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年次大会
大会報告:第42回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

 第3部会:日本社会関係  6/12 10:00〜12:30 [3号館3217教室]

司会:後藤 範章 (日本大学)
1. 現代日本の新しい葬墓制について 松本 由紀子 (東京大学)
2. 「タイ米ネズミ混入流言」の理論構造 早川 洋行 (滋賀大学)
3. 建設産業と外国人労働者
−もう一つの市民社会の現実と論理−
丹野 清人 (日本大学)
4. 「地方における私学の役割変化とその要因に関する考察
−T県における事例分析を通して−
河野 銀子 (上智大学)

報告概要 後藤 範章 (日本大学)
第1報告

現代日本の新しい葬墓制について

松本 由紀子 (東京大学)

 現代日本においては、墓不足や墓の後継ぎ難、またその一方で増大する無縁墓が、大きな社会問題となっているが、こうした問題の生じる背景には、自らが無縁になるということについて人々が抱いている不安があると考えられる。ところが、こうした自らの無縁化という不安を抱きながら、新しい仕方でこれに対処している人々がいる。それは90年代に至って活発なものとなった、従来のような長子相続によって維持される墓とは異なった墓葬制の在り方を追及する運動である。

 こうした運動は、基本的に二種のものに分類されると思われる。一つは、戦後の戦争未亡人による「女の碑の会」に始まる合祀墓の系列、もう一つは、スキャタリング、つまり骨を山や海にまき墓を作らないという運動である。ここでは前者から「もやいの会」を、後者から「葬送の自由をすすめる会」を取り上げてみたいと思う。この二つは、無縁という問題に対して、全く逆の方向から取り組みを行なっている。即ち、前者は無縁を有縁化するという仕方で、また後者は無縁という問題が起こるような有縁のあり方を否定するという仕方で、対処しているのである。本研究においては、こうした運動のなかで人々が自らの無縁化という問題をいかに語っているかに注目して、無縁という問題が、どのような社会状況から生まれているのかを考察しようと試みたいと思う。

第2報告

「タイ米ネズミ混入流言」の理論構造

早川 洋行 (滋賀大学)

 本年3年上旬、「タイ米にネズミがはいっていた」という流言が全国に広まった。人々が国産米を求めてスーパーや米屋に行列をつくるというパニックが発生した要因のひとつに、この流言があったことは疑い得ないであろう。本報告では、この事件を取り上げ、なぜこのような流言が発生したのか、そしてこの事件が提起した流言とマス・コミュニケーションのかかわりについての問題に考察を加える。

 現時点(3月18日)では、以下の順序で報告する予定である。
1.流言の発生  a.問題の所在     b.なぜ広まったのか
2.流言の背景  a.基層としての不安  b.なぜ信じられたのか
3.流言の神話性 a.ニュースの流言化  b.なぜネズミなのか
4.流言の影響  a.流言とマス・コミュニケーション b.むすび

 尚、本報告では流言を「コミュニケーション連鎖の中で、短期間に大量に発生したほぼ同一内容の言説」として理解する。拙稿「現代社会における流言」(社会運動理論研究会編「社会運動論の統合をめざして」成文堂)「流言の根底にあるもの」(社会運動論研究会編「社会運動の現代的位相」成文堂近刊)も参照願えれば幸甚である。

第3報告

建設産業と外国人労働者
−もう一つの市民社会の現実と論理−

丹野 清人 (日本大学)

 建設業の在り方は昨今の建設スキャンダルによって世間の注目を集めるようになったが、これまで新聞および雑誌等で取り上げられたものは、モラルの問題またはその特殊な歴史性に還元しがちで建設業そのものが持つ問題の本質は未だ明らかにされていない。そこで今報告では、先ず建設業の価値実現の在り方を考えることによって、この業界がどのようにどの部分から剰余を獲得しなければならないかを明らかにする。それから各国の建設業と日本の現状を比較検討し日本建設業の特殊的な部分と普遍的な部分を考える。最後に以上の分析の具体的事例として、建設業における外国人労働者の事例を取り上げる。

