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年次大会
大会報告:第47回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第12部会)

 第12部会  6/13 11:00〜13:00 [116教室]

司会:澤井 敦 (大妻女子大学)
1. M・ヴェーバーの理論における政治概念について
−『改訂稿』基礎概念論分を中心に−
伊野 大道 (早稲田大学)
2. 文化社会学から精神分析へ
−E・フロム分析的社会心理学の誕生−
出口 剛司 (東京大学)
3. インフォーマル・レイベリングの生成過程 佐藤 恵 (日本学術振興会)
4. 保険への社会理論的アプローチ 安原 荘一 (一橋大学)

報告概要 澤井 敦 (大妻女子大学)
第1報告

M・ヴェーバーの理論における政治概念について
−『改訂稿』基礎概念論分を中心に−

伊野 大道 (早稲田大学)

 ヴェーバーの『経済と社会』改定稿では以下のことを指摘できる。国家は政治的団体であるが、全ての政治的団体は国家であるわけではない。国家は強制的団体(Anstalt)であり、経営団体でもあるが、ある種の政治的団体はそのどちらでもない。政治的団体のニつのメルクマールとして、「ある領域」の支配と、物理的強制力の行使とを特定できる。また、政治的という概念の性格のーつに、手段としての物理的強制力の行使を特定できる。が、これらの解釈では、物理的強制力によらない影響を、ある政治的団体の指揮へと及ぼすのを目的とする「政治的に方向づけられた行為」という概念をうまく説明できない。これは次のように解釈したらよい。正当なものとして妥当している物理的強制力の行使それ自体の担い手たちである、政治的団体の指揮へと及ぼす影響、特に統治権の専有または収奪または再分配または配分が、ヴェーバーの政治概念における目的のーつであると考えることができる。政治的に、とか政治的な、といった表現が使用されているとき、正当なものとして妥当している物理的強制力の行使それ自体の担い手たちである、政治的団体の指揮、もしくは指揮へと及ぼす影響が、考慮されていることがあるとみればよい。ヴェーバーは、その政治的団体の指揮を、本当に「政治的」な行為と、又、物理的強制力によらない影響をその指揮へと及ぼすのが目的である行為を、「政治的に方向づけられた行為」と呼んでいる。

第2報告

文化社会学から精神分析へ
−E・フロム分析的社会心理学の誕生−

出口 剛司 (東京大学)

 すでに現代社会論の古典に位置する社会学者E・フロムは,初期批判理論の協力者として,またアメリカ新フロイト主義を代表する心理学者として知られている。その意味でフロムが 1930年代に打ち立てた分析的社会心理学は,精神分析と社会分析との最も初期におこなわれた「幸福な結婚」とみることができる。フロムの試みはその以降の「精神分析と社会分析との結婚」――多くの場合マルクスとの結婚によって成就された――に関するある種の原型となっているのである。しかし『自由からの逃走』の成功,それに影響を受けた『孤独な群衆』の出版によって,「社会的性格」という概念のみが一人歩きしすぎた感がある。その結果,「精神分析はなぜ社会学を必要とするのか」あるいは「社会学はなぜ精神分析を必要とするのか」という原問題が無視されてきたのではないだろうか。
 本稿の課題は「精神分析の社会学化」という理論的問題を,「分析的社会心理学の誕生」現場から問い直すこと,精神分析の一理論史に光をあてることにある。そのために1925年の学位論文「ユダヤ教の掟」,1927年「安息日」論文,1930年「キリスト教の教義変遷」とその前後に執筆された方法論に関する論文を参照しながら,文化社会学から精神分析への移行を再構成することを試みる。

第3報告

インフォーマル・レイベリングの生成過程

佐藤 恵 (日本学術振興会)

 従来のレイベリング論においては、(1)レイベリングの固定化過程の検討に軸足が置かれ、レイベリングの存在自体は所与とされる傾向にあった。つまり、レイベリングの生成過程の問題に関する議論が十分に蓄積されてこなかったということである。また、(2)対象とされるレイベリングは公的な社会的反作用であることが多く、レイベリング主体として、警察・裁判所・精神病院・学校などのフォーマルな専門エージェントが強調されがちであった。すなわち、そうした専門エージェントによるフォーマル・レイベリング以前に現象する、相互作用場面におけるインフォーマル・レイベリングの問題があまり重視されてこなかったということである。

