開催日程
テーマ: |
正義・公共性・市民権 |
日 程: |
1998年4月11日(土) 14:00〜18:00 |
場 所: |
立教大学 池袋キャンパス |
報 告: |
●久保山 亮 (東京大学大学院総合文化研究科) 「福祉国家ドイツと移民問題−労働市場を中心に」
●上村 泰裕 (東京大学大学院人文社会系研究科) 「アジアNIEsの福祉国家形成」 |
司
会: |
中島
康予 (中央大学) |
研究例会報告
担当:中島 康予 (中央大学)
「正義・公共性・市民権」部会の研究例会が,1998年4月11日(土),立教大学で開催された。この部会は,福祉国家という媒介変数の導入により,正義・公共性・市民権をめぐる規範的議論と,現実の政策的問題との架橋を試みようとしている。今回の例会は,その前提となる課題として「グローバル化と福祉国家」を取り上げ,久保山亮氏(東京大学大学院総合文化研究科)の報告「福祉国家ドイツと移民問題−労働市場を中心に」,上村泰裕氏(東京大学大学院人文社会系研究科)の報告「アジアNIEsの福祉国家形成」,そして,下平好博氏(明星大学)によるコメントを受け,出席者による活発な議論が行われた。
久保山氏は,従来,移民問題が論じられるとき,文化・差別・エスニシティ・国籍といった「上部構造」=国民国家体制に関心が集中してきたが,雇用や経済的地位など,移民問題の「下部構造」=福祉国家体制に注目しなければ,各ホスト国社会の体制や構造の相違が見えにくくなると指摘する。このような問題意識に基づき,氏は,移民の社会権を現実化させる福祉国家システムの違い,労働市場を中心とした移民の統合/生存戦略の分岐に基づき,福祉国家を類型化する。そして,80年代末までのドイツは,移民の福祉国家へのメンバーシップなき統合を可能にしたが,グローバル化の進行は,こうした統合の変容,ドイツ型福祉国家の亀裂と揺れを引き起こしているという。
上村氏は,新興工業国の社会保障制度研究は,比較福祉国家研究の新しい課題提示と,先進福祉国家の「危機」の性格の再検討に資すると述べる。氏は,NIEsの年金制度を,工業化のタイプ([1]先発国か,後発国か×[2]国民経済か都市経済か)とコーポラティズムのバリエーションを組み合わせることによって類型化する。そして,今後の進路を規定する分割線は,国民経済と都市経済のあいだに引かれるとする。
討論者の下平氏は,福祉国家の形成・発展・崩壊が,国際化と連動している点,国境を越えた資本・労働の移動が福祉国家に対して与えるインパクトを,ストック・フローの両面から問わなければならないことを強調された上で,お2人の報告について詳細なコメントをされた。出席者も加わった全体の討論では,マーシャルのシティズンシップ概念の性格,アジアの福祉「国家」と制度の将来展望とシヴィル・ミニマムのような図式の再現等々の問題が提起された。移民問題をめぐって,久保山氏のいう「上部構造」と「下部構造」という視点は,この部会の試みにとって貴重であり,大会で,さらに深めていきたい論点である。
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