2013年度 第1回

 テーマ部会Aでは、来年1月の研究例会、6月の学会大会のテーマ部会をつうじて、「包摂と排除」という主題のもとに活動を行う予定です。現代は、経済危機、環境問題、テロや泥沼化している紛争などの情報が毎日のように新聞やその他のメディアを賑わしています。これらの諸現象を、たとえば、「リスク社会」として分析したり、政治的な視点、経済的な視点など特定の視座から分析したりすることももちろん可能ですが、テーマ部会Aでは、「包摂と排除」という切り口で、特に、「排除」に焦点を当てつつ、現代社会を考察していきたいと考えています。

 第1回研究例会では、この「包摂と排除」を社会的機能分化と関連づけて考察したルーマン理論を通して浮き彫りにしていく予定です。

 通例ですと、研究例会では、2人の研究者に報告して頂きまして、その後、フロアーの皆様と共に全体討論というかたちで進行することが多いのですが、本年度は、趣向を変えまして、一人の報告者と2人の討論者に登壇頂きまして、その後、フロアーの皆様で全体討論をして頂きたいと考えています。

 報告者としては、スイスのルツェルン大学のDr.コルネリア・ボーン教授に、’Monetary Inclusion and Exclusion’というテーマで、「貨幣メディアと、包摂と排除のメカニズムの分析との間の関係」について報告をして頂く予定です。ボーン教授は、ルーマンの直弟子にあたる方です。また、討論者として、ルーマンの『社会の社会(2)』や『社会構造とゼマンティク2』の翻訳者のお一人であり、社会システム論の専門家として諸々の学会でご活躍中の赤堀三郎さん、『ゲイコミュニティの社会学』の著者の森山至貴さんに登壇して頂きます。森山さんからは、現代のジェンダーとセクシャリティをめぐる諸事象が、貨幣ないし再分配の現況にどのように組み込まれているかなどの視点でコメントを頂ける予定です。

 ルーマン理論に興味のおありの方々はもちろん、幅広く「包摂と排除」の問題に興味をお持ちの皆様のご参加を心よりお待ちいたしております。

開催日程

テーマ: 包摂と排除
担当理事: 水上徹男(立教大学)、宇都宮京子(東洋大学)
研究委員: 本田量久(東海大学)、中西祐子(武蔵大学)
日時: 2014年1月25日(土) 14:00〜17:30
報告者: Prof.Dr.Cornelia Bohn (Universitaet Luzern)
通訳: 森川剛光(Universitaet Luzern)
討論者: 赤堀三郎(東京女子大学)
森山至貴(日本学術振興会特別研究員(PD.))
司会: 中西祐子(武蔵大学)
会場: 東洋大学白山キャンパス6号館1階第3会議室
◇ 都営地下鉄三田線白山駅
  「正門・南門」A3出口より徒歩5分
◇ 東京メトロ南北線本駒込駅
  「正門・南門」1番出口より徒歩5分>
[連絡先]  東洋大学
〒112-8606 東京都文京区白山5-28-20
宇都宮京子研究室 E-mail:ukyoko@toyo.jp(@を半角にして送信下さい)

