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年次大会
大会報告:第49回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)

第3部会:福祉国家と政策  6/9 10:00〜12:30 [9204教室]

司会:野呂 芳明 (東京学芸大学)
1. 日本における福祉国家の趨勢分析
――社会保障費の変動をめぐる決定要因
小渕 高志 (武蔵大学)
2. 福祉国家のジェンダー化と家族分析の視角
――日本におけるケア政策の展開との関わりで
平岡 佐智子
(青山学院女子短期大学・
昭和大学医療短期大学)
3. ドイツにおける「仕事と家庭の両立支援」
――シュレーダー政権にみる雇用政策の新展開
柚木 理子 (川村学園女子大学)

報告概要 野呂 芳明 (東京学芸大学)
第1報告

日本における福祉国家の趨勢分析
――社会保障費の変動をめぐる決定要因

小渕 高志 (武蔵大学)

 産業化と福祉国家というテーマは収斂仮説を検証するうえで格好のケーススタディとしてこれまでに何度も取り上げられてきた。福祉国家研究はすでに国家類型論を模索する段階にきているが,より精密な類型論を構築するためには,当該国の福祉国家の展開過程を遡及して分析することが前提として求められる。

 そのため,本考察では日本における福祉国家の発展を促してきた要因として,(1) 高齢化,(2) 産業別就業人口の比率構成の変化,(3) 政治的脈絡の3点に着目し,福祉国家の形成過程についてマクロデータによる計量分析を行なった。また,社会保障の各制度部門別費用を上昇させた要因を,(1) 人口,(2) カバリッジ,(3) 1人当たり給付額などの伸びに求め,重回帰分析によってそれらの比重を計測していくことで,どれが最も効果を及ぼす要因であったかを明らかにした。

 その結果明らかになった福祉国家の発展の趨勢における主要なファクト・ファインディングスとは,(1) わが国の社会保障支出の水準を決定するうえで,人口の高齢化要因の比重が政治・経済要因よりも格段に高いこと,(2) 各制度部門別に見た制度を発展させる決定要因のうち,多くの場合1人当たり給付額の上昇がそれぞれの制度を発展させた最大の要因となっていること,という2点であった。

 これまで記述的に語られることの多かった社会保障費用の増大を促す要因を計量的に示すことができ,制度的比重の変化を明らかにできた点に,本考察の意義があるのではないだろうか。

第2報告

福祉国家のジェンダー化と家族分析の視角
――日本におけるケア政策の展開との関わりで

平岡 佐智子 (青山学院女子短期大学・昭和大学医療短期大学)

 福祉国家の成立,発展と再編の分析におけるジェンダー視角の重要性については改めて指摘するまでもない。この福祉国家のジェンダー化という課題に取り組むにあたっては,家族規範や家族戦略といった家族に関する要因,および労働市場の構造と機能に関する要因を組みこんだ分析モデルが求められる。現代日本の家族および性別役割分業に関するこれまでの研究成果に照らしてみたとき,福祉国家研究におけるそのような要因の組み込み方には,さらに検討すべき課題が残されている。

 現代日本における家族規範に関していえば,階層や世代などによる相違がみられ,また,状況依存的であり,けっして固定的,整合的なものとはいえない。あるいは,社会政策をめぐる国家と世帯と個人の相互関係は「取引的」であり,家族規範あるいは国家によって一律に規定されるものではない。特に,ケアに関わる政策の分析にあたっては,このような観点が重要である。本報告では,このほか,家族責任と義務,世帯単位原則と個人単位原則,機会の階層性の再編といった問題について,近年のケアに関する政策の展開にそくして,検討を行う。

第3報告

ドイツにおける「仕事と家庭の両立支援」
――シュレーダー政権にみる雇用政策の新展開

柚木 理子 (川村学園女子大学)

 時短も進まず,労働分野における女性の地位もなかなか向上しない日本がいかにして男女共同参画型社会を形成していけるのか,本発表においては,ドイツを事例として,雇用政策における「ジェンダーの主流化」の課題を「仕事と家庭の両立支援」の観点から考察する。

 ドイツにおいてはオイルショック以降,ワークシェアリング政策が展開され,時短が進む一方で,女性パートタイマーが大量に産み出されるというジェンダーバイアスの強い雇用政策が展開されてきた。だが,1998年9月にシュレーダー率いる社会民主党と90年連合・緑の党の左派連立政権が誕生してからというもの,「ジェンダーの主流化」を掲げた政策が打ち出されている。

 本報告では,1)オイルショック以降のドイツにおける雇用政策の流れを概観し,2)「仕事と家庭の両立支援」,並びにパートタイム労働の観点から,シュレーダー新政権の目指す「働き方」や「家族のあり方」を分析する。性別分業観が根強く残るドイツにおける残された課題を考察し,これらの分析を通じて日本への示唆としたい。

報告概要

野呂 芳明 (東京学芸大学)

 本部会は,報告予定者1名のキャンセルがあったため,小渕高志氏「日本における福祉国家の趨勢分析」および柚木理子氏「ドイツにおける『仕事と家庭の両立支援』」の2報告がおこなわれた。まず小渕氏の報告は,1955年〜85年の30年間にわたる日本の社会保障費の変動(GDPに占める比率の上昇傾向)がどのような要因によって説明されるのかをマクロ的に分析したもので,日本の福祉国家の展開過程を明らかにしていこうとする意欲的な内容であった。次に,柚木氏の報告は,オイルショック以降から現在のシュレーダー政権に至るドイツの雇用政策について,仕事と家庭の両立策として女性のパート労働者化が推進されてきたこと,それが1990年代後半以降に「ジェンダーの主流化」へと潮流が変わり,とりわけ左派連立のシュレーダー政権成立以後には伝統的性別分業の政策的見直しが積極的に始められていること,等を明らかにするものであった。

 両報告終了後,活発な討議が展開された。2つの報告が直接扱っているテーマは異なっているものの,それぞれが照射し合う論点はいくつか存在する。その重要な一つに家族・ジェンダーの問題がある。それはエスピン・アンデルセン等の福祉国家類型論のようなマクロ分析において重要な要因の一つに位置づけられており,小渕氏の報告においても当然目配りがされていたが,その効果は複合的でやや読みとりづらいというものだった。一方,柚木氏の報告はこの問題を直接扱っており,そこではドイツの雇用におけるワークシェアリングや雇用流動化政策が,男性はフルタイム,女性はパートタイムという分断につながり,既存のジェンダー関係を前提にし,かつ強化する方向に作用してきたことが指摘された。

 そして第二の論点は,政権交替のような政治的要因の重要性である。ドイツの雇用政策は,16年間続いたコール政権からシュレーダー政権への交替によって,大きな質的転換を遂げつつあり,そこではフルタイムとパートタイムの境界を低くし,男女でなく,育児期とそれ以外というようなワークシェアリングを視野に置き,育児休暇も両親が同時に取得できる「両親のための時間」へと根本的に理念を異にする法改正が行われたという。一方,日本の場合には,議会における多党化傾向のなかで,福祉国家発展においてとりわけ「中道」政党の果たした役割が重要な意味をもってきた,と小渕氏は指摘した。ただし,中道を左−右の中間に操作的に位置づけると,その効果が中立的になってしまうところに,マクロモデルの課題があるということだった。

 全体として,両報告は対象とする国も方法論も異なっていたが,それにもかかわらず上記のような論点を共有していたところに,現代福祉国家の置かれている背景が読みとれたように思われ,意義の高い部会であった。

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