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年次大会
大会報告:第46回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第1部会)

 第1部会  6/14 9:45〜12:45 [3号館311教室]

司会:岡村 清子 (千葉大学)
1. 大都市における老後生活の階層性に関する研究(1)
――健康の不平等――
平岡 公一 (お茶の水女子大学)
深谷 太郎 (東洋大学)
2. 職歴等のキャリアと老後経済生活の階層性 野呂 芳明 (東京学芸大学)
3. 大都市における老後生活の階層性に関する研究」(3)
――移住環境の階層性――
武川 正吾 (東京大学)
4. 大都市における老後生活の階層性に関する研究(4)
――趣味・社会参加・ネットワークと社会的不利――
藤村 正之 (武蔵大学)
5. もう一つの民主主義
――住民投票の抗議戦略――
成元 哲 (東洋大学)
中澤 秀雄 (東京大学)
6. 政治的機会と誘因構造 樋口 直人 (一橋大学)・成元 哲 (東洋大学)
中澤 秀雄 (東京大学)・角 一典 (法政大学)
水澤 弘光 (法政大学)

報告概要 岡村 清子 (千葉大学)
第1報告

大都市における老後生活の階層性に関する研究(1)
――健康の不平等――

平岡 公一 (お茶の水女子大学)・深谷 太郎 (東洋大学)

 本報告を含む4題の報告は、1996年度に文部省科学研究費の助成を得て実施した老後生活の階層性と社会政策の関連に関する調査研究の研究報告の一部である。

 この研究のプロジェクトは、高齢期における社会的不平等の再生産のメカニズムとその修正のために社会政策が果たしている機能とその限界を実証的に解明することを目的として実施された。この目的を達成するために、1996年11月に東京都23区内の高齢者を対象として、訪問面接法による調査を実施した。調査客体は、23区内に居住する高齢者から層化2段抽出法により1000名(男女各500名)を無作為に抽出した。有効回収数は、654ケースであったが、男女別にサンプルを分割して分析する時以外は、男女比が母集団の男女比と一致するようにウェートをかけたサンプル(583ケース)を利用する。

 まず本報告では、社会経済的地位が高齢者の健康状態に及ぼす影響に焦点を合わせながら、高齢者の健康状態の規定要因の分析を行う。

 健康度の指標としては、主観的健康度および老研式活動能力指標を用い、分散分析・回散分析等の手法を利用して、社会経済的地位の諸指標および性別、年齢、健康維持習慣等の要因が健康度に及ぼす効果を検証した。基本的な分析結果は、社会経済的地位が、健康度に有意な効果をもつことが確認されたという点であるが、さらに評細な結果については、資料を配布する。この分析結果の政策的含意についても報告する。

第2報告

職歴等のキャリアと老後経済生活の階層性

野呂 芳明 (東京学芸大学)

 本報告では、大都市高齢者の、老後経済生活の階層性と現役時の職業経歴等のキャリアとの関連について分析する。ここで検討する職業階層や職行移動は、被説明項である「老後経済生活」の重要な説明要因と位置ずけられる。しかし、もう少し深い視点も必要であろう。なぜなら、とりわけいちおう職歴を終えた段階にある人々の経済生活を検討する場合に、説明項としての職歴にはそれにとどまらない諸要因の効果も混入してくるように思われるからである。それらは、職業を超えて回答者の「ライフコース」にまで言及するようなものといいかえられるかもしれない。したがって本報告では、(1)学歴(2)職歴(初職、50歳時職業、その後の職歴)、(3)退職金の有無および金額、(4)結婚の有無、(5)現在の収入などの変数を組み合わせることにより、職業を中心とする一連のキャリアという観点からの説明を試みる。

 ちなみに男性回答者のデータを分析したところ、(a)一方には、「高学歴→専門職・事務職への就職→管理職への上昇→定年退職」という経路があり、他方には「義務教育・中等教育→自営業→仕事を続ける/やめる」という経路がある、(b)現在の経済的状況については本人の50歳当時の頃の職業階層的地位との関連が明瞭である、等が確認された。すなわち、二重市場論的なキャリアの区別が現在の経済的生活にも刻印されているのである。

