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研究例会
研究例会報告: 1998年度
1998年度 第1回

開催日程

テーマ: 質的調査研究における「信頼できる確かさ」の根拠
−『口述の生活史』作品化のプロセスをめぐって−
担当理事: 池岡 義孝(早稲田大学)、有末 賢(慶應義塾大学)
研究委員: 北澤 毅(立教大学)、野口 裕二(東京学芸大学)、大出 春江(東京文化短期大学)
日 程: 1999年1月9日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 5号館 第1会議室
報 告: ●大出 春江(東京文化短期大学) 「『口述の生活史』を確かな「生の記録」として支えているもの」
●中野 卓(東京教育大学名誉教授)
司 会: 池岡 義孝(早稲田大学)

研究例会報告

担当:池岡 義孝(早稲田大学)

 テーマ部会「質的調査法」の研究例会は、年明けすぐの1月9日(土)に立教大学において30名をこえる参加者のもとで開催された。議論の俎上にのせたテーマは、「質的調査研究の信頼できる確かさ」である。計量的な調査研究であれば、その成果の評価は社会調査の手続きや統計的技法の基準に照らして下すことができる。質的調査研究の場合にも、われわれはその成果の評価を「経験的に」判定しているが、それはどのような根拠や基準に照らして、そう判定しているのだろうか、そしてそれは妥当なのだろうか。

 この問題を集中的に議論するためのテキストとして、生活史研究の代表的な成果として高い評価を得ている『口述の生活史』を取り上げ、編著者である中野卓先生にもご出席をお願いした。報告者は、この『口述の生活史』のインタビューテープの分析を通じて、その作品化のプロセスを第三者の立場ですでに論じた経験のある大出春江氏で、今回は新たな論点も含めて「『口述の生活史』を確かな「生の記録」として支えているもの」と題する報告がなされた。報告では、この作品の「確かさ」が最終的には、1)データの確かさ、 2)解釈の妥当性、3)最終提示段階での全体的なまとまり、4)研究者自身の問題関心と作品との関係、という諸点から検討された。これをうけて、中野先生からは、さらにこの作品が成立するまでの経緯や研究者としての問題関心の所在等、その舞台裏も含めた応答がなされ、あらかじめ『口述の生活史』を通読して出席した参加者は、この作品化のプロセスを追体験する貴重な時間を共有することができた。議論の論点は多岐にわたったが、「対象者を選定することからはじまって、何について語ってもらうかという研究者の問題関心、語られた内容を作品化する際の編集作業まで、どの過程にも研究者の主観的判断は否応なしに入りこむものであるから、それを前提にした、そのことの理論的整理」について、さらに議論を深める必要があるものと思われた。

1998年度 第2回

開催日程

テーマ: レズビアン/ゲイ・スタディーズの展開
担当理事: 宮島 喬(立教大学)、梶田 孝道(一橋大学)
研究委員: 小井土 彰宏(上智大学)、西澤 晃彦(神奈川大学)
日 程: 1999年1月30日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 太刀川記念館
報 告: ●松村 竜也 (東京大学修士課程) 「ビカミング・アウトという『主体』の投企―「ゲイ」男性の実践の記述と理論化の可能性―」
●比留間 由紀子(一橋大学修士課程) 「近代日本の異性愛主義化と女性同性愛の『誕生』」
●伊野 真一 (東京大学博士課程) 「ゲイ・スタディーズ理論:現状と課題」
●杉浦 郁子(中央大学院) 「語りのなかの『セクシュアル・オリエンテーション』」

研究例会報告

担当:風間 孝(動くゲイとレズビアンの会)

 セクシュアリティのなかでも、レズビアン/ゲイ・スタディーズをテーマにした研究例会が開かれるのは初めてであり、どのような報告と議論が展開されるか、期待もし、不安もあったが、結果的には、50名を超える参加者を得ることができ、また報告者のアプローチの多様性が様々な可能性に開かれていることを感じさせる研究会となった。この研究例会を開催するにあたってのコンセプトは2つあった。ひとつは、アプローチの多様性を示すことでレズビアン/ゲイについて思考することがどのようなラディカルな問いを内包しているのかを示すこと。もうひとつは、ゲイにのみ焦点をあてるのではなくて、レズビアンについても語れる場とすること、であった。

 最初に4人の方に報告をしてもらった。伊野真一さん(東京大学大学院)は「ゲイ・スタディーズ理論:現状と課題」と題して、この領域の見取り図を自身の視点からまとめて下さった。そのなかでも、同性愛者のアイデンティティを主張することの「罠」を強調されていたが、この点は例会をつうじて議論のテーマとなった。肥留間由紀子さん(一橋大学院)は「近代日本の異性愛主義化と女性同性愛の『誕生』」というテーマで、女性同性愛が1910年代から 20年代にかけて、いかに問題化され構築されていったのかを歴史的に分析した。杉浦郁子さん(中央大学院)の「語りのなかの『セクシュアル・オリエンテーション』」は、レズビアンのライフヒストリーの調査結果をもとに、性別とセクシュアリティにかかわる概念の多様な用いられ方について考察した。最後の松村竜也さん(東京大学院)の「ビカミング・アウトという『主体』の投企」は、ゲイの聞き取りをもとに発話と主体形成の関係について切り込むものだった。

 討論のなかで、中心的なテーマとなったのは、研究者のポジションだったように思う。欧米の文脈で形成された理論をもって日本を眼差すこと、自らの枠組みに取り込むのではなくそれ自体をとらえ返すような調査実践、このような問題はまたの機会にも継続して話しあわれるべきテーマである。

