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年次大会
大会報告:第47回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第5部会)

 第5部会  6/12 11:00〜13:00 [115教室]

司会:牛島 千尋 (城西国際大学)
1. 政策志向の規定メカニズムに関するSSM調査の分析
−社会階層と関係的資源の効果
村瀬 洋一 (立教大学)
2. 職業評定の構造
−共分散構造分析を用いて−
元治 恵子 (立教大学)
3. 開発地域における都市化と教育政策
−ブラジル中西部の事例−
古賀 雅人
(ブラジル連邦立マットグロッソ大学)

報告概要 牛島 千尋 (城西国際大学)
第1報告

政策志向の規定メカニズムに関するSSM調査の分析
−社会階層と関係的資源の効果

村瀬 洋一 (立教大学)

 政策とは、社会の今後の変化に関する計画である。人々は、社会をどのようにとらえ、どう評価しており、社会の変化に関してどのような志向を持っているだろうか。本研究は政策志向の規定メカニズムの解明を目的とし、とくに、社会階層との関わりや、有力者との関係的資源保有量という要因の効果に着目する。

 分析には1995年SSM調査B票データを用いた。SSM調査には多くの意識項目があるが、「政府は豊かな人からの税金を増やしてでも、恵まれない人への福祉を充実させるべきだ」、「今の日本では資産の格差が大きすぎる」の2項目は再分配に関する項目である。この2項目は、男女とも「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」を合わせて賛成が65%前後であり、再分配に肯定的な者が多い。変数間の構造を共分散構造分析の確証因子分析モデルにより検討したところ、再分配志向の因子は、これら2変数で構成され、脱物質志向や政治的信頼の因子と相関が強いことが分かった。また、構造方程式モデルにより政策志向の規定メカニズムを分析したところ、再分配志向は、人々の経済的地位に強く規定され、金持ちほど再分配に否定的な傾向があった。有力者との人間関係保有は、あまり効果がなかった。脱物質志向や閉鎖性認知に対しては、関係的資源が規定力を持っており、政策の種類によって規定メカニズムは異なる。再分配政策を否定する者は多数派ではなく、政策面からの格差拡大は、現在のところ、社会的合意を得にくいようだ。

第2報告

職業評定の構造
−共分散構造分析を用いて−

元治 恵子 (立教大学)

 職業を評定(評価)するということは、「職業に貴賎なし」という言葉が存在したり、またこのことに対する抵抗や批判もあり、難しい問題を含んでいる。しかし、社会階層・移動の研究において、「職業」は、現代産業社会における人々の社会的地位をとらえる主要な指標として認識され、さまざまな方法により指標化され、特に日本では、人々の職業に対する客観的評価から得られる「職業威信スコア」が利用されてきた。このスコアは、時代、評定者の属性、調査国等の差異にほとんど影響を受けず、その安定性は複数の研究で示されてきた。しかし、職業威信がどのように解釈できるのか、評定者は職業のどのような側面により評定しているかなど、職業評定のメカニズムに関しての研究は不十分である。

 これまでの研究は、評定基準(観測変数)各々と評定された職業との関係が論じられていることが多かったが、人々はさまざまな複数の基準を使用し評定していることを考慮する必要がある。1995年『社会階層と社会移動全国調査』での職業に対する評定と職業評定をする際の評定基準の重視度のデータ分析から、職業評定において「社会的資源」と「職業遂行特性」の2要因が、評定に影響を及ぼしていることが示唆された。この2要因を観測変数の上位概念(潜在変数)として扱い、共分散構造モデルに適用し、職業評定の構造を明らかにする。推定・検定結果やモデルの解釈については当日発表する。

第3報告

開発地域における都市化と教育政策
−ブラジル中西部の事例−

古賀 雅人 (ブラジル連邦立マットグロッソ大学)