第3報告

大都市における老後生活の階層性に関する研究」(3)
――移住環境の階層性――

武川 正吾 (東京大学)

 本報告では、大都市の高齢者の移住環境の階層性について分析する。分析は、(1)家屋の種類と保有形態 、(2)住宅費、(3)住宅の広さ、(4)居住性、(5)基本属性と居住環境との関係、(6)居住環境と健康との関連、(7)居住環境と社会生活といった視角から行う。なお本報告では、この問題に関する第一次適接近として、以上の点に関して今回の調査で発見された諸事実の紹介を中心に行う。

 予め要点を指摘しておくと、以下の通りである。(a)大都市の高齢者の住環境はおおむね良好であるが、約6%の人々がいわゆる「木造アパート」に住んでおり、彼らの住環境は必ずしもよくない。(b)延べ床面積の平均は94.5平米で、かなり広いが、食寝分離の基準を満たさない住宅が、木造アパートの間では半数近くに及び、(c)居住性を高めるための住宅施設や設備の状況には明瞭な階層性が貫かれている。(d)採光や通風の劣悪な木造アパートが多い。(e)住宅の安全性に対する不安も、木造アパート居住者のあいだ大きい。(f)デモグラフィックな要因による住環境の格差はそれほど大きくないが、社会経済的地位と住環境の関連は非常に深い。(g)住環境と健康の関連はそれほど顕著ではない。(h)住環境と社会生活との関連は顕著であり、家屋別の木造アパートとテニュウア別の民間賃貸の人々とは社会的に疎外され、友人・知人の数も少ない。

第4報告

大都市における老後生活の階層性に関する研究(4)
――趣味・社会参加・ネットワークと社会的不利――

藤村 正之 (武蔵大学)

 老年期の人々にとって、職を退いたり、子育てが終わった後の時間の過ごし方、人間関係の作り方は、その時期の新たな課題という側面とともに、それ以前の段階からの構造的結果としての様相も含みながら現象化してくるものである。青年期、中年期からの興味や志向、他方でそれらを規定する社会的条件の一帰結がそこには存在しよう。趣味・社会参加や社会的ネットワークという一見個人の選択にゆだねられるかのようにみえる現象にも、社会的不利の累積的な結果を確認できるという仮説を設定できる。本報告の仮題は、老年期の人々の趣味社会参加とネットワークの実態を把握したうえで、階層・健康などの基本的な諸要因とそれらの実態との関連について検討することである。

 趣味社会・参加の活動参加と社会的ネットワーク形成においては、社会的に不利な状態にあるもののほうで、それらが不活発あるいは狭い範囲にとどまることが確認され、個人の選択にゆだねられるかのようにみえる領域にも、社会的不利からもたらされる相乗的な作用があることが理解される。他方、サポートネットワークの方でも社会的不利からの影響が多少確認されるが、明瞭なものとは言えず、サポート依頼の内容や依頼内容によって異なる様相を若干しめしている。そこには、現実の人的資源の配置構造や依頼可能な人間関係が多様に展開されていることの証左でもあろう。

第5報告

もう一つの民主主義
――住民投票の抗議戦略――

成元 哲 (東洋大学)・中澤 秀雄 (東京大学)

 今日、政治的アパシーや投票率の低下など、間接民主主義的な政治制度の構造疲労に起因する「脱政治化」が進んでいる。その一方で、住民投票運動や各種のNPO/NGO活動など、通常の制度政治とは異なる論理による「再政治化」が同時進行するなかで、「もうひとつの民主主義」として注目されるのが住民投票運動であろう。条例に基づく初の住民投票が行われたのは、96年の新潟県巻原発の是非をめぐってである。その後、住民投票は基地問題や産業廃棄物問題をめぐって行われ、現在全国的に大きな波を作り出している。

 本報告は、今なぜ住民投票が注目されているのかを解明するために、住民投票を90年代日本における新しい抗議戦略として位置づけ、それが社会的インパクトをもつに至った社会構造上の背景を探る。特に地域の重要イッシューを住民の自己決定の問題として定義するフレーミング戦略が、住民の有効性感覚を高めるようになった地方政治の構造変動を分析する。そこから、ある行為者が採用した抗議戦略が、他の行為者の選択を構造化することによって伝播し、「制度化」する条件を特定化する。

