2017年度 第1回

 テーマ部会Aでは、「「はたらく」経験へのアプローチ」をテーマに、社会の人びと(当事者)の経験にどのように接近していくことができるか、という課題に対して、主にエスノメソドロジーを基盤に展開してきたワークプレイス研究を手がかりに考察していくことを目的としています。
 今回の研究例会では、ワークプレイス研究が、仕事/労働の現場やそこでのコミュニケーションに焦点を当てたフィールドワーク(エスノグラフィ)を特徴とすることにしたがい、テーマに関する総合的な視点から、人びとの経験を記述する方法としてのエスノグラフィのあり方とともに、その研究知見が実際の労働現場にもたらす意味について検討したいと考えています。そこで、顧客に価値の高い経験をもたらす「エクスペリエンスデザイン」などのコンセプトのもとで、業務現場でのエスノグラフィを通じた企業活動を行ってきた原さんと、専門であるエスノメソドロジー・会話分析を中心とした観点から、行動の分析を通じて企業のサービス現場への貢献を行っている平本さんに報告をしていただく予定です。
 労働や職業を直接の研究対象とする会員の皆さんだけでなく、社会学の研究方法が社会に持つ関わりについて関心のある方々に、広く参加をお勧めいたします。

開催日時

テーマ: 「はたらく」経験へのアプローチ:ワークプレイス研究を手がかりに
日時: 2018年3月3日(土)14:00−17:00
報告者及びタイトル: 原有希(日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ)「業務現場におけるエスノグラフィ調査の実践」
平本毅(京都大学経営管理研究部付属経営研究センター)「はたらく現場とエスノメソドロジー研究:四種の関わり方」
討論者: 秋谷直矩(山口大学)
司会: 是永論(立教大学)
会場: 立教大学池袋キャンパス10号館X204教室
http://www.rikkyo.ac.jp/access/ikebukuro/
連絡先: 立教大学社会学部  〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
是永論研究室(E-mail: ronkore(アットマーク)rikkyo.ac.jp)
[テーマ部会A]
担当理事: 中村英代(日本大学)、是永論(立教大学)
研究委員: 秋谷直矩(山口大学)、森一平(帝京大学)
 
◆報告要旨
原有希(日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ)「業務現場におけるエスノグラフィ調査の実践」

 日立では2003年からエスノグラフィを本格導入し、医療、プラント、鉄道、金融、製造をはじめとする様々なBtoB分野への適用を通じて、業務現場を詳しく観察し、人的観点から本質的な課題を導出し、新たなソリューション・サービス創生を行なっている。
 本発表では、日立が目指す社会イノベーション事業の発展に向けて、エスノグラフィがどのような位置づけにあるのか、また実際にどのような工夫をしながら推進しているのか、そのなかでどのような効果を生み出しているのかについて、実事例を用いて紹介をする。
 また、市場構造が劇的に変化するなかで、ビジネスの実践の場におけるエスノグラフィが直面している課題を挙げ、方法論の進化の可能性ならびに将来展望について参加者の皆様と議論をさせて頂きたい。

平本毅(京都大学経営管理研究部付属経営研究センター)「はたらく現場とエスノメソドロジー研究:四種の関わり方」

 報告者は現在、小売を含めた広義の意味でのサービス産業の「はたらく現場」におけるエスノメソドロジー研究を行っている。エスノメソドロジーは現場での労働の詳細を、その具体性を捨象することなく記述する利点を備えている。それゆえエスノメソドロジー研究の分析結果はしばしば、その内容を現場の実践にどう還元するか(あるいはしないか)が問題にされる。報告者自身の仕事について言えば、研究と現場の関係は、大きく次の四種類に分けられるように思う(括弧内は対象現場)。(1)分析結果を伝える(江戸前鮨屋)(2)分析結果をもとに業務改善案を伝える(スーパー、ハンバーガー屋)(3)分析結果をもとに作成した業務改善案を、現場のオペレーションに落とし込む手伝いをする(イタリアンレストラン、クリーニング屋、ジュエリーショップ、寝具小売店、透析クリニック)(4)分析結果をもとにサービスデザインを行い実装する(アパレルショップ)。本報告では(1)〜(4)について実例を挙げつつ紹介し、はたらく現場へのエスノメソドロジー研究の介入について、どの程度・どんな仕方が望ましいのかを議論したい。
 

(是永 論(担当理事))

