草の根の活動のゆくえ
〜世田谷の福祉NPO〜
平井 太郎 (東京大学)
3. 在宅介護サービスの利用に対する家族観の影響 小坂 啓史 (成蹊大学)

報告概要 三本松 政之 (立教大学)
第1報告

「障害者」としての自己はいかに構築されるか
−専門家との制度的会話を通して

麦倉 泰子 (早稲田大学)

 本報告は知的障害者入所更生施設入所者へのライフヒストリーの聞き取り調査に基づき、戦後日本の障害者福祉政策の中心であった施設福祉の展開過程(いわゆる「施設化」)が、当事者によっていかに経験されたのかを記述することを目的とする。それぞれ固有の人間関係とローカルな文化のもとで築かれてきた個人の生活史は、人生のある一時点において「障害者」として一様に定義づけされることによって公的な社会政策の歴史と交錯する。そのとき、当事者たちは「障害」をどのような意味を持ったものとして理解し、また家族から離れ、施設へ入所することに合意したのか。この個人レベルの「施設化」の記述において中心となるのは、専門知識による諸個人の制度化の過程である。すなわち、障害を持つ人たちは、自己を障害の枠内で定義されることによって、特殊学級・作業所といった専門知識によって組織化された制度に組み込まれ、自らのアイデンティティを名づけるためにその制度を利用し、家族、地域の中で育まれてきた自分自身のアイデンティティとは切り離された形での「障害者」としての自己を構築し、施設への入所に合意していくのである。本報告では、この専門知識による日常生活の経験の制度化の過程を、ホルスタインとグブリウムによる「制度的会話institutional talk」による日常生活と経験の解釈の「脱私化deprivatization」概念から捉え、具体的なインタビュー記録から障害をもつ人と専門家との関係を探っていく。

第2報告

高齢者ケアを支える草の根の活動のゆくえ
〜世田谷の福祉NPO〜

平井 太郎 (東京大学)

 現在さまざまな水準の高齢者ケアを担うNPO(利益不配分)活動が簇生してきている。こうした動向は、公的介護保険制度やNPO法の導入といった法制度の変化や、行政を基軸とする福祉システムの制度疲労などといった要因によって説明されるのが普通である。

 しかしこうした観点をとると、NPO活動によるケアの提供が、あたらしい社会制度に適応した手段であるかのように受けとめられる。そのため、現実のNPO活動をめぐるさまざまな困難や限界を目のあたりにして、NPO活動そのものを否定的にとらえる逆ぶれ≠ェ生じやすい。はたして、NPO活動とはこのような問題解決の手段にすぎないのであろうか。

 こうした問題意識のもとに世田谷区の複数の福祉NPOに対して、活動への参加と関係者への聴き取りを行なった(2002-03年)。そのうえで、高齢者ケアの担い手として浮上しているNPO活動が、単にここ数年の社会制度の変化に即応してあらわれたものではなく、すくなくとも二〇年といった長さや区外へと広がる深さとによって支えられ、状況に応じたあらたな問題解決の手段を生みだす母体となっている実態を明らかにしたい。

 言わば問題解決のための緩やかな紐帯とも言えるNPO活動。報告の最後では、こうした社会関係が発生し持続している世田谷独自の論理を、ソーシャル・キャピタルの観点からあぶりだす。たしかに緩やかな紐帯は、問題解決のためにすぐれた手段を編みだすきっかけとなる。しかしその発生と持続には、紐帯そのものが社会から切り出される出来事が欠かせないからである。

第3報告

在宅介護サービスの利用に対する家族観の影響

小坂 啓史 (成蹊大学)

 介護保険制度下における介護サービスの利用については、これまで、ケアプラン作成時点での局面や支給限度額の問題点など、システムの側における社会的なランディングのための観測・評価として、あるいは利用者側からの経済的・心理的負担に関連して言及されることが多かったと思われる。そこでは、制度の側からの視点と利用者との接点がダイレクトに捉えてられており、被介護者にとってのコンボイ(convoy)でありつづけうる家族という、重要な媒介集団についての価値意識を考慮に入れた視点がやや薄かったかとも考えられる。介護に関する社会政策によってシステムの構築・再編がなされたとしても、提供主体、受給者側の価値意識がさまざまにぶつかりあう福祉領域にあって、家族介護のサポート的意味が色濃い在宅サービスに関しては、家族に関する価値観すなわち家族観との関連を探ることが重要な課題であると考えられるだろう。

 そこで本報告では、介護保険制度の実施から3年が経過した現在、あらためて利用者側、とくに家族介護者のうち主に行っている人びと(主介護者)の家族観の実態についてみた上で、この家族観による在宅介護サービス利用の有無への影響について明らかにすることを主な分析課題とし、お伝えしていくこととする。使用するデータは、東京都内の某自治体の住民を対象に、平成14年1月と同年11月に実施したパネル調査(厚生科研費補助金政策科学推進研究事業・研究代表者 平岡公一)によるものである。

報告概要

三本松 政之 (立教大学)

 本部会では、麦倉泰子氏の「『障害者』としての自己はいかに構築されるか―専門家との制度的会話を通して」、平井太郎氏の「高齢者ケアを支える草の根活動のゆくえ―世田谷の福祉NPO―」、小坂啓史氏の「在宅介護サービスの利用に対する家族観の影響」の3報告が行われた。

 麦倉報告は、施設福祉政策が障害の当事者レベルでいかに「生きられる経験」とされたか、施設入所による障害定義の変化、「障害者」アイデンティティ確立、施設入所への合意という過程をライフヒストリーを通じ分析し、「障害者」カテゴリー化、脱私化の過程が報告された。会場との質疑では、質的な研究に伴う一般的な課題ではあるが、個別事例から政策との関連を論じ、そのもつ制約条件の中でどのように普遍化するかという課題が論議された。

 平井報告は、そのタイトルに「活動のゆくえ」とあるように世田谷区で活動する高齢者ケアの福祉NPOの検討を通じて、草の根のNPO活動を直接的な問題解決手段ではなく、人びとが問題認識しその解決手法を模索し、解決に向かわせる共感的な場としてのコミュニティと位置づけることを提起し、福祉NPO論に新たな視点を提示しようとした。今後実証的な視点を持ちつつ、コミュニティの用語法なども含めて提示された視点や枠組みの精緻化が期待される。

 小坂報告は、介護者の家族観の在宅介護サービス利用への影響についての報告で、東京都A区でのパネル調査から介護ライフスタイル化の示唆、旧来の家族観、「親の決定権」に関する項目の影響などが指摘された。報告は分析の仮説部分に重点があり、質疑でも本部会での論点からややそれて、タイトルで「家族観」とされながら仮説の部分では「家族規範」が用いられているその関係などが議論された。

 本部会での議論は残念ながらあまり活発ではなかったが、社会学の研究対象としての問題認識がさらに福祉的課題として内在化されるとき、その深まりにより部会としての議論の共有がなされるのではないだろうか。

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