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年次大会
大会報告:第42回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 IV)

 テーマ部会 IV:エリア・スタディ部会 「国際化と異文化の交流」
 6/12 14:00〜17:15 [3号館3303教室]

司会者:柄澤 行雄 (常磐大学)
コメンテーター:伊藤 るり (明治学院大学)  末田 清子 (北星学園大学)

部会趣旨 柄澤 行雄 (常磐大学)
吉瀬 雄一 (関東学院大学)
第1報告: 沖縄県系人の連帯意識の盛り上がりとコミュニケーション・ネットワーク 白水 繁彦 (武蔵大学)
第2報告: 異文化コミュニケーションと文化ナショナリズム 吉野 耕作 (上智大学)
第3報告: 日本研究と日本理解をめぐるいくつかの問題 李 国慶 (慶應義塾大学)

報告概要 柄澤 行雄 (常磐大学)
部会趣旨

柄澤 行雄 (常磐大学)・吉瀬 雄一 (関東学院大学)

 3年目を迎えたエリアスタディ部会の今回のテーマは、「異文化コミュニケーション」である。

 コミュニケーションの問題は、社会学の根本問題ともいえるもので、とりわけ異文化を対象としたエリアスタディを行うにあたっては、避けて通ることのできない重要問題である。にもかかわらず、これまで、この問題を真正面から取り上げたケースは多くはなかったように思われる。

 そこで、本部会においては、それぞれ独自のフィールドで異なった立場からエリアスタディに取り組んでおられる研究者に、エリアスタディにおける異文化コミュニケーションの現在を、具体的な事例を織りまぜながら紹介していただくことにした。

 吉野氏には、日本の地方小都市の住民を対象とした調査に基づいて、異文化理解とナショナリズムのパラドキシカルな関係を、白水氏には、ハワイの日系沖縄人3世を対象とした調査に基づいて、沖縄人のアイデンティティとコミュニケーションネットワークの関わり方を、李氏には、長野県の農村での参与観察に基づいた、異文化としての日本農村を、それぞれ論じていただく予定である。

 フロアも交え活発な議論が行われることを期待したい。

第1報告

沖縄県系人の連帯意識の盛り上がりとコミュニケーション・ネットワーク

白水 繁彦 (武蔵大学)

 海外における日系人の調査に従事していて気が付くことのひとつに、各県人会の中で、沖縄県人会の活動がひときわ活発であるという事実がある。とりわけハワイの、United Okinawan Association (ハワイ沖縄県人会連合会 UOA。市町村人会を中心に48支部からなる)の活動はめざましいものがある。

 彼・彼女らの情熱と連帯意識が誰の目にも明らかにされるのが、年に一度の一大イベント Okinawa Festival である。このイベントで注目に値するのが、各芸能、武道の結社である。これらのパフォーマンスには本部のある沖縄から各種流派の師匠クラスが弟子を引き連れ来場し、ハワイにおける弟子(孫弟子にあたる)とともに技芸を披露するケースが少なくない。沖縄県(出身地)との濃いつながりが見て取れるシーンである。Okinawa Fesival が年に一度の、いわば一過性の情熱表出体であるのに対し、日常的のそれは、1989年に竣工したHawai Okinawa Center である。注目すべきことのひとつは、寄付に応じた5000の個人、家族、事業所の内訳である。ハワイ州の沖縄系住民からの寄付はむろんのこと、日本本土、沖縄県からも寄せられた。とくに沖縄県民からは膨大な寄付が寄せられた。そもそも、この巨大プロジェクトの発端自体、1980年、時の沖縄県知事がハワイ沖縄県移民80年祭に参加した際、持上がったことだと言われる。

 ハワイほどではないにしても南北アメリカを中心とする海外の沖縄県系人の間で連帯意識が盛り上がるなか、海外沖縄県系人と沖縄県民との交流をフォーマルなものにしようという動きが出てくる。こうして1990年8月、沖縄県が主催して「世界ウチナーンチュ大会」が宜野湾市で開催され、世界19ヵ国37地域から2000人以上が参加した。 こうした沖縄県民と海外県系人との交流を促進させることになった原因を考察してみると、(1) 海外県系人コミュニティの事情(世代的心理的要因:二世のリタイアと一世への追憶、エスニック・アイデンティティ覚醒運動の影響、経済的要因:経済的成功等)や、(2) 沖縄県の事情(政治的、心理的要因:本土復帰後の「本土化」の進行、「文化の時代」等)それら諸要因の醸成や要因を結び付けるのにはたらいた(3) コミュニケーション制度(各種メディア、県の交流促進課等)といったものが抽出される。今回の報告では、これらの要因がどの様に機能して今日の様な状況を生むに至ったか、分析をこころみたい。

