開催日程
テーマ: |
文化の社会学の可能性 |
担当理事: |
奥村 隆(千葉大学)、浜 日出夫(慶應義塾大学) |
研究委員: |
伊奈
正人(東京女子大学)、渋谷 望(千葉大学)、若林 幹夫(筑波大学) |
日 程: |
2002年3月16日(土) 14:00〜18:00 |
場 所: |
慶應義塾大学 三田キャンパス 研究室棟1階 A会議室 |
報 告: |
●瓜生 吉則氏(東京大学)「マンガの非・場所:あるいは、梶原一騎と小林よしのりに架ける橋」
●本山 謙二氏(東京大学)「異郷で聞かれる音楽、そこで作られる音について:島唄を例に」は、沖縄の「伝統文化」 |
司
会: |
奥村
隆(千葉大学) |
研究例会報告
担当:奥村 隆(千葉大学)
「文化の社会学の可能性」部会の研究例会は、3月16日に慶応義塾大学で開催された。「文化を研究すること」にはどのような方法があり、それにはどんな可能性と課題があるのか。2年間の出発点となるこの例会では、具体的な研究対象にアプローチしているふたりの研究者に報告いただき、討論を行うことで、この問題の検討を開始することにした。
瓜生吉則氏(日本学術振興会)の報告「マンガの非・場所:あるいは、梶原一騎と小林よしのりに架ける橋」は、マンガを語るいくつかの方法を浮かび上がらせる。一方にマンガをそれが生まれた時代や「社会情況」に置き戻す立場が、他方にはマンガ表現の内部で分析を進める「表現論」の立場がある。これに対し瓜生氏は、石子順造の劇画批評を参照しながら、作り手と受け手の間で劇画が成立する<場>に着目する。この<場>は作品に先立って存在するのではなく、そこで作品をめぐる受け手の<わたし>語りや身体性が登場する。この<場>から、瓜生氏は意味が通過する「透明性」ではなくざらざらとした「もの」として、「マンガ=メディア」をとらえ直そうとする。
本山謙二氏(東京大学)の報告「異郷で聞かれる音楽、そこで作られる音について:島唄を例に」は、沖縄の「伝統文化」と考えられがちな「島唄」が、1920年代以降の大阪で沖縄からの移住者によって成立したことを描き出す。この「異郷」で音が漏れないように「押入れ」で演奏されたこの音楽は、大阪での新しい音の経験による変化を見せながら、沖縄民謡の父・普久原朝喜によってレコード化され、移住者にとって「ひとつの沖縄」を形成するものとなっていく。本山氏は、島唄が「移動の経験」のなかで「他者」と関係しながら生まれた過程をたんねんに辿るとともに、それを土着の「沖縄文化」ととらえる「まなざし」の政治性を指摘する。
このふたつの報告が提起した、「文化」をある「場」のなかで考える、という論点を軸に、さまざまな討論がなされた。その「場」をどんなものとして想定するか、「場」とマンガの作品性の関係をどう考えるか、「場の反復」ともいえる歴史性を議論にどう組み込むか、そこで「他者」(「異郷」)はどう考えられ「自己」(「沖縄」)はどう生成するのか。また、「文化」という言葉によってある領域をそれ以外の「場」から囲い込むこと自体の問題性への提起もなされ、議論が行われた。参加者は、約30名であった。
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