目次


2021年度 第1回

第1回研究例会
コロナ禍の経験を社会学としてどう捉えるか

 2020年春以降の世界的な新型コロナ感染症感染拡大は今日に至るまで現代社会のさまざまな分野において多大な影響を及ぼしている。例えば、「自然災害」では災害に直面した際に人々の協力や助け合いが求められることに対して、このコロナ禍では互いに距離を取ることが前提とされ「個」でいざるを得ない。このことは結果的に社会の中での連携、つながりのあり方、持ち方にも大きく影響した。まだその渦中にいる私たちにとってコロナ禍をめぐる全体状況を包括的に把握することは容易ではない。しかし、ポストコロナをも見据えた時、コロナ禍という現象を社会学としてどのように理解し、捉えることができるのか、という問いは重要となる。
 こうした問題意識を背景に、本テーマ部会では、2022年、2023年の研究例会、大会シンポジウムを通じて複数分野の研究者らとともにコロナ禍の経験や上記の問いについて地域、ジェンダー、エスニシティ、社会階層、情報・コミュニケーション、医療・健康等の分野の横断的な議論を通じて振り返り、検討していきたい。こうした試みはいわゆる連字符社会学の枠を超えた地域学会である関東社会学会だからこそ実現できるものでもある。
 現時点での構想としては、1年目(2022年)は差別、社会的排除に関する課題についてできるだけ現場の実態を把握しながら、かつテーマ横断的に把握するとともに、その作業を通じてコロナ禍における他とのつながりや連携(あるいはそれらの不自由や不在)について検討したい。そこで出た論点を踏まえ、2年目(2023年)はコロナ禍における社会関係の変化について地域コミュニティ、社会運動等の観点から議論を行うことを予定している。2年間の総括として大会シンポジウムでは新型コロナ感染症感染拡大を通じた社会変化やそれまでの議論で抽出された論点を踏まえ、コロナ禍という現象を社会学としてどのように捉えるのか、考えてみたい。例会等では海外事例の報告も検討している。
 2022年3月開催予定の研究例会では、個別の地域コミュニティにおいてコロナ禍前からフィールドワーク等に基づいた緻密な調査研究を行ってきた若手研究者をお招きし、それぞれの場がコロナ禍において、特に地域、ジェンダー、エスニシティ、社会階層の観点から、どのような経験をし、そこでどのような課題が見えてきたのか紹介していただく予定である。その上で、それらの経験を社会学として理解し、捉えるための問いの在処を討論者、フロアとともに議論していきたい。このような狙いから下記のような研究例会を開催いたします。多くの皆様のご参加をお待ちしています。

開催日時

テーマ: コロナ禍の経験を社会学としてどう捉えるか
日時: 2022年3月13日(日)14時〜17時
報告: 藤浪海(関東学院大学)
「コロナ禍で問い直されるフィールドワーカーの視野と前提――横浜市・川崎市臨海部に暮らす移民調査の経験から――」
原めぐみ(和歌山工業高等専門学校)
「コロナ禍で育まれる紐帯:大阪・Minamiこども教室の事例」
討論者: 西野淑美(東洋大学)、大槻茂実(東京都立大学)
司会: 研究担当理事、研究委員
会場: Zoomによるオンライン形式で開催
研究例会への参加を希望される方は、3月9日(水)までに、以下のリンク先のGoogle Formに必要事項を記入し、送信して下さい。前日までにオンライン参加に必要な情報をお知らせ致します。
https://forms.gle/g2WzEaiJ3ZmWdA9QA

連絡先: 東京都立大学都市環境学部都市政策科学科 山本薫子
E-mail: kahoruko[at]tmu.ac.jp([at]を@に置き換えてください)

[テーマ部会A]
担当理事: 小ヶ谷千穂(フェリス女学院大学)、山本薫子(東京都立大学)
研究委員: 小山弘美(関東学院大学)、村上一基(東洋大学)
 
◆報告要旨
藤浪 海(関東学院大学)
「コロナ禍で問い直されるフィールドワーカーの視野と前提――横浜市・川崎市臨海部に暮らす移民調査の経験から――」
 コロナ禍において移民が大きな影響を受けてきたことは、これまでメディアを通じて様々な形で報じられ、学術界からもすでに書籍としてその状況がまとめられてきた(鈴木江理子編『アンダーコロナの移民たち――日本社会の脆弱性があらわれた場所』明石書店など)。そこで繰り返し指摘されてきたのは、「以前から人々の抱えていた社会的脆弱性が感染症拡大により可視化された」ということである。筆者のフィールドとする神奈川県横浜市・川崎市の臨海部においても多くの移民が困難に直面したばかりか、その支援すら以前の体制のまま継続することは困難になり、さまざまな形で問題が噴出した。
 こうした状況を踏まえ今回の報告では、上記報告者のフィールドの事例を参照しつつ、その経験を社会学としていかに引き受けられるのかを議論していきたい。「人々の抱えていた社会的脆弱性が感染拡大により可視化された」ことで、フィールドワークを行ってきた報告者自身が暗黙の前提としていた事柄や視野のあり様はいかに問い直された(あるいは問い直されなかった)のか――この点を再帰的に検討することを通じて、コロナ禍が社会学に与えたインパクトについて考察を深めていきたい。

