HOME > 年次大会 > 第43回大会(報告要旨・報告概要) > テーマ部会 I
年次大会
大会報告:第43回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会 I)

 テーマ部会 I 「災害研究と社会学の接点を求めて」
 6/10 14:00〜17:15 [1号館201教室]

司会者:長田 攻一 (早稲田大学)
討論者:吉井 博明 (文教大学)  林 春男 (京都大学防災研究所)  山本 康正 (駒澤大学)

部会趣旨 長田 攻一 (早稲田大学)
第1報告: 「自然災害に関する人文社会系研究のデータベース化」にみる社会学研究 田中 淳 (文教大学)
第2報告: 「災害社会論」の試み〜地域社会論的な視点・方法論・モノグラフの作成 大矢根 淳 (江戸川大学)
第3報告: 社会学における二種類の災害研究 田中 重好 (弘前大学)

報告概要 長田 攻一 (早稲田大学)
部会趣旨

長田 攻一 (早稲田大学)

 このところ、雲仙普賢岳の噴火、釧路沖地震、奥尻島津波被害、そして阪神大震災と、たて続けの大きな自然災害に遭遇して、社会あるいは社会学にとって「災害」とは何かについて、改めて考えざるをえない状況がある。とくに阪神大震災は、災害研究者のみならず、あらゆる社会学者に対して、否応なしに災害を視野に含めて従来の社会学のあり方に再考を促すような大きなインパクトを与えた感がある。

 本部会では、とりあえず「災害研究と社会学の関係」を焦点として、この問題を、災害研究にとっての社会学の位置づけ、逆に、社会学にとっての災害研究の位置づけ、という両面から見ていくことにより、災害という現象に対して社会学はどのように取り組むべきかについて、近年の災害が社会学に提起する問題を踏まえて検討することにしたい。第1報告者には、まず、これまでの「災害」に対する社会学的研究を、研究テーマ、研究方法、研究時期など、いくつかの観点からレビューし、その特徴や問題点を抽出していただくとともに、第2報告者には、戦前からの災害および災害研究を社会の制度や政策などの変容過程と関わらせてその特徴を整理し、社会学が災害研究にどのようにアプローチしてきたのか、また今後していくべきなのかについての問題提起をしていただく。そして最後の報告者には、災害は社会のどのような面を見せてくれるのか、また社会学者は災害に対してどのように関わっていったらよいのかといった問題について報告していただく予定である。

 それらの報告に対して、主に災害研究に携わってきた討論者、およびフロアからの討論を交えて、「災害研究と社会学の関係」の問題を中心に議論を深めていきたい。阪神大震災を初めとする近年の災害が、理論、実証、実践という社会学の認識領域間の関係、社会学的記述や理論化の方法、新たな研究対象領域などについて、どのような問題を提起することになるのかを議論する一つの契機になれば幸いである。

第1報告

「自然災害に関する人文社会系研究のデータベース化」にみる社会学研究

田中 淳 (文教大学)

 標題研究は、平成4年度文部省科学研究重点領域研究「自然災害の予測と防災力」の公募研究として実施されたもので、研究の交流を目指したものであり、社会学の研究評価を目的としたものではない。このため転用には制約も多いが、周辺研究も含め2、089件の文献を含んでおり、以下の傾向は全般的な研究傾向を窺ううえで参考資料となろう。

 第1に研究の目的からみると、防災対策の現状や望ましい方向について議論する研究が一番多く、研究の現状が応用的性格であることがわかる。また、災害実態の全般的な記述は多いものの、災害観や社会構造の変化などの特定の視点から災害事例を分析した研究は少ないことも読み取れる。さらに、特定の災害に依存せず一般化した基礎的な研究もあるが、いろいろな災害事例の間の一般化であり、日常的な社会行動や社会構造との理論的連続性について議論している少ない。

