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年次大会
大会報告:第46回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)

 第2部会  6/14 9:45〜12:45 [3号館312教室]

司会:諸橋 泰樹 (尚美学院短期大学)
1. 今日の「家族政策」研究の動向
――1990年代の諸論考を対象として――
小林 理 (明治学院大学)
2. 「赤面する青年」と新しい女
――<恋愛>の発見がもたらしたもの――
小倉 敏彦 (千葉大学)
3. 現代日本における産業と男性の文化 岩間 暁子 (和光大学)
4. 性別職務分離の課程分析 大槻 奈巳 (上智大学)
5. 雇用政策と女性労働
――イギリスMaternity leave法改正(1994)を事例に――
松村 真木子 (お茶の水女子大学)

報告概要 諸橋 泰樹 (尚美学院短期大学)
第1報告

今日の「家族政策」研究の動向
――1990年代の諸論考を対象として――

小林 理 (明治学院大学)

 小子高齢化傾向のさらなる進行と家族の変容によって、日常的な高齢者の介助や高齢人口を将来支える子どもの養育と家族をいかに位置づけていくかが大きな問題となっている。その課題への解答は、今日の福祉政策において家族がいかに位置づけられるかに依っているのではないだろうか。

 このような関心から、1990年代の日本における「家族政策」研究の動向を整理していくことにしたい。対象は、1990年から1997年の間に刊行された著書や雑誌・紀要の論文(対談記事等含む)で、「家族政策」や「家族福祉政策」を主題としているもの(40点程度)を取り上げる。方法は、それらの研究において取り組まれている問題にしたがって若干の区分けを行った上で、個々の研究において「家族」と「家族政策」がいかに捉えられているかをみていくことにする。そうした作業によって、今日の「家族政策」研究がいかなる問題を対象とし、「家族」や「家族政策」をどのように捉えているかを整理したい。

 一方、今日の「家族福祉」研究は、90年代だけでなく、それ以前に多くの重要な成果をみている。したがって、対象資料の制約を考え、今回は「家族政策」文献の網羅的な整理というよりは、1990年代「家族政策」の問題関心の傾向に力点をおいて報告することとしたい。

 以上のように「家族政策」研究の現状を整理した上で、今日の福祉政策における「家族」の位置づけについての課題を考察したい。なお、対象とする文献のリストは当日提示する。

第2報告

「赤面する青年」と新しい女
――<恋愛>の発見がもたらしたもの――

小倉 敏彦 (千葉大学)

 本報告は、明治期の恋愛小説に頻出する「赤面する青年」なる現象を、現在の対人恐怖症論から再解釈したうえで、歴史的諸事象との連関を析出することで、より広い文脈に置き直そうとする試みである。

 すでにヨコタ村上孝之(『性のプロトコル』)はこの現象に着目し、その背景に、当時の青年を捉えた新しい恋愛の理念を推察している。それは、北村透谷が近代的恋愛を近世の性愛から区別するさい主張した、規定のコードや作法への準拠を放棄する “野暮”な態度である。他者との協動作業である「枠」を否定した過剰な自意識は、そこで他意識を失い、硬直する。ヨコタ村上によれば、自意識の病としての「赤面」とは、真剣なるものとしての「恋愛」の成立と同じ現象なのである。

 我々が注目したいのはしかし「赤面」の頻出そのものよりも、むしろ赤面(症)を一表徴とするような「対人恐怖症」に親和的な社会状況が、明治後半期に広く現出してきたという事実である。ここではその一局面として、近世的な性愛の対象とは審美的・制度的にも異なる、新しい他性を帯びた女性が恋愛の対象となっていく様相を論じてみたい。具体的には明治・大正期の文学作品を中心に、男性の目から捉えられた女性像とその恋愛の構造を取上げるが、「赤面」を始めとする恋愛に関わる幾つかの文芸形象はそこで、恋愛の理念を受容しはじめた青年たちの実践上の齟齬の表象であると同時に、新しい女性の他者性を隠蔽し・男性の自尊心を保護する「意味論(Semantik)」として解釈されるだろう。