第6報告

政治的機会と誘因構造

樋口 直人 (一橋大学)・成元 哲 (東洋大学)・中澤 秀雄 (東京大学)
角 一典 (法政大学)・水澤 弘光 (法政大学)

 近年欧米や日本の社会運動研究において、運動を取り巻く外部環境を分析するために政治的機会構造(POS)という概念が頻繁に用いられている。POS概念は、社会変動は、それが政治よって媒介される限りにおいて、運動の動員に関係する。従って、その概念は変動する制度的構造や政権側のイデオロギー的傾向によって許容される機会が運動発生のタイミングとその後の成り行きを左右する、そして、POSに応じて抗議形態や運動戦略および運動による政策インパクトが異なってくる、ということを強調する。POS論は従来の運動論が相対的に軽視してきた、マクロの構造変動と運動組織の内部過程とを媒介する概念として非常に有効である。オルソン以来、社会運動の発生・成功に関する研究は運動組織やネットワークが作り出す運動参加のイノセンティブに注目し、運動の外部環境を所与としてきた。これに対し、POS概念は運動の発生・成功を挑戦者からの「プッシュ要因」ではなく、政治的機会の「プル要因」によって説明するところに、その意義を持っている。

 しかしTarrowも指摘するとおり、POS概念はいまのところ運動が行われるすべての外部環境を包括する概念として利用され、分析概念としての明確性を欠いている。その中でも、運動にとっての政治的機会の変化と組織内部の構成員や資源の動員が、どのように関連するのかは論理的および実証的に未解明の課題である。そこで本報告では、挑戦者にとっての政治的機会の変化との関連で、個人の運動参加に関する誘因構造を考慮することによって、実証研究に耐え得るPOS概念の整備・彫琢を目指す。

報告概要

岡村 清子 (千葉大学)

 この部会では、大きく2つのテーマに分かれる6つの報告がなされた。第一のテーマは、文部省科学研究費の助成による共同研究「大都市における老後生活の階層性に関する研究」で、「健康の不平等」(平岡公一・深谷太郎)「職歴等のキャリアと老後経済生活の階層性」(野呂芳明)「居住環境の階層性」(武川正吾)「趣味・社会参加・ネットワークと社会的不利」(藤村正之)の4つの報告である。学歴や職業歴の階層的な視点から調査データを分析し、経済や居住環境という資産形成についてのみではなく、健康や余暇や社会関係にみられる階層性についても明らかにした精緻な報告であった。フロアーからは、分析方法や地域差をどのように取り込んでいくかという重要な意見が出された。第二のテーマは、政治運動を扱った「もう一つの民主主義−住民投票の抗議戦略−」(成元哲・中澤秀雄)と「政治的機会と誘因構造−住民運動の組織戦略を事例として−」(樋口直人・角一典・水澤弘光・中澤秀雄・成元哲)である。最初の報告では、近年全国各地で盛り上がりを見せている住民投票がどのような背景で社会的インパクトを与えているのかを、各地の住民投票のヒヤリング記録を用いて、争点特性と地域特性すなわち政治的機会構造(POS)から解明した。人的資源、時間、資金などの資源に恵まれている「旧中間層を含む保守層」が主体となっていることを明らかにした。次の報告では、戦後日本社会運動の盛衰の要因をマクロな視点から分析するために、住民運動の組織戦略を対象にし、紛争システム(社会運動に反対する政治的行為者)と同盟システム(社会運動に支持する政治的行為者)という政治的機会構造(POS)と運動に参加する人びとの誘因構造という2つの説明変数によって分析し、70年代以降の住民運動の変化のモデルを提示した。フロアーからは活発な議論がなされ、個々の地域特性が複雑であるために事例を一般化することの難しさや政治的機会構造という概念の精緻化の必要性が確認された。当初20人弱で始まった部会も終わり頃には30人を越え、また、異なった2つのテーマで始まった部会であったが、高齢者問題対応への一側面としての分権化や住民運動という今日的な共通の基盤をもつ有益な部会となった。

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