第4報告

「地方における私学の役割変化とその要因に関する考察
−T県における事例分析を通して−

河野 銀子 (上智大学)

 近年、都市部を中心に、特に大学進学を指標とした公立学校に対する私学の地位の上昇が言われている。本研究では、そのような傾向を地方においても見いだし、その地位変動の諸要因を考察しようとするものである。また将来的にはこのような研究を通して、一地方でのエリート形成に学校がどう関与しているかを検討しようとしている。

 今回の発表では、全国でも私立高校在籍者率のもっとも低い県をとりあげ、その地域内での役割変化と要因について考察する。まず、私立高校の役割が、公立高校失敗者の受け皿から公立高校と並ぶ進学校へ、そして今や公立高校を凌ぐように様変わりしてきた実態を資料をもとに把握する。このような役割変化の要因としては、地理的、歴史的側面や社会・文化的側面(交通の発達、進学率の上昇、対抗勢力の衰退、一貫校への期待、教育の平等化によるエリート校の不在、受験産業の拡大・受験の情報化など)、教育行政的側面(設置学科の構成、高校の新設、選抜制度など)、私学の教育内容や方法への努力などが考えられる。今回はおもに高校入試制度との関係を整理し、私学支持層の変容を把握することを主眼とする。

 以上のような考察を通して、地域内での高校の役割分担や県民の教育期待などが確認でき、また今後の動向を推測する手がかりを得ることもできると思われる。

報告概要

後藤 範章 (日本大学)

 第1報告の「現代日本の新しい葬墓について」(東京大学大学院・松本由紀子氏)は、従来の葬墓(≒「イエ」の墓)とは異なった新しい在り方を求める運動が近年盛んになっている背景や今後の展開について、新しい葬墓の二大類型をなす合祀墓タイプの葬墓に取り組む「もやいの会」と散骨タイプの「葬送の自由をすすめる会」の事例分析を通して検討したものであった。議論では、特に「無縁」や「新しさ」の意味/中身をめぐって、やり取りが交わされた。

 第2報告の「『タイ米ネズミ混入流言』の理論構造」(滋賀大学・早川洋行氏)は、「タイ米にネズミが入っていた」という流言の、1)発生(事実経過)、2)背景(心理的基盤/信じられた理由/ザムザの恐怖)、3)伝達(内容変化/流言とパーソナル・コミュニケーション/流言とマス・コミュニケーション)、の各局面について分析したものであった。報告を受けて、都市的環境と流言やうわさとの関連性、ジャーナリズムのあり方などに関する議論が展開された。

 第3報告の「建設業の政治経済学」(日本大学大学院・丹野清人氏)は、バーガーやピオリらのデュアリズム論やサッセンらの世界システム論を批判的に検討した上で、特にテルトルの見解を参考にして、日本の建設業においてなぜ外国人労働力が導入されるのかを理論的に整理しようとしたものであった。外国人労働者をどう捉えるか(合法―違法、移動の自発性―多発性)、push-pull理論の限界性、などをめぐっての議論がなされた。

 第4報告の「地方における私学の役割変化とその要因に関する考察」(上智大学大学院・河野銀子氏)は、非進学校であったT県B高校の進学校化を進めた要因を、B高校内部、他校との関係、文化的・社会的状況、という3つの視点から分析するための枠組みを提示して、考察を加えたものであった。それにつけても、大会“2日目”の“日曜日”の“朝から”、“自由報告部会”が“5つも併設”、という悪条件が重なっているのに、予想(期待)に反して、最初からフロアーが参加者でほぼ埋まっていたのには少々驚かされたし、意見交換も最後まで活発であった。確かに、若さに支えられた感性と知性とパワーこそが、関東社会学会をして、新時代を先導するトップランナー(社会学界のJリーグ的存在!?)にさせ続けている源なのかも知れない。

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