HOME > 年次大会 > 第43回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第1部会
年次大会
大会報告:第43回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第1部会)

 第1部会:社会と文化  6/11 10:00〜12:30 [7号館330教室]

司会:前田 征三 (立正大学)
1. 集合行動論の定義に関する問題 土屋 淳二 (早稲田大学)
2. 社会学と歴史学
――ノルベルト・エリアスの社会像
犬飼 裕一 (早稲田大学)
3. 言語学の倫理と、社会言語学の精神
―ことば研究の「社会学的方法の基準」
ましこ・ひでのり (和光大学)
4. スコットランドのキルトとタータンの文化的意味の変容 岩村 沢也
(神田外語大学・恵泉女学園短期大学)

報告概要 前田 征三 (立正大学)
第1報告

集合行動論の定義に関する問題

土屋 淳二 (早稲田大学)

 今日まで集合行動論は、社会運動のみならず日常生活において頻繁に遭遇する流行や流言、野次馬的群集行動から、危機的社会状況において直面するパニックや暴動にいたるまで、実にさまざまな集合現象や行動エピソードを「集合行動」という概念に一括してカテゴライズしその理論化の対象としてきた。しかしこのような多様な行動類型を集合行動概念の内に包接することが、結果的にさまざまな集合行動類型論をうみだし、逆にその概念自体を曖昧にしていることも事実である。したがってこのような理論的混乱状況から脱却するには、「集合行動とは何か?」という定義の問題に今一度たちかえり、その概念のもつ理論構築への有効性を再度検討する必要があろう。このことから本報告では、各論者による集合行動概念の規定にみられる問題点を指摘し、それをもとに今後の理論化ヘの方向性を探ることにしたい。

第2報告

社会学と歴史学
――ノルベルト・エリアスの社会像

犬飼 裕一 (早稲田大学)

 ドイツの社会学者ノルベルト・エリアスの業績については、これまで重要性が強調され、また多くの翻訳が紹介されているにもかかわらず、その意義を本格的に問う作業が、わが国においてまだほとんど行われていないままである。本報告の目的はエリアスの歴史社会学における社会像がどのように構想されているのかを問うことである。この問いを追求していく際に最も重要になってくるのは、エリアスの歴史社会学にとってのまさに「歴史」の扱われ方の問題であり、本報告でもこの問題を中心にして考察を進めていくことにする。まずはじめにエリアスのなかに社会学と歴史学と方法的接点とその特性を問い、次にこの接点が彼の実例研究(歴史的素材の社会学的研究)においてどのように生かされているのかを考察する。ただし本報告では時間の制約からエリアスの著作の包括的な解釈ではなくて少数の問題に対象を限定し、この著者の特性を端的に浮かび上がらせることに焦点を合わせることにする。本報告で使用するエリアスの著作は、主に『宮廷社会』であり、それ以外の著作も参照しながら、この研究でエリアスがどのような方法を用い、また歴史的素材としての「宮廷社会」をどのように扱っているのかを論じることとする。さらに以上の議論をふまえて、できれば歴史の社会学としての歴史社会学がいかなる可能性を持っているのかということについても若干の考察をしたいと考えている。

第3報告

言語学の倫理と、社会言語学の精神
―ことば研究の「社会学的方法の基準」

ましこ・ひでのり (和光大学)

 ソシュールが社会学者にとりあげられるとき、なぜか無視される論点がある。それは、古典語/文字体系/規範文法/社会的威信/国民国家といった<不純物>にまどわされず独自の価値をもった「固有語(idiome)」が研究対象となるべきであるという、近代言語学の<倫理>である。言語学固有の研究対象を鮮明にするためになされた、<不純物>をよりわける作業は、『講義』のかなりの部分がさかれながら、言語学の対象領域を不当にせばめたと、社会言語学者たちからはげしい不評をかった。しかし、どんなににかよったことば同士であっても、はなして/ききてがちがうと実感できれば、そこには、ウチ/ソトのしきりがあり、ウチがわには自律したラングという体系が実在すること。その実在形式の中心が音声イメージであるということを、あえて強調する必然性があったのだ。実は社会言語学者は生産的でない「父親殺し」をしたにすぎないし、<エクリチュール>論者による批判は、ないものねだりの非難におわっている観がある。ソシュールの<記号学>の構想を社会学的にいかすためには、社会言語学が無意識的にソシュールの<没価値的>態度をうけつぎ、また「非」社会学的なモデルにこだわるチョムスキー派との緊張感を持続させてきたのは、なぜかという、言語学史の知識社会学が必要である。

