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年次大会
大会報告:第43回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第5部会)

 第5部会:医療・死・ボランティア  6/11 10:00〜12:30 [7号館334教室]

司会:嶋根 克已 (専修大学)
1. 企業の社会貢献活動
―その現状と課題―
呉 炳三 (駒沢大学)
2. 市民公益活動とボランティア 青木 利元
(明治生命保険相互会社)
3. 静岡県の医療体制に関する一考察 金子 雅彦 (防衛医科大学校)
4. アメリカ合衆国の葬儀と葬儀社 松本 由紀子 (東京大学)

報告概要 嶋根 克已 (専修大学)
第1報告

企業の社会貢献活動
―その現状と課題―

呉 炳三 (駒沢大学)

 企業における「社会貢献活動」は、今日、様々な形態をもって行われている。しかし、その定義に関しては、企業、研究者などによってまちまちであり、一般に使用されている用語も「コーポレート・シチズンシップ」、「フィランソロピー」、「メセナ」、「企業ボランティア活動」など実に様々である。

 日本における企業の社会貢献活動・ボランティア活動が盛んに訴えられるようになったのは3〜4年前のことであった。社会貢献活動・ボランティア活動の専門の担当部署を設けたり、独自のやり方でその取り組み方をまとめて内外に発表する企業も相次いでいる。

 一方、各企業では従業員のボランティア活動をサポートするため、様々な支援策を模索している。ボランティア休暇・休職制度を取り入れたり、マッチングギフト制度などを採用する企業、ボランティア活動を活性化させるため従業員への情報提供を行う企業など種々様々である。

 本研究においては、企業の「社会貢献活動」の現状と問題点を概観し、今後の課題を検討したい。今後の課題については、その現状分析の結果を踏まえて、その問題を整理し、企業における制度上の問題、公的制度の必要性、企業の社会貢献活動のあり方について論じてみたい。

第2報告

市民公益活動とボランティア

青木 利元 (明治生命保険相互会社)

 ボランティア活動は、市民公益活動を草の根レベルで支え、推進するものである。その行動様式は、自由を原理とし、自主性・創造性・多様性・無償性などを特徴とする。日本の場合は、1960年代後半に「コミュニティ・ケア論」が提唱され、コミュニティ形成のために「行政」の枠を超えて市民の社会参加が求められるようになり、1970年代には一般にまで広かった。

 しかし、ボランティアの振興は、憲法解釈も影響して行政主導で進められてきた。テーマも、時代と共に変化・多様化し、その担い手も、一部の篤志家から主婦層、最近はサラリーマン・OLへと拡大した。

 総務庁「社会生活基本調査」(平成3年)によると、ボランティア人口は、欧米は半数、韓国やフランスは約2割、日本は3割の人がボランティア活動に参加している。日本人は、ボランティア動機として「自己の再発見や自己成長」を第一にあげ、「社会参加」や「社会の役に立ちたい」を第一とする他国と異なっている。

 行政はボランティア活動を振興するため、「評価表彰」「有償化」の問題を引き起している。ボランティア活動は市民の自主性に基づく必要があり、法制・税制面での基盤を作り、ボランティア推進団体と市民を結びあわせる情報提供などの機能を拡充することが今後の課題である。

 今回の研究発表では、これらの課題・問題点について概観し、今後のあり方について論じてみたい。

第3報告

静岡県の医療体制に関する一考察

金子 雅彦 (防衛医科大学校)

 組織体は外部環境からさまざまな影響を受けている。組織社会学の分野では、組織体と社会環境との関係に関する研究が蓄積されており、近年では新制度派組織論や組織生態学など多様な見解が提唱されている。

