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年次大会
大会報告:第47回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第6部会)

 第6部会  6/12 11:00〜13:00 [116教室]

司会:麦倉 哲 (東京女学館短期大学)
1. 近年の高齢者自殺率の地域間格差について 小宮山 智志 (中央大学)
2. 路上生活者問題と『福祉施設』の現在 西角 純志 (東海大学)
3. 嗜癖という感情の表出について 袰岩 晶 (早稲田大学)

報告概要 麦倉 哲 (東京女学館短期大学)
第1報告

近年の高齢者自殺率の地域間格差について

小宮山 智志 (中央大学)

 近年の高齢者自殺率の都道府県格差の説明を試みます。

 既存の高齢者自殺研究において、注目されている自殺要因は1)病苦・2)医療体制・3)家族、近隣関係の3点にまとめることができます。

 これらの研究のいくつかは、お互いの説を検討しあっていますが、必ずしも決
着が付いているとはいえません。また高齢者自殺率の都道府県格差について、1990年・1980年のデータを用い、既存の仮説の検証を行なった研究がありますが、どの説に関しても、強く支持する結果は、得られていません。

 そこで高齢者を取り巻く社会・家族環境の「変動」や高齢者の「期待と現実との相違」、さまざまな要因の「インタラクション効果」に着目し、モデルを構築し、アグリゲートレベルでの検証を試みました。

 結果は、発表の中で、報告致します。

第2報告

路上生活者問題と『福祉施設』の現在

西角 純志 (東海大学)

 近年、路上生活者の数が急増している。最近では、従来の「山谷型」、「新宿型」に加え、長引く不況の影響による企業の倒産、リストラ、失業によるものも少なくない。先進経済大国日本で、何故、このように路上生活者が増大していったのであろうか。路上生活者問題を近代の特有の問題として捉えるならば、わが国の資本主義経済の発展過程なかで当然、解決されるべき問題であったはずである。ところが現実は、いっこうに解決の見通しをみせず、経済的な貧富の格差は、ますます顕著になるばかりである。確かに、戦後日本は、急速に経済成長を遂げた。しかし、今日の日本は、わが国の経済社会を底辺で支えていた彼等の努力、彼等の犠牲の上になりたっているといっても過言ではない。近年の路上生活者の背景にあるものは、単に個人的・経済的な問題だけではなく、日本経済の発展を陰で支えていた中小の下請け企業の存在があったのである。

 70年代は、一億総国民中流階級の時代であった。そして80年代のバブル経済、90年代の情報革命と時代の変遷に伴い、今日、かつて自己を中流階級と思っていた人が路上生活者に転落した事例もある。また、高学歴者の路上生活化の問題もありえないことではない。そしてこうした状況は、少子高齢化が進行するなかでますます厳しい状況に追い込まれていくことは間違いないであろう。

 本報告では、上記の問題意識を基に、路上生活者問題の実態に迫る。そして、路上生活者対策としての「福祉施設」の現状と課題についての考察を行いたい。

第3報告

嗜癖という感情の表出について

袰岩 晶 (早稲田大学)

 アルコール依存症というものが「怒り」などの感情に関わること、つまり、怒りの表出が妨げられる場合の不安感や抑鬱を回避するために飲酒がなされることが、嗜癖の臨床から指摘されている。また、嗜癖からの回復に際し、感情を捉え、表現する訓練が用いられることがある。つまり、嗜癖と感情との間には、緊密な関係が認められているのである。

 社会学においては、近年、感情に注目した社会理論、「感情の社会学」が台頭してきた。そこでは、感情を社会学的視点から検討することによって、感情というものが支配や権力関係、相互行為秩序にどのように関わっているのかが議論されている。

 本報告は、嗜癖を「感情の社会学」から捉えることによって、嗜癖の臨床では見過ごされたり、曖昧であったりする側面、特に嗜癖という擬似的な感情表出機能が維持している嗜癖システムの在り方を考察しようとするものである。通常の「感情の社会学」では、嗜癖は感情の生理的側面に関わるものとされるが、本報告では、それが代替的な表出機能を有し、その機能の特異性によって、嗜癖が反復・維持されるとともに、社会における嗜癖システムの再生産がなされていると主張する。

 嗜癖を社会学することが嗜癖の臨床に貢献しようとするのであれば、嗜癖と感情との関係を明らかにするだけでなく、その考察によって嗜癖からの「解放の契機」を見いだす批判的理論が適用されなければならない。本報告は、それを目指す一試論である。

報告概要

麦倉 哲 (東京女学館短期大学)

 第6部会では、「近年の高齢者自殺率の地域間格差について」小宮山智志、「路上生活者問題と『福祉施設』の現在」西角純志、「嗜癖という感情の表出について」袰岩晶の3つの報告がなされた。 3つに共通することといえば、個人に表出した社会問題を取り扱い、これを説明し、あるいは、実践的な解決の方向を導き出そうとすることにある。しかしながら、方法論は異なる。小宮山は統計分析であり、西角は制度論、袰岩は感情の社会学による説明である。説明のモデルを提案しようとしている。

 小宮山報告では、高齢者の自殺率の地域間格差について、重回帰分析を行って検証した結果が報告された。それによると、同居割合変動仮説が適合するという。具体的には、20年前、つまり高齢者の子どもが青年だった頃に核家族化が進んだ地域で、20年後、高齢者の自殺が高い傾向があるという。子世代の同居意向と高齢の同居意向との間にずれがあればそれだけ、高齢者がもつ「あるべき自己」と「当人が認知している自己」との乖離が起こりやすい。それを、同居率の変化で分析しようとした。1995年の分析からは、報告者の仮説を指示する興味深い結果を導き出せているようだ。

 西角報告では、深刻化する路上生活者問題について、主として東京都の厚生施設における指導・援護事例などを紹介しながら、現状を報告した。それによれば、路上生活者の年齢も多様化が進み、職業歴においても、建設日雇労働者以外の職業経歴の者も増えている、社会的孤立も進み、自立支援が難しくなってきていることなどが報告された。

 袰岩報告では、嗜癖を、感情表出と見ることによって、それが社会や関係性に果たす機能や役割を考察する。感情の表出が妨げられるように嗜癖が代替的にとられる。そこでは、通常の感情の表出があれば、当然要請される、相互行為秩序の調整が果たされない。そこで、嗜癖の反復と強迫が生まれるという。嗜癖という疑似感情表出機能によって、搾取や虐待という権力関係が維持される。ここで報告された嗜癖や共依存や虐待という問題について、社会学的にアプローチすることによって、どのような対策の方法が導き出せるのか今後さらに注目したい。

 以上、3つとも現代社会のかかえる問題を象徴する研究対象を取り扱ったものであり、それぞれの研究と論議の深まりに期待したい。

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