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年次大会
大会報告:第47回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

 第3部会  6/12 11:00〜13:00 [113教室]

司会:宮野 勝 (中央大学)
1. 普及初期における電話に対する期待と予測
−新しいメディア技術の社会的影響に関する一考察−
松尾 浩一郎 (慶應義塾大学)
2. 社会調査におけるインターネットの位置 大坂 京子 (立正大学)
3. Dieting On Line
−『日記系』ホームページを作るとはどのようなことなのか・公開ダイエットを例に−
吉野 ヒロ子 (早稲田大学)
4. 電子ネットワークと社会参加 池田 緑 (慶應義塾大学)
金澤 朋広 (日本看護協会)

報告概要 宮野 勝 (中央大学)
第1報告

普及初期における電話に対する期待と予測
−新しいメディア技術の社会的影響に関する一考察−

松尾 浩一郎 (慶應義塾大学)

 これまで、さまざまなメディア技術が、発明され、すこしずつ社会に普及してゆき、そして日常的な道具として広く定着してきた。前世紀に発明された電信に始まり、電話、無線、テレビ、コンピュータ・ネットワークと、みな同じような歴史を辿ってきた。新しいメディア技術は、その時その時の社会に、大きな影響を及ぼしてきた。

 このような、メディア史を「回想する視点」からみれば、新しいメディアが社会変動をもたらす原動力になるという、普及過程の一般的な様式を認めることは、たやすいことである。しかし、あるメディアがまさに登場せんとしている時代に生きた人々は、それとはまったく違った視点、いわば「期待する視点」から、そのメディアを見ていたはずである。この二つの視点の違いは、さまざまな意味で、きわめて大きい。

 報告者が考えるに、メディアの普及とその社会的影響をテーマとした研究を進めてゆくにあたっては、「回想の視点」と「期待の視点」とを区別した上で、比較的研究対象になりにくかった後者の視点にも、注目していくことが必要である。

 本報告では、ほぼ120年の歴史を持つ電話を、事例としてとりあげる。電話の普及初期には、人々は電話に対して、どのような期待を寄せ、どのような電話の未来を予想し、どのように社会が変化していくと考えたのだろうか。また、こうした期待や予想は、その後のメディア変容や社会変動と、どのように関係してくるのだろうか。以上のような論点について、議論をすすめていくこととしたい。

第2報告

社会調査におけるインターネットの位置

大坂 京子 (立正大学)

 インターネットを調査の場や手段として用いられないかという関心が、市場調査だけでなく近年社会学の領域でもでてきている。しかしながら、どのような手法によるものかはっきりしないものが多く、その信頼性についての検討はあまりなされていないのが現状である。もちろんすでに数々の調査が行われているし、長所として時間的・労力的・金銭的なコストが削減できると考えられるであろう。そこで本報告ではすでに行われているインターネットでの調査はどのような調査なのか、またインターネットでの調査の可能性について考察を加えたい。

 インターネットにおける調査では対象者の確認はできない。また、ある程度以上のメディアリテラシーを必要とする。さらに、調査対象者の母集団を確定することが非常に難しく、サンプリングしたサンプルがどの程度代表性があるかについても問題を残している。 以上のことを考えると、インターネットでの調査は大きな可能性を持ちながら社会調査法上まだまだ問題があるものである。実際に社会調査を行うにはインターネットのさらなる普及も必要とする。しかし、都市部での訪問面接調査が対象者のライフスタイルや生活習慣などの変化にともない、一方で調査手法としての限界を指摘されることもある中で、なお、社会学が訪問面接調査に意義を見いだすとき、インターネットによる調査はその陥穽を縮め、より精緻化するよすがとなるものと考える。

第3報告

Dieting On Line
−『日記系』ホームページを作るとはどのようなことなのか・公開ダイエットを例に−

吉野 ヒロ子 (早稲田大学)

 「インターネット元年」とよばれた1994年当初インターネットは、個人がマスメディアにはのりにくい情報を独自に発信していくことのできるメディアとして期待されていた。そこでは「ネチズン論」のように、「市民社会」という理念を現実化していく可能性が強調されていた。