 逼迫した財政状況と経済活動のグローバリゼーションを前提とした国有企業の民営化や政府権能の縮小等いわゆるネオ・リベラリズムに基づく経済・財政政策を強力に推進するフェルナンド・エンリケ・カルドーゾ政権下のブラジルにおいて、通信機器の発達とそれらの急速な普及による情報アクセシビリティの拡大、先進地域からの新知識を有した移住者の増加により、これまで開発から取り残されてきた農牧業中心の生産構造を持つブラジル中西部で都市化が急速に進行している。

 このような状況下にて、いわゆる伝統的な生活・生産・消費様式を約300年にわたって保守しつづけてきたマットグロッソ州の州都クイアバ市では旧住民(クイアバーノ)が彼らに比して新知識への高い適応能力、多くの資本、高い教育レベル、高い情報収集能力を持つ新住民(イミグランチス)の流入により地理的・経済的に周辺化されて社会階層の下層に位置しつつある。

 しかしながら近年の都市化はまた情報通信インフラストラクチュアの整備をも伴っていることから情報アクセシビリティが地域全体として拡大し、さらにより高い社会階層を目指すために高学歴を志向する新住民のニーズによって貧弱な公教育を満たすべく私学や予備校が次々と開校されている。本報告では教育という一点に絞り開発地域の旧住民が急速な都市化によって周辺化されつつあることに対し生活様式を変容させながら教育機会を獲得することを手段として自らのアイデンティティを保持していこうとする過程を報告する。

報告概要

牛島 千尋 (城西国際大学)

 第5部会は、階級・階層を共通軸として、村瀬洋一氏(立教大学)「政策志向の規定メカニズムに関するSSM調査の分析−社会階層と関係的資源の効果」、元治恵子氏(立教大学)「職業評定の構造−共分散構造分析を用いて−」、古賀雅人氏(ブラジル連邦立マットグロッソ大学)の「開発地域における都市化と教育政策−ブラジル中西部の事例−」の3報告がなされた。

 村瀬報告と元治報告は、1995年SSM調査データの分析結果を使用したものであり、ともにパソコンをプロジェクターに接続してプレゼンテーションが行われた。村瀬報告は、「政策志向に関して社会階層間で対立軸があるか」を問題意識として、3つの資源−情報的資源、経済的資源、関係的資源−の保有と都市化度の、同氏が調査項目から概念化する「再分配志向」「脱物質志向」「閉鎖社会観」に対する規定メカニズムを明らかにしたものであった。元治報告は、職業評定者の性差が職業構造に影響を及ぼすかどうか、及ぼす場合にはどのような職業においてか、規定因の影響度はどのように異なるかを分析テーマとしたものである。評定者が職業評定に使用した基準に対する重視度から「社会的資源」と「職業遂行性特性」の2つの構成概念を抽出し、評定される56の職業各々に対する効果が性別によってどのように異なるかが明らかにされた。両氏ともに機器をフルに活用した意欲的な発表であったが、構成概念や手続きに関する資料が配付されなかったため、フロアからの質問もこの点に終始した。複雑な手続きを必要とする報告では、フロアとの共通理解を計るためにも詳細な資料の配布が不可欠ではなかろうか。

 三番目の古賀報告は、前二者の報告とは対照的に、ブラジルの開発途上地域である中西部クイアバ市における事例研究であった。高い教育レベル、資本力などを持つ新住民が流入したことで周辺化され社会の下層に位置づけられてきた旧住民が、伝統的な生活・生産・消費様式を変容させながら教育機会を獲得することを手段として自らのアイデンティティを保持していこうとする過程を、資料と調査結果から考察したものである。フロアも司会者もブラジルの現況に通じていないため、議論というよりは古賀氏への質疑応答に終わったが、今後、階級・階層研究が新しいエリアへと展開する可能性を秘めた発表であった。

 早朝の部会であったためか、あるいは当節の階級・階層研究の不人気のためか、参加者が少ないのが残念であった。

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