原 めぐみ(和歌山工業高等専門学校、非会員)
「コロナ禍で育まれる紐帯:大阪・Minamiこども教室の事例」
 2021年3月現在、中央区の外国人比率は8.22%(8.7千人)であり、大阪市の中でも特に外国人集住地域であるといえる。統計的に見る外国人住民の特徴は、女性が男性の1.3倍多いことだ。この街で2012年に起こった外国人母子の無理心中事件をきっかけに、Minamiこども教室という外国につながる子どもやその保護者を支援する団体が発足した。事件の大きな原因は、マイノリティ女性と地域コミュニティとの社会関係が希薄だったことである。そのため、同団体はこれまで、組織内の結束力を強めるだけでなく、有機的に外部とのネットワークを構築しながらその活動範囲を広げてきた。
 本発表では、グラノヴェターの「弱い紐帯の強さ」を応用し、コロナ禍以前に形成された紐帯が、多文化家族にとって役立つのかについて考察する。経済不況下においては、移民コミュニティとホスト社会の地域レベルでの関係が重要になる。特に新型コロナ関連給付金につながる情報や、行政手続き支援をしてくれるヒトに頼る必要が出てきた。また、コロナ禍二年目には就労支援事業が始まり、参加した人がエンパワーされ、新たな就労機会を獲得し始めている。これまで弱くとも着実に形成してきたMinamiこども教室と多文化家族との紐帯によって、多文化家族が社会資源を得ることに成功している。なお、報告者は同団体で長年アクションリサーチを行ってきたが、ジレンマを抱えることが少なくない。社会学を現場にどう活かしていくのか、フロアと議論したい。

 

(文責:山本 薫子)

2021年度 第2回

第2回研究例会
新しい調査法と社会調査教育

 社会調査士資格認定のための標準カリキュラムは、2003年以降社会調査協会およびその前身の社会調査士資格認定機構によって整備され、一定の標準化と質保証が実現されたといえる。本テーマ部会では、標準カリキュラム制定から15年以上が経過していること、および21世紀において調査に関する理論的・技術的イノベーションが相次いでいることを踏まえて、新しい調査法や研究のアプローチが、どのように研究実践の中で理解・活用され、社会調査教育に統合されているか、という問いを提起する。
 デジタル革命は、新しいタイプのメソッドを可能とし、また必要ともする状況を生み出している。例えば、ウェアラブル・デバイスを用いた行動追跡や、ソーシャル・リスニングによるデータ収集の可能性が広がった。スマホの位置情報、血圧、ボディマス指数、遺伝情報など、自然科学で用いられてきた情報も社会学の変数として扱われるようになりつつある。分析手法においても、反実仮想や因果推定には新たな理論とツールが導入されている。調査環境と分析手法の革新を背景として、社会学は他分野と連携を深めるとともに、そのディシプリンの内部においても、質的比較分析やトピック・モデルに例示されるように質的方法と量的方法のシナジーを経験しつつある。本テーマ部会は、社会学者は、こうした変化を自身の研究においてどう受けとめ、また教育のプロセスに統合しているのか、ということを確認する場を設ける。
 そこで、本テーマ部会では、新しい調査法がもたらすかつてない機会を縦覧するとともに、社会調査や分析の未来像を模索したい。2022年には新しい調査法が登場するなかでの社会調査教育を主題として、先進的な取り組みの紹介と、現在の社会調査教育の課題を議論する。2023年には、社会調査の理論的・技術的イノベーションを踏まえ、そもそも調査とはなにか、データとはなにか、データ収集や分析をどう理解するか、という認識論にも踏み込む。
 2022年の研究例会では、下記のとおり、新しい調査実践の可能性と課題に取り組んでいる研究者を迎えて模索します。また後半では参加者の経験を共有するためのラウンドテーブルの時間を設けます。研究者、実務家、大学院生など調査に携わるさまざまな立場の方に参加いただき、情報交換や対話の機会としていただきたいと存じます。

