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年次大会
大会報告:第51回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第8部会)

第8部会:文化的実践の社会学  6/14 14:00〜16:30 [3号館3階334教室]

司会:吉澤 夏子(日本女子大学)
1. 銀座ホステスのハビトゥス
−日常的実践の集合体としてのホステスクラブ
松田 さおり (名古屋大学)
2. 「出会い系サイト」のプロフィール欄にみる恋人・結婚相手に求める条件 井上 善友 (埼玉学園大学)
3. 外見の美醜を語ることの困難
−ミス・コンテスト論争を手がかりに−
西倉 実季 (お茶の水女子大学)

報告概要 吉澤 夏子(日本女子大学)
第1報告

銀座ホステスのハビトゥス
−日常的実践の集合体としてのホステスクラブ

松田 さおり (名古屋大学)

 これまで、ホステスクラブに関する社会学的研究はジェンダー、あるいは社会構造の観点から主としてなされてきた。しかしながら「ホステスクラブ」そのものについては、あくまでもこれをジェンダーイデオロギーが働く「現象」が発現するひとつの場所としてのみ捉えられることが多く、主体的に行動する存在としてのホステスの視点から、「ホステスクラブ」を独特の規範や実践によって成り立つ「もてなし」空間として考察の出発点に据える研究は皆無に近い。今回の報告においては、ホステスクラブを、ブルデューが強調した「ハビトゥス」の集合体として捉え、特にホステスがクラブ内で行う日常的な実践=「もてなし」がいかなるものであるかを析出する。また、ホステスが、「もてなし」の実践に伴うさまざまな規範や経験によって、その身体が意識的・無意識的を問わず慣習化されていることを指摘するとともに、彼女たちがその空間において持続的に実践を構築していくことについても明らかにしたい。

 銀座ホステスは、主に次の3つの規範や実践に基づいて「もてなす」。1)「銀座」の持つ<高級>、<ハイランク>そして<排他性>といった諸記号を反響させる規範と実践、2)客の持つ「恋愛への期待」「美女との出会いへの期待」を演出する規範と実践、そして3)功利的な目的に根ざしつつも、そうではないと客に期待させるような「人間関係」を作り上げるための規範と実践、である。
こうしたホステスの規範や実践をひとつひとつ縁取る作業によって、ホステスたちを家父長的な既存の文化の単なる「犠牲者」(あるいは「抵抗者」)として捉える視点から脱却し、彼女たちの主体性や創造力に光を当てるとともに、彼女たちが生み出す日常的実践の集合体という観点から、ホステスクラブを記述・分析する道が開拓できると考える。本報告は、そのような多声的・多元的エスノグラフィーへの試みの準備作業の一つとして位置付けられる。

第2報告

「出会い系サイト」のプロフィール欄にみる恋人・結婚相手に求める条件

井上 善友 (埼玉学園大学)

 ここ20年余り、各年齢層において未婚率が上昇している。その最大の原因は、国立人口問題研究所等の調査から示されるように、「理想の相手でないと結婚したくない」と考えている未婚者が増加したことによるものと思われる。そうした状況の下、男女の出会いの場としてここ数年人気を集めているのが、“出会い系サイト”である。出会い系サイトは、何万もの登録者の中から希望する条件の異性を検索出来るという特徴を持っている。 本報告では、某大手「出会い系サイト」のプロフィール欄に記載された異性に求める条件の分析結果の報告を行う。そこには、字数制限がなく自由に希望する異性のタイプ・条件を記述することができる。対象とするのは、首都圏在住の18〜40才の男女である。年齢階層別、男女別、職業別、年収別(男性のみ)に集計し分析を試みる。
 これまで、こうした調査は公共機関、各種マスコミ、結婚紹介産業等によって行われているが、あらかじめ決められた条件を選択する形式であった。こうした形式で行われた調査結果と、異性に対する希望条件を自由に記述することができる今回の調査結果との比較も試みる。今回の調査方式では、既存形式の調査では選択肢になかった希望条件が表面化する可能性もあり、結婚相手にこだわる現代の未婚者像の、より一層の解明につながるのではないかと思われる。

第3報告

外見の美醜を語ることの困難
−ミス・コンテスト論争を手がかりに−

西倉 実季 (お茶の水女子大学)

 本報告は、1980年代終盤から90年代初頭にかけて盛り上がりをみせたミス・コンテスト論争を事例に取り上げ、外見の美醜を語ることがどのような困難を抱えているのかを考察するものである。具体的には、第一に、ミスコン批判派の批判の論理を整理していく。ミスコン擁護派(ミスコン批判・批判)の主張がメディアを賑わせ、強力に作用した結果、ミスコン批判運動の主張が矮小化されてしまい、その意義がじゅうぶんに認識されたとはいい難い。このことを考えれば、批判運動の焦点がどこに置かれていたのかを確認しておくことは重要な意味をもっている。第二に、ミスコン批判派とミスコン擁護派相互のやり取りを検討し、外見の美醜を語ることの困難を明らかにしていく。ミスコン批判派の主張「ミスコンは性差別である」「ミスコンは性の商品化である」に対し、擁護派は、それらは「理屈」にすぎず根底にあるのは「怨念」であるといった反論を展開した。この「怨念」説が、「恵まれた容姿をもつ女性」対「もたない女性」という対立の構図を生み出し、批判派の主張を歪曲する役割をはたしたことを明らかにする。

 本報告では、ミスコン批判派と擁護派の主張の妥当性を検討するのではなく、外見の美醜を語ることをとりまく政治に着目する。こうした作業を通じて、実践的な効果はあげたものの理論的には不成功といわれるミスコン論争から、逆にわれわれは何を学べるのかを考察する。

報告概要

吉澤 夏子(日本女子大学)

 日常世界におけるジェンダーの微細な構成をめぐる問題を、さまざまな観点から主題化する意欲的な報告が三本揃い、多数の聴衆と報告者による活発な質疑・応答、議論がなされた有意義な部会であった。松田さおり「ホステスの日常的実践及び実践知に関する一考察:あるクラブホステスの事例から」は、銀座のホステスクラブの参与観察とインタヴューという興味深い素材を扱っている。ホステスたちが日常の仕事の中で身につける実践知の丁寧な分析・検討を通じて、権力関係の構造の中で単なる「抑圧者」や「被害者」として自らを位置づけるのではなく、そうした関係を逆手にとりながら「主体的」に状況に関わっていく積極的・戦術的な姿を浮き彫りにした。社会構造と「実践知」の関わりというもっとも困難な問題が依然として残るとはいえ、構造-支配-抵抗といった従来のフェミニズムの枠組みを超えようとする論理的可能性を感じさせた。井上善友「「出会い系サイト」のプロフィール欄にみる恋人・結婚相手に求める条件」では、インターネットの「出会い系サイト」に結婚相手を求める男女を対象にした調査から、現代社会において深刻な問題となっている未婚者の増大の原因を、水平的な希望条件の多様化にあることを明らかにした。「理想の相手でないと結婚したくない」と考える男女(とりわけ女性)が増えたということである。西倉実季「外見の美醜を語ることの困難―ミス・コンテスト論争を手がかりに―」は、1980年代終盤から90年代初頭にかけてのミスコン批判運動の経緯およびそれを批判する「批判派」の論理を総括したうえで、「批判派」がミスコン批判運動を個人的文脈化した点を再度批判し、「外見の美醜を語ることの困難」を再び社会的な文脈に位置づけることの重要性を主張する。きわめて限られた範囲の議論である点に疑義も提出されたが、美醜の問題がけっして「瑣末」ではないということが改めて確認された。

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