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年次大会
大会報告:第52回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第7部会)

第7部会:ジェンダー  6/19 14:00〜16:30 [120年記念館(9号館)7階976教室]

司会:石田 佐恵子 (大阪市立大学)
1. コミックの性的表現をめぐる対立の構図 重吉 知美 (立教大学)
2. 在日朝鮮1世女性の表象と主体構築についての一考察 徐 阿貴 (お茶の水女子大学)
3. 『女学雑誌』の世界観
---明治中期の婦人啓蒙誌における欧化と愛国---
岡田 章子 (立教大学)

報告概要 石田 佐恵子 (大阪市立大学)
第1報告

コミックの性的表現をめぐる対立の構図

重吉 知美 (立教大学)

 マンガに対するクレイム申し立ては、1970年代の永井豪の「ハレンチ」マンガへの教育的観点からの非難、手塚治虫の「黒人」の身体表現を「差別的」とする1990年代以降の人権的配慮からの非難、ほぼ同時期に出版側との対抗言説をお互いに展開した「有害」コミック規制運動、いわゆる「児童ポルノ禁止法」暗に絡んだ一部のジャンルのコミックへの1990年代後半に見られる非難などの形で、現われてきた。

 本報告では、「児童ポルノ禁止法」の規制対象にコミック(特に「成年コミック」)表現を含めることについての議論を俯瞰し、コミック規制賛成派と反対派の対立の構図を明確にする。構図を理解する上で鍵となるのが、コミックの抽象的な表現技法とコミック・メディアの独特の産業構造である。今回は、特に前者に焦点を当てて報告する。

 コミックは、写実性においては写真や映像より遥かに劣り、非常に抽象的な表現手法を採用している。その手法が成年コミックにおいては如何様にしてポルノグラフィーとして成立せしめているのかを検証し、線の表現にすぎない「マンガ」がいかにして読者の煽情とクレイマーの怒りを招くのかを説明する。

第2報告

在日朝鮮1世女性の表象と主体構築についての一考察

徐 阿貴 (お茶の水女子大学)

 本報告では、移住女性についてのエスニシティとジェンダーが混じりあった表象と、彼女たちの主体構築過程における表象をめぐる戦略と能動性について、第1世代の在日朝鮮女性を例に考察する。在日朝鮮人1世の女性については、男性や後続世代を中心として想定された「一般の」在日朝鮮人と異なり、祖母を意味する朝鮮語である「ハルモニ」と(尊敬の意味もこめつつ)呼ぶ現象が見られる。また彼女たちに関する表象として、故国である朝鮮の伝統文化、日本社会での民族差別およびそれ以上に過酷であったともいえる性差別の犠牲者、そしてこうした苦境を生き抜いてきた逞しさやおおらかさなど、いくつかの矛盾しつつ相互に関連するパターンが見られる。それらは、日本社会や在日朝鮮人社会の中でもっとも周縁化された「弱き者」であり、かつ「正統な」朝鮮的エスニシティを持つという、在日朝鮮1世女性に付与された特異なアイデンティティを表している。これらの表象は、後続世代や「日本人」のまなざしによる、在日朝鮮1世女性の他者化という問題も提起している。これに対して本報告では、関西における夜間中学を核とした在日朝鮮1世女性の運動をとりあげながら、彼女たちによる能動的な主体構築のメカニズムと、そこで用いられるエスニシティとジェンダーの表象戦略について検討する。

第3報告

『女学雑誌』の世界観
---明治中期の婦人啓蒙誌における欧化と愛国---

岡田 章子 (立教大学)

 鹿鳴館時代、「欧化」の最中に発行された『女学雑誌』(明治18年創刊)は、『女学新誌』を前身とする日本で最初の本格的な婦人向け啓蒙雑誌であると同時に、日本と欧米を鋭く意識化した雑誌でもあった。すなわち、そこではキリスト教精神のみならず、史伝から翻訳文学、合理・科学的家政の導入に至るまで欧米文化が積極的に紹介されると同時に、神功皇后をたたえ、武芸を説き、「国家」としての日本が強く意識されてもいたのである。先行研究において、こうした二面性は創刊号の「欧米の女権と吾国従来の女徳と合わせて完全の模範を作り為さんとする」という言葉に即して「中正主義」として説明されるものの(青山なを、1980、『「女学雑誌」解説』臨川書店)、それが当時の婦人雑誌においていかなる意味をもっていたのか、についてはじゅうぶん検討されてはいない。明治20年代から30年代にかけての『女学雑誌』の全盛期は、日本の思潮が欧化から国粋へと大きく揺れ動いた時代でもあった。こうした時代状況のなかで『女学雑誌』が果たした役割とは、メディアを通じた婦人啓蒙において文明化(欧化)の日本という明治イデオロギーを先駆的に体現した、ということだったのではないか。本報告では、この欧化と愛国の言説が、「国粋」と対峙しつつ、どのように『女学雑誌』というメディアで構築されていったのか、を風俗、キリスト教、女性と国家のかかわりという観点から検討する。

報告概要

石田 佐恵子 (大阪市立大学)

 本部会では、重吉知美(立教大)「コミックの性的表現をめぐる対立の構図」、徐阿貴(お茶の水女子大)「在日朝鮮1世女性の表象と主体構築についての一考察」、岡田章子(立教大)「『女学雑誌』の世界観−明治中期の婦人啓蒙雑誌における欧化と愛国」の三つが報告された。重吉報告は「児童買春・児童ポルノ禁止法」改正をめぐる議論を整理した上で、コミックの「被害者」としての「子ども」の捉え方を考察した。徐報告は、在日コリアン社会における男性/女性の表象から女性を他者化するまなざしを問題提起し、デイハウス活動を事例に在日コリアン1世女性の主体化を検討した。岡田報告は、明治中期の『女学雑誌』を題材に、風俗・キリスト教・女性と国家のかかわりという観点から、欧化と愛国の言説の構築について考察した。

 各報告者が詳細な資料提示を行いつつ報告時間を遵守してくれたため、また、時間的にややゆとりのある部会であったため、会場からは多くの質問が出て終了時刻まで充実した討議を行われた。会場の参加者は30名前後であったが、若い世代の会員が多勢を占めた。

 三報告はそれぞれ扱う題材の時代や空間こそ異なっていたが、過去百年ほどの時空間におけるジェンダー再編のダイナミニズムやジェンダー主体の構築性を共通項に、興味深い議論が展開された。部会名は「ジェンダー」と設定されていたが、他に、メディア、エスニシティとナショナル・アイデンティティなどの名称を組み合わせるのが適当であったかもしれない。従来の社会学会の部会名では収まりきれないような、新しい主題群に取り組む研究が目立つ昨今の動向の現れではないかとの感想を持った。

 この記録を作成するにあたって、各報告者から改めて感想などのメモをいただいた。記してお礼を述べておきたい。

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