HOME > 年次大会 > 第51回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第6部会
年次大会
大会報告:第51回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第6部会)

第6部会:雇用と就業  6/14 14:00〜16:30 [3号館3階332教室]

司会:尾形 隆彰 (千葉大学)
1. 企業グループ経営と連結雇用システム 高橋 康二 (東京大学)
2. 若年失業の実状とその構造 小渕 高志 (武蔵大学)
3. 結婚、出産期の就業環境や家庭環境が女性の就業選択に与える影響 松田 茂樹 (慶応義塾大学・第一生命経済研究所)

報告概要 尾形 隆彰 (千葉大学)
第1報告

企業グループ経営と連結雇用システム

高橋 康二 (東京大学)

 1990年代末から2000年代初頭にかけての連結決算制度の本格化、組織再編法理の整備、連結納税制度の導入などを背景として、現代日本において、企業グループ経営改革が急速に進行している。本研究は、このことが日本企業における雇用・労働のあり方にいかなる影響を与えるのかを、実証的に解明することを目的とする。

 企業グループにおける雇用・労働問題については、既に、出向・転籍による人材移動の実態、広域人事管理の取り組み、グループ労使関係の諸相などをめぐる、個別的な研究蓄積が一定程度認められるが、企業グループ全体としての雇用システムのあり方を包括的に把握・概念化する試みは、ほとんどなされてこなかったといえる。これに対し、本研究は、「連結雇用システム」という独自の分析枠組を用いることで、企業グループ全体をひとつの単位とした新しい雇用システム論を展開する。これが本研究の第一の特徴である。

 また、従来の雇用・労働研究の多くは、雇用システムをめぐる諸問題を独立した研究対象として切り取る傾向にあったといえる。これに対し、本研究は、企業グループ経営のあり方、より具体的には、企業グループの統治構造、中核企業とグループ会社との関係性の内在的な変化などに注目し、その視点から連結雇用システムの構造転換を説明する。すなわち、雇用システム論に「経営」変数を導入すること、これが本研究の第二の特徴である。

第2報告

若年失業の実状とその構造

小渕 高志 (武蔵大学)

 不況の今日、経営の合理化という観点から、新規学卒者採用や中途採用といった正規労働者の採用については、削減や中止方向にある。逆に、契約社員や派遣労働者、臨時・季節労働者の再契約中止や解雇は縮小方向にあることから、結果的には職場における非正規従業員の比率は高まっており、多くの企業では非正規従業員の数が不変のまま、正規従業員を減少させている。これまで、新規学卒時の就業機会は、一般労働市場での求人とは別扱いのものとして扱われてきた。それは、学卒と同時に正規従業員として採用する慣行は、いわゆる日本型雇用慣行と呼ばれる長期安定雇用の屋台骨だったからである。しかし、こうした新規採用の削減は正社員としての初職入職を困難にするため、アルバイトやパートタイム労働といった不安定就労に、あるいは長期間の失業へと若者を追いやる結果となっている。

 本報告ではこうした若年失業の実態を、学歴や世帯収入などの出身階層による視点から分析した若年者の失業リスクの階層性に焦点を当ててお伝えする。そのうえで、失業リスクの階層差が労働市場の二重構造により倍加され、若年者の失業をさらに悪化させる原因となっている雇用構造の現状について触れる。

 そして、パート労働者と正社員との人事処遇の格差是正やワークシェアといった新しいコーポレイトガバナンスから、こうした実態を打開するために必要な方策の可能性についても論及する。

第3報告

結婚、出産期の就業環境や家庭環境が女性の就業選択に与える影響

松田 茂樹 (慶応義塾大学・第一生命経済研究所)

 結婚、出産期の就業環境や家庭環境が、女性の就業継続/離職に与える影響についての実証分析を行った。本研究で特に注目した要因は、本人と配偶者の労働時間と家事時間である。使用したデータは、家計経済研究所の消費生活に関するパネル調査の個票データである。時点t0において常勤で就業していた女性が、どのような要因によって、時点t1のときに離職する(無職となる)かを分析した。分析の結果、無配偶者においては、結婚する前に長時間働いている者で離職する確率が高くなることが明らかになった。有配偶者においては、出産前に、本人および配偶者が長時間労働であると離職する確率が高くなっていた。なお、長時間労働が離職率を高める効果は、結婚・出産イベントが発生しない期間にはみられなかった。また、配偶者の家事分担は、女性の離職に影響を与えていなかった。分析で明らかになった労働時間と女性の離職率の関係は注目される。本人または配偶者が長時間労働であると、仕事と家事・育児の両立が困難になるために、妻は離職して家事・育児にたずさわる、たずさわらざるをえなくなる。労働時間が長い女性とは、それだけ社会進出をしている者であろう。だが、社会進出した女性ほど、結婚・出産イベントを経験すると、むしろ社会進出できなくなるというパラドックスが生じている。

報告概要

尾形 隆彰 (千葉大学)

 第6部会「雇用と就労」の第1報告は、「企業グループ経営と連結雇用システム」 (高橋康二、東京大学)で、90年代から本格化した企業グループでの連結決算体制の中で、経営システムとりわけ雇用システムにどのような変化が起こっているかを、 4つの大手企業グループへのインタビュー調査によって実証的に論じたものである。 要点は集権化を強める経営管理システムの下で、人事雇用システムは集権化と分権化、あるいは「統制」と「自立」という事態が同時進行する、という複雑な様相を呈していることが明らかにされた。会場からは、従来型の「押し込みがた出向・配転はなくなりつつあるのか」、「社格」というような考えは消えつつあるのか、といような質問が出された。

 第2報告「若年失業の実態とその構造」(小渕高志、武蔵大学)では、依然低迷する雇用情勢の下で、正規従業員を中心とした日本的雇用の根幹が動揺しており、特に 若年層にそれが深刻であることが実証データから確認された。今後こうした厳しい状況を是正するような積極的な雇用事例の可能性を探していくことの重要性が示唆された。会場からは、データの見方によってはかなり異なる結論になってしまうのではないかという指摘もあり、今後の課題も明らかにされた。

 第3報告「結婚、出産期の就業環境や家庭環境が女性の就業選択に与える影響」 (松田茂樹、慶応義塾大学)では、女性の就労継続/離職に本人と配偶者の労働時間や家事時間がどのような影響を与えるかについて、家計経済研究所の93年から99年までのパネル調査の個票データを再追跡することで正確に検証したものである。本人または配偶者が長時間労働者であると、仕事と家事・育児の両立が困難になるために妻は離職せざるを得なくなる様子を数字の上でも始めて明らかにされた。結果、社会進出した女性ほど労働時間が長いため、リタイヤーせざるを得ないという日本的な「社会的損失」状況も明らかになった。会場からは、実証したことの意義は大きいが、むしろ働き続ける人を追跡したほうが面白いのではなどという意見も出された。

▲このページのトップへ