研究例会報告

 2014年1月25日、東洋大学白山キャンパス第3会議室において、午後2時から5時30分まで、テーマ部会A「包摂と排除」の研究例会が開催されました。今回の第1回研究例会では、スイスのルツェルン大学のDr.コルネリア・ボーン教授に、Monetary Inclusion and  Exclusionというタイトルでご報告頂きました。通訳は、同じくルツェルン大学の森川剛光氏にご担当頂き、赤堀三郎氏(東京女子大学)と森川至貴氏(日本学術振興会特別研究員(PD.))のお二人に、今回のご報告をめぐって討論をして頂きました。
 本報告では、「貨幣メディア」と「包摂と排除のメカニズムの分析」との関係が論じられ、貨幣(money)は、中立的な実体としてではなく、経済システムのメディアとみなされています。
 ボーン教授は、貨幣経済への包摂は、貨幣メディアの使用法を探求することなしには説明され得ないという見地に立ち、現代経済における排除は、包摂的排除として考察され得ると論じました。これは、すなわち、誰も、現代経済のシステム、世界経済から完全に排除されることはできないということを意味しています。そのことを論じるために、第1に、ここで採用される「包摂と排除」という概念が明確にされ、第2に、経済的洞察と歴史的な貨幣のゼマンティーク(意味論)に言及しながら、貨幣メディアの作用の様態が社会学的に素描されました。
 また、その際、ルーマンのアプローチを視野に入れつつ、現代経済システムにおける「中心」、「半周辺」、「周辺」が区別されました。経済システムへの包摂と排除は、そのいずれにおいても見いだすことができるのですが、貨幣メディアは、消費を通じて一般住民を経済の周縁に包摂する一方で、「中心」への包摂メカニズムは、信用力であると論じられています。その信用の形式は、その歴史的形成過程で、利潤の形成と社会的包摂の促進という二重の仕方で組織されています。また、微小の信用(マイクロクレジット)は、貧困・富裕の区別に適さない、中心への包摂のグローバルな一形式として分析されています。以上が、ボーン教授による報告の概略ですが、政治的、福祉的な視点と結びつけがちな「包摂と排除」の問題を、現代経済システムの問題として、ルーマンの見解に新しい視点を加えるかたちで論じて頂けたことは大変、興味深かったと思います。
 次に、討論者のお一人の赤堀氏は、まず本報告の骨子を的確にまとめて、フロアの参加者にその理解がより深まるようにして下さいました。その他、重要な質問が5つほど出されました。
 たとえば、赤堀氏は、ルーマンが、経済システムを論じる際に「半周辺」という項目を設けていないことを指摘し、本報告ではルーマン理論に言及しながらも、この項目を不可欠と考えた理由を質問しました。ボーン教授は、生産の場合を考える際には、「半周辺」という領域が必要であると回答していました。また、本報告の議論は、他の機能システムにも適用できるかという質問が出されましたが、その回答は、包摂の例として、選挙や給付などが挙げられました。その他、今回の報告において、経済領域における排除問題への処方箋として信用力に基づく支払い能力の発生が挙げられていたことについて、グラミン銀行のようなマイクロクレジットを例に挙げつつ、「合理性」の概念と相容れないのではないかとの指摘がなされました。この点については、「利潤原理」ではなく、「包摂原理」が重要なのだという回答がなされました。
 森山氏からは、「包摂的排除としての愛(Love as Including Exclusion)―同性婚とホモ規範性」というタイトルのレジュメをご用意頂きました。そこには、ルーマンの『情熱としての愛(Love as Passion)』やホワイトヘッドの『同性婚(Same-Sex Marriage)』などから、包摂と排除に関わる論点の抜粋が記載されており、それらを踏まえながら、現代社会における愛や同性婚をめぐる「包摂と排除」について論じて頂きました。その際、同性愛者を結婚システムへと包摂することが彼らの「支払い不能性」と密接に結びついていることも指摘されました。

 今回の研究例会への参加者は、14名(報告者、討論者を含む)で、若干こぢんまりとした会合になりましたが、参加者の中から今回の報告に関する本質的で興味深い質問が数多く出され、また、ご報告自体の内容の質の高さ、討論者のお二人の入念なご準備、森川氏の巧みな通訳のお陰もありまして、議論そのものは非常に盛り上がり、有意義な会となったという印象をもちました。この場を借りまして、改めまして、ご報告、通訳、ご討論、ご参加頂きました皆様にお礼を申し上げたいと思います。

研究委員:本田 量久(東海大学)・中西 祐子(武蔵大学)
担当理事:水上 徹男(立教大学)・宇都宮 京子(東洋大学)
(文責:宇都宮 京子)

2013年度 第2回

 本テーマ部会の目的は、「自己について語る」という営みについての理論を再検討することです。


 自分自身について物語るという営みについて1990年代から2000年代初頭にかけて様々な理論的検討がなされてきました(ライフ・ヒストリー/ライフ・ストーリー論、自己物語論)。それらの検討を通して、自分自身についての語りが、語りがなされる時点からの遡及的な再構成であること、語り手と聞き手との相互行為に依存して構成されること(「ヴァージョンの展開」)、語りがつねに現時点での自己再帰性(「再帰的プロジェクトとしての自己」)の一環としてなされることなどが明らかにされました。 その一方で、いくつかの難題も明らかになっています。例えば、語られる物語はヒストリーなのか(「今ここ」での)ストーリーなのか(自分「史」なのか「自分」史なのか)、物語は事実なのか、付与された意味なのか(「偽記憶」問題)、そもそも分析対象は「物語」なのか(物語が埋め込まれている)「関係」なのか、等々。

 続く2000年代は、経験的な研究を蓄積する時期であったといえるでしょう。様々な領域で、様々な人々の自己語りが聞き取られ、検討され、分析されてきました。またその自己語りを支援し、増殖させる社会的な仕組み(「自己啓発」「自己分析」等)についても調査研究が行われてきました。では2010年代も半ばに入ろうとする現在、経験的研究の蓄積を踏まえて、理論を振り返ってみたときどのようなことがいえるでしょうか。かつて見いだされた問題は解決(あるいは脱問題化)されたのでしょうか、それとも放置されたままなのでしょうか。後者の場合、現時点での知見から、かつての問題について何がいえるのでしょうか。このような問いかけは、同時に、現在も旺盛に進められている自己語りの研究の理論的な含意について振り返る機会にもなるはずです。

