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年次大会
大会報告:第51回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第13部会)

第13部会:ジェンダーの社会学  6/15 10:00〜12:30 [3号館3階334教室]

司会:鄭 暎惠 (大妻女子大学)
1. 社会調査とジェンダー
−男性を対象とした調査の可能性とその問題点−
田中 俊之 (武蔵大学)
2. ジェンダー化された家事労働経験と移り変わるアイデンティティ形成に関する一試論
−ドイツ在住フィリピン人移動家事労働者の事例から−
篠崎 香子 (お茶の水女子大学)
3. 日本におけるフィリピン人女性家事労働者の雇用
−日本の「門戸閉鎖政策」の下で−
Brenda Resurecion Tiu TENEGRA
ブレンダ・レスレション・ティユ・テネグラ
(お茶の水女子大学)

報告概要 鄭 暎惠 (大妻女子大学)
第1報告

社会調査とジェンダー
−男性を対象とした調査の可能性とその問題点−

田中 俊之 (武蔵大学)

 本報告は、ジェンダー研究の分野で注目されはじめている男性もしくは男性性について、どのような調査が可能であるのかを考察し、実証研究の蓄積にむけた具体的な方向性を示すことを目的としている。

 はじめに、これまでのジェンダー研究で一般的だった女性を主題にした調査の意義を確認するために、『女性のデータブック』(1991,1994,1999)を参照する。この種のデータブックは、家父長制の残存する社会での女性の被抑圧的な立場を顕在化することに主眼がおかれている。こうした男女間の権力の非対称性という問題を視野にいれると、女性を対象にした調査と男性を対象にしたものとでは、自ずとその目的がことなることを指摘する。

 次いで、報告者が2002年に実施した「川崎市における男性のジェンダー意識調査」を取り上げ、この結果から、特に男性の女性にたいする優位志向が顕著に現れた項目を中心に報告する。また、調査を通じて浮上した問題点について対策を検討し、調査技術的な論点も含めて今後の実証調査にむけた構想を提示することにしたい。

第2報告

ジェンダー化された家事労働経験と移り変わるアイデンティティ形成に関する一試論
−ドイツ在住フィリピン人移動家事労働者の事例から−

篠崎 香子 (お茶の水女子大学)

 本報告では、ドイツに在住するフィリピン人家事労働者のアイデンティティの形成を、語りの分析を通して考察することを試みる。特に、移動過程における家事労働経験を、彼女/彼らがどのように捉え、意味づけているかについて、3つの異なったしかし相互に関連する項目について分析を行いたい。まず、出稼ぎ移動後に経験される家事労働者という職種の変化について、社会的地位の下降と経済的地位の上昇からなる「矛盾した移動(contradictory mobility)」(Parreas 2001)と名づけられた現象を、調査協力者たちがどのように意味づけているかを検討する。その際注目すべきは、これは第二点目にもつながることだが、全ての調査協力者たちに共通することとして、国際移動が家事労働業に従事する契機になっているということである。介護領域の補助作業(EU加盟候補国国籍者のみに有効)を除く、その他の家事労働分野には労働許可を交付しないドイツの現在の移民政策の枠組みにおいて、ヨーロッパに属さないフィリピン出身の調査協力者たちの大多数は、移動後、非正規滞在者として生活・労働することになる。このような構造的状況を踏まえ、国際移動、家事労働、非正規滞在の地位がどのような形で、彼女/彼らのバイオグラフィーに織り込まれているのか、分析を試みたい。ここで企図するアイデンティティ構築に関する考察は、ジェンダー分析を行うことを通してさらに理解が深まると思われる。>他者化され<、>女性化された<家事労働を、男女のフィリピン人移動者はどのように捉えているのだろうか。本報告は、質的調査に依拠した報告者のフィールドワークから得られた結果の一部に基づいている。

第3報告

日本におけるフィリピン人女性家事労働者の雇用
−日本の「門戸閉鎖政策」の下で−

Brenda Resurecion Tiu TENEGRA
ブレンダ・レスレション・ティユ・テネグラ
(お茶の水女子大学)

 日本においては外国人家事労働者の合法的雇用は、原則として、日本人ではない雇用者、つまり外資系のエリートや外交官のみに限定されている。グローバル・シティ東京で働くフィリピン人の家事労働者(以下、DWs)の雇用はその典型として位置づけられる。その大半は女性の労働者であるが、彼女らの雇用のあり方は、香港やシンガポールといった他のグローバル・シティに働くフィリピン人DWsと比較した場合、完全に国内労働市場と切り離されており、その意味で特異な性格を示している。こうしたフィリピン人女性家事労働者の生活と労働の実態は、他の外国人労働者にくらべてあまり知られていない。

 本報告では、東京の大使館地区、外国人エリート居住地区で行った50人のフィリピン人のDWsを対象としたインタビュー調査の結果をもとに、DWsの来日パターンと雇用メカニズムについて考察する。来日のパターンには大別して、(1) 香港やシンガポールから雇用者と共に移動するパターン、そして(2) 親族・友人に基づくネットワークを活用して来日するパターンがある。雇用斡旋業者の果たす役割が大きい香港、シンガポール、中東地域へ向かうDWsと異なり、未熟練外国人労働者に対する「門戸閉鎖政策」がとられる日本の場合には、親族・友人ネットワークが雇用斡旋において決定的な重要性をもつ。本報告ではこの点に注目しながら、DWsのネットワークの型、仲介機能の検討を行い、東京で働くDWsの独特の雇用メカニズムを明らかにしたい。

報告概要

鄭 暎惠 (大妻女子大学)

 田中俊之(武蔵大学大学院博士後期課程)は、「社会調査とジェンダー−男性を対象にした男性性に関する調査の可能性とその課題−」として、ジェンダーの不平等を是正するために、男性の意識をより正確に分析する調査の必要性を強調した。「女性問題」への社会認識が広がるにつれ、性別役割分担を否定するタテマエも広がったが、本音を正確に聞きださないことには、これ以上の問題解決は望めないと指摘した。ランダムサンプリングによる調査の困難性にも焦点が当てられた。

 篠崎香子(お茶の水女子大学大学院後期博士課程)は、「ジェンダー化された家事労働経験と移り変わるアイデンティティ形成に関する一試論」として、ドイツにおけるフィリピン人移動労働者への調査から、家事労働とジェンダーとエスニシティがいかに関連しているかを分析した。海外への移動労働者として社会的地位の低い再生産労働に従事することで、出身社会での経済的地位が上昇する「矛盾した階級移動」や、出身社会に置いてきた子どもを遠距離子育てするトランス・ナショナルな家族、雇用者−被雇用者関係と権力作用がどうジェンダー化されるのか等について詳細に考察している。

 ブレンダ・レスレション・ティユ・テネグラ(お茶の水女子大学大学院博士後期課程)は、「日本におけるフィリピン人女性家事労働者の雇用」として、彼女たちの社会的ネットワークが「門戸閉鎖政策」をとる日本でどのように存在してきたかを調査した。彼女たちの雇用者は、グローバルシティを転々とする外資系エリートや外交官であり、完全に国内労働市場と切り離されているが、女性中心の「ネットワーク仲介型」来日パターンが多いと指摘した。ここでも、家事労働のジェンダー化(またエスニシティ化)に加え、ジェンダー化された社会空間やネットワークが形成される過程を明らかにした

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