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年次大会
大会報告:第49回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)
第1報告

並行在来線経営分離問題をめぐる政治過程
――北陸新幹線建設における信越本線経営分離を事例として

角 一典 (北海道大学)

 整備新幹線建設においては,新幹線と並行する在来線の経営分離が着工への前提条件となっている。多くの分離区間においては,県を主体とする第三セクター鉄道への移行という方向で問題の決着を図ろうとしているが,これら一連の政治過程においては,県による巨額の財政負担・第三セクター会社の経営不安・JR貨物問題など,さまざまな問題が生じている。1997年10月に,整備新幹線の中でもっとも早く開業に漕ぎ着けた北陸新幹線高崎−長野間では,第三セクター会社「しなの鉄道」がJRから経営を引き継いで並行在来線を運行している。しかし,しなの鉄道は,経営分離区間が比較的輸送密度が高いとされていたにもかかわらず,今日に至るまで当初掲げた経営目標を達成できていない。今後経営分離を迎える線区は,先行事例である信越本線よりも輸送密度の点で劣位にあり,経営に対する不安の度合いはさらに高まっている。
 本報告では,北陸新幹線高崎−長野間を中心的事例として,さまざまな問題が発生する要因を分析する。これらの諸問題は,問題を討議する場である「アリーナ」の断片化・階層性・不遡及性に起因すると同時に,意思決定における情報選択の恣意性・自己完結型意思決定・意思決定における住民不在など,諸々の複合要因によって問題が深刻化する。そして,一連の過程においては,県が決定的な役割を果たしているのである。

第2報告

情報化社会における違法・有害情報への対処について
――表現・思想・信条の自由と,表現に対する法的責任の狭間で

工藤 浩 (大妻女子大学)

 インターネット上を流通する違法・有害情報について,プロバイダの自主規制のみで対応するのではなく,当局による取り締まりを望む声が高まっている。それを受けて,各省庁とも,IT関連法案の立法化とともに,具体的な法規制を急いでいる。

 本報告では,違法・有害情報のなかでも,とくに名誉毀損表現を取り上げて論じる。なぜなら,名誉毀損の立件は,他の違法・有害情報と違い,被害者の親告によるので,第三者によって客観的に判断できる基準を作りにくいという面があるからである。しかも,インターネットの特性を鑑みると,インターネット上を流通する違法・有害情報のすべてを特定の機関なり個人が監視できるのかという問題も生じる。

 また,違法・有害情報除去の名目で,国や自治体に民事介入の口実を与え,その結果,検閲行為が行われたり,表現の自由,思想の自由等が侵害される虞もある。さらに,プロバイダが,被害者の被害拡大を迅速に防止しようとして,当該表現を被害者の了承も得ないうちから削除してしまうと,かえって,「証拠隠滅,事実の揉み消し」という疑いが掛けられたりする。

 被害者側にしてみれば,加害者を提訴しようとしても,事前に削除されてしまったら,証拠となるはずの表現を失うことになる。被害者の被害の拡大防止か,加害者の責任追及か。その狭間にあって,プロバイダと被害者は山積する諸問題と増殖するジレンマに悩まされるのだが,本報告では,そうしたジレンマに直面した場合,とくにプロバイダやシステム管理者らは,どのような選択をすればよいのか,実際に我が国で裁判になった事例を中心に検討した。

 一つは,我が国で最初のネット訴訟となった「ニフティ事件」である。従来の名誉毀損事件ならば,当事者である被害者と加害者の間で争われるのであるが,本件においては,第三者の立場であるパソコン通信事業者であるニフティと,会議室の管理運営にあたるシスオペ(システム・オペレータ)にも共同責任が問われている。この事件からは,実際には名誉毀損行為に関わらない第三者の管理責任をどう問うべきかという問題が生じる。

 もう一つは,「東京都立大学HP事件」である。学内のHPに名誉を毀損する文章を載せられたとして被害学生が,加害学生らとともに,大学の管理責任を負うとして,東京都ならびに東京都知事を訴えた事件である。この事件からは,自治体の民事介入という問題の他に,大学の自治のあり方というものに対しても,重要な問題提起が為される。

 【追記】両事件ともに,東京高裁で控訴中である。ニフティ事件のほうは,3月21日に控訴審が結審し,その後判決が下される予定であるので,その結果如何によっては,報告内容が若干変更されることがあることを,あらかじめお断りしておきたい。

第3報告

フェミニズム再考
──〈従軍慰安婦〉問題に対する女性運動のとりくみを事例として

松田 紘子 (東京大学)