2017年度 第2回

 テーマ部会Bは、2年間を通じて「人間の尊厳」について議論することを目的とし、今年度は「移民・難民と人間の尊厳」をテーマとした企画を予定しております。
 今日、観光・留学・就労などを目的として、世界中で多くの人々が国境を越えて移動しています。また、紛争や迫害から逃れるために自国を離れ、外国に入国しようとする人々も少なくありません。国境を越えて移動する背景や動機はさまざまですが、このような人々の多くが自由を求めて欧米諸国に向かっています。
 しかし、民主主義や人権保障の理念を国内外に訴える欧米諸国は必ずしも移民や難民の受け入れに積極的であるとは限りません。西欧諸国では、市民がテロ事件や治安悪化に不安を抱くなか、極右政党が勢力を広げています。米国でも同様の傾向が強まっています。2017年にはメキシコ国境に壁を建造し、「不法移民」を取り締まることを公約に掲げたトランプ共和党候補が白人保守層から支持を受けて大統領に就任しました。それ以降もトランプ政権はイスラム圏出身者を対象とする入国制限を実施しました。
 このような近年における白人保守層の右傾化や移民排斥的な政策は、新しい現象ではありません。しかし他方で、米国は、個人の自由を最大限に保障するというアメリカ的価値に基づき、積極的に移民や難民を受け入れてきた長い歴史もあります。米国だけではなく、西欧諸国にも共通するこのような二面性は、どのように理解したらよいでしょうか。
 「移民・難民と人間の尊厳」をめぐるさまざまな論点を踏まえつつ、第2回研究例会では飯尾真貴子さん(一橋大学大学院/日本学術振興会特別研究員DC2)と河合恭平さん(川崎市立看護短期大学)に報告をしていただく予定です。飯尾さんは米国メキシコ移民研究、河合さんはH・アーレント研究を専門とする新進気鋭の若手社会学者です。実証研究と理論研究の双方から議論を深めることで、「移民・難民と人間の尊厳」の実態、理念としての妥当性、実現可能性とその条件を重層的に捉える視座が広がるでしょう。皆さまのご参加をお待ち申し上げます。

開催日程

テーマ: 移民・難民と人間の尊厳
日時: 2018年3月21日(水)14:00−17:00
報告者及びタイトル: 飯尾真貴子(一橋大学大学院/日本学術振興会特別研究員DC2)「アメリカ合衆国の非正規移民をめぐる包摂と排除の境界線と抵抗の実践――若者移民によるドリーマー運動に着目して」
河合恭平(川崎市立看護短期大学)「尊厳概念における人間と生命――移民・難民・亡命者に関するアーレントの記述から」
討論者: 本田量久(東海大学)、小山裕(東洋大学)
司会: 昔農英明(明治大学)、石島健太郎(帝京大学)
会場: 東洋大学白山キャンパス6214教室
http://www.toyo.ac.jp/site/access/access-hakusan.html
連絡先: 東海大学 〒151-8677 東京都渋谷区富ヶ谷2-28-4
本田量久研究室(E-mail: kazuhisa-h(アットマーク)tokai-u.jp)
[テーマ部会B]
担当理事: 本田量久(東海大学)、小山裕(東洋大学)
研究委員: 昔農英明(明治大学)、石島健太郎(帝京大学)
 
◆報告要旨
飯尾真貴子(一橋大学大学院/日本学術振興会特別研究員DC2)「アメリカ合衆国の非正規移民をめぐる包摂と排除の境界線と抵抗の実践――若者移民によるドリーマー運動に着目して」

 近年の米国における移民規制の厳格化と特定の移民層に対する暫定的権利付与プログラム(DACA)を概観することで、どのように非正規移民に対する包摂と排除の線引きがなされてきたのかを明らかにする。そのうえで、「ドリーマー」と呼ばれる幼少期に両親に連れられて米国に移住した若者移民らが牽引する移民運動に着目し、かれらがいかにしてこのような線引きに抵抗する主体として立ち上がってきたのか論じる。このような米国社会における非正規移民の包摂と排除の境界線をめぐる論理とそれに抵抗する実践を実証的に検討することで、現代社会における「人間の尊厳」の限界とその可能性を考える一助としたい。

河合恭平(川崎市立看護短期大学)「尊厳概念における人間と生命――移民・難民・亡命者に関するアーレントの記述から」

 尊厳概念の根拠づけに関して、人間および生命をめぐる議論がある。J・ハーバーマスやC・メンケらが触れているように、H・アーレントは、特に両大戦における難民、絶滅収容所等の経験からあからさまになった人権と尊厳の凋落を問題視した。そして彼女は、人権と尊厳が、生命よりも人間によって根拠づけられる必要があると論じた。本報告では、かかるアーレントの主張を構成する論理を解明し、その妥当性および実現性を検証する。その際、テーマに則し、主に、彼女による移民、難民、亡命者に関するテクストを素材とする。
 

(本田 量久(担当理事))