開催日時

テーマ: 新しい調査法と社会調査教育
日時: 2022年3月20日(日)14時〜17時
報告者: 大林真也(青山学院大学)
「デジタル社会調査の研究と教育」
吉川侑輝(立教大学)
「ワークプレイスのなかの調査士教育―エスノメソドロジーの立場から」
脇田彩(お茶の水女子大学)
「オンライン化された社会調査教育の課題と意義」
司 会: 研究担当理事、研究委員
会場: Zoomによるオンライン形式で開催
研究例会への参加を希望される方は、3月9日(水)までに、以下のリンク先のGoogle Formに必要事項を記入し、送信して下さい。前日までにオンライン参加に必要な情報をお知らせ致します。
https://forms.gle/izpjHoAXVvLzyFai6

連絡先: 専修大学人間科学部社会学科 秋吉美都
E-mail: mito.akiyoshi[at]gmail.com([at]を@に置き換えてください)

[テーマ部会B]
担当理事: 渡邉大輔(成蹊大学)、秋吉美都(専修大学)
研究委員: 内藤準(成蹊大学)、齋藤圭介(岡山大学)
 
◆報告要旨
大林真也(青山学院大学)
「デジタル社会調査の研究と教育」
 近年では、ICTの発達やSNSの隆盛により、私たちの社会的世界は大きく変わりつつある。それとともに、そうした社会的世界について日々膨大なデジタルデータが生み出され、蓄積されるようになった。他方では、調査に対する世間のニーズとして、データサイエンスや効果検証(EBPM)に注目が集まっている。かねてより社会学では、社会的世界の記述として、インデプスインタビューやサーベイが多用されてきたが、こうしたデジタルデータの活用や因果推論という点では後れをとっている。
 ビッグデータは多くの社会学理論が必要とする相互行為や関係性に関するデータを大量に含んでおり、(デジタル・フィールド)実験は、社会現象の再現を可能にするという意味で、社会学の発展に重要な役割を果たす。そのため、ビッグデータ収集や実験研究の社会学における蓄積は喫緊の課題である。この課題を解決するためには、社会学のみならず他分野の研究者と共同で研究・教育に従事することが必要である。本報告では、異分野融合学部に所属し、従来型の社会調査だけでなく、デジタル社会調査にも従事する立場から、この問題を検討する。

吉川侑輝(立教大学)
「ワークプレイスのなかの調査士教育―エスノメソドロジーの立場から」
 自身の専門性を教育においてどう活用するかはおそらく、研究者にとってのある程度一般的な実践的課題を構成する。「難しい」けれども「重要な」ことを学生にどう教示するか。広く了解された通説的な説明と、新しい研究成果の間の差異をどのように埋めるか。そもそも、担当しているのが自身の専門に係る科目であるのか。
 調査士科目という制約は、こうした一般的課題を、一層複雑なものとする。エスノメソドロジーを専門とする報告者の場合、その近年における展開や多様性、「質的研究」との関係についての複数の立場、そして社会調査における質的研究のそもそも位置づけなど、それぞれが一筋縄ではいかない論点を構成する。教員が調査士資格を有しているか、あるいは所属する組織において予め定まった教示内容が存在しているかといった個別的な事情も併せて考える必要がある。
 こうした課題は、まずは大学というワークプレイス(職場)においてなされるその都度の授業実践のなかで解消されなくてはならない。こうした関心のもと本報告では、専門性と調査士教育という複層的な関心を調停するやり方の一端を、自身の経験などをもとに報告・検討したい。

脇田彩(お茶の水女子大学)
「オンライン化された社会調査教育の課題と意義」
 量的調査による社会調査実習に対して、近年の研究・社会状況の変化がどのような影響を与え、新たな課題を生じさせているか、平凡な社会調査実習の実践から考えたい。
 パンデミックの影響もあり、社会調査教育の中でインターネット調査を行うことが増えたと思われる。インターネット調査には大きな利便性があるが、特有の倫理的課題や注意点があることが知られており、調査対象者の負担軽減や回収率向上などのための工夫が必要となる。また、調査だけでなく授業・学生指導のオンライン化も進み、情報の共有が容易になる一方で、学生相互や学生・TA・教員間の気軽なコミュニケーションが難しくなるといった影響を社会調査教育も受けている。社会調査実習を担当する教員はこうした調査・教育の変化に注意し、新しい調査・分析の手法を積極的に取り入れて、調査を実施することになる。
 社会調査実習における調査は教育を目的として行われるが、研究上、あるいは社会的に意義のある成果を上げる場合があることにも注目したい。倫理審査を経るなどして、成果を適切な形で公表したり、調査対象者に還元したりできる体制を整える必要性も増していると考えられる。
 

(文責:秋吉 美都)