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研究例会
研究例会報告: 1996年度
1996年度 第1回

開催日程

テーマ: 移動・国家・エスニシティ
日 程: 1996年12月7日(土) 14:00〜17:00
場 所: 立教大学 7号館 7201教室
報 告: ●曽 士才(法政大学) 「中国少数民族の変貌―国民統合,民族観光,文化的自画像」
●有末 賢(慶応義塾大学) 「日系ペルー人のエスニシティ変容──移動と家族の視点から──」
討 論: 竹中 歩(コロンビア大学社会学部)
司 会: 池田 寛二(日本大学)

研究例会報告

担当:町村 敬志(一橋大学)

 昨年12月7日(土)、テーマ部会「広域と局域」に向けた研究例会が、立教大学において開催された。当日は「移動・国家・エスニシティ」を共通テーマとしながら、曽士才氏(法政大学)「中国少数民族の変貌―国民統合,民族観光,文化的自画像」、有末賢氏(慶応義塾大学)「日系ペルー人のエスニシティ変容──移動と家族の視点から──」の二本の報告をもとに、討論者・竹中歩氏(コロンビア大学社会学部)、司会者・池田寛二氏(日本大学)により、議論が進められた。曽氏の報告は、ミャオ族を事例に、観光立村が地元の村や人々の生活に与える影響、またテーマパーク(民族園)のアトラクションの変容を、スライドを交えながら明らかにした。とりわけ、それらを通じて少数民族の文化的自画像が「民族芸能」という形で新たに創出されていくプロセス、民族復権の動きなどが具体的に紹介された。続く有末氏の報告では、日本へ「出稼ぎ」に来た日系ペルー人家族の事例を中心に、移動経験を通じたエスニシティ変容の内容が、家族成員ごとのライフヒストリーを交えて具体的に紹介された。

 討論の中で出された主な論点と意見を以下に挙げておく。(1)トランスナショナルなエスニック・アイデンティティはどのように理解されるのか(複数のアイデンティティか、単数のアイデンティティか)。(2)ライフヒストリー・アプローチは、エスニック集団というものをどのように切り取ることができるのか(アイデンティティ変容のプロセスを取り扱うべきで、エスニック集団の固定的なモデルは壊すべき)。(3)国家とエスニック集団の多様な関係性を規定するのは、どのような要因か(台湾はメルティング・ポット志向だが、中華人民共和国は民族自治を認める方向。ただし、民族的「伝統」自体が新たに「創出」されている)。これらの点を踏まえながら、大会企画の内容をさらに検討していきたい。

1996年度 第2回

開催日程

テーマ: 「老い」を照射する社会学
日 程: 1997年1月18日(土) 14:00〜17:00
場 所: 立教大学 7号館 7201教室
報 告: ●田淵 六郎(東京都立大学) 「家族戦略論からみた後期親子間関係──『扶養』関係を中心に──」
●樽川 典子(筑波大学) 「老いの日常生活──老年社会学再考──」
討 論: 前田 信彦(日本労働研究機構)
司 会: 庄司 洋子(立教大学)

研究例会報告

担当:庄司 洋子(立教大学)

 次年度大会のテーマ部会「身体と社会」に連動する第2回研究例会「『老い』を照射する社会学」が、1月18日(土)午後2時から、立教大学において開かれた。田淵六郎氏(東京都立大学)の「家族戦略論からみた後期親子間関係──『扶養』関係を中心に──」、樽川典子氏(筑波大学)の「老いの日常生活──老年社会学再考──」の二つの報告があり、討論者の前田信彦氏(日本労働研究機構)によるコメントのあと、参加者(13名)のあいだで質疑が交わされた。なお、司会は庄司洋子が担当した。

 田淵氏の報告は、後期親子間関係の分析枠組としての家族戦略論をその理論的背景および現実的背景をふまえて提示し、家族戦略論からみた後期親子間扶養関係の分析をいくつかのデータをもとに試みるというものであった。緻密な文献レビューを伴う理論提示とそれにもとづく既存データの解釈は、家族領域に戦略概念を使用することが、従来の家族社会学では及ばなかった個人の主観的意味世界への新たな接近を可能にすることを示唆している。樽川氏の報告では、応用社会学の1領域としての老年社会学研究の動向を外観したうえで、氏が参加してきた「高齢化社会の地域と企業」プロジェクトの成果から、高齢者の主体的で自由な社会的行為の動機を高齢者が語るキーワードで理解しようとする試みが紹介され、老後問題論・老齢保障論に傾斜する老年社会学研究が、老いの日常をリアルに照射する老年社会学へと向かうための課題が提起された。これらの報告に対して討論者の前田氏からは、老いを社会学的にどう定義するか、社会学が弱者としての高齢者への接近に傾斜するのはなぜか、日本的老いとは何か、などの論点が指摘され、それらをめぐって報告者と参加者との意見交換が行われた。そのなかで、従来の家族社会学あるいは社会学そのものが十分に扱えなかった情緒的領域への探究という課題が明らかになった。