1998年度 第3回

開催日程

テーマ: 電子的インターアクションのリアリティ
担当理事: 宮野 勝(中央大学)、園部 雅久(上智大学)
研究委員: 遠藤 薫(信州大)、川崎 賢一(駒澤大学)
日 程: 1999年3月6日日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 5号館 第1会議室
報 告: ●籠谷 和弘(東京工業大学) 「新しい公共空間のリアリティ−CMCとボランティア活動の可能性と現状−」
●池田 緑(慶應義塾大学)、金澤 朋広(社団法人日本看護協会) 「電子ネットワークにおけるリアリティ」
討 論: 園部 雅久(上智大学)、宮野 勝(中央大学)
司 会: 安川 一(一橋大学)

研究例会報告

担当:安川 一(一橋大学)

 情報ネットワーク部会はコンピュータ・ネットワーク(以下、CNと表記)をめぐる2つの調査研究を検討する機会をもった。

 既存の社会学的なCN研究は、一方で技術決定論的バイアスの強い(楽観的/悲観的な)現代社会論、他方で情報処理・通信機器の単なる利用実態調査になりがちだった。CNと社会/生活の再編、といったテーマが社会学的に有意な検討課題であるとすれば、単なる量的普及・決定論を脱した社会学的研究枠組みの整備と検討のためのデータ蓄積とがいっそう望まれるところである。

 2つの研究はともに、大学生を対象として、CN利用が日常的社会生活をどう再編しつつあるかを検討するものだった。

 報告1(池田・金澤)は、CN利用度が必ずしも高くないものの多様な使われ方をしていること、CN高利用者ほどCNを特別なメディア視していないこと、その意味でCNが「普通のメディア」になりつつあることを指摘した。他方、NPOや各種ボランティア活動にCNを積極的に活用する少数者の存在が言及され、マイノリティ・メディアとしてのCN、さらにはその活動の社会的波及の可能性が論じられた。

 報告2(籠谷)は、公共性/公共空間論のレビューと調査データをもとに、ボランティア活動を事例としてCNが実現しうる公共空間を検討し、否定的な結論を導きだした。つまり、CN媒介的な公共空間に対するボランティア活動の指向度は低く、CN利用とボランティア活動との関連は薄い。また、「機能的連帯」の概念を起点に、CNと公共性をめぐる研究の理論枠組みの再編の必要性が提言された。

 2人の討論者は、両報告の方法論的問題を指摘し、特にCNとボランティア活動、並びに両者の相互関係を語る際の諸概念の適否について疑問を提示した。会場からの発言にもCN研究の基本的枠組みを問うものが多かった。たとえば報告1に対しては道具的利用とコンサマトリー利用を対比するメディア研究の枠組みの適否が、また報告2に対してはCNのあり方に対する想定(ex. 議論の場)の適否が問われた。

 総じて、CNの浸透と受容に対する社会学的研究が、たとえば既存のバーチャル・コミュニティ論にありがちな共同体とCNとの安易な重ね合わせ論や「新しい共同体」希求でない、的確な研究枠組みで行われることへの期待と反省の議論の機会であった。なお、報告者・討論者などを含む全体の参加者は20名弱だった。

1998年度 第4回

開催日程

テーマ: 市民権−福祉国家における「内」と「外」――境界形成から公共性へ
担当理事: 町村 敬志(一橋大学)
研究委員: 武川 正吾(東京大学)、中島 康予(中央大学)
日 程: 1999年4月10日(土) 14:00〜18:00
場 所: 立教大学 5号館 第1会議室
報 告: ●佐藤 成基(茨城大学) 「ナショナリズムのダイナミックス ―ドイツと日本の『ネーション』概念の形成と変容をめぐって」
●衛藤 幹子(法政大学) 「共生空間としての福祉の再構築―公共性を創造する市民活動」
討 論: 武川 正吾(東京大学)
司 会: 町村 敬志(一橋大学)

研究例会報告

担当:

 本年度第4回の研究例会は、1999年4月10日立教大学において、「正義・公共性・市民権」部会担当により開催された。共通テーマは、「市民権−福祉国家における「内」と「外」 ―境界形成から公共性へ―」で、次の2本の報告があった。「ナショナリズムのダイナミックス ―ドイツと日本の『ネーション』概念の形成と変容をめぐって」と題する佐藤成基氏(茨城大学)の報告は、ドイツと日本におけるネーション概念の歴史的変容を克明にあとづけた後、ドイツではネーション概念が国家や国民国家から区別され、「民族」それ自体要求や主張の主体として理解される傾向があるのに対し、日本ではネーション概念が国家に従属し、その結果両者が区別されない傾向があると結論づけた。「共生空間としての福祉の再構築―公共性を創造する市民活動」と題する衛藤幹子氏(法政大学)の報告は、地方自治体の福祉政策を事例に取り上げ、各地の先進的ケースの比較を通じて、公共空間としての基礎自治体を構想するための諸条件を論じた。武川正吾氏(東京大学)のコメントに引き続いて討論がおこなわれた。両報告は、自己の生き方を自己決定できる公共的な空間をいかに創出することができるか、という点で共通の問題意識をもっていた。こうした空間の設定は、メンバーシップの問題と絡んで排除という問題を必然的にもたらす。重要なことは、仮に不当な排除が生じてもそれを正していく可能性が、社会の中に用意されているかにある。この点で、市民活動によって支えられた地方自治体は依然として大きな可能性をもつとされた。当日は約28人の出席を得て、活発な議論のうちに会を終えた。

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