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年次大会
大会報告:第49回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会C)

テーマ部会C 「グローバリゼーションと市民社会」  6/10 14:00〜17:15 [9103教室]

司会者:佐藤 慶幸 (早稲田大学)  高田 昭彦 (成蹊大学)
伊豫谷 登士翁 (一橋大学)  栗原 孝 (亜細亜大学)

部会趣旨 長田 攻一 (早稲田大学)
第1報告: 国際社会のガバナンスとシビル・ソサエティ 勝又 英子 (日本国際交流センター)
第2報告: グローバリゼーションの陰画としての地球温暖化問題
――サブシディアリティの原理による地球環境ガバナンスの可能性―
池田 寛ニ (日本大学)
第3報告: グローバル・リフレクシヴィティはいかにして可能になるか
――環境の「構築」におけるコスモポリタンとローカル,そしてユニヴァーサル――
小川 葉子 (慶應義塾大学)

報告概要 高田 昭彦 (成蹊大学)
部会趣旨

長田 攻一 (早稲田大学)

 昨年よりグローバリゼーションをテーマにしてきた当部会がこれまで検討してきたことは,(1) グローバリゼーションとは何か,(2) グローバリゼーションはいかなる領域でどのように進展してきているか,(3) 社会学はグローバリゼーションをどのように受け止めたらよいのか,という問題であった。昨年の大会テーマ部会では,「グローバリゼーションとナショナリティ」と題して,経済学,政治学,社会学の研究者から報告をお願いした。そこでは,総じてグローバリゼーションは,国民国家を超える政府,企業,その他のエイジェンシーを軸として,政治,経済,文化における領域化,脱領域化,再領域化が多層的かつ多元的に社会空間を再編しつつ展開している複雑な現象であることが印象づけられるとともに,その過程においても国民国家の存在の大きさが改めて確認されることになった。

 そこで今年度は,グロ−バリゼーションを担っているエイジェンシーのなかでも,社会学に固有の問題関心を象徴するもののひとつとして,国連,国民国家,企業と並んで重要な役割を演じつつあるNGO,NPOなどのいわゆる「市民活動」の動きに注目してみることになった。グローバリゼーションは,地球環境問題,核拡散問題,人権問題,地雷処理問題,等々の国民国家間の関係によっては処理できないような諸問題をめぐって,国民国家の内外にさまざまなレベルと規模のNGO,NPOの活動を生じさせている。今年のテーマ部会は,勝又英子氏(国際交流センター)のTransnational Civil Society論からのグロバリゼーションの捉え方とさまざまな領域での事態の進展状況についての報告,池田寛二氏(日本大学)からの環境問題めぐるグローバルな諸政策が社会学に提起する諸問題についての報告,小川葉子氏(慶應義塾大学)からのグローバリゼーションをめぐる社会学における今日的議論の紹介と問題提起についての報告を予定している。4月7日に行われた研究例会での議論をも踏まえて,NGOのような団体の活動は,グローバリゼーションという過程の中で社会学に対してどのような問題を提起するのか,あるいはそのような活動をグローバリゼーションという過程を背景としてみた場合に,社会学は,「市民」という概念についてどのような観点からどのような見直しを迫られることになるのか,そしてそのような考察は,グローバリゼーションという現象を,社会学的に捉える上でいかなる意義を有するのか,といった諸点について議論が展開されることを期待したい。

第1報告

国際社会のガバナンスとシビル・ソサエティ

勝又 英子 (日本国際交流センター)

 冷戦の終焉がもたらした民族自立の動き,中産階級の台頭と民主化運動の胎動,地球的課題の浮上,人口の急増,福祉国家の危機,ボーダーレス化と人とものの急激な流れ――国際機関も国家もそのガバナンスの能力が問われている。冷戦時代のようにイデオロギーによって統治される時代は終わり,あらゆる国が国際社会の課題に直結する多様な国内課題を抱えており,多くの場合,対処不能あるいは困難といえる状況に陥っている。

 国家と国際社会が受けているこれら挑戦は,高度情報革命の進展とともに,経済効率の上昇や選択の自由の拡大という恩恵と同時に,地球環境の変化や社会の荒廃という深刻かつ緊急な課題を提示するようになった。もはや単独の国家あるいは国際機関の専権事項ではなくなり,“シビル・ソサエティ”,あるいは“NGO/NPO”と呼ばれる非営利,非国家の民間組織がこうしたガバナンスの課題に関わるようになった。

