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年次大会
大会報告:第47回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)

 第2部会  6/12 11:00〜13:00 [112教室]

司会:岩上 真珠 (明星大学)
1. 結婚希望年齢の遅延 中村 三緒子 (日本女子大学)
2. 夫の従業先の性別役割分業規範と妻の就業選択 古宇田 千恵 (中央大学)
3. 『子育て』観と関係性の変容 加藤 裕子 (中央大学)
4. 出産育児期の女性の労働と育児観の関係
−ロンドンにおける事例調査研究−
松村 真木子 (お茶の水女子大学)

報告概要 岩上 真珠 (明星大学)
第1報告

結婚希望年齢の遅延

中村 三緒子 (日本女子大学)

 本研究の目的は、未婚女性における職業キャリア確立の長期化が未婚を長期化させていることを明らかにすることである。

 未婚の長期化に関する従来の研究は、女性の高学歴化や収入の上昇、未婚期の長期就業が結婚年齢を上昇させると説明してきた。しかし、なぜ高学歴化や就業期間の長期化が未婚を長期化させることになるのか、その要因について十分に説明されることはなかった。

 本報告では、先行研究の残した課題の解決を試みる。具体的には、未婚者のみを対象とした社会調査を実施し、結婚希望年齢を遅らせる要因を検討していく。

 本報告では、女性の職業キャリアが安定していなければ結婚年齢は上昇することの説明を試みる。女性の職業キャリアは男性に比べて不安定であるため、職業キャリアの確立は困難である。その結果、未婚は長期化し、結婚年齢は上昇することを考察する。

第2報告

夫の従業先の性別役割分業規範と妻の就業選択

古宇田 千恵 (中央大学)

 既婚女性の就業選択を規定する要因として、従来から、その社会の産業化のレベル、経済体制、学歴構成、性別役割分業規範、などが議論の中心となってきた。しかしそのなかで、性別役割分業規範と既婚女性の就業選択の関係について十分議論されてきたとは言い難い。特に、全体社会の性別役割分業規範が集団をとおして浸透する過程が見過ごされている。会社集団の性別役割分業規範が既婚女性の就業選択に影響を及ぼすルートは2つある。ひとつは労働者として排除するルート、もうひとつは男性労働者の妻として包摂するルートである。しかしほとんどの研究が、二つめのルートすなわち「夫の会社の性別役割分業規範→妻の就業選択」というルートについて論じていない。本稿では、従来の理論に準拠集団理論を応用することで、「夫の会社の性別役割分業規範が妻の就業選択を規定する」という「内助の功仮説」を提唱する。また、既婚女性の就業選択に関する計量分析において、性別役割分業規範の測定変数を直接投入して分析されたものは驚くほど少ない。本稿では1995年SSM調査データを用いて回帰分析を行ない、既婚女性の就業選択に対する夫の会社の性別役割分業規範の相対的な効果を検証した。分析の結果、内助の功仮説に適合的な結果が得られた。

第3報告

『子育て』観と関係性の変容

加藤 裕子 (中央大学)

 A.ギデンズは「純粋な関係性」の概念を用いて、現代は再帰性が増大し、従来の権力的関係性からより対等で選択的な関係へと変容していることを説いている。こうした議論に依拠しながら、戦後日本の親子−とりわけ母子−関係についての考察をする。第一に戦後、親にとっての「子育て」の意味がどのような変遷を辿ってきたかを分析し、第二に、少子化の背景にある「子育て」不安や緊張について社会学的に考察し、第三に、現代「子育て」観の特徴ならびに問題を近代化と関係性の変容との関連で論じることを試みたい。

 戦後の中でもとくに1980年代後半以降、少子化が進行し、合計結婚出生率においても低下の傾向を示しはじめた。この頃から、親にとっての「子育て」の意味に新たな変化が生じはじめたものと考えられる。「よりよく育てる」ことから「子供の人格の尊重」を基調とした子育てへの転換、それに伴う親子関係の再編成が求められるようになった。親の権威的態度に代わって情緒性を基軸にした対等で自立的な関係性形成の模索という「子育て」に課せられた新たな課題は、達成に困難を要するが故に「子育て」の価値を一層上昇させた。その一方で、少子化への社会的注目は、子育て政策の拡充を促すとともに、「子育て」への社会的管理体制を一層強化させることとなった。少子化とも密接に関連している育児に対する緊張や不安の現代的特質は、「子育て」観の転換期を示しているものと考えられる。

