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年次大会
大会報告:第47回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第7部会)

 第7部会  6/13 11:00〜13:00 [111教室]

司会:山嵜 哲哉 (武蔵大学)
1. 救急医療システムのエスノメソドロジー:
知識の実践的マネジメントの観点から
池谷 のぞみ (東洋大学)
2. 情報伝達の場としてのメディカル・カンファレンス 藤守 義光 (明治学院大学)
3. 救急医療現場における儀礼と状況づけられた活動のシステム
−清潔/不潔をめぐって−
岡田 光弘 (筑波大学)

報告概要 山嵜 哲哉 (武蔵大学)
第1報告

救急医療システムのエスノメソドロジー:
知識の実践的マネジメントの観点から

池谷 のぞみ (東洋大学)

 組織の一員として活動するということは、その組織におけるさまざまな知識のストックに基づいて仕事を成し遂げることであり、また必要とあらば、その知識のストックに変更を加えたり、あらたなストックを付け加えたりすることも含まれる。すなわち、知識の実践的マネジメントは活動の一部として行われる。エスノメソドロジーは、ある特定の場において利用可能な知識をいかにもちいて、ある活動をなしとげるかに焦点をあててきているが、そもそも、そこにおいて利用可能な知識がいかにして利用可能になるのか、という点はほとんどの場合、暗黙視してきた。しかし、Harvey Sacksは弁護士の仕事に関する論文の中で、この部分に焦点をあてている。本発表では、この点に注目してSacksの議論をさらに展開しながら、組織における実践を分析する際にとりあげる観点の一つとして、知識の実践的マネジメントが意義を持つことを示す。さらに、現在共同でフィールドワークを進めている救急医療システムが消防庁の司令室、各消防署、患者が運び込まれる先の病院といった異なる組織の連携からなり、また各組織における異なる専門知識をもったひとびとの分業にもとづく協働作業によって成立していることを示した上で、そこに関わるひとびとがいかにして仕事を成し遂げるのか、知識の実践的マネジメントという観点をとることで得られる実践に対する理解について示唆する。

第2報告

情報伝達の場としてのメディカル・カンファレンス

藤守 義光 (明治学院大学)

 エスノメソドロジーの様々な研究が示してきたように、我々は日常の相互行為において、それぞれの場において利用可能な情報や知識を資源(リソース)として用いることで様々な活動を成し遂げている。その際、利用可能な知識を全て用いるのではなく、あるカテゴリーなど一つの資源を用いることで、その背後にある大量の情報を伝達することにより、より「経済的」な相互行為が可能となっている。そして行為者達たちが共有している資源の量が多ければ多いほど、その「経済性」は高まることになる。我々は短時間に効率的かつ迅速な情報伝達が要求されている医療現場における情報伝達の場面(メディカル・カンファレンス)の分析を通して、その現場がそもそもどのように組織化されているか、効率的な情報伝達のためにどのような資源が利用可能なのか、成員がそのような資源を利用すること(あるいは利用しないこと)でどのようなことが達成されるのか、「効率的」な情報伝達によって(あるいは「効率的」ではない情報伝達によって)何が達成されるかなどについて分析する。そしてさらにそこから人間の情報伝達という活動に共通する様々な組織性についても示唆したい。

第3報告

救急医療現場における儀礼と状況づけられた活動のシステム
−清潔/不潔をめぐって−

岡田 光弘 (筑波大学)

 Goffmanは、手術室における観察から、状況つけられた活動のシステムでの「役割距離」を描く(6offman・E.1967 The operating Room)。しかし、「役割」という社会学的な概念は、現場での医療行為の中核を十全に記述するものではない。医学、とくに外科的な処理や手術における進歩が、直接的な観察によってもたらされた(Turner・B.1990 The Anatomy Lesson)にしろ、表象作業の存在にその多くを負う(Latour・B.1986 Visualization and cognition)にしろ、現在、具体的な医療実践において大きな役割を果たす「可視性」は、心電図、X線、CTといったテクノロジーによって確保されている。 協同作業は、こうしたテクノロジーをそれぞれの現湯に埋め込み、「いま、ここ」で起こっていることが何で、次に何が起き、自分は何をすべきかという理解が成り立つことで可能になっている(岡田、山崎、行岡 1997 教急医療現場の社会的な組織化)。さて、テクノロジカルな 「可視性」と社会学的な諸概念との中間で、医療行為の在り方を規定しているものに「衛生」についてのルールがある (Katz・P.1981 Ritual in the operating Room:Rawlings・B.1989 Coming Clean)。今回、科学社会学における、手術室での出来事の記述をめぐる方法論上の論争 (Hirschauer・S.1991 The Manufacture of Bodies in surgery:Collins・H・M. 1991 Dissecting Surgery)とも関連づけ、「衛生」についてのルールとその使用のされ方について報告を行なう。

報告概要

山嵜 哲哉 (武蔵大学)

 本部会では、実際の救急医療現場をエスノメソドロジカルな手法で調査・分析中の3氏から共同報告行われた。

 第一報告(池谷のぞみ氏)では、「救急医療システムのエスノメソドロジー:知識の実践的マネジメントの観点から」と題して、H.サックスの弁護士業務の分析をもとに、それを発展的に応用する形で、消防署司令室、救急隊員、病院といった異なる専門組織の共同作業プロセスが提示された。その上で、「救急疾患には病因と病態に線形の因果関係が保証されない」、「不確定性下の意志決定を迫られる」といった救急医療の特徴が論じられ、とりわけ「上申」と呼ばれる医師間の診断情報の報告現場への参与観察をもとにしたエスノメソドロジカルな分析が行われた。

 続く第2報告(藤森義光氏)は、第一報告を受ける形で、「上申」における上級医師から担当医への「質問」に焦点をあてた会話分析や身振りの分析が行われ、「専門的な内容確認の質問」、「報告の内容確認の質問」、「〈問題〉を指摘する質問」、「教育目的の〈一般的〉質問」、「不明確な問題を明確化する質問」等、質問の類型化が行われ、「上申」における相互行為の非対象性が明らかにされた。

 そして第3報告(岡田光弘氏)では、 60年代以降の社会学の「記述法」が論じられ、医療実践の場における「清潔/不潔」といった判別の仕組みを事例にして、ゴッフマンの言う「状況に関わりのある活動システム」という概念がエスノメソドロジー的視点から再考された。

 本部会には20数名の参加者があり、実際に救急医療現場での就労経験をもつ研究者や看護婦も複数名参加され、社会学理論・方法論におけるエスノメソドロジーの可能性についてだけでなく、実際の「救急医療」のリアリティをいかに分析することができるか、還元するならば、エスノメソドロジーという方法によって新たに何が発見されたのか、という論点をめぐって激しい議論が展開された。本報告は中間報告の段階でもあり、部会での議論を踏まえた最終報告が期待される。

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