 本報告は,1990年代日本における〈従軍慰安婦〉問題に対する市民的取り組み――いわゆる〈慰安婦〉運動を紹介すると共に,現代日本のジェンダー研究,また社会運動研究の課題について検討したい。

 2000年12月に東京において「日本軍性奴隷制を裁く 女性国際戦犯法廷」が開催された。この民間法廷は,約300の市民団体の賛同によって実現したが,最大の支持勢力は東アジア地域の女性運動団体であった。大規模な市民的イベントが東京で実現した背景には,10年間にわたる東アジア地域の女性運動のうねりと,世界的な女性の人権運動の発展があった。本報告では,様々な分野で議論がなされている〈慰安婦〉問題を第二次世界大戦後の女性運動の歴史に注目して分析する。報告者は,2000年に,90年代前半に日本で〈慰安婦〉運動に関わった運動家に対するインタビュー調査とアンケート調査を行った。本報告では,運動家の解釈枠組みを重視し,日本における〈慰安婦〉運動が当初どのような解釈枠組みに基づいて展開し変容したのか,また解釈枠組みの変化は運動の形態をいかに変えていったのか報告したい。

 過去30年の間に,フェミニズムの思想研究・ジェンダー研究はめざましい発展を遂げた。しかし,現代日本の女性運動を対象とし,社会科学的に分析する試みは乏しい。〈慰安婦〉問題に関する検討をふまえて,「ジェンダーとナショナリズム」や「アイデンティティの政治」など今日的なテーマを論じる上で女性運動を研究することの意義と課題を提起したい。

報告概要

大畑 裕嗣 (東洋大学)

 第1報告、角一典(北海道大学)「並行在来線経営分離問題をめぐる政治過程―北陸新幹線建設における信越本線経営分離を事例として―」は、横川―軽井沢間の在来線廃止と軽井沢―篠ノ井間の第三セクター鉄道化の決定過程の特徴として、(1) 県による情報選択の恣意性、(2) 県の問題先送りによる状況の悪化、(3) 関連市町村や地域住民の鉄道問題にたいする利害関心の程度の差がもたらす影響、という3点を指摘し、当該の政治過程は、県が決定的な役割を果たす「自己完結型意思決定」であり、異議申立てのための対抗勢力の多くは、基本的に自治体主導型の「官製」運動だったと述べた。報告にたいし、この事例の住民運動を「自治体」主導と呼ぶことの妥当性と運動の実情、交通流動のデータと地域間の対抗意識が決定過程に与えた影響、地域内の反対派と賛成派の動向についての質問がなされた。

 第2報告、工藤浩(大妻女子大学)「情報化社会における違法・有害情報への対処について―表現・思想・信条の自由と、表現に対する法的責任の狭間で―」は、システム管理者やプロバイダの管理責任が問われた内外のいくつかの裁判の判決例を列挙した後、それらの判決に内在する問題点と、インターネットを法的に規制しようとする政府の対応を批判的に論評した。そのうえで、ユーザ間の「ネチケット」と「ローカル・ルール」の重要性を指摘し、法的手段など「力」の行使はかえって混乱を招くとして、「ローカル・ルール」からより普遍的な「ネット倫理(nethic)」が構築されていくという展望への希望を述べた。報告にたいし、現行の「ローカル・ルール」についての、より実証的な調査の必要性が提起され、また深刻で緊急性のある被害への対応は如何という、現実的に差し迫った観点からの指摘もなされた。

 第3報告、松田紘子(東京大学)「フェミニズム再考―<従軍慰安婦>問題に対する女性運動のとりくみを事例として」は、従軍慰安婦問題行動ネットワーク(行動ネット)のとりくみにフレーム分析を適用して、(1) 日本における「慰安婦」問題へのとりくみは、戦後日本女性運動の、反戦平和、反植民地主義への思想と実践の系譜に位置づけられる、(2) 「慰安婦」問題は、「民族(ネイション)」フレームと「性暴力」フレームの拮抗のなかで構築された、(3) 韓国の運動に見られるような「階級」フレームは見出せない、と結論した。報告にたいし、「フェミニズム再考」の意味、韓国の運動の本格的な分析を行わなかった理由、構築された「問題」に対する「自由主義史観」からの反論、運動家のフレームと被害者のフレームの異同、抽出されたフレームは「合意動員」のフレームか「合意形成」のフレームか、根底にある歴史認識と植民地支配の問題など、多様な論点に関連する発言があった。

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