HOME > 年次大会 > 第49回大会(報告要旨・報告概要) > テーマ部会A
年次大会
大会報告:第49回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会A)

テーマ部会A 「社会構造の変容とエスニシティ」  6/10 14:00〜17:15 [9101教室]

司会者:佐久間 孝正 (東京女子大学)  梶田 孝道 (一橋大学)
討論者:柏崎 千佳子 (慶應義塾大学)  丹野 清人 (日本学術振興会)

部会趣旨 宮島 喬 (立教大学)
第1報告: 労働市場のエスニックな多元化と産業再編成 小井土 彰宏 (一橋大学)
第2報告: グローバルシティとマイノリティ 西澤 晃彦 (神奈川大学)
第3報告: 福祉国家構造と移民マイノリティ
――現代ドイツに照準して
久保山 亮 (東京大学)

報告概要 梶田 孝道 (一橋大学)
部会趣旨

宮島 喬 (立教大学)

 今日の先進国の状況を特徴づけて,「ポスト移民期」と呼ぶ西欧研究者もいる(M. マルティニエッロ)。外国人労働者が大量に入国・就労した時期がヨーロッパでは1960年代から70年代前半であり,その後に受け入れ停止期がやってくる。日本では90年代前半に外国人の入国・就労が驚くほど急テンポで増加したが,その後は自動車等の製造業の不況もあって,その数は漸増という形で推移している。不況,脱工業化,移民層の多様化という構造変動の中にあって,既滞在外国人・移民は変容しつつある労働市場にどのように適応しようとしているのか。また,企業の側は外国人に対しどのような雇用戦略をとろうとしているのか。西欧社会における定住民化した移民労働者の適応上の困難は何か。これはドイツの状況に焦点化して報告されよう。また,日本における日系人労働者やアジア系労働者の労働市場と企業後内関係における位置の変動も問われなければならない。実態調査を踏まえたその報告は,多くのことを我々に教えてくれよう。

 他方,本部会では,滞在の年輪を重ねる外国人労働者が地域社会の中にマイノリティとして登場しつつあると捉え,彼らが地域社会のなかで日本人の下層住民とどのような条件を共有しているのか,あるいはいないのかを検証したいと考えた。不況や,脱工業化の影響がここにも影を落としているが,増大するホームレス化した都市住民層は,外国人不安定就労者なども含むのだろうか。検証は必ずしも容易ではないだろうが,その考察は必要な段階に来ているといえよう。

 社会構造の今日的な変容を鋭敏に捉え,それをエスニシティの社会学的研究のなかで受けとめ,生かしていくこと,それを大きな目標に設定し,本年度の本部会を準備した。活発かつ発見的な意義に富む討論を期待するものである。

第1報告

労働市場のエスニックな多元化と産業再編成

小井土 彰宏 (一橋大学)

 労働市場がエスニシティを媒介として分節化されることは,すでにたびたび論じられており,いくつかの理論的な説明も提起されてきた。それらを踏まえつつも,本報告では,特に同じ職場および同じ地域的労働市場の中で,出身国,エスニックな特性,法的地位といった差異をもつ多様な労働力がどのように使い分けられ,また組みあわせられているかについて考察したい。主に茨城県において実施中の工場および労働者調査の中間的な発見と考察に依拠しながら,意外なほど多様なエスニック・カテゴリーの労働力が利用されている事実を指摘しつつ,その構造化の中に最近の企業の論理と労働力のカテゴリーの対応関係を考察していきたい。そこにはこれまであまり注意を向けられてこなかった新たな傾向もうかがわれる。また,以上の考察の前提として,アメリカ合衆国における同じ事業所の中での国籍・法的身分による差の分析を,比較対照事例として手短かに論じることとする。

第2報告

グローバルシティとマイノリティ

西澤 晃彦 (神奈川大学)

 そもそも都市は,その後背地から多様な人口を吸引し集積することによって,人口の異質性を増大・保持してきた。また都市は,「異質なもの」との否応なしの接触機会を都市に生きる人々に提供することによって,多様な個性とサブカルチャーを生み出し続けてきた。C. S. フィッシャーが取り出してみせたのは,この都市の社会過程によって解発される都市人の生活様式(=アーバニズム)であった。しかし,都市は,「よき国民」「純粋な民族」の方へと人を均質化・純粋化しようとする権力からすれば,常に象徴秩序を掻き乱す「問題」の場なのであり管理・介入の対象である。それゆえに,都市における社会現象は,人口を均質化しようとする力と,その力に強く支配されつつもその間隙を縫うように噴出する個性やサブカルチャーとの間のせめぎあいとして把握され得る。本報告では,グローバリゼーション下の東京(圏)のマイノリティ(野宿者とエスニックマイノリティ)による生活拡充へのチャレンジを取り上げ,空間を介在しつつ作用する力によって規制されつつ,接触媒体を探り当てながら展開する(フィッシャーのいう)アーバニズム,トランスナショナル・アーバニズム(M. P. スミス)の現れとしてそれを解読したい。