第2報告

異文化コミュニケーションと文化ナショナリズム

吉野 耕作 (上智大学)

 文化ナショナリズムをめぐる古典的分析では、上からの意図的なイデオロギー操作や動員といった単純な見方が顕著であった。本発表では、第一に、文化の差異に関する考え方が再生産、消費される「市場」過程の中で、必ずしも「意図」が存在しない状況で、文化ナショナリズムが成立する過程を考察する。具体的には、現代日本において日本人の独自性に関する「理論」(すなわち日本人論)が再生産、消費された背景として異文化間コミュニケーションへの興味(文化的差異を意識したコミュニケーションへの興味)に注目する。英語による異文化間コミュニケーションという実際的場面に役立たせる形で、文化の差異に関する「理論」(日本人論)が、英語による日本文化紹介冊子、英会話教材などの出版物の中で大衆向けに「マニュアル化」され、それが大衆消費されることによって、文化ナショナリズムが促進される過程を考察する。第二に、こうした「異文化間コミュニケーション産業」において構築される文化的差異の「理論」の特徴として、日本にとっての文化的他者をアメリカと同一視する「二国中心主義」の意味を検討する。これは、日本文化を特異とする前提が強化される背景を探る上で重要な点と思われるが、アメリカ文化として提示されるものがアメリカ合衆国のナショナリズム・イデオロギーを色濃く反映している点に注目しながら、異文化間コミュニケーションの知識社会学的問題点を考える。全体としては、ナショナリズム研究をグローバライゼーション、消費社会化の流れに結び付け、その際の視点として「異文化間コミュニケーション」を取り上げ、問題提起する。

第3報告

日本研究と日本理解をめぐるいくつかの問題

李 国慶 (慶應義塾大学)

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報告概要

柄澤 行雄 (常磐大学)

 3年目を迎えたエリア・スタディ部会は、テーマを「エリア・スタディと異文化コミュニケーション」として以下のような報告および討論が行われた。

 第一報告者の白水繁彦氏「沖縄県系人の連帯意識の盛り上がりとコミュニケーション・ネットワーク」は、ハワイの沖縄県系人がつくる組織とその活動をビデオを交えて紹介され、他の日系人には見られない沖縄県系人の連帯意識の盛り上がり方、活発な本土との交流の実態をコミュニケーション論の立場から分析された。第二報告の吉野耕作氏「異文化コミュニケーションと文化ナショナリズム」は、ナショナリズム研究をグローバライゼーションや消費社会化の文脈で捉え直すという新しい視点を提示され、日本における文化ナショナリズムが、文化の差異に基づく異文化コミュニケーションへの関心を背景として、「日本人・日本文化論の市場における消費」という形でその意図とは無関係にマニュアル化される形でその意図とは無関係にマニュアル化される形で成立し促進される過程を分析された。

 これらの報告に対して、コメンテーターの伊藤るり氏、末田清子氏から、白水報告に対してはコミュニケーションをめぐる海外沖縄県系人と沖縄人、沖縄系人同士、さらにハワイ社会の中での沖縄県系人のそれぞれのあり方、また沖縄県系人の世代間のアイデンティティのあり方などに関して、また吉野報告に関しては日本人論・日本文化論の80年代における変容、第三世界を含めた異文化コミュニケーションの磁場の多極化、文化ナショナリズムの政治的意図性、などについての指摘や質問がなされた。以後、報告者にフロアの参加者を交えて、異文化コミュニケーションが内包する本質的な問題、異文化コミュニケーション研究の新しい視点、などをめぐって活発な議論が展開された。

 ところで、異文化コミュニケーションと異文化理解は、エリア・スタディ事態の研究テーマであると同時に、それに携わる研究者が直面する基本的な問題でもある。この点、第三報告者として予定していた李国慶氏の「日本研究と日本理解をめぐるいくつかの問題」が同氏の都合上で不参加・取りやめになったことは遺憾であった。これを一つの踏み台として、さらに来年度に向けての議論が深化していくことが期待される。

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