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年次大会
大会報告:第52回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第12部会)

第12部会:階層・社会学研究法  6/20 10:00〜12:30 [120年記念館(9号館)7階975教室]

司会:織田 輝哉 (慶応義塾大学)
1. 卒業生調査にみる、女性の「大学・初職特性」と「配偶者の学歴・地位」 中村 真由美 (シカゴ大学)
2. 世代間移動の趨勢分析 竹ノ下 弘久 (慶應義塾大学)
3. 社会調査データの中の極端な度数分布を示す変数に関する報告 飯島 賢志 (中央大学)
4. 流行とトリクルダウン理論
--- 閾値モデルによる検討---
寺島 拓幸 (立教大学)

報告概要 織田 輝哉 (慶應義塾大学)
第1報告

卒業生調査にみる、女性の「大学・初職特性」と「配偶者の学歴・地位」

中村 真由美 (シカゴ大学)

 なぜ女性向き経路を選ぶ女性がいるのだろうか。この問いに対し、「同程度の人的資本をもつ場合には、「女性向き経路」を選ぶことで、女性は結婚を通じた地位達成(以下「結婚達成」)に有利になる(つまり学歴・職歴資本の豊かな男性と結婚する)場合があるから」との仮説を立て、30代女性(調査時)とその配偶者の学歴・職歴等のデータに基づいて、「女性向き経路(大学・初職)」と「結婚達成」との関連を分析した。

 分析の結果、いくつかの項目において「女性向き経路」である大学や初職を選んだ者が「結婚達成」において有利になっている様子が伺えた(「教養系の女性向き経路」経験者は、高学歴(偏差値)、大企業勤務の男性と結婚している傾向が、また、「準専門職系の女性向き経路」では大企業勤務、高収入の男性と結婚している傾向などが見られたー本人の偏差値等を統制)。ただ、いわゆる「男性向き経路」であっても、選抜性の高い学歴を経た女性は、高学歴・大企業勤務の男性と結婚している傾向が見られた。逆にいえば、選抜性の低い「男性向き経路」を経た女性は結婚達成においてワリを食ったということになる。

 これを考えると、エリート型の男性経路を選べない学力・能力層の女性にとっては、女性向き経路を選ぶことは、結婚達成を考えた場合、合理的選択であったとも考えられる。ただ、これはあくまでもこの調査対象になった年代・階層の女性に限られた事象である可能性もある。

第2報告

世代間移動の趨勢分析

竹ノ下 弘久 (慶應義塾大学)

 本研究は、社会階層と社会移動全国調査(SSM)データを用いて、1955年から95年までの世代間移動の趨勢について検討を行う。世代間移動の趨勢をめぐっては、これまでに主として3つの仮説が提起され、検証されてきた。それらは、産業化命題、FJH命題、階層固定化命題である。ログリニアモデルを用い、相対移動率の趨勢に注目してきた研究の多くは、FJH命題を支持する結果を報告してきた。

 しかし、近年、FJH命題に挑戦する研究が登場してきた。佐藤俊樹は、1985年から95年にかけて、ノンマニュアル上層のオッズ比が増加していることから、階層固定化命題を提起する。他方で鹿又伸夫は、世代間移動表における時代、加齢、コーホートの3つの効果を区分する新たな分析手法を用い、その結果、開放性は増大基調にあり、産業化命題がおおむね支持されることを主張する。このように、世代間移動の趨勢命題をめぐって、近年議論が錯綜しているといえる。

 とはいえ、従来のFJH命題の検証研究、佐藤、鹿又の研究にはそれぞれ欠点がある。そのなかでも、従来のFJH命題の検証研究の欠点に注目すると、次の2点が挙げられる。第1に、それらの研究の多くは、相対移動の趨勢に注目するあまり、構造移動の趨勢にほとんど注意を向けてこなかった。第2に、これらの研究は、時系列変化を仮定しないモデルの適合度に注目するあまり、時系列変化を仮定しないモデルと仮定したモデルの比較を何ら考慮してこなかった。

 従来のFJH命題の検証研究が持っていた欠点を克服するために、本研究ではログリニアモデルを応用したSobel-Hout-Duncanモデルとlogmultiplicative associationモデルを用いて、世代間移動の趨勢について検討を行う。

第3報告

社会調査データの中の極端な度数分布を示す変数に関する報告

飯島 賢志 (中央大学)