 研究領域については、"災害時の避難行動や意識等人間行動に関する研究"は多いものの"災害と社会構造、地域社会への影響等社会学的な研究"は必ずしも多くはない。しかし、経済学的な研究や法学、政治学関連の研究よりも多い。やはり、特定の災害下での緊急避難的行動の実際を扱ったものが多いく、社会システムの変容に関する研究は少ないことになる。つまり、単発的で短期的な研究が多かったように思われる。

 ただし、これらの傾向は災害規模が構造的変化を捉えるには小さかったためと考えられる。したがって、阪神・淡路大震災は大規模な長期的影響を有することから、このような傾向を変容させる災害と言える。

第2報告

「災害社会論」の試み〜地域社会論的な視点・方法論・モノグラフの作成

大矢根 淳 (江戸川大学)

 災害を対象とする社会学的研究(災害社会論)の視点や方法論について、報告者がこれまで関わったいくつかの被災地域の復興に関する調査研究をもとに問題提起をしてみたい。 1991年の火砕流・土石流被害発生以降継続する雲仙普賢岳噴火災害についてわれわれ研究グループでは、「被災者の生活再建と地域社会の復興」をテーマの大枠に設定し、フィールドワークを蓄積してきた。調査に際しては普賢岳の活動状況・被害の拡大、投入される行政等の諸対策のもと、個々の被災者レベルではいかなる生活再建のプロセスが模索されているのかを中心にヒヤリングを続けた。そこでは、個々の被災者が手持ちの復興機会・ネットワークを「表」「裏」を問わず駆使し、より上位レベルの行政メニューを復興団体単位のロジックで再解釈し自らの復興戦略に取り込んでいく主体的生活再建のプロセスが把握された。また、災害の長期化において生じる社会的問題の位相の転化に際して、復興団体間のビジョンや戦略の違いが時には組織間の葛藤となって表面化したり、それが一定のビジョンに収れんしていく過程が観察された。

 また、今回の阪神・淡路大震災の復興においても、それぞれの地域の履歴(まちづくり協議会等の活動)を考慮に入れると地域復興のバリエーション及びその展開過程は相当豊富に把握される見込みである。また、個々の被災者の生活再建のプロセスもそういった個々の被災地域・復興団体等の個別の分脈においてそれぞれに分析・解釈される必要があろう。

 さて、そうしてみるとわが国のこれまでの長年にわたる被災経験・復興過程の蓄積から学ぶことは大変多いと考えられるところであり、「地域社会における個々の被災者の生活再建」に関して(歴史的資料の再評価を含めて)再構成・再検討する意義はおおいにあると考える。あわせて、上記スタイルによる生活再建・地域復興のモノグラフ作成に関して調査方法論、記述のあり方等に関しても議論を深める必要があると思われる。

第3報告

社会学における二種類の災害研究

田中 重好 (弘前大学)

 社会学における災害研究は始まったばかりである。本来社会学者が取り上げるべき研究テーマが実際には工学の分野で研究されていることも少なくない。社会学における災害研究には二種類の研究がありうる。一つは防災研究で、もう一つは防災という目的に拘束されない災害研究である。

 防災研究は、防災(あるいは減災)という目的をもっておこなう研究である。防災という研究目的が明確である(イデオロギー的に立場の分かれるものではない)だけに、研究課題も明確に提示できる。それは、たとえば、発災時の生命の維持のために、個人はどう行動すべきであり、社会として被災者にいかなる情報(命令を含む)を与え、どういったサービスや物資を提供すべきなのか、緊急社会システム(危機対応組織のあり方など)のあり方、復旧・復興過程においてどういった社会制度が必要となり、そのための被災地域住民間にいかなる合意が形成されなければならないのか、というものである。こうした防災研究の一例としてここでは、発災時の地域内の緊急情報システムを考えてみたい。