 このようなテーマに基づき下記のように研究例会を行ないます。多くの方の参加をお待ちしています。

開催日程

テーマ: 自己/語り/物語の社会学・再考
担当理事: 小林多寿子(一橋大学)、浅野智彦(東京学芸大学)
研究委員: 鷹田佳典(早稲田大学)、中村英代(浦和大学)、西倉実季(同志社大学)、牧野智和(日本学術振興会)
日時: 2014年3月15日(土) 14:00〜17:30
報告者: 伊藤秀樹(東京大学社会科学研究所 特任研究員)
三部倫子(お茶の水女子大学 リサーチフェロー)
司会: 牧野智和(日本学術振興会)・西倉実季(同志社大学)
会場: 一橋大学国立西キャンパス 本館1階特別応接室
   (国立市中2-1  JR国立駅下車南口から徒歩6分)
<キャンパスマップURL>
http://www.hit-u.ac.jp/guide/campus/campus/index.html
  [連絡先] 東京学芸大学
〒184-8501 東京都小金井市貫井北町4-1-1
浅野智彦研究室 E-mail:tasano@u-gakugei.ac.jp(@を半角にして送信下さい)
 

研究例会報告

 テーマ部会Bの研究例会は、3月15日の14時から4時間弱にわたって、一橋大学国立キャンパスで行なわれました。6月に行なわれる大会のテーマ部会に向けて、人々の「語り」を対象として意欲的な研究を行っている若手研究者に報告して頂き、議論をしました。
 第1報告者の伊藤秀樹さん(東京大学社会科学研究所・特任研究員)からは「『実証主義』的フィールドワーカーの憂鬱」と題して、最近発表された論文の土台となったご自身のフィールドワークのあり方について理論的に振り返って頂きました。その中で、第1に、インタビューで明らかにされたものが「事実」であるのか、相互行為における「構成物」なのかという問いは文脈依存的にしか答えられないものであること、第2に方法論はリサーチクエスチョンと実践的意義とに定位して決まってくるものであることが論じられました。
 第2報告者の三部倫子さん(お茶の水女子大学・リサーチフェロー)からは「フィールドワーカーが自己を無視できないとき」と題して、調査対象について論文で記述する際に自分自身をどのように位置づけるかという点に関して検討して頂きました。一方においてフィールドワークの場で自己開示することは、調査者自身と対象者との間に疑似親子関係を生み出すことになるのだが、他方において知見の記述の中ではその関係性は潜在化してしまう。このことが調査者・被調査者関係のあり方(例えば、両者の差異をどのように保持するのか)と関わっているのではないか、という問題提起がなされました。
 当日は65名の方々の参加を得て、活発な議論がかわされました。各自の経験の紹介を交えながら、報告者のご報告をめぐって様々な角度から検討ができたと思います。参加いただいたみなさまに感謝し、お礼申し上げます。

担当理事:小林 多寿子(一橋大学)・浅野 智彦(東京学芸大学)
研究委員:鷹田 佳典(早稲田大学)・中村 英代(日本大学)
・ 西倉 実季(同志社大学)・牧野 智和(日本学術振興会)

(文責:浅野 智彦)

2013年度 第3回

第3回研究例会 修論フォーラムのお知らせ

 前号ニュースでお伝えしましたように「第3回研究例会 修論フォーラム」を、今年度は日本女子大学(目白キャンパス)での学会大会の第1日、6月21日(土)9:30〜12:30に開催します。これは、2013年度に修士論文を提出した大学院生がその内容を報告し、他大学に所属する会員が論文を事前に読んだうえでコメントして、フロアの参加者とともに討論するものです。
 前号ニュースでの募集に対して20名を越える方々からコメンテーター依頼のための会員一覧の請求があり、過去最大級の申込数となりました。そして結果的には手続き上大きな不備があった方ならびに急遽辞退した方を除き、17名の方の報告を決定いたしました。コメンテーターは申込者自身が希望した先生方にお願いしておりますが、例年と同様、希望がかなわなかったケースもあります。ご多用の中お力添えくださるコメンテーターの先生方には、厚く御礼申し上げます。
 各報告質疑をあわせ約60分を予定しています。大学院生をはじめ、会員・非会員を問わず、多数の皆さまのご参加と活発な議論を期待しております。
 なお、大会自体の受付開始は13時30分です。ぜひ午後の大会にも引き続きご参加ください。
ところで本修論フォーラムは会員であるコメンテーターの先生方、司会の先生方がボランティアとして多大な労力を払うことによって成立するものです。大会の正式部会ではないため、正式部会以上に皆がボランタリーに協力し合う性質が色濃いという点、どうかご理解いただきたいと思います。また近年の報告希望者数の激増により、従来の形での開催を再考する時期に来ているということも申し添えておきます。

山田 真茂留(研究委員会委員長)

 

第3回研究例会 修論フォーラム開催報告

 今年で9回目となる修論フォーラムが第3回研究例会として、大会と連動する形で6月21日の午前、日本女子大学目白キャンパスにて開催されました。今回、修士論文の概要を報告したのは2013年度に修論を提出した17名です。6つのセッションそれぞれではコメンテーターから鋭い論点の数々が提起され、またフロアの参加者を交えた活発な討論が行われました。
 大会の正式部会ではありませんが、報告者の方々の熱意と、そして会員であるコメンテーターの先生方、司会の先生方、開催校のスタッフの方々の多大なご尽力によりまして、過去最大級の規模となりました修論フォーラムを無事終えることができました。ご関係の皆さまに厚く御礼申し上げます。

山田 真茂留(研究委員会委員長)