第3報告

現代日本における産業と男性の文化

岩間 暁子 (和光大学)

 日本社会ではエリートとノン・エリートの境界が相対的に曖昧であり、文化的に両者を区別することは比較的困難であるとされる。したがって、日本においては社会階層と文化の関連性がフランス社会とは異なる形で存在している可能性がある。特に、これまで男性は年功序列制、終身雇用制などの特徴を持つ日本的経営システムの中で長期にわたる職業生活を送ってきたため、「家庭」や「学校」以外に「職業」が個人の文化面にかなりの影響を及ぼしていると考えられる。

 本報告では、文化を「正統文化」と「大衆文化」という「文化資本」の観点からとらえ、職業生活が「文化資本」の形成に及ぼす効果に関して、主に「産業」に焦点をあてて検討する。「業種」はその中に多様な職業を含む形で横断的に組織されており、これは、ブルデューが提示した「場」という概念の経験的対応物であると考えられる。本報告では、「業種」によって異なる特性を「場」の問題として位置づけ、「業種と文化資本の構造には対応関係が存在するのか」という問題について、「1995年社会階層と社会移動全国調査」の男性データ(A票)を用いて実証的に解明する。特に、戦後の日本経済がサービス化を遂げてきた点を踏まえ、第三次産業における「業種」の多様性が「文化資本」の構造にどのようなちがいをもたらしているのか、という点を中心に報告をおこなう。

第4報告

性別職務分離の課程分析

大槻 奈巳 (上智大学)

 本研究の目的は、なぜ、日本における「女子労働」が従来のジェンダー役割をこえたものではなく、内部労働市場における基幹労働力となり得ないのかを、労働過程のなかでどのように性別職務分離が形成されるかを分析し、そこから考察することである。

 具体的には、1996年度におこなった電機メーカーシステムエンジニアの総合職男女を対象とした面接調査とアンケート調査をもとに、(1) 配属と職務の割り当てはどのように決まっているのか、(2) 割り当てられている職務は男女のシステムエンジニアでどのように異なるのか、(3) 割り当てられた職務と昇進の関係、について検討する。本報告では特に、面接調査をもとに、(1) 新任配属がどのようになされ、誰がどのような部署に割り当てられているのか、(2) 配属された部署では、誰の権限でだれにどのような職務が割り当てられているのか、(3) 男女システムエンジニアにおける職務経歴のちがい、を中心に総合職システムエンジニアにおける性別職務分離の形成について考察する。

第5報告

雇用政策と女性労働
――イギリスMaternity leave法改正(1994)を事例に――

松村 真木子 (お茶の水女子大学)

 イギリスは、1980年代以降、出産後も労働を継続する女性が増加している。この増加の一背景要因として、Maternity leave法の改正を検討する。

 イギリスは、1980年代にECの指令を遵守するために、同一賃金法の改正(1983)、性差別禁止法の改正(1986)を実施した。さらに、EUの指令により、Maternity leave法が1994年に最終的に改正され、この制度利用に付されていた一定の勤続条件が撤廃された。その結果、望むものは誰でも、この制度を利用できるようになった。

 本報告は、Labour Force Surveyのローデーターを用いて、Maternity leave法1994年改正がどのように女性労働に反映したのかを検証する。Maternity leave利用者について、1991年および1996年のLabour Force Surveyを比較分析する。

 1994年の改正以前は、利用条件が規定されていたため、利用者の多くは、高度な資格を有し公的セクターに従事するフルタイム労働の女性であったと指摘されてきた。

 LFS調査を比較検討した結果、半熟連労働者にこの制度の利用者の増加が見られた。また、フルタイムとパートタイム労働者の比率は、1996年にはパートタイム労働者の利用が10ポイント増加し、フルタイムとパートタイム労働者の差が縮小した。さらに、この傾向は、準専門職、熟練労働(non-manual)、半熟連労働(manual)へと職業階層が下がるほど顕著であった。