 本報告は、計量的な社会調査データにセンサード変数が含まれる場合の扱いに関する報告である。センサード変数は打ち切り変数、あるいはトービット変数などとも呼ばれるが、本報告で扱う社会調査データにおけるセンサード変数とは、度数分布が尺度の上側や下側に極端に偏っている変数のことを指す。

 センサード変数を含んだデータを多変量解析によって分析する場合、その変数の打ち切りによる分布の偏りの影響によって、打ち切りがなかった場合に期待される相関係数や共分散とは異なる相関係数や共分散の値になることがある。共分散や相関係数は、社会調査データの分析から得られる知見と密接な関係にあるため、この結果の違いを簡単に無視するわけにはいかないだろう。

 報告では、社会調査データの中のセンサード変数による結果の歪みについて多角的な検討を行なう第一歩を示す予定である。

第4報告

流行とトリクルダウン理論
--- 閾値モデルによる検討---

寺島 拓幸 (立教大学)

 G. Simmelのトリクルダウン理論が今日の普及研究、集合行動論、消費社会論などに多大な影響を与えてきたことは周知である。その骨子は、(1)社会的に上位のグループによるイノヴェーションの採用→(2)下位グループによる模倣→(3)上位グループによる差異化、という流行の隆盛と衰退を定式化したものであった。この影響力の源泉は、流行という一見法則性のない集合現象の発生と変動のしくみを、個人的側面――「差異」と「模倣」という二つの心的傾向――と集合的側面――上層と下層からなる階級構造――の両面から整合的に論じたことにあると思われる。

 しかし、その後の多くの実証研究の知見から、トリクルダウン理論を現代社会には部分的あるいは全面的に適用不可能とする見解が多数を占めている。これはいうまでもなく、今日の複雑な社会構造を背景にして、イノヴェーション普及を牽引するのが上位グループとはかぎらなくなったからである。

 だが、流行現象における集団間の相互作用、動学的なメカニズム、マイクロ―マクロ関係への着目という点でトリクルダウン理論のもつ有効性は今もなお失われるものではなく、モデル、シミュレーション分析などのより現代的なアプローチに活かされるべきであると報告者は考える。そこで本報告では、M. Granovetterによって提唱された閾値モデルによってトリクルダウン理論の再定式化を試み、現代への適用を模索する。

報告概要

織田 輝哉 (慶應義塾大学)

 第12部会では、階層・移動研究と社会調査法、数理モデルに関する4報告が行われた。

 まず中村真由美氏(シカゴ大学)の第一報告「卒業生調査にみる、女性の『大学・初職特性』と『配偶者の学歴・地位』」は、女性が大学や就職先を選ぶ際に、「女性向け」経路をなぜ選択するのか、という問題を設定し、これが虚偽意識に基づくものなのか、結婚を通じた地位達成を目指す合理的選択なのか、という2つの仮説を対比させる。ある高校の女性卒業生のデータを用いた分析の結果、女性向けの経路は高学歴の配偶者とつながっており、合理的選択仮説が当てはまっているとしている。

 竹ノ下弘久氏(慶應義塾大学)の第二報告「世代間移動の趨勢分析」はSSM調査データを用いて、1955年から1995年までの世代間移動がどのように変化してきたかを新しい分析手法を用いて検証している。産業化を達成した社会では相対移動機会には変化がない、というFJH仮説に対して、近年、階層固定化、産業化命題などの対立する研究成果も出てきている。この報告では、ログリニアモデルを拡張した分析によって、相対移動に多少の変化はあるが、相対移動の構造は基底的には一定である、と結論づけている。

 飯島賢志氏(九州大学)の第三報告「社会調査データの中の極端な度数分布を示す変数に関する報告」は 連続変数の解答が、カテゴリーの上端や下端に偏ってしまったケースで、これをセンサード変数として取り扱う方法が検討された。正規分布を仮定して補正することによって、生のデータを用いる場合と若干の違いが生じることが、シミュレーションデータによって明らかにされた。

 寺島拓幸氏(立教大学)の第四報告「流行とトリクルダウン理論−閾値モデルによる検討−」は、流行現象の理論であるトリクルダウン理論を普及モデルである閾値モデルに組み込むことを試みたものである。閾値モデルに組み込むに当たって、上位グループは閾値で行動しない(初期値の恣意性を排除)という仮定をおいて、シミュレーション分析を行った。上位グループの採用率が変化することで、均衡に大きな変化が生じる事が確認された。
4つの報告はかなりバラエティに富んだもので分析方法もかなり専門性が高いものが多かったが、質疑を通じて理解を深めることができ、大いに刺激を受ける部会であったと思う。

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