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年次大会
大会報告:第49回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第4部会)

第4部会:移民と難民  6/9 10:00〜12:30 [9205教室]

司会:渡戸 一郎 (明星大学)
1. カンボジア難民の日本社会への移動と再定住
――インドシナ難民政策との関連で
鈴木 美奈子 (立教大学)
2. 戦後日本における国外移動・滞在とその表象 酒井 千絵 (東京大学)
3. 国際移民の組織的基盤
――移住システム論の意義と課題
樋口 直人 (徳島大学)

報告概要 渡戸 一郎 (明星大学)
第1報告

カンボジア難民の日本社会への移動と再定住
――インドシナ難民政策との関連で

鈴木 美奈子 (立教大学)

 「インドシナ難民」は,100万人以上が30カ国以上に及ぶ先進諸国に定住しているグローバルな現象である。日本政府の受入れ自体も,先進諸国の取り決めに基づき,国際支援の文脈で,1978年の閣議了解を期に実施された。受入れの規模は決して多くはないが,受入れ自体が「単一民族国家」を標榜する日本国家においては相矛盾する現象であった。それゆえ,国家の同質性を所与とする社会において,どのような人が望ましい成員と考えられているのか,という日本の国家的アイデンティティが問い直される契機となったと考えられる。本報告は,このような視点から,「インドシナ難民」カテゴリーで来日したカンボジア出身者がいかなる人々であったのか,ということを検討するものである。難民の移動は,「非自発的移動(involuntary migration)」に位置付けられ,目的地があらかじめ選択できる「移民」の国際移動とは性質を異にしている。カンボジア難民の場合も,現在約1260人が日本に定住しているが,1975年,及び1979年のカンボジア国内の政変に起因しており,脱出当初は日本定住を想定していなかった者がほとんどである。そこで,本報告では,グローバリゼーションとナショナルな動きに規定された「インドシナ難民」のカンボジア出身者の移動と再定住過程を,特に難民キャンプにおけるインドシナ難民政策との相互作用に着目し,検討する。

第2報告

戦後日本における国外移動・滞在とその表象

酒井 千絵 (東京大学)

 本報告では,戦後直後から現在にかけて,日本人の国外渡航・滞在がどのような規模と厚みを持って行われてきたのかを明らかにする。また,こうした海外滞在が,国内の移動やそれ以前の国外移動との対比のもとでどのように表象されてきたのかを,政策,マスメディア,社会科学的な研究,および当事者の言説を相互に比較し,分析する。

 戦後日本においては,大陸からの引き揚げがすすみ,日本からの出国が非常に困難であった数年間の後,海外へ渡航する日本人の数は増大していった。同時に,その国外渡航・滞在の目的やスタイルは,日本社会の変容とともに変化している。現在では,年間1500万人を越える日本人が国外に出国しており,1980年代以降の「観光」を目的とする国外渡航の爆発的増大を継続しながらも,留学や就業など長期滞在志向が次第に増加していると言える。

 本報告の主要な目的は,日本人の出国にかんする数量的な変化が,戦後日本における国外渡航・滞在の表象にどのように反映されたのか,あるいは表象の側の変容が,人々の国外渡航・滞在のスタイルにどのような影響を与えたのかを考察することである。特に,国外渡航・滞在の表象が,日本文化論をはじめとする戦後日本における均質な日本社会の表象と相互に関連していると同時に,矛盾し,相対する表象を構築していることを明らかにする。国外渡航・滞在の表象を通して,日本社会のイメージの構築とその解体を考察することを視野に入れ,報告を行いたい。

第3報告

国際移民の組織的基盤
――移住システム論の意義と課題

樋口 直人 (徳島大学)

 本報告の目的は,移住システム論と呼ばれる一連の研究をサーベイし,研究上の論点を整理することにある。移住システムとは,「移住を促進し,その量的・質的な面を規定するメゾレベルの制度的布置連関」であり,国際移民におけるメゾレベルの組織ないしネットワークにより,移住の規模や方向,持続を説明しようとするアプローチを指す。報告は大きく2つのパートに分かれる。第1のパートでは,既存の移住システム論を整理し,学説の展開,移住システムの理論的前提,その機能や説明対象を明らかにする。第2のパートでは,移住システム論が主にアメリカの経験的研究を通じて発展してきたことを踏まえて,その文脈拘束性を指摘する。すなわち,地縁・血縁ネットワークが発達したアメリカへの移民に関しては,そうしたネットワークからなる「互酬型」の移住システム論が説明力を持つ。しかし,斡旋組織が支配する移住においては,互酬型ではなく「商業型」の移住システムが成立するため,従来の移住システム論とは異なる立論が必要になる。以上を受けて,単一の移住システム論から移住システムの比較社会学が必要であるという観点から,さしあたりの作業としてアメリカとアジアという文脈の相違を比較する。

報告概要

渡戸 一郎 (明星大学)

 以下の3つの報告が行われた。鈴木美奈子「カンボジア難民の日本社会への移動と再定住−インドシナ難民政策との関連で」は、Kunz,E.F.の難民移動モデル(Vintage−Wave Model)を参照枠として、日本に定住したカンボジア難民の聞き取り調査データの実証的分析を試みたもので、主にキャンプにおける移動過程で、各レベルの難民政策の「選別」とそれに対する難民の戦略や適応がなされ、彼/彼女らが均一な集団に加工されてゆく状況と、難民受け入れを契機とした難民ネットワークの形成が指摘された。

 第二報告、樋口直人「国際移民の組織的基盤−移住システム論の意義と課題」は、「移住システムの比較社会学」を構想しつつ、主として北米での知見を基盤に構築された従来の移住システム論を「互酬型」モデルと相対化した上で、アジア諸国において主要な移住システムを「商業型」と位置づける必要を説く意欲的な報告であった。以上の二報告に対しては、「ヴィンテージ」と「ウエイブ」の関係や、何が「互酬型」と「商業型」を分けるのかといった、各モデルの有効性と適用の妥当性をめぐって質疑が交わされた。

 これに対して第三報告、酒井千絵「戦後日本における国際移動とその表象」は、日本人の出国の量的な変化が、戦後日本における国外渡航・滞在の表象にどのように反映され、また、表象の側の変化が人々の国外渡航・滞在のスタイルにどのような影響を与えたのかを探るとしたが、作業仮説とデータ分析の方法論、さらに言えば研究の戦略的視座が明らかでない印象を受けた。大きな研究テーマをどのように分節して研究していくかが問われるだろう。

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