テーマ部会Bは、2年間を通じて「人間の尊厳」について議論することを目的とし、今年度は「移民・難民と人間の尊厳」をテーマとした企画を予定しております。
今日、観光・留学・就労などを目的として、世界中で多くの人々が国境を越えて移動しています。また、紛争や迫害から逃れるために自国を離れ、外国に入国しようとする人々も少なくありません。国境を越えて移動する背景や動機はさまざまですが、このような人々の多くが自由を求めて欧米諸国に向かっています。
しかし、民主主義や人権保障の理念を国内外に訴える欧米諸国は必ずしも移民や難民の受け入れに積極的であるとは限りません。西欧諸国では、市民がテロ事件や治安悪化に不安を抱くなか、極右政党が勢力を広げています。米国でも同様の傾向が強まっています。2017年にはメキシコ国境に壁を建造し、「不法移民」を取り締まることを公約に掲げたトランプ共和党候補が白人保守層から支持を受けて大統領に就任しました。それ以降もトランプ政権はイスラム圏出身者を対象とする入国制限を実施しました。
このような近年における白人保守層の右傾化や移民排斥的な政策は、新しい現象ではありません。しかし他方で、米国は、個人の自由を最大限に保障するというアメリカ的価値に基づき、積極的に移民や難民を受け入れてきた長い歴史もあります。米国だけではなく、西欧諸国にも共通するこのような二面性は、どのように理解したらよいでしょうか。
「移民・難民と人間の尊厳」をめぐるさまざまな論点を踏まえつつ、第2回研究例会では飯尾真貴子さん(一橋大学大学院/日本学術振興会特別研究員DC2)と河合恭平さん(川崎市立看護短期大学)に報告をしていただく予定です。飯尾さんは米国メキシコ移民研究、河合さんはH・アーレント研究を専門とする新進気鋭の若手社会学者です。実証研究と理論研究の双方から議論を深めることで、「移民・難民と人間の尊厳」の実態、理念としての妥当性、実現可能性とその条件を重層的に捉える視座が広がるでしょう。皆さまのご参加をお待ち申し上げます。
開催日程
テーマ: |
移民・難民と人間の尊厳 |
日時: |
2018年3月21日(水)14:00−17:00 |
報告者及びタイトル: |
飯尾真貴子(一橋大学大学院/日本学術振興会特別研究員DC2)「アメリカ合衆国の非正規移民をめぐる包摂と排除の境界線と抵抗の実践――若者移民によるドリーマー運動に着目して」
河合恭平(川崎市立看護短期大学)「尊厳概念における人間と生命――移民・難民・亡命者に関するアーレントの記述から」
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討論者: |
本田量久(東海大学)、小山裕(東洋大学) |
司会: |
昔農英明(明治大学)、石島健太郎(帝京大学) |
会場: |
東洋大学白山キャンパス6214教室 (http://www.toyo.ac.jp/site/access/access-hakusan.html) |
連絡先: |
東海大学 〒151-8677 東京都渋谷区富ヶ谷2-28-4
本田量久研究室(E-mail: kazuhisa-h(アットマーク)tokai-u.jp)
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[テーマ部会B] |
担当理事: |
本田量久(東海大学)、小山裕(東洋大学) |
研究委員: |
昔農英明(明治大学)、石島健太郎(帝京大学) |
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◆報告要旨 |
飯尾真貴子(一橋大学大学院/日本学術振興会特別研究員DC2)「アメリカ合衆国の非正規移民をめぐる包摂と排除の境界線と抵抗の実践――若者移民によるドリーマー運動に着目して」
近年の米国における移民規制の厳格化と特定の移民層に対する暫定的権利付与プログラム(DACA)を概観することで、どのように非正規移民に対する包摂と排除の線引きがなされてきたのかを明らかにする。そのうえで、「ドリーマー」と呼ばれる幼少期に両親に連れられて米国に移住した若者移民らが牽引する移民運動に着目し、かれらがいかにしてこのような線引きに抵抗する主体として立ち上がってきたのか論じる。このような米国社会における非正規移民の包摂と排除の境界線をめぐる論理とそれに抵抗する実践を実証的に検討することで、現代社会における「人間の尊厳」の限界とその可能性を考える一助としたい。
河合恭平(川崎市立看護短期大学)「尊厳概念における人間と生命――移民・難民・亡命者に関するアーレントの記述から」
尊厳概念の根拠づけに関して、人間および生命をめぐる議論がある。J・ハーバーマスやC・メンケらが触れているように、H・アーレントは、特に両大戦における難民、絶滅収容所等の経験からあからさまになった人権と尊厳の凋落を問題視した。そして彼女は、人権と尊厳が、生命よりも人間によって根拠づけられる必要があると論じた。本報告では、かかるアーレントの主張を構成する論理を解明し、その妥当性および実現性を検証する。その際、テーマに則し、主に、彼女による移民、難民、亡命者に関するテクストを素材とする。
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(本田 量久(担当理事)) |
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