 本報告では、こうした知見も参考にしながら、静岡県における医療体制(医師数や病院数など)の変遷について若干の考察をおこないたい。

 1970年以降、静岡県の医療体制に大きな影響を与えたと考えられる社会環境上の出来事として、浜松医科大学の設置(1974年)、地域医療計画の実施(1985年)、高齢者保健福祉推進10ケ年戦略(1990年〜)などを挙げることができる。たとえば、浜松医科大学が設置されたことによって、地元での医療スタッフの供給ルートが確立された。また、地域医療計画は、住民の日常生活圏を単位とした医療供給体制のシステム化を目指している。

 こうした社会環境の変化が、静岡県の医療体制全般もしくは県内各地域の医療体制にどのような影響を及ぼしてきているのかを検討する。

第4報告

アメリカ合衆国の葬儀と葬儀社

松本 由紀子 (東京大学)

 アメリカ合衆国社会の葬儀における葬儀社のはたす役割は、日本に比べて遥かに大きいものである。アメリカの葬儀は、見て美しいものであること、また葬儀にまるで生きているかのように見える遺体が展示されることを重視すること、そして式の全体をあたかも死者をホストとするパーティのように進行させることを、宗教や民族を越えた共通の特徴としている。そしてアメリカの葬儀社は専門家である第三者として、遺体の引取から始まり埋葬に終わる葬儀の一切の事柄を請負い、こうした葬儀過程を身内や近隣の人々の手を借りる事無く、死者当人が自らの個性を反映するものとして演出する事を可能にしている。言い換えれば葬儀社は、契約によって働く専門家として、個人を基点としたアソシエーショナルな社会関係の在り方を、死をまつわる場面についても成立させているのである。
 本論文は実際に現地で見学した葬儀社や、葬儀業のライセンスを取るための専門教育機関である葬儀大学の在り方を、そこに働く人々へのインタビューの結果をまじえながら、かつ日本との比較の観点を取り入れながら記述し、以上で述べてきたようなアメリカの葬儀社の社会的な位置付けが具体的にどう成立しているのかを考察するものである。

報告概要

嶋根 克已 (専修大学)

 本部会では4つの自由報告が行われたが、それぞれのテーマ・内容に必ずしも共通性が認められるわけではない。あえていえば、個人の主体的意思を実現するための社会・制度的条件はなにかという問題としてまとめられよう。

 呉炳三氏(駒澤大学)の「企業の社会貢献活動──その現状と課題──」では、企業の社会貢献活動の実態について統計調査の結果をもとにしての、ボランティア活動とそれを支援する企業活動についての現状分析と今後の課題についての報告がなされた。

 青木利元氏(明治生命保険相互会社)の「市民公共活動とボランティア」は、日本におけるボランティア活動の歴史や国際比較をふまえて、ボランティアを行う各人の動機が欧米とやや異なったものであることを明らかにした。またボランティア活動を支援する企業側の問題が取り上げられた。

 呉氏と青木氏の報告に共通する問題意識は、個人の主体的意思にもとづく「ボランティア」活動を支援するために、営利団体である企業は何をなすべきかという、根本的なディレンマに関わっている。フロアーを交えた議論も主にこの問題に集中した。 金子雅彦氏(防衛医科大学校)の「静岡県の医療体制に関する一考察──組織論からのアプローチ──」は、「組織体−環境論」を理論的な枠組みとした上で、静岡県の医療体制について実証的な分析を加えたものである。医科大学の設置が地域医療に多大な変化をもたらしたことが報告された。医師会の影響力および医療技術の高度化という「外的要因」をどのように評価するかをめぐっての議論が交わされた。

 松本由紀子氏(東京大学)の「アメリカ合衆国の葬儀と葬儀社」は、実地調査に基づいた知見によって、米国での葬儀に葬儀社が多大な影響力を有していること、また葬儀の専門家がいかに育成されているかについての現状の報告と分析である。多様な文化階層を内包する米国社会の葬儀の全貌を、どのように把握するかを巡って活発な質疑応答が交わされた。全体としてはまとまりに欠けたテーマ群であったにもかかわらず、個々の報告にたいしては活発な質問が投げかけられた。

 それぞれの問題にたいする会員の関心の高さが感じられた。

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