 その際,特に触れなければならないのは,産業化段階において既に制度化されていた,非組織・非定住の労働力である〈都市下層〉の存在についてであり,彼ら彼女らに対する雇用の現場での支配様式についてである。今日においても外国人労働者に応用されているその支配の様式は,都市下層を分散させまた人口の再生産を抑制することによって不可視化させてきたし,またエスニック・コミュニティの形成の阻害要因ともなってきたと考えられる。そうした制約をこえて,都市というアリーナにマイノリティが登場する道筋,可能性について考えてみたい。

第3報告

福祉国家構造と移民マイノリティ
――現代ドイツに照準して

久保山 亮 (東京大学)

 近年,移民政策や移民をめぐる社会空間の脱国家化を強調する見方が出ているが,ある受け入れ国での移民マイノリティの社会経済的な生存機会や利益媒介は,その国の国家構造や政治システム(例えば,国内労働市場への規制,政治的資源の配分と動員が制度的にどのように規定されているかなど)の違いにも左右されると考えられる。例えば,オランダの多文化主義政策は,特有の列柱主義モデルと呼ばれる政治システムを前提としている。国家主義の強いフランスと対照的に,ドイツで難民へのケアや移民の社会統合,移民政策の形成で,国家により公的,準公的な地位を付与された中間団体(労組,教会,経営者団体,福祉団体)が深く関与してきたことも周知の通りである。エスパイン・アンデルセンが「保守主義・コーポラティズム型」と呼ぶ大陸ヨーロッパ諸国の福祉国家構造は,ドイツでは大量失業のなかで,エスニック・ビジネスの活性化や低賃金サービス雇用の創出を抑制し,階級ポリティクスからエスノポリティクスへのシフトを阻む要因となってきた。本報告では,福祉国家としての制度や構造が,移民の社会経済的な地位をどのように規定してきたのかを,ドイツを中心に,他の大陸諸国の動きにも触れながら報告し,グローバル化の進む1990年代以降における,人の国際移動(immigration)に対する国家と国内政治のもつ意味を検討したい。

報告概要

梶田 孝道 (一橋大学)

 日本における「エスニシティ」の理論と実証の水準の向上を目的として、昨年度と本年度の二年間に渡って「エスニシティ」部会を企画した。本年度は、素朴な調査整理にとどまることなく、社会学が直面するマクロな社会構造との関係を問う諸報告を準備し、エスニシティと社会構造の変容がどのように関連するかを問うこととした。第一報告は小井土彰宏氏(一橋大学)の「労働市場のエスニックな多元化と産業再編成−外国人労働者の分散化と地域労働市場の構造化−」で、北関東での実証調査をもとに、企業のグローバル化への対応を外国人(日系ブラジル人、日系アジア人、研修生、「不法」就労者)利用のあり方から理解しようとする試みであった。第二報告は西澤晃彦氏(神奈川大学)の「グローバルシティと下層マイノリティ−間隙を縫う−」で、都市社会学で使われてきた「都市下層」という概念を基礎に、従来の国内の都市下層と外国人との類似性と相違とを明らかにするものであり、そこではグローバル化理論に特有な二層分化モデルの直接の日本の現実への適用に疑問を呈する問題提起がなされた。両報告とも、「郊外」という、この研究分野ではともすると注目されにくい地域をクローズアップした点で共通性があり、議論のなかで、さらなる理論的掘り下げが望まれた。第三報告は久保山亮氏(東京大学大学院)の「福祉国家構造と移民マイノリティ−ドイツを中心に−」であり、福祉国家論とレジーム論を基礎にして、西欧諸国の外国人の現状と課題を分析し、その一方で、外国人労働者の「再商品化」が生じており従来の福祉体制に乗りにくい新たな外国人利用の手法が試みられている点が紹介された。三報告の後、柏崎千佳子氏(慶應義塾大学)と丹野清人氏(日本学術振興会)から、質問と反論が各報告者に寄せられた。なお司会は、前半は梶田孝道(一橋大学)、後半は佐久間正孝(東京女子大学)が担当した。質問と反論は多岐に渡り極めて有益なものであったが、小井土報告に対しては、問題設定と現実の調査手法との不整合性を問うものが、西澤報告に対しては、「都市下層」が記述概念なのか分析概念なのかを問うものが、久保山報告に対しては、既存の福祉国家への外国人編入と外国人の「再商品化」との関係を問うものが印象に残った。二年間にわたる研究活動を通して、日本のエスニシティ研究が素朴な調査蓄積の段階を脱して欧米と同様な方法と水準で議論されるべき時点にきていること、エスニシティ研究はそれ自体として自足するのではなく、今回のように産業配置論、都市社会学、福祉国家論などとの対話のなかでその知的水準を引き上げる必要があること、従って、マイノリティ研究は決してマイノリティ化してはいけないこと、グローバル化といったマクロ的テーマとの対話が必要ではあるが、同時に緻密な社会学的手法が不可欠であり、実証分析によって、通常いわれている言説との差違に敏感であるべきこと、が明らかになった。優れた報告者・討論者の下で活発な議論が行われ、多くの若い研究者が参加した。「エスニシティ」が、今後の同学会においても、追求されるべきテーマであることが改めて実感させられた。

▲このページのトップへ