 もう一つは、防災という目的は一時的に棚上げにして、災害という時間や社会的場面から社会学的に意味のある事柄を発見するための研究である。防災という目的にとらわれずに、災害を契機として「みえてくる」社会の特徴や構造を研究するものである。第二の研究は短期的には防災を目的にはしないが、長期的な防災を考える場合、重要な研究となる。この具体例として、阪神大震災を手がかりとした現代日本都市の「過集中」の問題をとりあげる。

 今後、社会学の災害研究はこれらの二つの研究が相互に関連性をもちながらおこなわれる必要があると、私自身は考えている。

報告概要

長田 攻一 (早稲田大学)

 阪神淡路大震災が部会発足の契機ではなかったが、それが起きて間もない時期でもあり、本部会では、「災害研究と社会学の関係」に焦点を当て、これまでの社会学における災害研究の性格を踏まえ、他の災害研究との関係の中で社会学がどのように取り組んで行くべきかについて問題提起をすることを狙いとした。

 第1報告者の田中淳氏(立教大学)は、「災害」に対する戦後の人文科学的研究を、テーマ、方法、時期など、いくつかの観点からレビューし、第一に、全体的に、防災対策的研究が多く、社会学の理論化を目指したものは少ないこと、第二に、戦後の研究が、時代とともに変化してきたことを指摘した。つまり、東海地震への関心が高まった昭和50年代までは、全体的に短期的、単発的な研究が多く見られたが、日本海中部地震を契機に情報伝達の研究が関心を呼び、さらに雲仙普賢岳災害を契機に長期的な地域の復興過程を問題にする地域社会学的研究が開始され、阪神淡路大震災によって、大規模で長期的な社会への影響を視野に含めた研究が要請されるであろうとした。第2報告者の大矢根淳氏(江戸川大学)は、とくに地域社会学的視点から、とくに雲仙普賢岳噴火災害被災地における復興に向けた個々の生活者の生活再建のロジック、諸団体の組織力学、社会経済的地域構造の再編を詳細に記述していくことを通じて、災害を契機に、一方で社会調査方法論そのものを見直し、他方では地域社会論の理論的枠組を見直していくことを提唱し、このような問題意識を「災害社会学の試み」と名付けた。そして最後の報告者である田中重好氏(弘前大学)は、社会学における広義の災害研究は、政策科学的ないし政策提言的「災害研究」と、災害を『普段は見えない社会の局面』を顕在化する現象として位置づけ、現代社会の価値から自由な立場から災害を純科学的に研究する狭義の「災害研究」の二つに分け、これまでの社会学はこのどちらにおいても十分な対応をしてきたとはいえないが、とりわけ「防災研究」としての関わりが不十分であったことを、台風災害における情報システムの不備に関する事例に基づいて例証し、阪神淡路大震災が社会学に問いかける意味にも言及して、「災害研究」と「防災研究」の統合の必要性を訴えた。

 討論者の林春男氏(京都大学)からは、主に防災研究に携わってきた立場から、社会学者は「リサーチ・モード」よりは「ボランティア・モード」での関わりを考える必要があり、その観点からのネットワーク化をはからないと社会学における災害研究そのものが立ち遅れる危険性があると警告し、吉井博明氏(文教大学)は、災害のショックをいかにわれわれが忘れやすいかに注意を促すとともに、関東で大地震が起きたときの対応について積極的な提言をしうる社会学になる必要があることを訴え、山本康正氏(駒澤大学)は、災害を非日常的なものとみなしがちな社会学の災害観を改め、災害を日常的な現象として位置づけていくような「災害社会学」の可能性を示唆した。またフロアーからも、災害研究が生活者の視点から再構成されるべきであるといった意見や、防災研究が地域的偏りや研究予算の不公平な配分によって行われてきたことが、阪神淡路大震災への社会的対応の未熟さを生む結果になったのではないかなど、かなり白熱した議論も展開され、参加者の数は予想に反して少なかったが、今後の議論の有効な糸口を与えてくれたように思う。

▲このページのトップへ