 そこで本報告は以上の(1)(2)の問題の交差する点、すなわちインフォーマル・レイベリングの生成過程という問題に照準する。相互作用場面におけるインフォーマル・レイベリングを射程に収めた上で、レイベリングの存在をアプリオリに前提とするのではなく、それがいかなる過程で生み出されるのかに注目する。従来のレイベリング論は、フォーマル・レイベリングの固定化過程に比重が置かれていたが、これに対して本報告は、相互作用場面においてインフォーマル・レイベリングが産出されてくる過程について主題的に考察する。

第4報告

保険への社会理論的アプローチ

安原 荘一 (一橋大学)

 従来保険に対する社会学的アプローチは十分になされてはこなかった。ハバーマス流にいえば「生活世界の植民地化」、ルーマン風にいうならば「自己組織化系としての保険」フーコー流にいうならば「生ー権力論としての保険」といった論点が深められてしかるべきだがそれもほとんどなされてこなかった。

 むしろ保険に関して積極的な問題関心を示しているのは本間照光氏や広井良典氏らの保険学のサイドであった。彼らの学際的アプローチには学ぶ点は多い。

 現代社会は「リスク化社会」といわれている。高齢化社会、リスク多発社会の中で社会学の果たすべき役割は大きい。

 ほん発表ではドンズロの議論に即してリスク概念の変遷を追いかけてみたいと思う。そして古典的リスクと現代的リスクの違いに焦点を当てることを試みたい。

報告概要

澤井 敦 (大妻女子大学)

 本部会では、社会学説史にかかわる前半の二報告と、社会学理論にかかわる後半の二報告の、計四つの報告、また、それぞれの報告をめぐって、二十名ほどの参加者との質疑応答がおこなわれた。

 伊野大道氏(早稲田大学)による第一報告、「ヴェーバーの理論における政治的概念について――『改訂稿』基礎概念論文を中心に」では、『経済と社会』の「社会学の基礎概念」にあらわれる、「政治的団体(politischer Verband)」、「国家(Staat)」、「物理的強制(physischer Zwang)」など、政治に関する重要概念を原書に即して再検討することをつうじて、ヴェーバー政治論の理論的基礎を確認する作業がおこなわれた。

 出口剛史氏(東京大学)による第二報告、「文化社会学から精神分析へ―― E・フロム分析的社会心理学の誕生」では、文化社会学的思考への精神分析の導入、分析的社会心理学の誕生という、初期フロムの思想的推移において、「文化」概念の脱構築過程、すなわち、実体的に措定された文化的表象を、個人を越えた重層的な自然力の無限交錯の表現として捉え返すという過程が進行しているとする、興味深い論点が提起された。

 佐藤恵氏(日本学術振興会)による第三報告、「インフォーマル・レイべリングの生成過程」では、従来のレイベリング論が警察・精神病院などフォーマルな専門エージェントによるレイベリングの帰結に焦点を合わせていたのに対して、それ以前の相互作用場面において現象しているはずの「インフォーマル・レイベリング」を、その生成過程においてとらえることの重要性が指摘され、この概念をめぐる理論の精緻化が試みられた。

 安原荘一氏(一橋大学)による第四報告、「保険への社会理論的アプローチ――大澤真幸氏の所説の検討」では、「保険」という、従来、社会学理論においては論じられることが必ずしも多くはなかった対象へのアプローチを模索するという問題関心から、大澤真幸氏の所説、とりわけ「否定的な連帯性」という概念を、批判的に検討するという作業がおこなわれた。

 四つの報告は、必ずしも相互に関連し合うものではなく、部会としての統一性を司会の立場から求めることもあえてしなかったが、各報告において提起された論点はそれぞれ面白味のあるものであった。参加者との質疑応答も、部会終了後の議論に引き継がれていくような、生産的なものであったと思う。

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