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年次大会
大会報告:第49回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第6部会)

第6部会:社会階層  6/10 10:00〜12:30 [9203教室]

司会:鹿又 伸夫 (慶応義塾大学)
1. 明治期における歯科医師参入者の階層構成について 押小路 忠昭 (明治学院大学)
2. 労働市場における役職獲得の規定要因
──ジェンダー効果の検討
村尾 祐美子 (お茶の水女子大学)
3. フィリピンにおける都市新中間層の形成とその社会的性格
──上流中間層を中心として
池田 正敏 (東洋大学)

報告概要 鹿又 伸夫 (慶応義塾大学)
第1報告

明治期における歯科医師参入者の階層構成について

押小路 忠昭 (明治学院大学)

 報告の主題は専門職における階層的開放性の問題についてである。階層的開放性が達成されるためには社会環境において業績主義が成立していることが前提とされよう。

 T. パーソンズは専門職の発展を「現代社会の職業体系において起こったもっとも重要な変化」とみなし,専門職の果たす役割に近代社会の未来を託したのである。彼は自身の示した5つの「パターン変数」を用いて専門職と業績主義の問題を説明する試みを行っている。だが1960年以降起こったパーソンズ批判の潮流中で彼の示した近代社会と専門職のイメージに対し様々な疑義が向けられるようになった。

 報告においては彼の示した専門職と業績主義の問題を,「近代社会において専門職制度が業績主義を達成させる上でいかなる役割を果たすか」という問題設定に組み直し,これが結果としていかに階層的開放性に結び付いて行くか具体的な歴史的事例をもとに論証していきたいと考える。

 専門職として明治期の歯科医師に注視し,当時の医籍簿である『杏林要覧』を素材とし,それをもとに明治時代の歯科医師への参入者に対するコーホート分析を行い,階層的構成の変化を分析する方法を採用する。

 パーソンズ批判とそれ以後起こったパーソンズ再評価の論旨を視野に入れつつ,この作業をもとに彼の描き出そうとした近代と専門職に纏わる問題提起が,いかなる時間的・空間的普遍性を達成しうるか検証する試みを行う。

第2報告

労働市場における役職獲得の規定要因
──ジェンダー効果の検討

村尾 祐美子 (お茶の水女子大学)

 労働市場においては,労働報酬としてさまざまな社会的資源が分配されているが,その分布は男女で大きく異なることが知られている。このような社会的資源の男女間格差を生じさせる原因としては,(1) 個人属性に関する男女差,(2) 就いている職の性質に関する男女差,(3) 他者との社会的関係のなかで「男性」「女性」を差異化し序列化する営み(ジェンダー)の3つが考えられる。

 本報告では,重要な社会的資源の一つである役職獲得の規定要因について検討するため,はじめての役職獲得を対象とするイベント・ヒストリー分析を,SSM調査データを用いて行う。被雇用者全体および男性のみの分析結果から,個人属性,職の性質,「性別としてのジェンダー」(個人Aの性別が個人Aの資源の多寡を左右するということ)が役職獲得の規定要因となっていることが明らかになった。また,初職で中小企業(従業員規模300人未満)ホワイトカラーに入職した被雇用者についての分析から,このような男性被雇用者の役職獲得確率は,「関係としてのジェンダー」(他者の性別が,個人Aの資源の多寡を左右するということ)によっても規定されていることが明らかになった。この結果は,男性のみを対象にした研究においても,社会的資源分配の規定要因として「本人の属性」と「職の性質」を考慮するだけでは不十分であり,男女の関係性(ジェンダー)を重要な要因として考慮すべきことを示している。

第3報告

フィリピンにおける都市新中間層の形成とその社会的性格
──上流中間層を中心として

池田 正敏 (東洋大学)

 1980年代後半以来,知識集約的・サ−ヴィス志向的産業構造の展開及び人々の教育水準の高まりに伴って,従来その存在が目立たなかった一群の人々がフィリピン社会に登場してきた。彼らは,事務的職業従事者を中心とした,管理的職業従事者,専門的技術的職業従事者など,新中間層と呼ばれる人々である。このうち,経営管理的職業従事者の太宗は中間管理職であるが,この分野には多くの女性と若い年代の者が進出しており,フィリピンに於ける新中間層現象がメリトクラシ−の進行と結びついていることを示唆している。

 世代内移動の点で注目されることは管理的職業への移動と共に事業経営者への移動も無視することはできない。これはフィリピンの中間層のキャリアアップの過程にはふたつのル−トがあることを示している。ひとつは公式組織の中で管理職へと階梯をのぼっていくル−トであり,いまひとつは公式組織から独立・起業して事業経営者となっていくル−トである。

 新中間層を特徴づけている社会的性格として以下のような諸点を上げることができる。

(1) 女性の世帯主割合が30%を越えていることに示されるように世帯内で女性の占める地位が高いことである。
(2) 新中間層を特色づけている社会経済的要因は何と言ってもその高い所得水準であるが,所得水準に劣らず重要なものがライフスタイルであり,彼らは高級住宅地のエアコンの効いた一戸建てに住み,自家用車によって通勤し,健康志向的である。
(3) 新中間層の人々は学歴の高い父親の子供であってその学歴も高いが,それだけでなく,自分の子供にも高い学歴を与えようと努力している。彼らはまさに教育に基づいた階層である。
(4) 彼らの多くは現在の所属階層は高校時代の所属階層より上がったと考えており,体制の受益者である。この意味でこの層の数的増加は体制の安定化に貢献することと思われる。ただし,近年フィリピンでは社会階層の固定化つまり,上層階層の継承化傾向が強まっているようである。

報告概要

鹿又 伸夫 (慶応義塾大学)

 第1報告「明治期における歯科医師参入者の階層構成について」(報告者:押小路忠昭)では、歯科医師を対象に、専門職の階層的開放性を分析した報告がなされた。『日本杏林要覧』などの資料にもとづいて、明治期に歯科医師になった者の出身階層について、「族籍」等に注目した分析がおこなわれた。当時の医師と歯科医師の教育制度や職業アソシエーションの相違に留意した分析がなされた。医師は平民出身者の増大がみられたとする既存研究と対照的に、歯科医師は、統一的な開業試験が実施されながらも、士族出身者の増大がみられ、出身地域との関連もみられたという結果が報告された。

 第2報告「労働市場における役職獲得の規定要因−ジェンダー効果の検討」(報告者:村尾祐美子)では、1995年SSM調査(A票)を対象に、はじめての役職獲得に及ぼす影響、とくにジェンダー効果に注目した分析結果が報告された。ジェンダーの中でも、性別としてのジェンダーとともに、「関係としてのジェンダー(垂直的性別職域分離)」に着目し、初職や到達職の女性比率から測定し、イベント・ヒストリー分析をおこなった。その結果、男性の役職獲得について「関係としてのジェンダー」効果がみられ、これを重要な要因として考慮すべき必要が結論として報告された。

 第3報告「フィリピンにおける都市新中間層の形成とその社会的性格」(池田正敏)では、既存統計資料、そして報告者が現地で実施した質問紙調査(小学校父兄を対象)から、フィリピン都市部における階層および移動の現状について、とくに新中間層に着目した分析結果が発表された。職業、学歴、所得や移動表の分析から、専門職、管理職などの新中間層が、女性世帯主比率が高いこと、高学歴・高所得であること、上昇移動者が多いことなどの特徴をもち、近年では地位継承傾向がみられ社会階層の固定化も進んでいるとの指摘がなされた。

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