 国家や国際機関との際だった違いは,これら“シビル・ソサエティ”がインフォーマルに連帯し,国境を超えて膨大なネットワークを形成し,様々な課題の政策決定にダイナミックかつ臨機応変に関わるようになってきたことである。地雷廃絶の国際キャンペーンはもっとも典型的な事例である。地球環境の保全,人権問題,ヒューマン・セキュリティの確保,等,その解決の一部を彼らに委ねざるを得なくなっている。シアトルにおけるWTOに対するNGOの挑戦はその是非はともかく,宗教グループ,環境グループ,人権グループ,労働グループ等,様々な利害関係を有するNGOがインターネットを通じて短期間に連携を強めた結果でもあった。

 こうした柔軟な対応が国家や国際機関に不可能だとすれば,もはや,国内・国際社会の課題を“シビル・ソサエティ”抜きで語ることも不可能である。国境を超えたシビル・ソサエティの活動の歴史はまだ日が浅く,かれらが将来にわたり貢献を果たすことができるのか,壁につきあたり他の解決方法を探らねばならないか,その資料は十分ではないが,注目するに値する動きであることは間違いない。国際関係の重要なアクターとしての活動を見守り検証することが求められていると言えよう。

第2報告

グローバリゼーションの陰画としての地球温暖化問題
――サブシディアリティの原理による地球環境ガバナンスの可能性―

池田 寛ニ (日本大学)

 地球温暖化防止政策は,1997年に京都で開催された国連気候変動枠組み条約第3回締約国会議,通称京都会議以降,明らかに後退局面に入っている。京都会議で採択された議定書は,昨年11月にオランダのハーグで開催された第6回締約国会議において発効にこぎつけることが期待されていたが,ハーグ会議は決裂に終わり,結論は21世紀の今日に持ち越されたままとなっている。さらに本年3月には,世界最大の二酸化炭素排出国であるアメリカのブッシュ新政権が京都議定書を支持しないと宣言し,温暖化防止政策そのものが存続の危機に晒されている。本報告では,グローバル・アジェンダとしての地球温暖化問題をめぐる地球規模の政策的取組みが,今日このような危機的状況に直面していることを,グローバリゼーションのネガティブな必然的帰結として説明する試みをとおして,主に途上国の視点からグローバリゼーションの問題性に迫ってみたい。

 周知のように,温暖化問題に代表される地球環境問題をめぐる政策形成の場面では,90年代以降グローバルな「ガバナンス」の必要性が強調されるようになっている。それは,国民国家の政府(ガバメント)間のポリティックス(利害調整)に対するオルタナティブを意味している。と同時にそれは,理念的には「トランスナショナルな市民社会」によって展開されねばならないと考えられている。しかし,温暖化政策の実態は旧態依然たる国際的ポリティックスの域を一歩も出ていない。それどころか,途上国サイドからは,「地球環境ガバナンス」という理念自体が,先進国が新たな植民地主義を隠蔽するために利用している偽装イデオロギーでしかないという批判もある。報告では,こうした議論を吟味しつつ,途上国の視点に立って,サブシディアリティの原理にもとづくガバナンスの再構築が緊急な課題とされねばならないことを明らかにしたい。

第3報告

グローバル・リフレクシヴィティはいかにして可能になるか
――環境の「構築」におけるコスモポリタンとローカル,そしてユニヴァーサル――

小川 葉子 (慶應義塾大学)

 「環境」あるいは「自然」についての考察は,逃れることのできないイシューを,グローバライゼーション研究,あるいは社会学に突きつけている。A. ギデンズ,U. ベックらのモダニティをめぐる議論から,環境社会学のG. スパーガレン,A. モル,さらには,いまやカルチュラル・スタディーズからG. スピヴァクまで論争に参戦してきた現在,この争点から逆照射されることで,両研究分野は,自らの営みを反省し,変革する必要性を迫られている。そういったなかで,今回の報告の目的は,ただひとつ,他の二つの報告を別のパースペクティヴから逆照射し,再考することにある。そして結論を先取りすれば,この報告では,「現実主義」と「構築主義」の二項対立をこえて,「グローバル・リフレクシヴィティ」という概念とその重要性を提唱したい。

