HOME > 年次大会 > 第47回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第8部会
年次大会
大会報告:第47回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第8部会)
第1報告

外国人市民の社会参加と市政参加(1):
フランスの地方自治体における外国人と市政参加

稲葉 奈々子 (茨城大学)

 本報告では、フランスの地方自治体における外国人住民諮問会議の社会的機能を検討する。諮問会議は外国人の市政参加の一形態として位置付けられる。その社会的役割は議会代表制の機能変化にともない変遷しており、多様なメンバーから構成される社会の行方を考える上で示唆的である。

 一般に外国人市民の市政参加は地方参政権実現との関係で議論されてきた。フランスもその例外ではない。80年代以降、外国人の定住化は既成事実となり、その政治参加の可能性が検討されてきた。そこで国籍と市民権の分離する「新しい市民権」が構想された。「新しい市民権」構築は、具体的には外国人への地方参政権付与を意味する。これはEU域外出身外国人に関しては今日に至るまで実現されていないが、過渡的措置として外国人住民諮問会議がいくつかの自治体に設置された。

 90年代後半になると議会代表制民主主義の危機が現実のものとして認識され、政治的意志表出回路の不在は外国人住民だけの問題ではなくなる。そうした中で、高齢者、女性、若者など政治的代表性が保証されていない層の諮問会議設置を試みる自治体が現れる。

 90年代的意味の諮問会議はもはや参政権の経過措置ではない。仮に外国人の地方参政権が実現しても、諮問会議の有効性は減じないと考えられる。また、多様化する社会における政治参加の可能性をさぐる手がかりとなるであろう。

第2報告

外国人市民の社会参加と市政参加(2):
市政参加の制度化とその帰結−川崎市を中心に−

樋口 直人 (徳島大学)

 本報告では川崎市における外国人市民による市政参加について、以下の点を議論する。 (1)70年代以降の在日コリアンの運動と市当局による包摂体制の整備。(2)(1)の成果である外国人市民代表者会議の位置づけと機能。(3)(1)(2)を踏まえた上で外国人市民が市政に参加するための条件。

 同市における在日コリアンの市政参加は、70年代初頭の日立就職差別裁判をきっかけとして始まった。80年代に入ってからは、ふれあい館の建設に際して市のプロジェクトチームに加わるなど、制度化の度合いを高めていった。さらに90年代には、(1)外国人団体との連絡調整を行う部局の設置によるコーポラティズム的な外国人包摂、(2)外国人市民代表者会議の発足、により外国人市民の市政参加を制度的に進めるようになる。前者は在日コリアンのみが対象であるのに対し、後者はニューカマーの代表者が多数を占めている。また、外国人市民代表者会議は上からの参加制度という限界はあるものの、提言の実行という点では短期間で成果を挙げてきた。しかし、外国人市民の構成は極めて多様であり、「退出」オプションの有無(一時滞在か定住か)、及び「告発」オプションの有無(集合的基盤があるか否か)によって制度化の意味は全く異なる。川崎方式の制度化では、退出も告発もできないカテゴリーのマージナル化が進む恐れがあるため、それを防ぐような制度的なセーフティ・ネットの構築が必要になる。

第3報告

外国人市民の社会参加と市政参加(3):
ニューカマー外国人のパーソナル・ネットワークとその支援的機能

竹ノ下 弘久 (慶應義塾大学)

 社会的ネットワークと移民の移住過程との関連に着目する時、その研究領域を、 (1) 移住の決定過程、(2) 目的地の選択、(3) ホスト社会への参画過程の3つのステージに区分しうる。なかでも(3) の、移民のホスト社会への参画過程におけるパーソナル・ネットワークの役割は、欧米の研究においても注目されてきた。これらの研究はネットワークが、移民がホスト社会で住居や職業を得たり、彼らがビジネスを展開する時の重要な資源動員の経路として、あるいは移民の情緒的なサポートを与えるものとして機能しうることを指摘してきた。日本社会においても、ニューカマー外国人の居住の長期化とともに、彼らが日本社会に参画していくにあたって、彼らが取り結ぶネットワークは、資源を動員するための経路として重要な役割を持つものと思われる。本報告は、ニューカマー外国人全般に共通するパーソナル・ネットワークの諸相とその支援的機能に注目し、ネットワークの可能性と限界について検討する。具体的には、外国人住民の取り結ぶ日本人とのネットワークと同国人とのネットワークとの比較を行う。比較を通じて、両者のネットワークの形成過程と支援的機能という点で、またその可能性と限界についてどのような違いが見られるのかについて考察を行う。

