2016年度 第1回

 テーマ部会Bでは、前年度に引き続き、「性的身体に対する規範的なまなざしや介入を問うことで、排除や暴力をめぐる現代的な課題を考察する」というねらいのもと、具体的なフィールド報告を取り上げていく予定です。前年度は「生殖」に関わって新たに浮上している問題に注目しましたが、今年度は「暴力」にかかわる問題を中心に据えて議論していきます。
 今年2月に開催する研究例会では、大島岳さん(一橋大学大学院・日本学術振興会特別研究員)と宮田りりぃさん(関西大学大学院)にご報告をお願いしています。
 大島さんは、ゲイ男性かつHIV陽性者の重層的な苦悩の経験にアプローチすることを通し、病とスティグマ、ジェンダーとセクシュアリティが交錯する領域に着目しています。研究例会では、異性愛男性の3倍以上とされるゲイ男性の性被害についてご報告いただきます。ゲイ男性30名のライフストーリーにもとづき、性暴力の長期的な影響と回復の様相、あるいは苦難を抱えながら生きていくことの様相を明らかにしていただけることと思います。
 宮田さんは、HIV予防啓発の活動に携わりながら、トランス女性のHIV感染症や薬物にかかわる「問題」はなぜ潜在化しやすいのかという問いに取り組んでいます。研究例会では、女装系店舗でのフィールドワークをもとに、トランス女性が直面する暴力についてご報告いただきます。健康や安全の面で脆弱な環境に置かれやすいトランス女性たちの事例を、社会状況との関連から描き出していただけることと思います。
 お二人の報告は、いずれも、身体に対する規範的なまなざしが過酷な暴力を生むだけでなく、被害の潜在化をうながすという基本的な事実をあらためて確認させるものになるでしょう。のみならず、性指向や性自認にもとづく偏見が被害経験や回復のプロセスをどのようなものにするのか、という観点からの新しい知見をご提示いただけるものと期待しています。
 多くの皆さまのご参加をお待ちしています。

開催日程

テーマ: 性的身体の現代的諸相
日時: 2017年2月18日(土)14:00-17:00
報告者及びタイトル: 大島 岳(一橋大学大学院/日本学術振興会特別研究員)「ゲイ男性の性被害とその後に与える複雑な影響の様相(仮)」
宮田 りりぃ(関西大学大学院)「トランス女性が直面する暴力:女装系店舗をフィールドにして(仮)」
討論者: 湯川やよい(東京女子大学)
司会: 鶴田幸恵(千葉大学)・苫米地伸(学芸大学)
会場: 東京女子大学9号館 9101教室(1F)
連絡先: 東京学芸大学 〒184-8501 東京都小金井市貫井北町4-1-1
苫米地伸研究室
(E-mail: tschin(アットマーク)u-gakugei.ac.jp)
[テーマ部会B]
担当理事: 苫米地伸(学芸大学)、杉浦郁子(和光大学)
研究委員: 鶴田幸恵(千葉大学)、湯川やよい(東京女子大学)
 

(杉浦 郁子(担当理事))

2016年度 第2回

 本テーマ部会は、2016年3月の研究例会ではロックフェスティバルを事例にオンラインとオフラインが交錯する場としての都市文化・若者文化について、2016年6月の大会シンポジウムでは商店街をめぐる近年の変化について取り上げ、主に都市文化や都市社会の文脈から現代の〈場所性〉を再考しその特質と課題について議論を深めてきた。2年目となる今期も同様の問題意識を継続し、上記の課題について多角的に検討していくことを目指していきたい。
そして、2017年3月開催の研究例会では「繁華街における共同性」をテーマとして取り上げ、気鋭の若手研究者お二人からの報告を踏まえ、討論者も含めて活発な議論を行いたいと考えている。多くの皆様のご参加をお待ちしています。

開催日程

テーマ: 現代都市における〈場所性〉・再考
日時: 2017年3月18日(土)14:00〜18:00
会場: 首都大学東京 秋葉原サテライトキャンパス
東京都千代田区外神田1-18-13 秋葉原ダイビル12階
地図: http://www.comp.tmu.ac.jp/manycore/images/TMU_AKIBA.pdf
報告者及びタイトル: 三浦倫平(東京大学) 「繁華街における共同性の生成と変化――下北沢地域における「よそ者」に焦点をあてて――(仮)」
武岡暢(首都大学東京) 「新宿歌舞伎町における共同性の諸相――地域コミュニティから地域社会へ」
討論者: 中筋直哉(法政大学)、高木恒一(立教大学)
司会: 山本薫子(首都大学東京)、原田峻(立教大学)
担当理事: 芳賀学(上智大学)、山本薫子(首都大学東京)
研究委員: 久保田裕之(日本大学)、原田峻(立教大学)
連絡先: 首都大学東京 都市環境科学研究科 都市システム科学域 山本薫子研究室
東京都八王子市南大沢1-1
E-mail:kahoruko(アットマーク)tmu.ac.jp
 
◆報告要旨
三浦倫平(東京大学) 「繁華街における共同性の生成と変化――下北沢地域における「よそ者」に焦点をあてて――(仮)」

 繁華街は多種多様な人々が行き交う「都市的な」空間として考えることが出来る。この空間の中で、どのような共同性が生まれるのだろうか。そして共同性はいかに変化するのだろうか。
 下北沢地域は「若者の街」「文化の街」「歩行者の街」といった言説で表象される商業地域と、商業地域の周りを取り巻く閑静な住宅地で構成される。そして、この地域では住民、地主、不在地主、商業者(借家層)、来街者などの様々な主体が存在することで、複数の共同性が生まれてきた。近年では、都市計画(街を横断する道路計画、鉄道の高架化/地下化など)を契機に、「どのような街が望ましいのか」という論点をめぐって、複数の共同性が対立した。その際に、重要なアクターとして「よそ者」が前景化し、複数の共同性に影響を及ぼしたのが、この繁華街における紛争の一つの特徴であった。
 本報告では、どのような社会的背景、歴史的経緯のもとで「よそ者」が前景化したのか、そして「よそ者」は地域に何をもたらしたのか、といった点を切り口に、繁華街における共同性の重層的な様相について検討を試みる。
 
武岡暢(首都大学東京) 「新宿歌舞伎町における共同性の諸相――地域コミュニティから地域社会」

 報告者はこれまで主として新宿歌舞伎町の研究に携わってきた。本報告では報告者が行ってきたフィールド調査に基づいて、風俗産業にまつわる「共同性」のいくつかの側面について歌舞伎町という空間的文脈に関連づけながら紹介する。この内容から、多くの先行研究が採用し、また幾らかの先行研究が相対化を試みてきた、「地域コミュニティ」研究の枠組みを解体、再構成し、新たな研究枠組みとしての「地域社会」研究のプログラムを提案する。
 

(山本 薫子 (担当理事))