1996年度 第3回

開催日程

テーマ: 非日常を生み出す文化装置
日 程: 1997年2月1日日(土) 14:00〜17:00
場 所: 立教大学 7号館 7201教室
報 告: ●山脇 千賀子(筑波大学) 「食にみる祝祭性についての分析」
●松本 由紀子(東京大学) 「都市空間における墓地―聖と俗の空間論―」
討 論: 藤村 正之(武蔵大学)
司 会: 嶋根 克己(専修大学)

研究例会報告

担当:嶋根 克己(専修大学)

 1997年度大会テーマ「非日常を生み出す文化装置」にむけて研究例会が開催された(2月1日(土)午後2時〜5時、立教大学)。内容は、山脇千賀子氏(筑波大学)による「食にみる祝祭性についての分析」、松本由起子氏(東京大学)による「都市空間における墓地―聖と俗の空間論―」の二つの報告に続き、討論者の藤村正之氏(武蔵大学)からコメントを得た。続いて参加者間での意見交換をおこなった。司会は嶋根克己が担当した。

 山脇千賀子氏は、「日常−非日常」をめぐる概念群を文化人類学や民族学の知見を整理した上で、「食」には「聖−俗」「自然−文化」「生−死」などの対立するものを架橋するはたらきがあることを明らかにした。その上で、ペルー社会における中華料理の位置づけを実証的に分析し、ペルーでは中華料理が多様な民族集団を結び付けるものであると同時に、日常生活を分節化する「特別な食」、すなわち「祝祭性をつくりだす食」であることが検証された。結合と分節という「食の両義性」が結論として導かれている。

 松本由起子氏は、都市の空間秩序において墓地が重要な役割を果たしていることを、イタリア諸都市の社会史的な分析によって明らかにした。古代都市ローマでは特別な墓地空間は用意されておらず、死体は城外に合葬されることが多かった。しかし中世都市フィレンツェでは都市の中心である教会において、有力者を中心とする同心円的な構成で死者は葬られている。しかし近現代においては墓地空間は再度郊外に集められるようになった。都市空間における墓地の配置から、その社会の死者や死後の表象を読み取る可能性が論じられた。

 両者とも、豊富な資料を駆使した充実した内容の報告であり、参加者の関心を大いに引いた。しかし「日常−非日常」「文化装置」という概念がコーディネータ内で十分に議論されておらず、両報告の接点をみつけられなかったことは今後の大きな課題として残された。

1996年度 第4回

開催日程

テーマ: 社会学基礎理論の現在──秩序・制度を問う──
日 程: 1997年3月29日(土) 14:00〜17:00
場 所: 立教大学 9号館 会議室
報 告: ●岡田 光弘(筑波大学) 「方法としての会話分析−制度という文脈の痕跡を連接に見るには−」
●浦野 茂(慶應義塾大学) 「相互行為論における制度概念の所在について」
討 論: 浅野 智彦(東京学芸大学)、芦川 晋(早稲田大学)
司 会: 椎野 信雄(文教大学)

研究例会報告

担当:椎野 信雄(文教大学)

 1997年度関東社会学会大会のテーマ部会の一つである「行為と認識」部会に連動する第4回研究例会が、「社会学基礎理論の現在−秩序・制度を問う−」を共通テーマとして、3月29日(2時〜6時)に、立教大学において開催された。岡田光弘氏(筑波大学大学院)「方法としての会話分析−制度という文脈の痕跡を連接に見るには−」と浦野茂氏(慶応義塾大学大学院)「相互行為論における制度概念の所在について」の二つの報告に続いて、討論者の浅野智彦氏(東京学芸大学)と芦田晋氏(早稲田大学大学院)からのコメントの後で、参加者(24名)と質疑応答が行なわれた。司会は椎野信雄(文教大学)が担当した。この研究例会は、昨年度の大会での「行為と認識」のテーマ部会「社会学者はなぜ理論化するのか」での報告における報告者間の対話の未完、とりわけエスノメソドロジー関係の問題群への討論不足を補完する目的で、特に設定した場であった。

 岡田報告は、報告題目を「方法としての会話分析−Sacksの構想と基本的な概念から−」に改めて、Sacks の「条件づけられたレリヴァンス」という概念を基本として「不在」を顕在化する会話分析が、「理解」の社会学であるという自説を展開した。浦野報告では、エスノメソドロジー・会話分析に基づく相互行為論が、相互行為秩序の場面の編成をその相互行為場面のレリヴァンスに忠実に記述してゆくものであるとした上で、相互行為場面の「外部」の現実性が当該相互行為にレリヴァントに成し遂げられているということが、「伝聞の物語を語る」ことに関して例示された。エスノメソドロジー/会話分析の立場に立ったこれらの報告に対して討論者からは、解釈の恣意性の問題・ルーマン(規範論)との優劣・「理解」の問題・「物語」の記述の妥当性の問題・デバイスの位置付け・レリヴァンス還元論などが指摘された。参加者からの質疑・意見交換も行なわれて閉会した。

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