2015年度 第1回

 本テーマ部会のねらいは、「性的身体」に対する規範的なまなざしや介入を問うことで、排除や暴力をめぐる現代的な課題を考察することです。
 「性的身体(身体は性的である)」という近代的な概念――人間の身体は性欲で満たされており、それに導かれて恋愛や結婚、性交渉や生殖をめぐる諸活動をするという考え方(澁谷知美『立身出世と下半身』2013: 21)――を脱構築しようとするセクシュアリティ研究は、1990年代半ばにはすでに、一定の成果をあげています。
 性的身体をめぐる女性の経験を問題化することは、第二波フェミニズムの中心的な課題でしたから、1980年代以降、日本の歴史的背景をふまえた多岐にわたる研究が次々と蓄積されていきました。1995年時点での研究の到達点は、『日本のフェミニズム6 セクシュアリティ』(岩波書店)というアンソロジーで知ることができます。1996年には『岩波講座 現代社会学』の第10巻として『セクシュアリティの社会学』が上梓されていますが、その頃までに社会学(や社会史)は性的身体を研究の対象にとりこんでいました。男性の性的身体の構築過程を明らかにしようとする研究が目立ってきたのも、1990年代の中頃です。
 それから約20年が経ち、日本社会は、多様な性的身体への寛容さを増しつつあるようです。それに応じて、以前には可視化されなかった(語られることのなかった)問題も、少しずつ見える(聞きとれる)ようになりました。このテーマ部会では、新たに見えるようになった排除や暴力の経験をとりあげ、そうした経験を作り出す支配的な規範や公的な制度を明らかにすることで、現代日本のありように迫りたいと思います。
 このような問題設定にもとづき、第64回大会2日目午後(6月5日)に開催されるテーマ部会では、加藤秀一さん(明治学院大学)、三部倫子さん(日本学術振興会特別研究員PD)に「生殖」という領域に焦点を当てたご報告をお願いしています。
 それに先立つ2月の研究例会は、下記の内容で、4名の方にご登壇いただきます。多くの皆さまのご参加をお待ちしています。

開催日程

テーマ: 性的身体の現代的諸相
日時: 2016年2月14日(日)14:00〜17:30
報告者と報告タイトル:

三部倫子(日本学術振興会特別研究員PD・首都大学東京)
「女性カップルの“妊活”(仮)」
永山聡子(一橋大学大学院・日本学術振興会特別研究員DC)
「医療に包摂される母乳育児:WHO・ユニセフ認定制度 "Baby Friendly Hospital" に着目して(仮)」

討論者:

藤井ひろみ(神戸市看護大学)
森山至貴(東京大学)

司会: 杉浦郁子(和光大学)
会場: 東京大学駒場Tキャンパス 2号館 308号室
連絡先: 東京学芸大学
〒184-8501 東京都小金井市貫井北町4-1-1
苫米地伸研究室(E-mail: tschin@u-gakugei.ac.jp)
[テーマ部会B]
担当理事: 苫米地伸(学芸大学)、杉浦郁子(和光大学)
研究委員: 鶴田幸恵(千葉大学)、
湯川やよい(一橋大学社会学研究科特別研究員)
 

(杉浦 郁子(担当理事))

2015年度 第2回
 本テーマ部会では、現代の都市生活における〈場所性〉の意味や機能について多角的に再検討してみたい。21世紀の今日、従来の地域共同体(地縁等)とは異なり、またメディアが媒介するいわゆる〈無場所性〉の現象とも異なる、新たな関係性が都市空間のさまざまな局面で確認されつつある。それらは、一見、従来的な意味での地域を越えたつながりと見えるが、実際には特定の空間(〈場所性〉)を結節点として関係の形成、維持が図られている。これらの多くはメンバーの共通の関心をもとに自発的に形成されたものであり、関心縁や趣味縁とも重なる。こうした関心縁や趣味縁によって形成される関係性は、「新たな地縁」や「新たなコミュニティ」となりうるものなのだろうか? そして、そうした新たな関係性が結束力に伴う親密性と同時に排他性をも内包していることにも注目したい。それら両面の効果に関しても過不足なく検討していきたい。以上のような問題意識に基づき、本テーマ部会では主として都市文化や都市社会の文脈から現代の〈場所性〉を再考し、その特質と課題について多角的に議論を深めていくことを目指したい。
 そこで、研究例会ではオンラインとオフラインが交錯する場としての都市文化・若者文化に着目し、気鋭の若手研究者お二人からの報告を踏まえた活発な議論を行いたい。今日、日常のコミュニケーションやメディア・コンテンツの消費が対面的な場からネット上へと移行するにしたがい、むしろ特定の場所へ現実に人々が集まることに対して特別な意味が付与されているようにもみえる。オンラインのつながりが前景化した現在、人はなぜわざわざ時間と手間をかけて遠く離れた場所に集まるのか。
 研究例会では、「コミックマーケット(コミケ)」と「ロックフェスティバル」の2つの事例を取り上げ、現実の空間・文化・経済をめぐってどのようなやり取り、相互行為がなされ、参加者たちがそれらにいかなる価値を見出しているか、実証的な観点からの研究報告および会員を交えての議論を通じて、オンラインとオフラインにおける場所性と祝祭性の問題を掘り下げていきたい。多くの皆様のご参加をお待ちしています。

開催日程

テーマ: 現代都市における〈場所性〉・再考
日時: 2016年3月13日(日)14:30〜18:30
会場: 首都大学東京 秋葉原サテライトキャンパス
東京都千代田区外神田1-18-13 秋葉原ダイビル12階
報告者と報告タイトル:

七邊信重(マルチメディア振興センター)
http://researchmap.jp/hichibe/
「なぜ人はコミケに集まるのか」
永田夏来(兵庫教育大学)
http://www.n-nagata.com/
「ロックフェスに「帰る」人々――フジロックフェスティバルにみるインターネットと現地の交錯」

司会: 芳賀学(上智大学)、山本薫子(首都大学東京)
担当理事: 芳賀学(上智大学)、山本薫子(首都大学東京)
研究委員: 久保田裕之(日本大学)、原田峻(立教大学)
アクセス: JR山手線、京浜東北線、総武線「秋葉原駅」より徒歩1分(電気街口)
つくばエクスプレス「秋葉原駅」から徒歩2分
東京メトロ日比谷線「秋葉原駅」から徒歩5分
東京メトロ日比谷線「末広町駅」から徒歩5分
連絡先: 首都大学東京 都市環境科学研究科 山本薫子研究室
東京都八王子市南大沢1-1
E-mail: kahoruko@tmu.ac.jp
 大会シンポジウムでは都市における商店街をめぐる近年の変化に着目したい。今日、再開発、ジェントリフィケーション、セキュリティなど、先進諸国の都市における商業空間をめぐる問題が数多く指摘されている。同時に日本の商店街では高齢化、衰退などの課題が目立つと同時に、イベント等の地域おこし、福祉的ニーズへの対応や居場所づくり、観光化等の変化や新たな取り組みも生まれている。このような状況、変化を踏まえ、今回のシンポジウムでは現代日本の都市における商店街の〈場所性〉について多角的な視野から議論を行うと同時に、都市における〈場所性〉の再考へつながる論点を検討したい。
 

(山本 薫子 (担当理事))