本テーマ部会では、現代社会の記述の困難について議論していこうとしています。かつて、国家権力―住民自治、専門家支配―市民参画、教育―遊び、労働―余暇のように、近代的な大文字の諸価値に新しい価値を対置するという対抗図式が各分野で用いられ、社会学者もそれに掉さしてきました。逆にある時期からは、住民自治や市民参画の理想を掲げることが、コストカットと自己責任を旨とする新自由主義の統治を下支えしてしまう可能性を反省的に指摘することが、社会学者の役割のようになったりもしました。
しかし、そうこうしているうちに、「自治」や「参画」や「選択」の理想は、対抗的なトリックではなく、新自由主義的な自治体政策(統治のモード)のなかに組み込まれて久しくなりました。「〇〇化社会」式のグランドセオリーも、「新自由主義」だという批判も、それが私たちの日常に根付き、そのなかで切実な実践が行われている現状に対し、空を切ってしまう感があります。タイトルになっている「ワークショップ時代」とは、このような時代を大まかにイメージしています。コンサルタントやマネジメント系の論者の記述のほうが力を持っているかにも見える「ワークショップ時代」に、社会学者はどう関わり、それをどう記述したらいいのか、分野横断的に議論をしてみたいと思います。 1年目の研究例会「ワークとアートの現場から」と大会テーマ部会「まちづくり・ワークショップ・専門家」では、ワーケーションやアートプロジェクト、そしてまちづくり等の現場で生じている参加型の趨勢をご報告いただきました。参加者の皆さまのテーマも積極的にご報告いただくワークショップ形式で、コンサルタントとその技法、行政、住民といった諸アクターがどう配置されているのかを、そこに至る歴史的趨勢や、社会学者の関わり方といった問題も踏まえて具体的に検討してきました。2年目は、議論の軸足を、より記述のほうに移していきたいと思います。
まず、3月の研究例会においては、「消費者」と「子ども」をめぐって起きている変化をご報告いただきつつ、既存の消費社会論や子ども論ではなぜそれにアプローチできないのか、オルタナティブな記述をどのように考えているかといった点について、悩みも踏まえてざっくばらんにお話いただく予定です。昨年の研究例会と同様、今回も皆さまの積極的な参加を期待したいと思います。事例や悩みをもってお集まりください。 なお、6月の大会テーマ部会では、「新自由主義と参加の社会学的再構成に向けて」と題して、新自由主義という記述はもう終わりなのかといった点を問い直していきたいと思います。これらの2年目の活動を踏まえ、現代社会の記述の在り方について、以前より広く可能性を見通せるようになることを願っております。
開催日時
テーマ: |
ワークショップ時代の統治と社会記述 ――現代史の社会学的再考―― |
日時: |
2021年3月21日(日)14:00〜17:00 |
報告: |
林 凌(東京大学大学院)、元森絵里子(明治学院大学)
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ファシリテーター: |
加島卓(東海大学)、牧野智和(大妻女子大学) |
会場: |
Zoomによるオンライン形式で開催
研究例会への参加を希望される方は、3月15日(月)までに、以下のリンク先(https://forms.gle/djWhBbHDZMEhPnRE7)のGoogle Formにて、必要事項を記入し、送信して下さい。前日までにオンライン参加に必要な情報をお知らせします。 |
連絡先: |
東海大学文化社会学部 加島 卓
E-mail: oxyfunk[at]tokai.ac.jp ([at]を@に置き換えてください))
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[テーマ部会B] |
担当理事: |
加島 卓(東海大学)、元森絵里子(明治学院大学) |
研究委員: |
仁平典宏(東京大学)、牧野智和(大妻女子大学) |
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◆報告要旨 |
林 凌(東京大学大学院)
「現代社会を「消費社会」として記述するために――統治術としての消費者主権/消費者志向」
消費者の立場をめぐって、社会学は多くの議論を行ってきた。特に消費社会論は生産様式の革新に伴い企業活動が変容し、消費者の需要を統制・操作しようとする試みが支配的となることを論じてきた。 こうした既往研究が有していた問題意識は、現代においても色あせていない。企業による消費者の需要を捉えようとする活動は活発化・高度化している。にもかかわらず、消費社会論の分析図式を現代社会の分析に用いた研究は、活発に行われているとは言い難い状況にある。 本発表では、国家・企業と消費者を潜在的な対立関係として捉える消費社会論の分析図式の問題点を、近年の「統治性」をめぐる議論を参照することで述べ、むしろ現代社会においては国家・企業と消費者の潜在的協調が問題として検討されうることを論じる。最終的には現代社会を「消費社会」という観点から分析する際に有用と思われるいくつかのアプローチ(の可能性)を提示することを最終目標としたい。
元森絵里子(明治学院大学)
「「子ども/大人」の統治・社会の記述――脱学校・まちづくりから教育保障・専門職ネットワークへの言説変容のなかで」
社会学における社会の成り立ちの一つの典型的説明が、子ども期の社会化である。家族と学校で保護され将来に備える子どもという観念の歴史性・近代性が指摘されつつ/されるからこそ、この社会記述は改良を試みられるべきものとして日常と社会学になお深く根づいている。とりわけ、「家族の戦後体制」や「家族・学校・企業のトライアングル」に支えられ、社会化的現実が子どもと社会化エージェントを絡めとっているかに見えた20世紀末、対抗言説・実践として地域での育ちや住民参画の実践が称揚され、社会学でも社会化論の「改良」が提案された。
だが、昨今では、そのような視角が新自由主義と共振する危険性も指摘され、教育保障や生存保障という問題設定や専門職ネットワークという実践形式への注目が集まってきている。この時代変化を視野に入れ、子どもと社会の記述をいかに問い直せるのか、ANTや統治性に注目する欧米の議論も踏まえつつ、フロアと議論したい。
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(文責:加島 卓) |
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