第4報告

出産育児期の女性の労働と育児観の関係
−ロンドンにおける事例調査研究−

松村 真木子 (お茶の水女子大学)

 女性が出産育児期に労働を継続するためには、保育の支援策の拡充が必須である。しかし、保育の支援策が整備されれば、女性の労働力率は年齢に関わらず一定に保たれるのであろうか。

 日本には育児休業制度があり、不充分ながらも公的保育所が働く女性に開かれている。しかし、少子化が進み、年齢別労働力率は依然としてM字型を示している。一方、イギリスは、出産休暇のみで育児休業制度が未だ制定されていない。にもかかわらず、1980年代半ばからM字型の底があがり、 90年代にほぼ台形型へ移行した。

 出産育児期に日本の女性が労働市場から退出する背景には、乳幼児は母親が家庭で育てるべきであるという意識がある。労働市場への参入退出が、育児をするのは母親であるという意識に規制されているのである。

 ところで、M字型を示さなくなったイギリスの女性は、労働と母役割との関係をどのように捉えているのであろうか。

 ロンドン北部の出産育児期の女性は、生活レベルを保持するために共同で生活するという意識が強く、女性は家計を分担し経済的役割を担っていた。出産後も労働を継続するか否かの選択には、自分の収入と利用可能な保育支援策にかかる費用との関係が重要な要因となっていた。出産退職後の再就職の時期は、保育料が軽減される2歳頃であり、労働の中断は、良き母役割を全うするためではなかった。

 イギリスにおける出産育児期の女性の労働と子育て観との関係を検討することで、女性が労働を継続しがたい日本の特殊性、すなわち、良き母役割意識を女性自身が内面化していることが顕在化した。

報告概要

岩上 真珠 (明星大学)

 この部会では、次の4報告が行われた。1.「結婚希望年齢の遅延」(中村三緒子 日本女子大学)、2.「夫の従業先の性別役割分業規範と妻の就業選択」(古宇田千恵 中央大学)、3.「『子育て』観と関係性の変容」(加藤裕子 中央大学)、4.「出産育児期の女性の労働と育児観の関係−ロンドンにおける事例調査研究−」(松村真木子 お茶の水女子大学)。1,2は大量観察のデータ分析の結果報告、3はA.ギデンズの概念を使用した戦後日本の子育て観の分析、4は事例を基にした比較文化論的研究と、多様な研究方法からのアプローチであって、まずはそれぞれ興味を引かれるテーマである。ただし、研究報告としては、論拠の妥当性、論証性の点でいずれもやや課題が残ったと思われる。

 そこで、今回の部会を通じて感じたことを2,3述べておきたい。第1に、近年コンピューターの普及で多変量の解析が操作一つで簡単になされるようになったが、分析に際しては変数のもつ意味を慎重に吟味してほしいということである。確かに、相関係数などを用いて数値上相関するとおぼしきことはヤマのように入手できるが、問題は、そのことがもつ意味である。現象に対するリアリティを養う訓練が必要だと感じる。第2に、質的な研究においてある言説や事例を取り上げてそこから何かを論証していく場合には、オリジナルな文脈の全体を把握し、理解する事が大事である。特定の言説の異なる文脈への移植や部分的切り取りは言説の本来の意義を歪めかねず、恣意的にならないよう扱いには慎重を期したい。自由報告が活発に、かつ挑戦的に行われることは大いに奨励すべきことであり、とりわけ大学院生にとっては自己試練の場でもあろと思うが、大学院生の場合には、アプライしたものについて指導教授が一応目を通しておく必要があるように感じた。

 最後に司会としての感想を一言。午前の早い時間帯での部会であったにもかかわらず比較的多くの参加をみた。聴衆の大半は若手の研究者で占められていたように思うが、しかし質疑の時間にはなぜかほとんど手があがらず、誰も質問しないのなら仕方がないといった感じで、ある中堅研究者が「役割」として、本質的な質問をしてくれていた(司会としては大いに助かったが)。自由報告部会は、報告者自身の新規研究発表の場であると同時に、参加者も含めた意見交流の場でもあると思うのだが、その点、若手の活気のなさが気になった。もっと実質的、積極的に「参加」してほしいものである。

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