 そのとき,私がよって立つ立場は,以下の三点に集約される。第一に,「環境」あるいは「自然」をめぐる社会的プラクティスをひとまず重視する立場をとることである。P. マクナハテンと,J. アーリに依拠しつつ,再確認したいのは,このプラクティスは,1)言説として編成され,2)身体化あるいは物質化され,3)空間性,4)時間性の両者をもち,5)行為,リスク,エージェンシー,信頼,さらには,6)表象などにかかわるという点である。

 第二に,それを前提にした上で,環境とグローバライゼーションをめぐっても,かつ,U. ハナーツが論じたコスモポリタンとローカルというエージェンシーあるいは志向性の違いが存在するのかどうか疑う必要がある。

 最後に,M. リンチを踏まえつつ,社会システムからインタラクションまで,さまざまなレベルで論じられてきたリフレクシヴィティが環境とグローバライゼーションをめぐる社会的プラクティスとどうかかわるのか,今後の可能性を示唆したい。

報告概要

高田 昭彦 (成蹊大学)

 グローバリゼーション部会では、昨年は、国境を越える組織や問題からナショナルな枠組が問い直されつつある事態を受けて「国民国家」と「企業」を焦点としたのに対し、今年は、グローバリゼーションに対応するもう一つのエージェンシーとして「市民・NGO/NPO」に焦点を定めた。その根底には、社会学にとってグローバリゼーションをどう受け止めていくべきかという共通の問題意識がある。

 4月7日に開催されたグローバリゼーションの研究例会とこのテーマ部会とは連動している。まず実際に活動しているNGOからの問題提起として、研究例会ではグリーンピース・ジャパンの事務局長・志田早苗さんから、グローバリゼーションに対抗している国際的な市民団体の具体的な活動とその理念を報告してもらい、テーマ部会では日本国際交流センターの事務局長・勝又英子さんから、複数の国際的NGOの活動調査を踏まえてNGOの国境を越えたネットワークの台頭からTransnational Civil Society実現の可能性を提起していただいた。

 それに対して社会学の側からは、研究例会では干川剛史氏(大妻女子大学)から市民活動がもたらす「公共圏」とデジタル・ネットワーキングについて、テーマ部会では池田寛二氏(日本大学)から地球温暖化問題をめぐるグローバル・ガバナンスの欠陥とそれを克服するためのサブシディアリティの原則の提案、小川葉子氏(慶応義塾大学)からグローバリゼーションに対する3つの立場の概念化をもとに異なったまなざしのズレの間にいかにしてグローバル・リフレクシヴィティを構築していくかについて報告がなされた。さてここでは字数が限られているので、個々の報告を踏まえた後の部会での討議、すなわちグローバル・スタンダードの下に世界規模で貧富の差を拡大しつつあるグローバリゼーションに対して「市民・NGO/NPO」は果して対抗できるのか、について私的にまとめてみる。

 現在、国際的NGOの連帯により、個々の多様な〈パブリック・グッド〉に基づく国境を越えたネットワークが形成され、それらがこれまで無視されがちであった国際社会の課題を議題に挙げ、国際協定や条約批准への働きかけとその検証のモニター役を果たしている。この状態はTransnational Civil Societyが現われていると言える。しかしこれだけでは、その影響力にどの程度持続力があるのか、グローバル・ガバナンスのメカニズムを新たに提供できるのか等に疑問がある。ここで大切なのはローカルで活動している草の根のCivil Society Organization(CSO)との連繋である。従ってとるべき方向は、このような国境を越えて連帯するNGOとCSOの「グローカル」なネットワークを軸に、国民国家(先進国と途上国)、国際機関、多国籍企業等のエージェンシー間を調整し、Global Conscience(地球の良心)の下に基本的人権や持続的発展を保証するグローバル・ポリティを創り出していくことである。そしてグローバリゼーションの社会学は、これら諸関係形成の経緯と条件、行動原則と理念等を明らかにすることに機能する。サブシディアリティはこの時の行動原則の一つに位置づけられるであろう。

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