 1994年の改正により、Maternity leave利用者は、職業階層が低い、パートタイム労働者にも拡大したことが確認された。

報告概要

諸橋 泰樹 (尚美学院短期大学)

 第2報告部会は、いわばジェンダーをめぐる多様な研究可能性が示唆される研究報告会となった。

 小林理氏(明治学院大学)「今日の『家族政策』研究の動向―― 1990年代の諸論稿を対象として――」は、90年から97年までの「家族政策」「家族福祉政策」を主題とした著書・論文等約40点を分類・分析し、各研究者における「家族政策」の位置づけと政策における「家族」の位置づけの布置を行った。日本における「家族政策」研究の全体像をスケッチするにはさらに対象を拡げ、また研究のコンセプションズを析出する方法をより洗練させることで、今後は家族政策研究のダイナミックな流れや欠落点を大胆に指摘してほしいという感想を抱いた。高齢化・少子化と政策・研究が進む今後、貴重な研究となるだろう。

 小倉敏彦氏(千葉大学)「『赤面する青年』と新しい女――明治中期における<恋愛の発見>の一位相――」では、二葉亭四迷の『平凡』を例に取りながら、「地女」と「遊女」の明治期男性による二分法が、結局は「地女」に対して主体化できない男性の恐怖=対人恐怖としての赤面に至らしめたと分析される。そして、女性がこの二分法にも還元し得ない新しい「他者」として立ち現れてきた際には、男性は真摯に向き合わざるを得なくなるかさもなくば「一目惚れ」や「兄と妹」や「幼なじみ」といった男性にご都合主義のストーリーで恋愛を語り男の自我の安定をはかることになるという。「男性のミソジニー=女性嫌悪(恐怖)」について、こういったアプローチからの研究も、大変に興味深い。

 岩間暁子氏(和光大学)「現代日本における産業と男性の文化」は、95年SSM調査の男性サンプルを分析する中から、「美術館や博物館に行く」などの「正統文化活動」と「パチンコをする」などの「大衆文化活動」が業種別に対応することを見出し、文化資本の業種別4パターンを描き出すなどした。調査項目として挙げられている「文化活動」が、タイトルにいう「男性文化」とするにはもうひと考察と工夫が求められると思われたが、男性の所属する「業種」と「男性文化」の維持・再生産との関連性が示唆された点は納得ゆくものであった。

 大槻奈巳氏(上智大学)「性別職務分離の過程分析」は、大企業のSEへの全数調査を通じて、女性はサポート業務へ配属されやすい実態、デモンストレーション業務やエンドユーザー教育などに割り当てられる実態などから、性別により分離した職務が形成され、それが「女子向きの仕事」として確立している水平分離のプロセスを明らかにした。また入社時のコンピューター経験や出身学部などの人的資本にかかわらず男性の方が女性よりも資本投下されており、昇進も早い実態などから、垂直分離が形成されていることを見出した。クロス集計を丹念に行うことによって可視化されづらかった性別職務分離がみごとに明らかにされている。

 松村真木子氏(お茶の水女子大学)「雇用政策と女性労働―― イギリスmaternity leave法改正(1994)を事例に――」は、産前産後休暇が労働時間・勤続期間にかかわりなく誰でも取得できるようになり、しかも復職の権利が認められるようになった法改正により、かつては日本と近似していたM字型就労が変容してきたことを、91年、96年の英国政府統計のローデータを再分析によって明らかするとともに、同時に法の問題点をも指摘した。日英の制度環境・経済環境、そして出産・育児をめぐる意識などの相違はあるが、性役割を固定化しない、また女性の働く権利を奪わない、今後の日本の法整備に貢献する研究となった。

 多様なジェンダー研究アプローチに立ち会う幸運を得られ、司会者としても実り多い分科会であった。

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