第4報告

スコットランドのキルトとタータンの文化的意味の変容

岩村 沢也 (神田外語大学・恵泉女学園短期大学)

 近年、日本ではチェック柄のスカートが学校の制服に採用され、また若者のファッション一般にも、タータンあるいはタータン風の格子柄が、スカート、シャツ、傘、鞄、袋等、服地や小物類に使用されている。タータンを用いたプリーツ・スカートは、一般にキルト・スカートと呼ばれ、スコットランドの主として男性の衣装キルトから発展したことは、ファッション誌などで簡単に紹介されているが、意外と正確で詳しい紹介は日本ではほとんど行われていない。1968年にチェック商会の鈴木治己氏が、Robert Bain, Clans & Trans of Scotland (Wiiliom Collins Sons & Co.Ltd, 1938) の訳書を自社で発行したのが、私の知る限りタータンについての日本語の唯―の単行本である。本発表では、キルトとタータンの機能、社会的・文化的意味の歴史的変遷をスコットランドの文献と私のスコッティッシュ.カントリー・ダンスの経験をもとにまとめる。スコットランドの北部のハイランド地方の民族衣装として滞留していたハイランド・ドレスは、ジャコバイト派の反乱、大英帝国の軍事活動に伴うハイランド連隊の創出、19世紀のスコットランド・ロマン主義運動とヴィクトリア女王の影響などを通して、軍服、そして上流階級の社交着に変遷していった。また、タータンは、家数の様にいわれているが、これには近代化の過程で、布地メーカーが布地に名前を付けていったという背景がある。

報告概要

前田 征三 (立正大学)

 1.集合行動の定義に関する問題 土屋淳二(早稲田大学)
 2.社会学と歴史学─ノルベルト・エリアスの社会像 犬飼祐一(早稲田大学)
 3.言語学の倫理と、社会言語学の精神:
    ことば研究の「社会学的方法の基準」 ましこ・ひでのり(和光大学)
 4.スコットランドのキルトとタータンの文化的意味の変容
                岩村沢也(神田外語大学/恵泉女子学園短期大学)

 本部会は、「社会と文化」と題しているが、自由報告部会という性格上、表題に特別の意味があるわけではない。シカゴ学派以来の集合行動概念を概括・整理する事によって当概念の曖昧さの所在を指摘し、さらに近年のイリノイ学派との収斂の可能性を指摘した第1報告に対しては、当概念と社会過程概念との関係や、イリノイ学派との収斂の意義等についての質問があった。第2報告はエリアスの歴史社会学にみられる社会像を、彼の「宮廷社会」を手がかりに検討したものである。これに対して、Figurationを用いることで従来の歴史研究とどのように違うのか、あるいはここで用いられている「価値」がどのような水準で用いられているのか等について質疑がなされた。第3報告は日本の社会学が社会言語学の素養を全く欠いたまま「言語社会学」がなされているのではないかという報告者の問題意識を根底として言語がもつ差別・権力の問題をソシュール・チョムスキー・ブルデューを検討することによって論じた。これに対して報告者自身の実証研究や社会学が関わることの可能性等について議論がなされた。最後の報告はスコットランドの民族衣装にみられるタータンとキルトについてその相違・歴史・社会的意味などが現物資料やスライドによって報告された。フロアーにとってほとんど未知の領域だけに事実確認に関する質問が多く出された。

 以上のように当部会は個性的な4報告がなされたため全体的な討議は不可能であり、また午前の部会のため必ずしも出席者は多くはなかったが、個々の報告については熱心な議論が交わされた。

▲このページのトップへ