第4報告

外国人市民の社会参加と市政参加(4):
滞日中国人の地域社会への参加意識

坪谷 美欧子 (立教大学)

 本報告では、留学・就職・国際結婚・家族滞在などの理由で日本に滞在するいわゆるニューカマー中国人たちの地域社会との関わりと社会参加の意識について報告する。彼らの多くは留学生として来日し、その後日本人との結婚や、日本企業への就職などを経て日本への長期滞在または定住、第三国への移動といった自己実現的なプランを持つ集団として特徴づけられる。このような現状は、中国から先進国への入国の困難さを反映した、留学を契機とした長期滞在化や定住志向、またはさらなる国際移動を目指す現代の国際移民の一形態であるとも考えられる。彼らの日本における地域生活に関して言えば、大変強い参加への関心を持つ人々であることがわかる。留学により日本社会における職域への進出を果たすなど、彼らの中にはある程度以上の学歴や所得レベルも高い者も多く、特に外国人の地方参政権を求める点などは、相対的剥奪感のあらわれとも見て取ることができるだろう。さらに、近年の滞日中国人たちの家族での滞在の増加にともない、地域社会との日常的な接触も増えてきている。地方政治、地域の住宅問題、教育、福祉政策などに対して積極的に発言し関与しようとする彼らの姿勢は、先行研究の多くが指摘するニューカマー外国人の地域との関わりとの希薄さとは対照的である。このような点に関して、おもに川崎市代表者会議応募者への調査結果の分析をもとに、長期滞在化が進む滞日中国人が地域社会や市政へどのような態度を示すのかについて明らかにする予定である。

報告概要

広田 康生 (専修大学)

 本部会では、外国人市民の市民権・財産権獲得の動きに焦点を合わせつつ、彼らの社会参加が当該社会に提起する意味をめぐる諸報告が行われた。
 1980年代後半以降のいわゆる外国人居住者、エスニシティ問題の特徴の一つは、いわゆるマイノリティ問題に関する古典的な問題群に限定されるのではなく、同問題を起点に、当該社会のあり方そのものが問い直される問題群が登場するところにある。本部会で行われた4本の報告のどれもが、そうした広がりを示唆するものであったように思われる。

 ちなみに、第1報告(稲葉奈々子氏)は、フランスにおける外国人の政治参加の一つの手段としての「諮問機関」組織の社会的機能に焦点をあわせ、「多様化する社会における政治参加」の新たな可能性とその意味について考察したものであり、第2報告(樋口直人氏)は、わが国における(川崎市)在日コリアンによる「外国人市民代表者会議」に焦点をあわせ、その多様な政治参加の可能性を論じたものであり、第3報告(竹ノ下弘久氏)のそれは、こうした外国人市民の政治参加、社会参加を促す社会的背景、すなわち外国人住民と日本人住民による日常的なネットワーク形成について報告したものであり、第4報告(坪谷美欧子氏)のそれは、外国人市民の中でも特にアジア系外国人留学生−とりわけ中国系市民が中心になる−に焦点を絞って、その社会参加にともなう問題点について論じものであった。

 それほど大きい教室ではなかったが、満席のフロアからも、各報告者への質問と活発な意見交換が行われた。特に、わが国における上記の研究の今後の進展に向けて、次のような問いかけがなされたことが、個人的ではあるが、印象に残った。(1)多様なカテゴリーの「外国人」の出現を前提に、そもそも、(定住)外国人とは、何を指すのか。(2)外国人市民の政治参加・社会参加を支え、媒介する役割をもつ主体を、どのような人々のなかに求めるのか。そして(3)そこでの市民運動団体そして、普通の人々の役割をどのように捉えて行けばいいのか、等々である。

 2時間の枠で4本の報告がされざるを得ず、明らかに討論の時間が不充分であった。だが特に報告者と、フロアから、上記の点だけではなくさまざまな議論をなげかけていただいた諸先生のお蔭で、短い時間にもかかわらず示唆的で刺激的な部会であったと思う。

▲このページのトップへ