 インターネットの利用がしだいに広がり、実際にメディアとして機能しはじめてみると、個人制作のページの多数を占めたのは「日記系」ホームページと呼ばれる、製作者の日常や趣味を公開していくタイプのページであった。インターネットというメディアのインパクトは、従来なら発信する必要性がなかったデータが「情報」として掘り起こされたことにあるとも言えるだろう。しかし、このようなページはなぜ作られ、そこで人々は何をしているのだろうか。

 本報告では「日記系」ホームページの一例として、「公開ダイエット」と呼ばれるダイエット日記を公開していくタイプのホームページを取り上げ、ページの構成の特徴・掲示板への書き込みなど公開されている資料と製作者や参加者へのアンケートなどによって製作者にとって、また閲覧する側にとって「日記系」ホームページを造り/読むことがどのようなことであるのか、粗述を試みたい。

第4報告

電子ネットワークと社会参加

池田 緑 (慶應義塾大学)・金澤 朋広 (日本看護協会)

 電子ネットワークと市民文化・意識・社会的行動について論じられてから久しい。だが電子ネットワークが実際に社会的行動についてどのような影響を与えているのかという定量的分析は未だ充分とは言えないであろう。本報告では首都圏の大学生を対象としたインターネットを典型とした、電子ネットワークの利用実態調査を中心に、その他のメディアやNPO・ボランティア等の活動にどうのような要因が働いているのかを報告したい。

 特に大学生は比較的インターネットアクセスに恵まれた環境にあり、NPO活動やインターネットを利用した市民運動に学生が深く関わっていることからも、自発的にネットを利用している学生の行っている社会活動や利用の実態や利用阻害要因を明らかにすることは、これからのインターネットと市民活動の関係を明らかにする際に重要な示唆を与えてくれると考えられる。

 今回の分析で注目されるのは、非常に少数(全体の2.0%)ながら電子ネットワークで得た情報に基づきNPO・ボランティア活動に参加した学生がいた点である。彼ら/彼女らと全体を比較すると、情報の発信、特に非対面の人間に対する情報発信への抵抗が非常に低いことが明らかとなった。またこの他にもネットワークを利便中心に利用する層と娯楽的利用する層では他者の認識に対する評価も異なっており、一般的な社会属性以外にも様々な要因が電子ネットワークでの社会的行動に影響を与えていることを示唆している。このような視点から電子ネットワーク上におけるコミュニケーションと社会参加の新しい形態の萌芽について、考えてみたい。

報告概要

宮野 勝 (中央大学)

 報告1(松尾浩一郎:慶応義塾大学「普及初期における電話に対する期待と予測:新しいメディア技術の社会的影響に関する一考察」)は、日本で電話が普及しはじめた頃に技術面の予測・日常生活変容に関する予測・社会システム変容に関する予測・地域社会変容に関する予測が登場した様相を紹介し、またこの順番で出現することを論じた。これに対して個人のアイデンティティとの関連などについて質疑がなされた。

 報告2(大坂京子:立正大学「社会調査におけるインターネットの位置」)は、インターネットを利用した社会調査の現状を紹介し、その問題点と可能性について論じた。母集団を特定できない・利用者に偏りがあるなどのために現状では対面面接調査に変わることはできないとの結論だった。報告に対して仮説探索など調査目的に応じた利用可能性について質疑がなされた。

 報告3(吉野ヒロ子:早稲田大学「Dieting On Line:「日記系」ホームページを作るとはどのようなことなのか・公開ダイエットを例に」)は、日記系ホームページから「公開ダイエット」をとりあげて典型的なホームページ構成例を紹介し、また電子メールアンケート(回答9名)を分析して「公開ダイエット」ホームページの解読を試みた。方向としてダイエットの研究に向かうのか「日記系」ホームページの研究に向かうのかなどの質疑がなされた。

 報告4(池田緑:慶応義塾大学・金澤朋広:日本看護協会「電子ネットワークと社会参加」)は、1998年の学生調査(有効回答1763人)から電子ネットワークで得た情報に基づいてNPO・ヴォランティア活動に参加した学生23人をとりあげ、電子ネットワークを利用しているその他の学生(約1100人)と比較した。報告に関してNPOの定義やNPOの種類による相違などについて質疑があった。

 参加者は約30名。報告時間が厳守されて和やかな雰囲気の中で活発な質疑応答がなされ、盛況であった。

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